CMOとはChief Marketing Officerの略で、最高マーケティング責任者を指します。基本的な役割は各事業部を統括して横串を刺す形で効率的な事業推進を図ることにあり、日本でも徐々にその重要性の認識が浸透し始めています。
では、マーケティング担当者がCMOを目指すためには、どのような資質や経験が必要なのでしょうか。
この記事では、「Marketing Native」の過去のインタビューの中から、CMOになるためのアドバイスについて言及された記事をピックアップし、ポイントをご紹介します。
※記事中の肩書きは取材当時のものです。
目次
CMOの役割とは?
CMOは企業の経営戦略をもとに自社のマーケティング戦略を立案する役割を担います。株式会社ムーンショット 代表取締役CEO 菅原健一さんは、「CMOはマーケティング戦略の観点から、何をすべきかについて経営者に進言でき、経営判断に参加する素質を持つ人のこと」とインタビューで述べています。
アドバイスの前にまず、CMOの役割に関してよくある勘違いから説明します。CTOを例に挙げますが、CTOとはテクノロジーに一番詳しくて良いコードが書ける人ではありません。同様に、CMOもマーケティングの理論と実務が一番上手な人であるという解釈は正しくありません。CMOはマーケティング戦略の観点から、何をすべきかについて経営者に進言でき、経営判断に参加する素質を持つ人のことであり、同様にCTOはテクノロジーの観点から経営判断できる素質のある人を指します。
出典:「大事なのは『ターゲット』と『指標』を変えていくこと」 アドテクノロジーの第一人者・菅原健一氏が語る BtoBマーケティングに必要な思考法
株式会社morich代表取締役 森本千賀子さんは、経営者がCMOに求める役割は「マーケットからビジネスモデルまで、戦い方そのものを戦略的に見直すこと」と言います。
CMOの具体的な業務内容は企業によっても異なります。マーケティング戦略の立案やデジタルマーケティングの推進、マーケティングリサーチが挙げられるほか、広報やオウンドメディア活用などが含まれる場合もあります。企業にまだマーケティング部門がない場合、CMOがその立ち上げを担うこともあるでしょう。また、施策が実行され、成果を出せるようにメンバーをマネジメントするのもCMOの役割の一つです。
CEOの高岡(浩三社長)が「経営は『マネジメント』と訳されているが、『マーケティング』と言い換えられるべきである」と常々言っておりまして、ネスレグループでは各事業部がそれぞれマーケティング組織になっています。
例えば、「ネスカフェ」を扱っている飲料事業本部、「キットカット」を扱うコンフェクショナリー事業本部などは、それぞれ事業部であるとともにマーケティング部門です。事業部ですから、売り上げと利益目標を達成するために、製品のイノベーション・リノベーション、消費者コミュニケーションを大きな柱として事業を推進しています。その設計図となるビジネスプランを作成し、実行するのがマーケティングの役割です。
それを縦軸として、横軸には各事業部をサポートしていくファンクショナルユニットを置いています。製造、営業、サプライチェーン、購買、ファイナンス、人事・総務、法務、そして私が所属しているマーケティング&コミュニケーションズが横軸のファンクショナルユニットに当たります。
▲ネスレ日本は各事業部がマーケティング部門でもあり、横串を刺す形でマーケティング&コミュニケーションや製造、営業などのファンクショナルユニットが置かれている。
出典:ネスレ日本CMO 石橋昌文が教える 「マーケティングで成功する考え方、失敗する考え方」
例えば、NEC(日本電機株式会社)執行役員兼CMOの榎本亮さんがインタビュー中に挙げたご自身のCMOとしての役割や成果は次の通りです。
【NECのCMOの役割】
これまでのNECの事業範囲を超えたところにある市場を指摘し、会社の戦略や従業員の意識をそこに向けることに取り組んでいる
【CMOとしての成果】
- NEC入社後にやり遂げたことの一つは、社内に初めてマーケティングの部門を作ったこと
- 数年の取り組みを経て、NECのブランドバリューが1.5倍くらいに向上した(インターブランドが毎年発表しているブランドランキングに基づく)
参考:NEC CMO榎本亮が語る「マーケターは攻守の要・ボランチとなってピッチを走り回るべし」
なお、業務や機能の責任者を表す「CxO」という役職には、ほかにも以下のような職種があります。
- CEO(Chief Executive Officer:最高経営責任者)
- COO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)
- CFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)
- CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)
- CHRO(Chief Human Resource Officer:最高人事責任者)
- CTO(Chief Technology Officer:最高技術責任者)
CMOを目指すマーケターの方へのアドバイス
CMOになるには、どのような資質が必要なのでしょうか。Marketing Nativeでインタビューした方々から、CMOを目指すマーケターの方に向けて頂いたアドバイスをピックアップしてご紹介します。
※五十音順に記載
ナイアンティック Senior Director 足立光さん
- 2~3年に1回は昇進するくらいの気合いで仕事をしたほうが良い
- 打席にいっぱい立ち、たくさん素振りをすること
- 自分の成長のためにたくさん時間を使い、いろいろな経験をすることが大事
- CMOは俯瞰の人なので、専門家ではいけない。マーケティングという名前の仕事にこだわることなく、いろいろなところに飛び込めば、経験値が上がっていく
- 目の前の仕事で誰にも負けない成果を出し、勝ち続けるように努力する
- 協力してもらう人に「あなたのためならやってやろう」と思ってもらえるようなピープル・スキルを身に付ける
関連記事:元マクドナルドCMO足立光が教える「CMOになるために大切なこと」
横河電機株式会社 常務執行役員/マーケティング本部 本部長 阿部剛士さん
- これからの時代にCMOを目指すなら、1人で2つか3つの得意分野を持ったマルチタレントであるべき
- いろいろなことで、第一線で活躍できるレベルを目指すと良い
- いつもビギナーという意識を持ち、謙虚に学び続ける姿勢が大切
関連記事:横河電機マーケティング本部長・阿部剛士が語る「CMOは第一級のマルチタレントであれ」(後編)
ネスレ日本株式会社 専務執行役員CMO 石橋昌文さん
信頼されるCMOになるために必要な心構えとは?
- 信頼されるCMOというよりも、信頼されるビジネスパーソンであることが大切
- 相手との信頼関係の構築が良い仕事につながっていく
関連記事:ネスレ日本CMO 石橋昌文が教える 「マーケティングで成功する考え方、失敗する考え方」
楽天株式会社 常務執行役員CMO 河野奈保さん
- CMOは「企業の戦略」と「ユーザーの声(ユーザーニーズ)」という2つの軸を明確に理解し、意識することが重要
- 20代~30代のうちは意図しないポジションに就くこともあるが、目の前の仕事1つ1つを楽しみ、やり遂げることが大切。それがマーケターとしての成長を促し、CMOにつながる道となるはず
- マーケティングは企業戦略の一環であり、経営に近い。データを見るのと同じくらい、経営者が何を考えていて、どこに向かおうとしているのかを聞く時間を作るべき
関連記事:楽天CMO河野奈保インタビュー「顧客満足度を最大化する『ポイント・ギブ・ファースト』のマーケティング戦略とは?」
株式会社ムーンショット 代表取締役CEO 菅原健一さん
BtoB企業でCMOを目指すマーケターへのアドバイス
- 徹底的にお客様の成功を考えること。相手の出世やビジネスに貢献できない人に、出世や成功の順番は巡ってこない
- 自分自身を1つの会社と捉え、経営することで、経営視点を養う
- 日々の時間を「今の仕事」にかけるか、「未来の自分」に投資するか、いずれかに振り分け、まずは時間を経営する感覚を持つことから始めると良い
関連記事:「大事なのは『ターゲット』と『指標』を変えていくこと」 アドテクノロジーの第一人者・菅原健一氏が語る BtoBマーケティングに必要な思考法
株式会社コメ兵 執行役員 マーケティング統括部長 藤原義昭さん
- 情報感度を上げ、テレビCMや広告などに対して疑問を持って考えを深めていくこと
- 本を読んだり、ビジネススクールに行ったりするなど、誰にも負けないくらい勉強をすること
- マーケティングは1人ではできないので、どうすればチームのパフォーマンスを上げられるかを真剣に考えること
関連記事:コメ兵・藤原義昭が明かすマーケティングの本質「デジタル施策がかなわない、お客様への1本の電話」
アウトブレインジャパン株式会社 顧問/アビームコンサルティング株式会社 顧問 本間充さん
- 自分の会社でCMOを目指すなら、その会社の最大の強みを理解することが大切
- その強みを活かし、ブランドを維持する方法を考え続けること
- 現状の不満足なところをあぶりだすことができ、課題抽出力が高い人はマーケティングにおいてリーダーシップをとる人材になっていく
関連記事:デジタルマーケティング研究の第一人者、本間充さんが語る 「令和のマーケターに求められるロイヤルカスタマー育成の新手法」とは?
スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社CMO 森井久恵さん
- 顧客視点と経営視点の両方を磨き、経験を積むと良い
- CMOは専門職ではないため、物事を常に広い視点で捉えることが大切
- CMOにはマジックとロジックの使い分けが求められる。普段の業務からマジックとロジックを磨きつつ成果を上げ続け、マーケティング責任者になるチャンスが来たときは積極的に挑戦すること
関連記事:スターバックス コーヒー ジャパンCMO森井久恵が語る「CMOが取るべきコミュニケーションと意思決定の判断基準となる3つの軸」
株式会社morich代表取締役 森本千賀子さん
- BtoBマーケターが不足しているため、BtoBの分野で活躍し、経験や実績を積むと、個人の市場価値が高まりやすい
- ビジネスを俯瞰して全方位で見ることが大切になるため、マーケティング以外の部門でも経験を積んでみると良い
関連記事:リクルート史上最強の営業ウーマン・森本千賀子さんが教える「経営者が是が非でも欲しいCMOの条件」
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