企業が持つ経営資源やその活用能力を分析するためのフレームワークが「VRIO分析」です。経営戦略の策定には、自社が有する経営資源の強みや弱みを把握しておくことが重要ですが、扱う情報量が多く、的確な分析を行うのはなかなか容易ではありません。そのため、経営資源の分析に課題を抱えている方も少なくないのではないでしょうか。
そこでおすすめとなるのが、「VRIO分析」の活用です。この記事では、VRIO分析の基礎知識から、分析方法、活用の仕方までを解説します。
目次
VRIO分析の基礎知識
ここでは、VRIO分析の意味や目的などの基礎知識について解説します。まずはVRIO分析の基礎を学び、全体像を理解しておきましょう。
VRIO分析とは?
VRIO(ブリオ)分析とは、アメリカの戦略理論家であるジェイ・B・バーニーにより提唱された、企業の経営資源ならびにその活用能力を客観的に分析するためのフレームワークです。分析対象となる以下4つの切り口の頭文字を取ってVRIO分析と呼ばれています。
- Value(経済価値)
- Rarity(希少性)
- Inimitability(模倣困難性)
- Organization(組織)
VRIO分析では、上記の4つの項目について情報を集めて問いかけを行い、自社の経営資源について客観的視点から評価を下し、経営環境の改善や戦略立案に役立てることができます。
VRIO分析を行う目的
VRIO分析は、企業が有する経営資源を分析し、競争優位性の維持・向上を図ることを目的としたフレームワークです。具体的には、次のようなステップを踏んで分析を行います。
- 評価項目に沿って自社が保有する経営資源の可視化を行う
- 評価や分析結果を踏まえ、強化すべき資源など今後の方向性の検討を行う
VRIO分析は、4つの項目それぞれにおける問いに答えることによって、企業の経営資源の強みや弱みを客観的に把握できるのが特徴です。そのため、VRIO分析はマーケティングプロセスにおける内部環境分析や経営戦略の策定などに用いられます。
同じく内部環境分析に用いられる3C分析や、環境分析の全体像については、以下の記事で詳しく触れています。
関連記事:
マーケティング戦略立案時に行う3C分析の基本と注意点
環境分析とは?マーケティングにおける重要性と主要なフレームワーク
VRIO分析の使い方【STEP1:経営資源の設定】
VRIO分析を使って、自社の経営資源を評価する手順をご紹介します。最初のステップは、経営資源の設定です。
経営資源を設定する
VRIO分析を行うには、まずは情報を集めて自社の経営資源を設定することから始めます。経営資源とは、企業活動を推進するのに必要となるさまざまなリソースのことです。ジェイ・B・バーニーは著書の中で一般的に次の4つに分類されると説明しています。
- 財務資本
- 物的資本
- 人的資本
- 組織資本
財務資本は金銭的資源で、物的資本は設備や企業の立地、技術などです。人的資本は文字通り人材や各人が持つスキル・経験などで、組織資本は企業内部を管理する構造、他企業との関係性などが当てはまります。
自社の活動における経営資源を特定するには、次にご紹介するバリューチェーン分析のフレームワークを用いるのも効果的です。
バリューチェーン分析とは?
バリューチェーン分析とは、アメリカの経済学者であるマイケル・ポーターが自身の著書で提唱したフレームワークです。企業が顧客に価値を提供するプロセスを図示することで、各活動のコストや貢献度を把握します。
自社の活動を主活動・支援活動に分けて細かく洗い出しを行い、以下のような価値連鎖図に書き込むことで経営資源について考察し、どのプロセスで価値を生み出しているのかを明確化できます。
・バリューチェーン(価値連鎖)
VRIO分析の使い方【STEP2:経営資源の評価】
VRIO分析のSTEP2では、STEP1で設定した経営資源を評価します。Value(価値)・Rarity(希少性)・Inimitability(模倣困難性)・Organization(組織)の4項目に対してYes/Noの2択で評価を行い、V⇒R⇒I⇒Oの順番で進めていきます。
評価を行う4つの項目
評価を行う4つの項目の詳細と、それぞれを評価するための質問は次の通りです。
・Value(経済価値)
Value(経済価値)とは、VRIO分析において最初に評価する最も重要度の高い項目です。経営資源は、大前提として経済的な価値が必要不可欠であるためです。STEP1で設定した各資源について、顧客や社会に対し、経済価値を提供できているかを評価します。
ジェイ・B・バーニーの『企業戦略論』では、経済価値に関する問いについて次のように記載されています。
その企業の保有する経営資源やケイパビリティは、その企業が外部環境における脅威や機会に適応することを可能にするか。
出典:『企業戦略論【上】基本編―競争優位の構築と持続―』(ダイヤモンド社、ジェイ・B・バーニー著、岡田正大訳)
Value(経済価値)に関する上記の問いについて「Yes」と評価できる場合は、機会を最大限に生かし、脅威にも対応できる、競争優位の経営資源を有していることとなります。
・Rarity(希少性)
一般的に希少性とは、要求される量に対して利用可能な量が少ない状態のことです。VRIO分析においてRarity(希少性)では、その経営資源を保有・活用している企業が少ないかどうかを評価します。経済価値があると評価された経営資源でも、多数の競合企業に保有されている状態では競争優位の源泉とは言えないためです。
ジェイ・B・バーニーの著書では、希少性を評価する問いについて次のように記載されています。
その経営資源を現在コントロールしているのは、ごく少数の競合企業だろうか。
出典:『企業戦略論【上】基本編―競争優位の構築と持続―』(ダイヤモンド社、ジェイ・B・バーニー著、岡田正大訳)
自社に近しい経営資源を持っている企業が少なければ「Yes」、多ければ「No」と評価します。
類似する経営資源を所持または活用している企業が多いと、競合他社との差別化が難しくなり、経済価値があったとしても優位性を発揮するのは困難になります。特に中小企業においては、大企業の参入により一気にシェアを奪われるリスクがあるため、経営資源の希少性の確保は重要と言えるでしょう。
・Inimitability(模倣困難性)
Inimitability(模倣困難性)とは、文字通り競合他社が容易に模倣(真似)することが難しい性質のことです。経営資源に経済価値や希少性がある場合、模倣困難性が高いほど、競合他社を抑えて自社のビジネスを長期的に優位に展開することが可能です。
模倣困難性を評価する問いについて、ジェイ・B・バーニーの著書では、次のように記載されています。
その経営資源を保有していない企業は、その経営資源を獲得あるいは開発する際にコスト上の不利に直面するだろうか。
出典:『企業戦略論【上】基本編―競争優位の構築と持続―』(ダイヤモンド社、ジェイ・B・バーニー著、岡田正大訳)
模倣の仕方には直接的に模倣する方法と、代替による模倣があります。競合他社が模倣の際にかかるコストが自社のかかったコストよりも大きい場合は「Yes」と評価でき、競争優位性は持続可能であると言えます。
・Organization(組織)
VRIO分析におけるOrganization(組織)とは、経営資源を活用するための組織的基盤のことを指します。優れた経営資源を有していても、それを活かすための体制が整っていなければ真に競争優位を実現しているとは言えないため、Organization(組織)にて評価します。
組織を評価する問いについて、ジェイ・B・バーニーの著書では、次のように記載されています。
企業が保有する、価値があり稀少で模倣コストの大きい経営資源を活用するために、組織的な方針や手続きが整っているだろうか。
出典:『企業戦略論【上】基本編―競争優位の構築と持続―』(ダイヤモンド社、ジェイ・B・バーニー著、岡田正大訳)
具体的には、経営資源を有効活用するための仕組み、意思決定や手続きのルールなどの有無が対象です。自社の経営資源を十分に活用できる組織体制が整っている場合は、「Yes」と評価します。
分析の方法
経営資源 | Value 経済価値 |
Rarity 希少性 |
Inimitability 模倣困難性 |
Organization 組織 |
競争優位性 |
資源A | No | No | No | No | 競争劣位 |
資源B | Yes | No | No | No | 競争均衡 |
資源C | Yes | Yes | No | No | 一時的な競争優位 |
資源D | Yes | Yes | Yes | Yes | 持続的な競争優位 |
VRIO分析には一覧表形式とフローチャート形式があります。一覧表形式では、V⇒R⇒I⇒Oの順で経営資源それぞれについて各項目が「Yes」か「No」か評価の記入を行います。「Yes」が続くほど競争優位性が高い経営資源を持っていることとなり、全ての項目に「Yes」である場合は競争優位性・持続性が高く優れた経営資源を持っていると判断できます。
フローチャート形式ではV⇒R⇒I⇒Oの順に評価を行い、Noが出た時点で分析をストップします。
一覧表形式の場合は、4つの項目全ての情報を集めて評価を行うため、多くの時間とリソースが必要となりますが、経営資源を詳細に分析できるので、重要度の高い戦略・施策を考える際には適していると言われています。一方でフローチャート形式はスピーディーに結果を得ることができるため、数多くの経営資源を分析したい場合にはおすすめです。
VRIO分析の使い方【STEP3:方向性の策定】
VRIO分析の最終ステップでは、STEP2で実施した評価を用いて自社が有する経営資源の競争優位性について考察し、今後の方向性の策定に役立てます。
競争優位性の考え方
競争優位とは、企業が業界や市場で経済価値を創出していて、なおかつ同じような行動をとっている企業がほぼいない状態を指します。VRIOのどの項目が「Yes」か「No」かによって、その資源の競争優位性が変化します。
出典:『企業戦略論【上】基本編―競争優位の構築と持続―』(ダイヤモンド社、ジェイ・B・バーニー著、岡田正大訳)※編集部にて罫線を一部追加
表に記載されている競争優位性の状態についてはそれぞれ次の通りです。
競争劣位 | 競争において劣勢となっており、早急な対応が求められる状態 |
競争均衡 | 競合他社と均衡しており、優位性を高める対策を講じなければいずれ競争劣位となる状態 |
一時的な競争優位 | 一時的に競争優位となっているが、時間が経つにつれて模倣され、先行者優位でなくなる状態 |
持続的な競争優位 | 長期的に競争優位性を発揮できる状態 |
なお、経済価値(V)、希少性(R)、模倣困難性(I)のいずれも「Yes」なのに、それらを生かすような組織体制が整っていない場合、本来は標準を上回るはずの経済的パフォーマンスが標準または標準以下になる可能性があるとされています。
方向性の策定
VRIO分析は分析を行うのではなく、分析結果を戦略に活かすことが本来の目的です。取り組む際は分析に終始せず、「どの資源を強化し、競争優位性を見いだすか」「各経営資源をこれからどう強化するか」などと考察し、今後の方向性の策定まで行うようにしましょう。
例えば、競争劣位となった資源は企業にとって弱みとなるため、強化する方法を検討するか、場合によってはこの経営資源を使用しない選択をとる必要があります。一方、持続的な競争優位を築けている資源については、さらに強化する戦略をとるなどの意思決定ができるでしょう。
競争優位性を発揮するには経営資源の的確な分析と考察が鍵
ビジネスを取り巻く環境の変化が激しい現代社会においては、いかに自社が競争優位性を発揮し、長期にわたり市場で有利なポジションを確立できるかが重要となります。そのためには、自社の経営資源の現状を把握して、強化すべき資源や方法を見いだすことが重要です。VRIO分析を活用し、マーケティング戦略の立案に役立てましょう。
なお、マーケティングの環境分析で用いられるその他のフレームワークについては以下の記事で解説しています。あわせて参考になさってください。
PEST分析の基本|4つの要因を整理し、自社や市場への影響を知るには?
ファイブフォース分析とは?業界の競争構造を把握する方法
SWOT分析とは?自社の状況を整理し、戦略の立案につなげる方法