マーケティングで活用するフレームワークとは、課題の整理や意思決定をする際に役立つ考え方の枠組みです。マーケティング施策立案の際に便利な思考ツールであり、適切な活用によって意思決定を効果的に行うことができます。
企業などでマーケティング担当になった人は、フレームワークを基に思考し意思決定することで、社内や取引先とのコミュニケーションでも認識の齟齬を最小限に抑えられるでしょう。
この記事ではマーケティング活動の各段階に対応したフレームワークの役割や、使い方などについて解説します。
目次
フレームワークの役割と活用時の注意点
フレームワークは効果的な目標設定や課題解決につながるため、意思決定の際などに活用できる有益なツールです。ただし、万能ではないので、役割や注意点を押さえたうえで的確に活用する必要があります。
フレームワークの役割
フレームワークには、大きく2つの役割があります。
- 整理すべき項目を明確化し、思考を加速させる
- 同じ目的達成を目指すメンバー間において、共通認識を設ける
つまりフレームワークの活用で、ビジネスの課題抽出や、意思決定時の最適解選定に役立ち、メンバー間で認識を共有できるというわけです。
フレームワーク活用時の注意点
フレームワークは万能ではありません。課題解決のヒントは得られますが、フレームを埋める作業にばかり意識が向き、手段が目的にならないよう注意しましょう。そのためには事業や商品・サービスの開発フェーズ、リニューアルなど状況や目的に応じて適切なフレームワークを使い分け、結果から「自社が取るべき方向性や戦略は何か」「何が考えられるか」などと思考することが大切です。
また、必要な視点や検討内容に漏れや重複などがあると、フレームワークは十分な効果を発揮しません。そこで重要なのが、漏れやダブりなく情報を網羅する「MECE」(ミーシー)という考え方です。MECEとは、「漏れなく、ダブりなく」という意味のMutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの頭文字を取った略語であり、ロジカルシンキングの基本的な考え方です。課題発見や成果創出につなげるためには、漏れなく、ダブりのないMECEの状態で情報を整理し、思考を進める必要があります。
作成:Marketing Native編集部
マーケティングの環境分析で役立つフレームワーク
マーケティング戦略を考えるうえで土台となる工程が、環境分析です。環境分析は大きく「外部環境分析」と「内部環境分析」の2つに分けられます。企業を取り巻く外部環境が、企業の内部環境に影響を与えるケースも多く、外部環境⇒内部環境と分析するのが一般的です。
外部環境は、以下の2つの視点から分析します。
- マクロ環境分析:自社では制御が難しい外部環境の分析
- ミクロ環境分析:自社である程度制御可能な外部環境の分析
マーケティングの環境分析で役立つ代表的なフレームワークを解説します。
PEST分析
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PEST分析は、自社で制御が難しいマクロ環境を分析し、影響を把握するのに役立つフレームワークです。中長期的な事業計画策定時などに、以下の4項目から外部環境の変化を予測し、事業戦略のストーリー設計に役立てます。
- Politics(政治):法律、法改正、政権交代、税制、裁判制度など
- Economy(経済):景気、物価、経済成長、為替相場など
- Society(社会):人口、年齢構成、老齢人口、世論、宗教、言語など
- Technology(技術):インフラ、新技術、イノベーション、技術開発、特許など
上記の項目に分けて、自社や市場に影響がありそうな項目を抽出、分析することで、自社事業を取り巻く現状と将来のリスクを一定程度明確化し、事業成長の可能性を予測します。
なお、PEST分析については以下の記事で詳しく取り上げていますので参考にしてみてください。
関連記事:PEST分析の基本|4つの要因を整理し、自社や市場への影響を知るには?
3C分析
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3C分析は、戦略の大きな方向性を見極めるのに適したフレームワークです。以下3つの要素に分けて考えます。
- Company(自社):自社の市場ポジション、自社の強み、理念・ビジョンなど
- Customer(顧客・市場):市場規模、市場の成長性、顧客のニーズ、購買行動など
- Competitor(競合他社):競合相手の数、競合企業のシェア、参入障壁など
上記3つの項目別に整理し、事業成長の可能性、商品・サービス開発の方向性などを見極めます。
なお、3Cについては、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてみてください。
関連記事:3Cとは?マーケティング戦略立案時に行う3C分析の基本と注意点
ファイブフォース分析
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「フォース」とは脅威のこと。ファイブフォース分析は、自社が属する業界構造の把握と、さらされている脅威の理解に役立つフレームワークです。5つの競争要因である以下の要素からミクロ環境を分析し、自社の競争優位性を見極めます。
- 買い手の交渉力
- 売り手の交渉力
- 業界内の競争
- 新規参入者の脅威
- 代替品・代替サービスの脅威
ファイブフォース分析によって、業界の競争構造や収益構造を把握して、事業参入時などの判断材料にします。
なお、ファイブフォース分析については、以下の記事で詳しく取り上げています。
関連記事:ファイブフォース分析とは?業界の競争構造を把握する方法
バリューチェーン分析
バリューチェーン分析は、自社の付加価値の創出方法や競争優位性を明らかにするフレームワークです。バリューチェーン(価値連鎖)とは、原材料の購買から販売やアフターサービスまでの一連の活動を価値の連鎖と捉えた考え方です。下図は、一般的な製造業のバリューチェーンの例です。
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自社のバリューチェーンを分析することで、各活動プロセスのコストや利益、自社の強みや弱みの把握が可能です。また、最後にVRIO分析を用いて、経営資源の競争優位性を分析します。
なお、バリューチェーン分析については、以下の記事で詳細に解説しています。
関連記事:バリューチェーンとは?顧客に価値を提供する活動プロセスの分析方法
VRIO分析
VRIO分析は、企業の経営資源を分析するフレームワークです。以下4つの要素の頭文字を取っています。
- Value(経済的な価値)
- Rarity(希少性)
- Imitability(模倣困難性)
- Organization(経営資源を活用できる組織)
上記4つは、自社の競争優位性の内部環境として重要な要素です。自社の経営資源が、4つの要素に当てはまるかどうかを「YES」か「NO」で分析します。4つすべてに「YES」と答えられた経営資源は、競争優位性があると判断できます。
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なお、VRIO分析については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
関連記事:VRIO分析の基礎|企業の経営資源を可視化し、競争優位性を見いだす方法
SWOT分析
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SWOT分析は、以下4つの要素から、企業の外部・内部環境を分析するフレームワークです。
- Strength(強み):財務体質の健全性など自社の強みとなる内部環境
- Weakness(弱み):技術力の脆弱さなど自社の弱みとなる内部環境
- Opportunity(機会):市場成長による購買意欲の向上など自社に有利な外部環境
- Threat(脅威):近隣への競合他社の出店など自社に不利な外部環境
上記の内容に整理して分析し、自社が注力すべき強みや事業の課題などを明確にします。
なお、SWOT分析については、以下の記事で取り上げて詳細に解説しています。
関連記事:SWOT分析とは?自社の状況を整理し、戦略の立案につなげる方法
マーケティングの戦略立案に役立つフレームワーク
マーケティング戦略の立案時には、環境分析で得られた情報をもとに、ターゲットとする市場の選択や自社のポジションを明確にする必要があります。その際に役立つフレームワークは、STP分析とポジショニングマップです。フレームワークを活用して、競合他社との差別化を図りましょう。
STP分析
マーケティング戦略を検討する際に役立つフレームワークは、フィリップ・コトラーが提唱したSTP分析です。以下3つの流れで行います。
- Segmentation(セグメンテーション):顧客をニーズごとに分類し、市場を細分化する
- Targeting(ターゲティング):細分化した市場の中から、自社が狙うターゲットを決める
- Positioning(ポジショニング):市場の中で自社が顧客に選ばれる立ち位置を考える
上記の流れで、自社と他社との関係性を踏まえて事業の強み、弱みを把握し、戦略の方向性や成長の可能性を見極めます。
STP分析については、以下の記事でも詳細に解説していますので参考にしてみてください。
関連記事:STP分析の基礎知識|戦略立案に必要なフレームワークの使い方
ポジショニングマップ
作成:Marketing Native編集部
ポジショニングマップとは、自社のポジションを検討する際に用いるフレームワークです。ターゲットとなる顧客が、商品やサービスを選ぶ際に重視すると考えられる2つの要素を選び、縦軸と横軸に設定します。例えば「若い女性を顧客と想定したスマートフォン」を販売する場合、「デザインの良さ」と「小型軽量」の2つの要素が考えられます。
ほかにも、顧客が商品を選ぶ際に重視する要素として、「コスト」「品質」「ブランド」などが挙げられるでしょう。作成したマトリクス上に競合を書き出すことで、競合他社と比較した場合に取るべき自社の優位なポジションを検討できます。
マーケティングの施策立案に役立つフレームワーク
マーケティング戦略を決めた後、戦略を具体化する施策立案を行います。その際に役立つフレームワークが、マーケティングミックスと呼ばれる4Pと4Cです。フレームワークを活用して目標達成に貢献する施策立案を目指しましょう。
4P
4Pはマーケティングミックスの代表的なフレームワークで、以下4つの項目に沿って戦略を具体化します。
項目 | 主な内容 |
Product(製品やサービス) | 製品やサービスのスペック、アフターサービス・サポートの有無、顧客に提供する価値 |
Price(価格) | 競合他社の価格、自社の価格と標的市場の合致、利益率 |
Place(流通) | 競合他社の流通チャネル、自社の流通チャネルと標的市場の合致 |
Promotion(販促) | 広告、Webサイト、SNSなどによるプロモーション活動 |
注意点は、4項目の内容とSTP分析の結果の整合性です。STP分析で明確化した戦略の方向性に基づき、4Pで具体化して施策を立案しましょう。
4C
4Cは4Pを顧客視点から捉え直したフレームワークです。
- Customer Solution(顧客の課題解決)もしくはCustomer Value(顧客価値)
- Customer Cost(顧客が払う費用)
- Convenience(利便性)
- Communication(顧客とのコミュニケーション)
4Pが売り手側の視点であったのに対して、4Cではすべての要素を消費者である買い手側の視点で再定義しています。4Cと同様に、STP分析で立案した戦略との整合性に留意しましょう。
なお、4Pなどのマーケティングミックスについては、以下の記事で詳しく取り上げています。
関連記事:4Pとは?マーケティングミックスの基本的な考え方とポイント
施策実行時の課題発見・改善に役立つフレームワーク
マーケティング施策を実行した後は効果検証を行い、目標と結果にギャップが見られる場合は課題の発見や改善を行う必要があります。最初から完璧な施策はなく、継続的に何度も改善策を講じるのが重要です。その際に役立つフレームワークを3つ紹介します。
As is / To be
作成:Marketing Native編集部
As is / To beは、理想のあるべき姿(To be)と現状(As is)のギャップを可視化するためのフレームワークです。マーケティング施策実行時に限らず、理想と現実のギャップを認識し、課題の解決方法を考えるときに利用します。
As is / To beでは、最初に理想のあるべき姿を書き出してから、現状を整理していきます。注意点は現状に引っ張られないように意識しながら理想から形にすることです。理想と現状のギャップを分析し、課題を発見します。
PDCAサイクル
作成:Marketing Native編集部
PDCAサイクルとは、計画から改善までのサイクルを繰り返し、現状を打開して進捗させるためのフレームワークです。以下4つのステップを循環させて、継続的に修正していきます。
- Plan(計画)
- Do(実行)
- Check(評価)
- Action(改善)
スピード感のある事業運営をするには、課題抽出→改善のPDCAサイクルを高速で回すことが重要です。そのため早く成果を上げて事業を安定させたいスタートアップやベンチャー企業の多くに浸透しています。
OODA(ウーダ)ループ
作成:Marketing Native編集部
OODAループとは、意思決定と行動を素早く行うためのフレームワークです。以下4つのステップを繰り返して、状況の変化に合った迅速な判断を可能にします。
- Observe(観察)
- Orient(状況判断、方向づけ)
- Decide(意思決定)
- Act(行動)
4つのステップを繰り返すのは、PDCAサイクルと同様です。しかし、OODAループは、計画立案から始まるPDCAサイクルと比較して、さらに高速での意思決定に優れているメリットがあるとされ、状況次第でとにかく意思決定と行動を迅速に行うところに違いがあります。変化の激しい現代にチャンスをつかむためにはPDCAサイクルと、OODAループを併用するのが良いでしょう。
マーケティングフレームワークを活用して、成果の最大化を
フレームワークは、マーケティングの成果を最大化するのに役立つ思考ツールです。状況に応じて的確に実践することで、事業成長への貢献が期待できるでしょう。
ただし、フレームワークはマーケティング従事者なら最低限押さえておきたい共通認識の一つであって、万能ツールではありません。フレームワークだけですべての課題解決が実現するわけではなく、顧客への定性的なヒアリングなどを基に商品・サービスの改善を重ねるなど、顧客視点での地道な取り組みも求められることは忘れないようにしましょう。