[最終更新日]

2019/12/25

 

楽天CMO河野奈保インタビュー「顧客満足度を最大化する『ポイント・ギブ・ファースト』のマーケティング戦略とは?」

1997年の創業当時、従業員数わずか6人のベンチャー企業だった楽天は、今や世界約30の国と地域でおよそ2万人が働くグローバル企業へと成長しました。

河野奈保さんは楽天に2003年に中途入社し、2013年に女性としては最年少の執行役員に就任。2017年には当時最年少で常務執行役員に昇格、現在はCMOも務めています。

河野さんは、世界中から優秀な人材が集う楽天でどのような仕事をしてきたのでしょうか。

今回は楽天の常務執行役員CMO、河野奈保さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)

    

目次

「One Rakuten」を目指し、ユーザーのクロスユースを促進

――多くの社員を擁する楽天で若くして昇進され、現在CMOを務めていらっしゃるとのこと。キャリアが注目される機会も多いと思いますので、あらためて経歴を教えてください。

CMOとしては、少し変わったキャリアを歩んでいるのではないかと思います。CMOの役職には一般的に、メーカーや広告代理店でマーケティング関連の部署を長く経験し、高い実績を残された方が就任することが多いのではないでしょうか。

私はもともとマーケティング志望で楽天に中途入社したものの、最初の2年間は営業、その後は編成部でクリエイティブのUI・UXに携わりました。その後も開発、事業戦略、マーケティングなどさまざまな部署を幅広く経験しながら、現在に至ります。そのため、マーケティングのフレームワークを基にユーザーや競合を分析して戦略を立案するというマーケターの思考ではなく、「マーケティングは経営に近い」という発想のもと、楽天の経営魂、経営の方向性を見極めながらいろいろな部署を横断的に跨いで横串を刺し、企業価値と利益の最大化に取り組んでいます。

――これだけ事業ドメインが幅広く、グループ会社もたくさんある中で、楽天CMOの仕事をひと言で表現すると何でしょうか。

「One Rakuten」の促進です。楽天には現在、70以上の事業が存在しています。ただしユーザーさんからすると、70事業あっても楽天は楽天。ユーザーさんがどこで楽天と接点を持ったとしても、楽天のブランディングや体験は1つであるべきで、それが「One Rakuten」の考え方です。

「One Rakuten」を最も象徴するのが、楽天IDと楽天スーパーポイントです。ユーザーさんがどのサービスで楽天IDを取得し、楽天スーパーポイントを獲得したとしても、それぞれの体験は楽天ならではの個性と高いクオリティで統一されるべきだと考えます。各事業にマーケティング関連の部署は存在しており、それぞれに事業促進を展開していますが、私はそれらの事業を包括的に統括し、横串を刺すことで、1つのサービスではなく、楽天としての統一された体験をユーザーさんに提供できるよう注力しています。それは例えば、UI・UXのガイドラインを作ったり、1つのサービスをご利用いただいているユーザーさんを育成して、楽天エコシステム(経済圏)内の他事業へとつなげるクロスユース促進のきっかけをつくったりすることです。

マーケティングツールの核は楽天スーパーポイント

――外部の事業が新たにグループ入りしたときに、「One Rakuten」のポリシーを共有するのは大変ではないですか。

新たにグループ入りした会社だけでなく、新入社員や中途入社の社員に対しても、同様に一定の育成コストがかかります。楽天のマーケティングには主に2つの特徴があります。1つはデータの分析結果を基に精度の高い戦略立案ができることです。楽天はすでにユーザーさんに関する大量のデータを取得しています。

もう1つは、楽天スーパーポイントです。「ポイント・ギブ・ファースト」が楽天の大きな特徴で、ユーザーさんがポイントの価値、便利さ、素晴らしさを体験し、そこから楽天のファンになっていただくステップをどのように促進していくかを考えることが楽天のマーケターの面白さだと言えます。

――楽天のマーケティングの核は「ポイント・ギブ・ファースト」。楽天スーパーポイントという強力な武器を活用して、ユーザーさんになるべく多種類のサービスを利用してもらい、楽天エコシステムの中でお得に生活できるようにクロスユースを促進する。それが楽天CMOの大きなミッションというわけですね。外部の事業が新たにグループ入りしたときは、その辺りのコミュニケーションからスタートする感じですか。

口頭で説明する機会ももちろんあります。楽天とはどういう会社なのか、「社会をエンパワーメントする」という楽天人としての誇りやカルチャーとはどのようなものか、「One Rakuten」としての意識統一のために十分な研修を行います。

もう1つの楽天スーパーポイントについては、楽天とユーザーさんを結ぶ強力なコミュニケーションの形として、これがどれほど重要な位置を占めているか、実際に業務に入らないと理解できないところも大きいと思います。ユーザーさんが求める楽天スーパーポイントのバリューは、他に類を見ないものと自負していますし、実際にポイントが貯まる還元率は高く、ポイントでどこまで生活をカバーできるかを皆さんが真剣に考えていらっしゃいます。買い物だけでなく、銀行や保険などのサービスでもポイントが貯まりますし、ドラッグストアや飲食チェーンなどのリアル店舗でも加算されたり、利用できたりします。ポイントの魅力こそが楽天の重要なアセットとして、ヘビーユーザー獲得の原動力になっており、マーケティングツールの核であるということをしっかりと説明します。

事業競合と比較して際立つ楽天の強み

――Yahoo!JAPAN(Zホールディングス)とLINEの経営統合が話題になりましたが、ほかにもAmazonやメルカリなどたくさんの事業競合が存在すると思います。そうした競合と比較したときに、楽天ならではの強みはどこにあるとお考えですか。

競合との比較というわけではありませんが、楽天の事業戦略上の強みは、Eコマースとフィンテック、スポーツ&エンターテインメントという全く異なる3つのフィールドを持っていることです。この3つを一定の規模で兼ね備えている企業はあまり見られないと思います。Eコマースは楽天市場が力強く成長していますし、フィンテックは銀行、保険、クレジットカード、電子マネー、アプリ決済などがあって、そこからさまざまなサービスが続々と誕生しています。スポーツ&エンターテインメントではプロ野球やJリーグに球団を持っています。

さらに「第4のキャリア」である楽天モバイルが本格始動していて、これがまた大きなステップアップになると思います。このように事業の幅がとても広いのが楽天の特徴で、マーケティングという観点では非常に面白い会社です。

もう1つ、会社の文化も大きく異なるのではないかと思います。楽天はデータ活用を基本としながらも、システマティックに効率性を突き詰めていくよりは、人にフォーカスをして、感情に訴えながら巻き込んでいく泥臭いマーケティングを追求しています。そこに楽天という会社の特徴があると考えています。

会社から評価されたこと

――河野さんご自身のことをお聞きします。36歳で執行役員になり、2017年には楽天史上最年少で初の女性常務執行役員に就任したとのこと。自分では会社にどういう点が評価されたとお考えですか。

ひと言で言うと、何かに固執をしていなかったことは大きいと思います。

――固執をしていなかった?何かに徹底的にこだわったという人の話はたまに聞きますが、逆ですね。

はい。どんなポジションになろうが、どのような戦略が来ようが、常に柔軟に対応し、やる以上は必死で食らいついていきました。楽天は今も成長と拡大を続けていますが、私が20代の頃は毎年のように事業が大きく拡大して、戦略もグローバルへと進化していく過渡期でした。そんな時代ですから、会社のミッションが変われば、当然自分のミッションも変える必要があります。会社の変化を理解し、柔軟に対応して、かつ高いアウトプットを出し続けてきたことが評価されたのではないかと思います。

――もともと器用なんですか。

「何が嫌いですか」と聞かれたら、「セクショナリズムが嫌いです」と答えます。楽天に入社したのも、当時はまだベンチャー企業で、「面白いこと」「人の役に立つこと」「社会に貢献できること」をある程度の自由裁量でできると感じたからです。ベンチャーは基本的に少数精鋭ですから、自分のミッションとは異なる仕事もたくさん回ってきます。私にはそれがとても心地よかった。

楽天は今も風通しの良さで知られますし、規模が大きくなって縦割りの組織になったといっても、経営層が何を考えているのかわからない会社ではありません。経営層は今も昔も、事業の方向性や社員に望むことを積極的に発信しています。私はそんな会社の成長をずっと見つめながら、視座を高く、柔軟な姿勢で仕事に取り組んできました。

三木谷社長から学んだマーケットサイズを超える発想

――視座を高く、柔軟に対応し、それぞれの仕事には深くコミットして成果を上げてきたということですね。

そうですね。もともとは「与えられた仕事に100%で返したい」「褒められたいから110%の成果を上げたい」という子供が親に褒められたくて頑張るステップと同じだった気がします。

ブレイクスルーだったと感じるきっかけはいくつかあります。モバイルの責任者をしていた20代後半の頃、こんな経験をしました。社長の三木谷にモバイル事業の5年後の売り上げ目標を提示されたのですが、計算してみると、「シェアの何%を獲得する」という話ではなく、マーケットサイズを超える100%以上の数字だったんです。「さすがにそれはないな」と思いましたが、データ重視の会社ですから、ロジカルに返せば理解してもらえるはずだと考え、これまでに習ったフレームワークを基にシミュレーションを設計して、「実はモバイル全体のマーケットサイズがこのくらいなんです」「そのうち楽天のマーケットシェアは何%。毎年何%ずつ売り上げを上げていけば、5年後にこれくらいの数字を達成できます」と三木谷に報告しました。

ところが、三木谷から返ってきたセリフは、「うん、そうだね。でもこれはどこかの資料でしょ?彼らは楽天の成長を読んでいなくて、想定通りのスピードのまま成長曲線を描くから、この数字になるんだ。楽天はマーケットを作っていく側だよね?今あるマーケットの中でシェアを取るのではなく、自分たちがマーケットを作っていくわけだから、彼らが想定している数字を超えるくらいは、頑張ればできる話だよね?」だったんです。

――しびれますね。

「なるほど」と衝撃を受けました。起業家、経営者はそんなふうに人の想像を超える発想ができないと事業を進められないし、グローバル展開もできないんだとわかり、それからは自分の可能性にキャップをはめて発想の枠を制限するのではなく、「どうすればできるのか」「ほかに方法はないか」「もっと大きくできないか」という考え方で仕事に取り組むようになりました。

――現実問題として、自分のデスクに戻ったときに「そうは言っても、この数字は無理でしょ」とは思わなかったですか。

三木谷から伝えられた目標は、現実的には難しいと感じましたが、本質はそこではありません。そのときに思ったのは、データはもちろん大事ですが、同時に過去のものだということです。裏付けを取ったり振り返ったりするときはデータを活用できますが、それは過去の履歴、成績表でしかないので、未来を描く要素としては不十分です。データを活用しながらも惑わされず、自分で仮説を立てて実行し、検証、仕組み化することを繰り返さないと、新たなユーザーニーズを開拓するようなマーケティングはできないと感じました。

もっとも、現在ではAIで未来を予測できるようになってきていますので、データも積極的に活用していきたいと考えています。

――70以上の事業がある中で、ユーザーニーズはどのように捉えるんでしょうか。

「ニーズは人それぞれ違う」が答えだと思います。ただし、私の場合は心掛けているポイントがあります。それは、ユーザーアンケートを取ったり、サポートセンターのようなところにお客さまからご意見を頂いたときに、まとまったドキュメントの形ではなく、生のログを見るようにしていることです。「ユーザーの何%がこう言っています」というデータではなく、生のログ、ご意見を見ていくと、やはり数字だけでは気づかない情報が隠れていて、その背景にはストーリーがあることが皮膚感覚として伝わってきます。お客さまの声1つ1つを大切にすることが、ユーザーニーズの把握にはとても重要だと思います。

「人生って、予定通りにはいかないな」

――河野さんは「楽天で女性初の常務執行役員」など「女性」という切り口で語られることがあります。そこでもう1つお聞きしたいのは、女性のキャリアについてです。現在、産休明けだと伺ったのですが、ご自身のキャリアを振り返られてアドバイスはございますか。

今振り返って思うのは「人生って、思うようにいかないな」「予定通りなんてないんだな」ということです。20代の頃は「自分は将来結婚するだろう」「子供を持つだろう」と漠然と考えていました。独身のまま20代の終わりが近づくにつれ、将来をいろいろと案じて「仕事をどうしようかな」などと考えることも。

でも、結論はいくら考えても、良い人に出会わなければ結婚できないし、タイミングも人それぞれ。子供も縁があるかどうかはわかりません。ですから、20代の頃の自分は、答えのないことに答えを求めて一生懸命、右往左往していたんだろうなという気がします。

私は、人生で大事なのは、今この瞬間を楽しむことだと思っています。ですから、誰にもわからない未来をいたずらに不安視して本心とは異なる行動を取るよりも、仕事が楽しければ仕事を頑張ればいいし、良い人がいるなら結婚すればいい。それだけの話だと思います。

一方、30代の自分を振り返ると、確かにいろいろなことに迷うときがありました。ただ、30代後半になると肝が据わってきて、「仕事で得られる面白さは最高」と思うようになりました。その年齢になると、思った通りに物事を動かせることが増えますし、アウトプットをきちんと出せているという自信もあったので、社会に貢献できることに強いやりがいを感じていました。それが私の経験です。

そんな中、これも意図せずなのかもしれないですが、巡り合わせで結婚や出産を経験し、この1~2年で人生が大きく変わりました。変化した結果、気づく視点もたくさんありました。

――ありましたか。

はい。子供を持つと、主語が「私は」ではなく、「この子が」になります。自分の時間のほとんどを子供に費やさなければならないことに対して、「自分が主役の人生は、もうないのかな」と思う瞬間もありましたし、これからもっとあるだろうと思います。それでもやはり、それを超える喜びや楽しさがあることも同時に感じました。それは結婚と出産を経験して初めて気づいたことです。

――今は非常に幸せだ、と。

そうですね。私、わかっているようでわかっていなかったなと思うのは、結婚して家庭を築いたり、子育てをしながら仕事を続けていたりする多くの女性に楽天のサービスを使っていただきながら、自分が経験していなかったために、データの結果に共感できない部分があっただろうなということです。現実的に勤務時間は制限されますが、自分の視野は明らかに広がっていると感じますので、そういったところでカバーをして、アウトプットのクオリティを維持していきたいと考えています。

CMOの決断スピードを加速する2つの判断軸

――限られた時間内に集中するという話と関係するのかもしれませんが、河野さんはイエス・ノーの決断がすごく速いという評判を聞きました。CMOとしての判断軸はどこに置いていますか。

決断が速いのは能力ではなく、次の2つの軸を明確に理解して意識しているからです。

・会社の戦略か。
・ユーザーニーズか。

「私はこうしたい」と口では言うかもしれませんが、判断材料に私の考えは入れないようにしています。会社が何を考え、どこに向かおうとしているのか、私は経営層の声に常に耳を傾け、最新の情報に接するようにしています。ですから、私の口を介して言っていることでも、それは私の戦略ではなく、企業や事業としての戦略です。もし私が口にした判断が間違っているとしたら、会社の戦略が間違っていることになります。なぜなら私は会社の戦略に沿った決断をしているからです。さらに、もし会社の戦略が間違った方向に向かっていると感じたときは、経営層に対して「私はこう思います」ではなく、「ユーザーさんはこう感じると思います」と言います。なぜなら私がもう1つ意識して耳を傾けているのは、ユーザーさんの生の声だからです。私が数字のデータではなく、ユーザーさんの生のログをいつも見ているのは、ユーザーニーズを捉えていることが意思決定を間違えないために重要な要素になるからです。

ですから、決断のスピードが速いのは判断能力の高さではなく、その2つの軸をバックグラウンドとして明確に持っているからだと思います。

仕事がうまく回り始めた「ポジティブ・シンキング」の効果

――もう1つ評判を聞くのは、多少の無茶振りがあったときでも、「みんなで頑張ろう」という雰囲気づくりができることです。その辺、マネジメントでどのようなことを意識していますか。

トップダウンで難易度の高い指示が来たという捉え方をせずに、「お祭りが来た」と考えるようにしています。部下にも「お祭りだよ!」と言っています。例えば、チャレンジングなプロジェクトや目標をいきなり伝えられたら、「えーっ!?」「無茶振りだよ」「絶対無理」などと考えがちですが、そんなふうに嫌々やっても良い成果は上げられないものです。祭りと同じで、プロジェクトもいつかは終わりが来ます。一日の多くの時間を仕事に費やしているわけですし、「理不尽だ」と考えてストレスを溜めるだけではもったいない。祭りのようにみんなでしっかりと準備をして最高に盛り上がれば、結果はどうあれ、得られるものはとても大きいと思います。だから大きな目標が新しく来たときは「お祭りだから、みんなで頑張ろう!」と言いますね。

――ポジティブですね。昔からですか。

いえ(笑)。20代の頃はネガティブなことを考えたりもしました。でもそうすると、お酒を飲みに行っても愚痴が多くなるし、どんどん深みにはまっていくだけなんです。そんな自分が嫌になり、ポジティブ・シンキングの本をたくさん読みました。

そのときに思ったのは、ポジティブに考えるか、ネガティブ思考の泥沼にはまるか、そのスイッチの切り替えは、ほんのちょっとしたきっかけなんだということです。それに気づいてからは、誰かと話すときに「今日こんなにムカついたことがあってさぁ」「理不尽だと思わない?」という枕詞を、「今日、超面白いことがあったんだけど」というふうに変えたんです。例えば、「明日までにこれをやっといて」と指示されたら、「ねぇ、ちょっとムカつかない?明日までにやっといてって、あと24時間しかないんだよ?」と言うのではなく、「あの人、超面白いんだけど(笑)。普通2日はかかるのに、1日でやれって、あっさり言っちゃうんだよ」「めっちゃ面白くない?」「そこまで言われたら、やってやろうって思うよね?」「もうやっちゃおうよ」という感じです。

――思いっきり振り切りましたね(笑)

指示が発せられた瞬間から、指示を出した人の仕事ではなく私の仕事になりますから、しっかりと成果を出して、きちんと終わらせるために一生懸命頑張りたいんです。そういうふうに思考のスイッチを変えたら、やはり全てが良い方向に動き出しました。指示を出した相手に対してストレスを感じるよりも、指示を受けた後の自分と勝負をして、どう相手に返すかということに時間を使ったほうがずっと楽しいものです。ですから、部下に対してもそういう思考で指示を出しています。みんな「またですかー(笑)」と言いながらも、解決策を一生懸命考えてくれます。そんなふうに物事にポジティブに取り組む思考を持った人が1人でも増えるようなチームビルディングを心掛けています。

目の前にある全ての仕事がCMOへ通じる道

――最後に、20代、30代のマーケターに向けてCMOを目指すためのアドバイスをお願いします。

CMOとは先ほどもお伝えしたように、「企業の戦略」と「ユーザーの声」、この2つに尽きると考えています。20代、30代のうちはあまり興味のないプロジェクトを担当したり、意図しないポジションに就いたりすることも出てくるでしょう。私も営業や開発などさまざまな部署を経験しました。

しかし、商品やサービスを作れば、そこには必ずユーザーさんがいますし、ビジネスである以上、いろいろな意味でマーケティングが必要になります。ほぼ全ての業務がマーケティングと関係していると考えていいと思います。ですから、目の前の仕事1つ1つを楽しみ、徹底してやり遂げることが大事です。それがマーケターとしての成長を促し、CMOへと通じる道となるでしょう。

もう1つ、意識してほしいことを挙げると、マーケティングとは企業戦略の一環であり、経営に近いので、経営者の考えを理解しないと間違えるおそれがあるということです。データを見るのと同じくらい、経営者が何を考えていて、どこに向かおうとしているのかを聞く時間を作ったほうがいいと思います。経営者がよく発信する人なら、そのアウトプットを聞くべきですし、あまり発信しない人の場合は、何を考えているのかを自分から聞きに行かないとマーケティングがずれてしまうので、注意してください。

――河野さんは「この部署では全然ダメだった」という経験はないんですか。

失敗談ならありますよ。駆け出しの営業担当時代、アイスブレイクの引き出しが少なくて、天気の話をすることが多かったんです。ある日、傘の店舗さまなのに「今日は良い天気ですね」と切り出したら、「天気が良いと商売上がったりで、傘が売れないんですよ」と返され、なるほどと思いました(笑)。そんなふうに人と会話をすることで、相手の立場で考えることを学びます。それがマーケティングにおいてはユーザーニーズを捉えることにつながります。だからこそ1つ1つの経験を大切にしてほしいと思います。

――本日はありがとうございました。

Profile
河野 奈保(こうの・なほ)
1976年生まれ。ネット証券会社などを経て2003年楽天入社。楽天市場事業で営業、マーケティングなどを担当。05年からモバイル事業の責任者。12年編成部副部長。13年執行役員に就任し、女性としては最年少の役員に。17年常務執行役員就任、楽天史上最年少、かつ女性初の常務として話題となる。現在は常務執行役員CMOとして活躍中。

[記事執筆者] 早川巧
株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writerとして四半世紀以上のキャリアあり。Twitter:@hayakawaMN

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう