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インタビュー

スターバックス コーヒー ジャパンCMO森井久恵が語る「CMOが取るべきコミュニケーションと意思決定の判断基準となる3つの軸」

最終更新日:2023.12.22

The Marketing Native #15

スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社CMO

森井 久恵

世界最大のコーヒーチェーン「スターバックス」。その日本法人でマーケティング戦略の陣頭指揮を執るのがCMOを務める森井久恵さんです。スターバックスといえば、強力なブランドの力を背景に、一般消費者が顧客でありながらテレビCMをはじめとするマス広告をほとんど打たないなど、独特のマーケティング戦略で知られています。

FMCG(Fast Moving Consumer Goods、日用消費財)のマーケター経験が長い森井さんは、そうした「スターバックスらしさ」を活かしつつも、ライフスタイルの変化に合わせてブランドの在り方を進化させようと試みています。

それはどのような進化でしょうか。従来のスターバックスファンはその進化をどのように受け止めているのでしょうか。

今回は、スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社CMOの森井久恵さんに、マーケティング戦略の取り組みに加えて、マーケターとして働く女性へのメッセージについても伺いました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、人物撮影:花井 智子)

※肩書、内容などは記事公開時点のものです。

目次

スターバックスで感じた強みと課題

――「スターバックス」という世界的な人気企業の日本法人でCMOを務められているということで、「どんな人なんだろう?」と興味を持っている読者は多いと思います。これまでのキャリアを教えてください。

スタートはNTT東日本で、法人営業などを担当しました。その後、ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン(BAT)に転職して営業とマーケティングを3年ほど経験し、ユニリーバ・ジャパンへ移りました。ユニリーバは自分ととても相性が良く、日本で12年、中国とタイで3年と計15年間在職し、それぞれの国でマーケティングのヘッドを務めました。

森井久恵さん

――ユニリーバでご活躍だったのに、なぜスターバックスに移られたのですか。

ユニリーバのブランドに対する考え方やカンパニーカルチャーが大好きでした。私を育ててくれましたし、しばらくは海外で頑張ろうと思っていたのですが、家族の事情でユニリーバを辞めて帰国するかどうかの判断を迫られる状況になり、悩んでいたタイミングで、スターバックスから声をかけていただいたため、運命を感じました。

――いつのお話ですか。

2017年の終わり頃です。大好きなスターバックスだったから、帰国して転職するという大きな決断ができたのだと思います。

――前職・前々職ともに世界的な有名企業ですが、比較した場合に、スターバックスの強みや魅力、課題はどこにあるとお考えですか。

私自身にとっての強みは、お客さまに「感動」を直接お渡しできることです。これまでFMCGでは、お客さまに購入していただけるのは主に小売りやネットを通してであり、自分が商品を直接お渡しできるわけではありません。一方、スターバックスはお客さまの反応を目の前で感じられますから、あらゆることを詳細な消費者調査にかけなくても、お客さまや、スターバックス体験を届けてくれているパートナー(従業員)の声に耳を傾ければ、お客さまが求めていることは何か、我々は何をすべきかが見えてきたりします。その点はマーケターとして魅力を感じますね。

機会点があるとすれば、ブランドマネジメントのような体系立ったロジカルなフレームワークがそこまで確立されていないことです。スターバックスのパートナーはブランド愛が強く、パッションあふれる方が多いので、その点が最大の強みだと思います。そこに加えて、ブランドマネジメントに基づいた経営視点によるプロジェクトマネジメントを少しずつ取り入れていければ、スターバックスのブランドがさらに強固なものになるのではないかと考えています。

もちろんジャンルが違いますから、単純に当てはめれば良いわけではなく、まずは効果的と思われるところから取り組んでいきます。「マジック」と「ロジック」と呼んでいて、スターバックスはマジックは強いので、そこを最大に活かしながらロジックを少し強化していきたいと意識している状態です。

――逆に言うと、ロジックが弱めなのに、ここまで成長しているのがすごいです。

それがブランドの強さです。どういうお店を作っていくのか、お客さまにどのような価値を提供するのかというブランドとしてのこだわり、信念がとても強くて、圧倒的です。創業者の想いが受け継がれていますし、お客さまの顔が直接見えていることも大きいと思います。

森井久恵さん

「スターバックスはマーケティング調査をしない」と言われる背景

――そんなスターバックスのCMOとは、どんなお仕事でしょうか。

日本ではCMOの定義自体、明確に定まっていないという認識があります。私はスターバックスのCMOとして、マーケティングやコミュニケーションなどプロモーションのプランニングを行う「マーケティング本部」と、商品開発を担当する「商品本部」、CRMやモバイルオーダーなどデジタルにおけるお客さまとの関係構築を図る「デジタル戦略本部」の3つの本部を統括しています。したがって、前職のようにFMCGのブランドがあり、そのブランドマネジメントのトップとして指揮を執るのではなく、3本部の価値を最大化して成果を上げるのが私の役割です。

――「スターバックスはマーケティング調査をあまりしない」とか、「SNSをマーケティングに活用している」と言われます。その点は実際どうでしょうか。

――そこはよく聞かれるところです(笑)。結論から言うと、必要な範囲においてマーケティングの調査はやっています。ただ、全ての面で詳細な調査が必要だとは考えていません。理由は、お客さまに直接対応しているパートナーが約3万6000人いますので、パートナーに聞けばある程度はわかりますし、実際に自分がお店に行けば、見えてくることがたくさんあるからです。ですから、客観性を担保しつつ、エモーショナルな部分、つまりお店を通してお客さまに感動をお渡しするという部分をさらに追求していくことが重要だと考えています。

――エモーショナルといっても個人差がありますし、定性的ですよね。その辺はパートナーやお客さまへのインタビューなどを行っているのでしょうか。

大きなインパクトが予測されるものに関しては定量的にも見ます。ただ、スターバックスの財産のひとつとして、社歴の長いパートナーが多数在籍していることが挙げられます。皆さん、スタバ愛が強いんですね。結果として、ブランド、お客さま、お店への理解という点で蓄積されてきたものがたくさんありますから、そこを活用できるのは大きな強みです。

――確かにそうですね。では、SNSの活用についてはいかがですか。

広報担当者
例えば、昨年(2018年)のハロウィンでは、ハロウィンに関連した2つのフラペチーノを発売するにあたり、「あなたはどっち?」とSNSで問い掛けてお客さまのワクワク感を高め、さらにお店でまたどちらかの商品を選んでいただくという参加型のキャンペーンを実施しました。そのようにお店で商品を販売する前にお客さまの期待度を高めるような仕掛けをSNSではよく行います。

画像出典:スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社

――森井さんはスターバックスのSNSについてはどのような認識をお持ちですか。

TwitterやInstagramは、マスのコミュニケーション手段として、新しいサービス商品の告知には最適ですし、大きな強みになっています。

コミュニケーションチャネルを考えた場合、スターバックスにとってはお店が一番です。店舗数は1500近くに上り、毎日80万人のお客さまがいらっしゃるわけですから、お店が一番のコミュニケーションの場であり、そこに大部分のエネルギーと投資を集中しています。SNSはその次です。お客さまが選んでフォローをするという好意を示してくれているわけですから、テレビCM等とは違って、お客さまとの信頼関係をベースに情報をお伝えできます。重複している方も含めると、SNS全てを合わせて、おそらく800万から900万人くらいのフォロワーがいると思います。マスのリーチという点では、大きな責任を感じるくらいにフォローしていただいていますので、それ以上に広告効果や効率を求める世界にはスターバックスはいないと捉えています。逆にフォロワーとの関係性を、いかにより良いものに高めていくかを重視しています。

座席予約システムを導入した「スターバックス リザーブ® ストア 銀座マロニエ通り」(画像提供:スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社)

CMOとしての意思決定の基準となる3つの軸

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記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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