化粧品やサプリメントで多くの人に知られ、利用されているディーエイチシー(以下DHC)。そのDHCが2023年4月に経営体制を刷新、第二創業という大きな節目を迎えています。
あわせて、他社で「シーズケース」「スリムアップスリム」「ディアナチュラ」などの有名ブランドを立ち上げたヒットメーカーの櫻井容子さんが執行役員CMOとしてDHCにジョイン。新たなシリーズブランドの立ち上げに意気込んでいます。
今回はDHC執行役員CMOの櫻井容子さんに話を聞きました。
(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:永山 昌克)
目次
最初に立ち上げた「シーズケース」が初年度50億円のヒット
――新卒でポーラに入社し、いきなりすごい実績を上げられたとのこと。具体的に教えてください。
ありがとうございます。まずポーラで新規事業開発の部署に配属され、8名くらいで営業と開発を担当しました。そのとき私が「シーズケース」というブランドを立ち上げたところ、ヒットして初年度で50億円ほど売れました。
――すごいですね。何が良かったのですか。
海外のスーパーに行ったとき、お菓子の棚の近くにサプリメントのような見た目のお菓子棚がたくさん並んでいる光景にヒントを得ました。当時営業を担当していたセブン-イレブンさんに、スティックキャンディなど100円くらいの商品が入っていたポケット棚で「シーズケース」のような商品を売ったら売れるのではないかと提案したところ、それまでポケット棚に200円の高価格帯で、かつビタミンを本格的に取れる錠菓はほとんどなかったことから、ブルーオーシャンになり、よく売れました。
ほかにも、間寛平さんがレイを付けて踊るテレビCMが人気になったこともヒットの要因としてあると思います。
これが私のスタートです。
その後、ポーラの中でアパレル事業に移り、「クレアミュール」というブランドを立ち上げました。今は存在しませんが、当時はそれなりに売れたと思います。
――それから、現在のアサヒグループ食品(当時アサヒフードアンドヘルスケア)に転職した、と。
はい、シーズケースを担当していたときに上司だった人がアサヒグループ食品にいて、誘われました。そのとき社長から言われたのは、「ビューティー&ヘルスケア事業を拡大したい」ということです。面白そうだと思い、最初に立ち上げたのが「スリムアップスリム」というブランドで、2つ目に立ち上げたのが「ディアナチュラ」ブランドです。
――有名ブランドを連発でヒットさせていますね。
ありがとうございます。だから面白かったです。
その後、J-オイルミルズに移って油脂加工品事業を管掌するようになり、マーガリンブランドの「ラーマ」の撤退を実行しました。また、業務用マーガリン「グランマスター」シリーズが2024年に日本食糧新聞社の「業務用加工食品ヒット賞」を業務用マーガリンとして初めて受賞するという実績を得て、この受賞を最後にDHCに移った形です。
有名ブランドを立ち上げ、ヒットを連発。その背景
――素晴らしい経験と実績です。マーケターを目指す原体験のようなことはありましたか。
もともと商品開発希望で就職活動をしたのですが、総合職で、しかも新卒ですぐに商品開発に配属してもらえる会社が当時ほとんどなく、ポーラだけが自分の目に留まりました。初配属で新規事業の担当になり、トライアル・アンド・エラーで成功も失敗もたくさん経験しながら自由にいろんな商品を作らせてもらえる環境だったのが、今の自分を形作っていると思います。
加えて、「シーズケース」がヒットしたことで、マーケティングの面白さを十分に認識できました。やはり「シーズケース」のヒットが一番のターニングポイントですね。
――ほかにも「クリーム玄米ブラン」や「ミンティア」「和光堂」などの有名ブランドのリブランドを行ったとのこと。自ら立ち上げた「シーズケース」「スリムアップスリム」「ディアナチュラ」など含めて、最も思い入れの深いブランドは何ですか。
最もかどうかは別にして、「ディアナチュラ」は大好きなブランドです。欧米の市場では「ディアナチュラ」のようなサプリメントが野菜などを売っているグロッサリー売り場の近くに置かれていることがよくあります。つまり、生活と近い場所にサプリメント売り場があるということです。一方、日本では薬売り場の近くにサプリメント売り場があります。おそらく何年か経てば、日本でもサプリメントに対する認識が変わり、もっと生活者の近い場所に置かれるようになるだろうと感じました。
価格が手頃で当時から人気だったDHCは別にすると、売り場を見る限り、競合の商品の多くは見た目も売り方も薬っぽさを感じるのが大半でした。そのため、見た目が薬っぽくなくてナチュラル感があり、もっと親しみやすい情緒的価値を訴求したブランドができれば売れるかもしれないと感じました。そこでコンセプトを「家族を守るサプリメント」にしたのです。夫や子どもに栄養のあるものを食べさせたいが、100%は難しい。それなのにサプリメントをとらせることに違和感を覚える人が当時たくさんいました。
――まあ、そうですよね。
そこで全国の女性に対する免罪符のような形をイメージして、正々堂々と「家族を守るサプリメント」であると謳いました。お母さんが家族を守るためのサプリメント。ディアナチュラには自分の想いがすごく詰まっていたのです。
――反対意見は出なかったですか。
コンセプトに対してではなく、今さら新ブランドを立ち上げてシリーズサプリメントに入るのは難しいでしょうという意見は確かにありました。
ただ私は品揃いも相当研究しまして、競合のラインナップにない栄養素のアイテムをシンボル商品として取り入れたり、価格を競合商品より下げたりしました。ほかにも、海外サプリの弱点である粒の大きさに対して、小粒にして飲みやすくすることで継続性を訴求したり、薬っぽい見た目を控えて、白いボトルにオレンジのキャップという30~40代の女性が好むようなカラーアレンジにしたところ、店頭で目立たせることもできました。
第二創業を迎えた新生DHCをどう伝えるか
――その結果、サプリメントブランドシェアNo.1のDHCに次ぐシェアを獲得した、と。DHCはそもそもなぜそんなに強いのですか。
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