[最終更新日]

2019/07/29

 

「CMO Path 2019」セッション1レポート~注目の経営者が語る「企業の成長を加速させるCMOの重要性」

株式会社CINC(代表取締役社長:石松友典)は7月24日、自社メディア「Marketing Native」初のイベント「CMO Path 2019」を東京・渋谷の渋谷ソラスタコンファレンスにて開催しました。イベントのテーマはマーケターのキャリア形成を支援する「CMOになるために必要なこと」。これはMarketing Nativeが掲げるコンセプトの1つでもあります。

当日は企業のマーケティング担当者を中心に約100人が詰めかけ、登壇者同士のトークセッション、質疑応答などで活発な意見交換が行われました。

今回のMarketing Nativeは、2つのセッションに分かれて行われた「CMO Path 2019」の模様をお届けします。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:稲垣 純也)

    

目次

セッション1:テーマと登壇者

テーマ

注目の経営者が語る 企業の成長を加速させるCMOの重要性

登壇者

JapanTaxi株式会社 代表取締役社長 CEO 川鍋一朗
株式会社じげん 代表取締役 社長執行役員 CEO 平尾 丈
株式会社morich代表取締役 森本千賀子(モデレーター)

川鍋さん、平尾さんに共通していたのは「マーケティング=経営」だという認識です。そのため、二人ともCMOに対して「マーケティングだけできる人」は求めておらず、川鍋さんは「事業開発ができる人」、平尾さんも、事業責任者としてPL責任を負うだけでなく、経営視点を基に結果を出せる、スペシャリストとしてもゼネラリストとしても優秀な視座の高い人を採用したいという考えを示しました。

マーケティングの位置づけ

森本
経営者の方から求人のヒアリングをさせていただくと、企業ごとにマーケティングの位置づけや濃淡が異なると感じています。お二人はマーケティングをどのように位置づけられていますでしょうか。

平尾
マーケティングとは、経営そのものだと位置づけています。私は学生ベンチャーを立ち上げた後、メディアの会社を作りたくて、ビジネスの勉強のためにリクルートに入社しました。メディアには2つの力があります。1つは集客、つまり人に来ていただく力で、もう1つは来ていただいた方を実際に動かす力です。

ソーシャルの時代となってから、PV数やセッション数は指数関数的に伸びていますが、人を動かすところにフォーカスした会社はあまり存在せず、サイトに来ていただいた方のコンバージョン、例えば求人の応募や不動産の資料請求、車の見積もりなどの数字をどう上げれば良いのかについては、相談相手は決して多くありません。そこで、人を動かす力にフォーカスしたマーケティングカンパニーを作ったら面白いと考えたのがじげんの始まりでした。

コンバージョン数を上げるのは、濃いユーザーに入っていただくための集客経路の確立やビッグデータの分析といった地道な作業の繰り返しです。また、指標として追っている売上高は、コンバージョンの単価とコンバージョン数を掛けた売り上げになるようなKPIのフォーミュラにしています。コンバージョン数が伸び続けていることがじげんの増収増益の証しであり、存在意義でもあり、それが経営です。

川鍋
私もマーケティングは経営そのものであり、会社の存在意義自体がマーケティングだと考えています。ドラッカーも言うように、会社の存在意義は顧客の創造が出発点。ただ、お客さまとはどのような人かをあらためて考えたときに、意外とわかっていない人がいます。

マーケターの認識はズレやすいということです。計測可能な部分、本に書いてあるセオリーのようなことばかりやっているマーケターが現実には少なくありません。

「JapanTaxi」アプリの配車件数、つまりコンバージョンを上げたいなら、タクシー乗り場に毎日行って現金で乗っているお客さまに声をかけたほうがいいのではないか。それなのになかなか行こうとはしません。マーケティングのセオリーにないからでしょう。もっと街に出て、しつこく行動観察をして、お客さまに届く施策とは何かを突き詰めて考えられる人が本当のマーケターだと思います。

平尾
じげんでも「KPI改善君」というあまり良くない意味で使われる言葉があるのですが、そういう人はKPIを毎日ひたすら見ているので、掛け算に分けるところまではできるんです。ところが、分けた後でA×B×Cになったときに、相関関係がある指標なのに一点突破で行ってしまって、バランスが崩れ、事業がおかしくなったケースもありました。いずれかを係数にして投資すればいいわけではなく、大きなストーリーの中で顧客を見て、A×B×Cの関係性に配慮しないとズレていくという点は私も感じます。

森本
最近ではコンシューマーインサイトを深掘りする重要性がよく指摘されていますね。

川鍋
ただ、「コンシューマーインサイト」とか「カスタマージャーニーマップ」となると、また技術論に走りがちなので、むしろ横文字は使わないくらいの気持ちでいたほうがいいと思います。マーケターの話を聞いていると、「そもそもそのKPIツリーの分け方自体、合っているの?」と疑問を感じることがあります。

数字で測定できたほうがわかりやすいし、人に説明するのも容易なので、そちらに寄りたがる気持ちは理解できるのですが、放っておくと、すごくまじめに間違った方向に突き進む集団になりかねないと危惧しています。「そもそも自分たちは誰のために、何をしているのか」という問い掛けを忘れてほしくないし、そこを突き詰められるのがマーケターだと思います。

活躍するマーケターの特徴、評価のポイントについて

平尾
じげんは相当筋肉質な会社だと思います。コーポレート部門を除いてほぼ全社員がどんな職業でもPL責任を負います。これは、経営者としては当たり前のことだと考えています。もちろんリーダーやマネージャーになるにつれてPL責任の比率が上がっていく形になりますので、プロセスの配分はそれぞれ異なりますが、基本的にはプロフィットセンターの中で企業価値向上にどれくらい貢献したかを結果責任として評価します。次にプロセス責任です。

じげんはこれまで、ゼネラリストの育成に努めてきました。ロールモデルになっている人の共通点の1つは、縦の事業ラインと横の機能ラインの両方をやっているということです。消費財メーカーさんには、ブランドマネージャーさんやプロダクトオーナーさんのような方がいらっしゃいますが、我々も同様に経営に近いマーケティングで、特定の事業のオーナー、事業責任者という形になることが多く、その場合PL責任を負います。当然、必死に勉強しないとうまくいきません。

我々は最後発のベンチャーですし、最近でこそテレビCMを始めましたが、創業から10年間、テレビCMを打っていません。スタートアップの皆さんが資金調達をしてJカーブを描くのとは異なる経営をしていて、どちらかというとSEOのようなCPAを下げるところから始めて、プロフィットセンターとしてプロフィットを積み上げていく経営をしています。こうした点を科学して構造化できている人が活躍しているマーケターになっています。横のすべを知りつつ縦の結果を出せる人です。

もちろん容易ではありませんが、6年間くらいじげんでみっちり鍛えると、その人が見ている売り上げの金額が、新規で上場する企業より大きくなっていることがしばしばあります。

川鍋
JapanTaxiにはIT系の社員も来ますが、働きかける対象はアナログ系、リアル系です。そのため、活躍するマーケター像は明確で、Slackだけでしか会話をしない人はまずダメです。つまり、心地良い世界観をネット上で閉じてしまっている人です。一方、現場から信頼されて、物事がスムーズに進みやすいのは、すぐに営業所に足を運ぶ人です。

スケジュールに縛られすぎる人もダメ。「なぜこれの報告がないの?」と聞いたときに、「来週の月曜日に定例がありますので、そこで報告します」と言われると、「そんなスピード感じゃないんだよ」と感じます。そういう人は小さくまとまって、「部品」になってしまうと思います。

JapanTaxiは一人一人がPL責任を負っているわけではないので、あまり定量的な評価はありません。ただし、ゼロイチで事業開発ができる人はやはり優秀と見なされます。ただ、みんなができるわけではないので、まずは「この人はできる」「この人に任せれば物事が進む」という自己ブランディングをするのが良いでしょう。そのためには小さなことでいいから実績を出し続けることが大事です。

CMOはどう探す?登用・採用したいCMOとは?

平尾
創業時から探し続けてはいますが、我々はCMOがいなくても、事業家集団であり、一人一人がマーケターという認識でやっています。

一方、育成については、研修よりOJTで、早くバッターボックスに立たせることを意識しています。経営視点の考え方は毎週の事業部長が集まる統括会議で、数時間かけてみっちり教えます。

じげんの社員はいつも数字をシビアに見ています。損を出したり、CPAが悪化したときの痛みを自分事として感じられる人のほうがデータが豊富になっていきます。成功体験と失敗体験を繰り返す中で蓄積したデータ量が成長の一番のドライバーと言えるでしょう。

川鍋
ひと言で言うと、事業開発ができる人です。テクニカルなところは助けてくれる人がたくさんいます。別にP&G出身でマーケティングのスキルに長けた人でなくても構いません。事業開発ができる人のほうが、経営者が求めるCMOに近いのではないかと思います。経営者目線で議論ができないと困るんです。そういう議論ができない人は役員会議には呼ばず、マーケティング会議に呼べばいいという話で終わります。

森本
細分化されたマーケティング部署での経験者というよりも事業全体を見られる人ということですか。

川鍋
事業全体が見られない人はマーケティング部長止まりです。CMOとマーケティング部長の大きな違いは、経営者目線を持っているかどうかです。

参加者から寄せられた質問

Q:CMO候補との面接で1問しか質問できないとしたら、何を聞きますか?

平尾
CXO、事業責任者、役員候補など、どの方にも聞く質問があります。それは
「あなたが入社したときに、じげんの企業価値をどれくらい上げられますか?」
です。

この質問で、どれくらい深く考えているのかがわかります。その方の視点、勘所がじげんのカルチャーに近くて、ご本人のアップサイドが我々にはないケイパビリティをお持ちであるかという点をかなり見ます。

川鍋
いつも聞くのは
「子どもの頃、どんな人でしたか?」
という質問です。

親しい友達に何と呼ばれていたか、子どものころの体験や家族との思い出は圧倒的に人生の基礎を司るものだと考えています。

JapanTaxiのバリューの根底には「公」があります。タクシーは公共交通機関であり、モビリティ、社会インフラなので、「公」の観点を持っているかどうかも気になります。そちらに行き過ぎるとNGOになってしまうので注意は必要ですが、その人の思想やバックグラウンドを知りたいという気持ちはあります。

経営者からマーケターへ

川鍋
こういう勉強会に参加するのはすごいと思いますが、参加するだけでなく、何か1つはアクションを取ってください。ただの勉強会好きではダメで、勉強した気になって明日も同じことをやり続けているようでは成長はありません。話を聞いて「そうか!」と思ったらアクションをする癖をつける。そういう1個1個の積み上げが自分の自信につながり、何かを変えるというのがどういうことなのか、わかってきます。今日聞いたことをアクションする癖をつけないと、永遠に進歩しません。結局は、実行することにしか真実はないのです。

平尾
マクロ経済が不安定ではありますが、ある程度好景気が継続するのであれば、2019年、令和元年はCMO元年になり得ると思います。すべてのマーケティング領域で絶対的なCMOになれる人は数が足りていません。一方で、活躍できるバックグラウンドをお持ちの方はそれなりにいると思います。「この点は苦手だけど、この経験があの会社に使えるのでは」というのがあれば、相対的CMOに挑戦しても良いのではないでしょうか。ご自身のマーケティングエッジを常に高めながら、効果的なスキルの組み合わせを考え、それを次のキャリアで活かせる場所を見つけられると、大きく飛躍できますし、日本にCMOが定着してくる日が来るのではないかと思います。

セッション2のレポート記事はこちら。

【登壇者Profile(順不同)】
JapanTaxi株式会社 代表取締役社長 CEO 川鍋一朗
1997年マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・ジャパン入社を経て2000年日本交通株式会社に入社。2005年代表取締役社長、2015年代表取締役会長に就任。日本最大のタクシー配車アプリ『JapanTaxi』の提供や『JapanTaxi Wallet』等の多様な決済手段の開発を通じ、「移動で人を幸せに。」をテーマに日々進化するタクシー改革を加速。2014年5月東京ハイヤー・タクシー協会の会長、2017年6月全国ハイヤー・タクシー連合会の会長に就任。

株式会社じげん 代表取締役 社長執行役員 CEO 平尾 丈
大学在学中に2社を創業し、1社を経営したまま、2005年リクルート入社。人事部門・インターネットマーケティング局・事業開発室などを経て、じげんの前身となる企業の取締役となる。その後代表取締役社長に就任し、MBOを経て独立。2013年東証マザーズ上場、2018年6月、東証一部へ市場変更。2012年より8年連続で、「日本テクノロジー Fast50/アジア太平洋地域 テクノロジー Fast500」受賞、及びGreat Place To Work「働きがいのある会社」ランキングに選出。

株式会社morich代表取締役 森本千賀子
1993年リクルート人材センター(現リクルートキャリア)に入社。大手からベンチャーまで幅広い企業に対して人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ、主に経営幹部・管理職クラスでの実績多数。2017年に株式会社morichを設立し、代表取締役に就任。ほかにNPO理事、顧問・社外取締役を歴任。

 

[記事執筆者] 早川巧
株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writerとして四半世紀以上のキャリアあり。Twitter:@hayakawaMN

 

 

 

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