[最終更新日]

2019/06/03

 

リクルート史上最強の営業ウーマン・森本千賀子さんが教える「経営者が是が非でも欲しいCMOの条件」

 

時代は令和に突入。ビジネスの世界では今、正解のない、変革の時代を生き抜くための処方箋を描ける存在として、CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー、最高マーケティング責任者)が注目されています。

企業の経営者はCMOにどのような役割を期待しているのでしょうか?また、マーケターがCMOになるためには、どのようなキャリアを積む必要があるのでしょうか?

カリスマ転職エージェントとして、リクルート時代に数々の輝かしい成績を収めた伝説のスーパーウーマン、株式会社morich代表取締役の森本千賀子さんに、Marketing Native運営者の株式会社CINC代表取締役・石松友典が話を聞きました。

(構成:Marketing Native編集部・早川 巧、人物撮影:稲垣 純也)

    

目次

企業の成長を加速するCMOという存在

石松 本日はCMOの転職事情についてお聞きしたいのですが、その前に森本さんが最近、経営者の方々とお話しされる中で、各企業の業績の好不調や採用意欲の増減などをどう感じていらっしゃいますか?

森本 採用マーケットにおいてネガティブな予兆は全く感じません。確かに金融機関にお勤めの方から、「これから先、リーマン・ショックのような大きな出来事があるかもしれない」というお話が出ることもありますが、企業の採用意欲自体は今も活発です。特にベンチャーマーケットは相変わらず争奪戦ですね。

一定の成長を達成したベンチャー企業の多くは、事業ビジョンのさらなる推進を図るため、IPO(新規株式公開)で資金調達を行い、認知度の向上に努めようとします。その2年ほど前が採用に関する1つの山で、「株式上場を手がけた経験者が欲しい」「管理体制を整備できる人はいないか?」「事業を強力に推進していける人を求めている」というご依頼が多数寄せられます。

石松 経営者の方々と話をしていて感じる悩みや課題には、どのようなことがありますか?

森本 大きく2つあります。1つは先ほどのベンチャー企業の例と同じで、創業時から順調に来ていたのに、ある程度まで達した段階で踊り場を迎えてしまった企業のケースです。トップラインをさらに上げていきたいのに、現状の人的リソースでは売り上げの伸びも従来の成長曲線の延長線上でとどまってしまいそうなので、「加速して倍にできるような人材はいないか?」というわけです。

石松 企業によって課題はさまざまだと思いますが、そういうときに、CXO(役員)のようなポジションで、特にニーズがあるのは何でしょうか?

森本 まずあるのはCFO(最高財務責任者)やCHRO(最高人事責任者)です。企業が加速度的に成長していくためには、組織力を上げなければいけません。財務・労務などの管理体制や採用面を強化して、より魅力的な会社組織にしていく必要があります。

もう1つ注目されているのがCMOです。売りを立てるという意味では、セールスに強いCOO(最高執行責任者)を採用して、その方がマーケティング担当を兼任するという形もありますが、それでは業績が踊り場を迎えた企業が、想定をはるかに上回る加速度的な成長を成し遂げるには不十分なようです。そうしたときにクローズアップされるのがマーケティングの必要性であり、CMOの存在は、成長曲線が緩やかになり始めた企業の大半に浮上するニーズと言えます。

経営者がCMOに求める役割

石松 CFOやCHRO、COOの経験者はいても、CMOを経験したことがある人はそれほど多くないのではないでしょうか?

森本 そうなんです。その上、話を聞いてみると、採用する企業側にも何をもってCMOと定義するのか統一した基準を持っているところは少なく、CMOに対する役割期待も各企業によって異なります。

石松 経営者がCMOに求めていることは何でしょうか?

森本 以前は「ブランディングをして認知度を高めること」が一般的でしたが、現在は「マーケットからビジネスモデルまで、戦い方そのものを戦略的に見直すこと」が求められています。つまり、これまでのビジネスモデルの延長線上にはない、もっと上流のマーケティング戦略を実行できることです。

石松 なるほど。ただ、そのような経験のある人はほとんど市場にいないのではないでしょうか?

森本 そうなんです。ズバリ当てはまる方を探そうとすると少ないのですが、起業経験があったり、戦略コンサルタントや経営企画で実績を上げたことがあり、現在は広報PRやブランディングなどを担当しているような、経営を俯瞰できる方がCMOにフィットすると考えています。

石松 ポテンシャルも含めた採用になっているということですね。

森本 はい。多少未知数でも、CMOとして活躍できそうなポテンシャルに期待して採用するケースはよく見られます。また、当初はデジタルマーケティングの担当で入社して、1~2年で実績を出してからCOOとして事業全体を見るような立場に就かれる方もいらっしゃいますし、マーケティングの領域にプラスして採用に携わっている方もいます。

最近の採用は複雑化が進んでいて、以前のように大手求人サイトに求人広告を出せば、新卒でも中途でも一定数の候補者が集まり、その中から選べばいいという時代ではなくなっています。その点は、それなりのブランドがある企業でも同様で、意中の人が入社してくれないことに頭を悩ませている採用担当者はたくさんいるのです。

そこでスポットが当たるのがマーケターです。求人広告の募集欄を作成する上で、事業ドメイン(領域)からどのようにターゲットを設定するのか、どんなメッセージを送ればターゲット人材の心に届くのかを考えるのは、まさにマーケターが適任だということで、採用や広報の機能が人事からマーケティングの部署に移っているケースもあります。

CMOとして成功する人の共通点

石松 実際に候補者の方とお会いする中で、マーケターとしての活躍が期待できるとお感じになるのは、どのような点ですか?

森本 マーケティングの専門性を極めていることも大事ですが、加えて経営の観点や事業目線から自分の存在価値を理解していることです。専門分野にとどまらず、経営や事業を高い視座から見られる方は、転職後の活躍が大いに期待できます。マーケターの方と話をしていて、「優秀だな」「転職しても、きっと良い成果を出されるだろうな」と感じるのは、マネタイズの核となるビジネスモデルの本質をきちんと理解している方ですね。

そういう方は、好奇心がとても旺盛で、すごくチャーミングなんですよ。決して仕事オンリーではなく、多趣味なんです。

石松 そうですよね。CMOにせよ、経営者にせよ、ユーザーの気持ちを理解できないといけないですからね。

森本 好奇心が強くて、チャレンジ精神が旺盛な方は、さまざまな機会で「とりあえずやってみよう!」というマインドセットをお持ちなので、お話ししていると楽しいんです。当然、チャンスをつかみやすいですし、経験値も自然と高くなります。

また、もう1つ優れた点として、相手に立派な肩書が付いていようと、学生であろうと、「偉い・偉くない」を判断基準にせず、対等かつ本気で向き合えるという特徴もお持ちです。たまに「10代の本当の気持ちが知りたい」という要望を受けて、大学生を引き合わせることがあるんです。そんなとき、自分のほうが人生経験では先輩なのに、相手を敬う気持ちを会話の中から強く感じます。それはやはり消費者目線を大切にしている証しだと思います。


石松
 私の周りのCMOもドローンが出たら真っ先に触っているんですよ。

森本 わかります!新しい物が出たら、すぐに試したくなるんですよね。

石松 私の知人でも、PayPayで最初にキャッシュバックを当てたのはCMOでした。

森本 そういう方のスマホを見ると、アプリがズラリと並んでいるんです。「このアプリが良い」と聞いたら、自分で試してみずにはいられないんですね。おっしゃる通り、消費者目線を誰よりも強く持たれているのを感じます。

CMOを目指すマーケターが経験しておきたいこと

石松 では、なぜ今、多くの経営者がCMOを求めているのでしょうか?

森本 それは、不確実性の高い時代になり、ビジネスにおける正解のソリューションが読みづらくなっていることが背景にあるからだと言われています。だから経営者は自分の判断が正しいかどうか迷うときに、壁打ちになる存在が欲しいんです。「CMOのようにマーケティングの理論と経験に裏打ちされた人の意見や視点、見えている景色を共有したい」と経営者の方はよくおっしゃいますね。

また、顕在ニーズとして明確にCMOを求めている企業以外でも、「マーケティングに強く、経営視点でビジネスを捉えられる人がいます」と話すと、経営者は皆さん「ぜひ会いたい」とおっしゃいます。だから潜在ニーズは非常に大きいと思います。

石松 企業の側ではなく、CMOを目指して転職を考えているマーケター向けに何かアドバイスはございますか?

森本 皆さんどうしてもB to Cのマーケティングに偏る傾向がありますね。B to Cは消費者の手応えがわかりやすく、面白いのが魅力なんでしょう。確かにそれも1つのキャリアではありますが、今はB to Bのマーケターが不足していて、ニーズとして顕在化しています。ですから、B to Bの分野で活躍して経験と実績を積んでいただくと、個人としての市場価値がすごく高まると思います。B to Cで活躍するマーケターはそれなりにいますから、B to Bの世界に挑戦してキャリアを構築するのは効果的だと思います。

石松 確かにそうですよね。

森本 あとは、ビジネスを俯瞰して全方位から見ることが大事なので、新卒で入社してからずっとマーケティング一筋で来ましたという方は、少しキャリアチェンジしてみると良いかもしれません。挑戦できるのであれば、コーポレート側の管理部門で人事を担当したり、あるいは経営企画や事業開発、営業企画などの経験を積んだりすると、マーケティングの専門性に掛け算のキャリアが付いて、採用マーケットで有利に働くと思います。

石松 つまり、経営視点で見ることができる人ですね。

森本 経営者の方に話を伺うと、「新しい収益の柱になるような事業開発ができる人が欲しい」というニーズが多いんです。「既存事業だけでは売り上げの推移が見えているので、新しい事業の柱をもっと作りたい」「そのために外部の方を新たにお迎えしたい」というわけです。

「では、どういう方が良いですか?」と聞くと、マーケティングのスキルに加えて、「新規事業の開発を経験していて、なおかつ実績を残されている方」で「違う業界の方」というキーワードが出てきます。

同じ業界の方は、どうしても先入観や勝ちパターンがご自身の中にできてしまっているので、新しい発想が生まれにくいという懸念があるようです。逆に、異なる業界にいて、マーケティングのスキルをお持ちの方に対しては、「自分たちにはない斬新な着眼点と発想で、どこに新規事業の種があるかわからない、ゼロの状態から新たな鉱脈を見つけてくれるのではないか」という期待を持ちやすいようです。

もっとも、事業開発という点では、ゼロ-イチが得意な方と、1を10、100にしていくのが得意な方がいて、両方お持ちという方は非常に珍しいんです。ですから、経営者の方がどちらを求められているのかをよくヒアリングした上で、ふさわしい方をご紹介するようにしています。

成長カーブを高めるために必要な「変化する勇気」

編集部 逆に「転職しても伸びない」のは、どのようなタイプですか?

森本 この仕事をする上で、私にはポリシーというか、大事にしている考え方があります。それは、人は基本的に「より良くしたい」「より成長したい」という欲求を持っているということです。それを「潜勢力」と言います。

石松 潜勢力ですか?

森本 そうです。これはもともと誰もが持っている力なのですが、成長過程でさまざまな教育や影響を受け、人生経験を積む過程で次第に閉じ込められてしまうんです。その結果、不安を感じたり、やる気をなくしたりしてしまうんですね。だから仕事で十分な成果を上げられず、やる気をなくしている人は、もともと備わっていた潜勢力を開花できる場所選びを間違えているだけだと考えています。

石松 なるほど。

森本 どんな人でも持っているんです。その方に合った場所、人、目的、テーマさえ見つかれば、どんな人でも力を発揮していただけるはずなんです。それが大前提としてあります。

ただ、そうは言っても、やはり「転職にはちょっと向いていないかな」と思いたくなるタイプはいます(笑)。それは、いろいろと言い訳をして「とりあえずやってみよう」という気持ちに素直になれない人です。非常に慎重かつコンサバティブで、変化に対する恐怖心や不安をなかなか克服できない、もしくは克服しようとしない人です。

転職というのは、仮に知人が大勢いる会社に移った場合でも、環境自体は変わるものです。ですから、変化に対してよほど大きな躊躇や抵抗のある方は、もしかしたら今の場所にいたほうがハッピーなのかなと思うことはあります。

それでも私は、「より良くしたい」「より成長したい」という力自体は皆さんが持っているはずなので、勇気を持って行動を起こしたとき、「変わって良かったな」と思っていただけると信じています。

石松 素晴らしいですね。

森本 自ら変化することで、自分の成長カーブをより高められると思うんです。「非連続キャリア理論」といって、毎日同じことを繰り返していると成長カーブは鈍化していきます。それを防ぐためには何が必要かと言うと、場所を変えることです。だからジョブローテーションは本人に成長を促すという観点で、理にかなっていると言えます。

転職するとき、スキル以上に大切なこと

石松 さらに対象を絞ってお聞きしますが、新規事業の開発経験のある方や、経営を俯瞰できるようなキャリアチェンジをしているマーケターの中で、転職後、特に活躍が期待できるのはどのようなタイプですか?

森本 最も大切なのは、会社のビジョンや理念、カルチャーにフィットしていることです。これは絶対条件で、この点が合わなかったら、会社も本人も不幸になります。そのフィット感の上にヒューマンスキルやコンピテンシー(行動特性)があり、最後がテクニカルスキルです。私、2,000人以上、転職のお手伝いをしてきましたけど、このピラミッドに間違いはないと思います。

石松 私も採用面接をしていると、個のスキルだけを見ていて、会社のビジョンに目を背けようとする人は成長が止まると感じます。

森本 止まりますよね。たまにいるんですよ、業界も事業内容もどこでもいいです、という人(笑)。「全方位、フルオープンです」というスタンスの場合はいいですが、全く何のこだわりもないのは、さすがにどうかと思います。たとえ最初はそれほど興味がなかったとしても、入社を決意するからには、事業内容やプロダクトに愛情を持って接していただかないと、うまくいかないでしょう。

CMOは「正解のない時代」の名参謀

石松 最後にあらためてCMOの話に戻りますが、今はまだニーズがそこまで顕在化していなくても、企業にとってマーケティングやCMOの価値は高まっていくという認識で間違いないでしょうか?

森本 明らかに高まっていくと思います。なぜなら、企業の戦い方が複雑化していて、これまでの常識やセオリーが通用しない、予測のできない時代に入っているからです。そんな時代に求められるのは、マーケティングに強く、さらに経営目線をもって業務に取り組める方だと思いますし、そんな方がいれば、どの経営者もほうっておかないでしょう。

そのためには、「マーケティングに詳しいです」「デジタルマーケティングが専門です」というだけでは不十分。データをしっかりと分析しつつも、過去に捉われない、イノベーティブな感性を持ち、未来に向かってワクワクしながら仕事に向き合える、そういうマインドセットが必要です。そういう方であれば、どこに転職してもCMOとして活躍できると思います。

石松 本日はありがとうございました。

【編集部からのお知らせ】
morichではCMOを目指す方の転職・キャリア相談を受け付けています。ご興味がある方は、ぜひお問い合わせください。

Profile
森本 千賀子(もりもと・ちかこ)

株式会社morich代表取締役
93年リクルート人材センター(現リクルートキャリア)に入社。転職エージェントとして、入社1年目にして営業成績1位を獲得し、全社MVPを受賞。大手からベンチャーまで幅広い企業に対して人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ、主に経営幹部・管理職クラスでの実績多数。2012年にはNHK「プロフェッショナル  仕事の流儀」に出演。2017年に株式会社morichを設立し、代表取締役に就任。ほかにNPO理事、顧問・社外取締役を歴任。主な著書は『本気の転職パーフェクトガイド』(新星出版社)、『1000人の経営者に信頼される人の仕事の習慣』(日本実業出版社)、『のぼり詰める男 課長どまりの男』(サンマーク出版)など。

Profile
石松 友典(いしまつ・ゆうすけ)
株式会社CINC代表取締役
ベンチャー系派遣会社でキャリアをスタート。ソシエテ ジェネラル証券、JPモルガン証券などを経て、Webマーケティング事業を行う会社で経験を積んだ後、2014年に株式会社Coreを創業。2019年CINCに社名変更。「マーケティングソリューションで日本を代表する会社を創る」というビジョンを掲げ、ビッグデータとテクノロジーを武器に事業拡大中。

[記事執筆者] 早川巧
株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writerとして四半世紀以上のキャリアあり。Twitter:@hayakawaMN

 

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう