マーケティングミックスとは、企業がマーケティングに用いる施策の組み合わせをいいます。マーケティングの戦略プロセスにおいては下流工程にあたり、環境分析を基に策定した基本戦略から製品や価格、流通チャネルなどを具体的に設定していきます。
マーケティング従事者なら「マーケティングミックス」という言葉をよく耳にすると思いますが、具体的にどんな意味なのか、自社のマーケティング施策としてどう活用できるのか、わからない方もいるのではないでしょうか。
この記事では、マーケティングミックスの基本や注意点についてご紹介します。
目次
マーケティングミックスとは?
マーケティング戦略において、施策を具体化し実行に移すための重要工程であるマーケティングミックス。ここでは、マーケティングミックスの定義と重要性をご紹介します。
マーケティングミックスの定義
マーケティングミックスとは、商品やサービスの販売にあたって、目的を達成するために用いるマーケティング施策の組み合わせを意味します。代表例である「4P」と呼ばれることもあります。
市場調査やターゲット設定を経て、基本戦略を策定した後、消費者に購買行動を起こしてもらうにはどうすればよいか、マーケティングミックスを活用して具体的なアプローチ方法を立案・策定します。
マーケティングミックスの重要性
マーケティングミックスは、マーケティング戦略の下流工程にあたり、自社が取るべき戦術を整理・具体化する手法です。VRIO分析や3C分析といった環境分析により必要な情報を収集し、セグメンテーションとターゲティング、ポジショニングを明確にして戦略を策定した後、商品、価格、流通、プロモーションなどのマーケティングミックスを基に具体的な戦術を立案していきます。
モノやサービスがあふれる現代において、他社に埋もれず消費者から選ばれる商品を提供することは容易ではありません。市場調査やターゲット設定・分析などで得た結果から自社の商品・サービスをどう打ち出していくか、マーケティングミックスの策定は、施策を実行に移すうえで欠かせない重要な工程です。
また、アメリカの経営学者であるフィリップ・コトラー氏は、マーケティング戦略の立案から実行までのプロセスを以下のようにまとめています。
- Research(調査)
- STP(セグメンテーション/ターゲティング/ポジショニング)
- Marketing Mix(マーケティングミックス)
- Implementation(実行)
- Control(管理)
「Research」と「STP」は戦略を立てるためのプロセス、「Marketing Mix」は戦術を実行するためのプロセスといえます。
マーケティングミックスの代表例4Pと4C
マーケティングミックスに取り組むうえでは、売り手側・買い手側それぞれの視点からマーケティング戦略を練るフレームワークが欠かせません。ここでは、マーケティングミックスの代表的なフレームワークである「4P」「4C」をご紹介します。
基本の4P
マーケティングにおける「4P」とは、Pから始まる以下4つの単語の頭文字を表すフレームワークです。
- Product(製品やサービス)
- Promotion(販促)
- Place(流通)
- Price(価格)
4Pを提唱したのは、アメリカの経済学者であるエドモンド・ジェローム・マッカーシー氏です。1960年に著書『ベーシック・マーケティング』で提唱した概念が、マーケティングミックスの代表例として浸透しました。
4Pは、商品・サービスを販売する「売り手」の視点です。顧客のニーズを満たす製品開発(Product)や製品の価値を伝える販促活動(Promotion)、効果的な流通チャネルの選択(Place)、適切な価格設定(Price)の組み合わせで相乗効果を生み出し、マーケティング戦略の効果を最大化する目的があります。
4Pを再定義した4C
マーケティングにおける「4C」とは、Cから始まる以下4つの単語の頭文字を表したフレームワークです。
- Customer Solution(顧客の課題解決)もしくはCustomer Value(顧客価値)
- Communication(顧客とのコミュニケーション)
- Convenience(利便性)
- Customer Cost(顧客が払う費用)
4Cは、1993年にアメリカの経済学者であるロバート・ロータボーン氏が提唱した、基本の4Pをマーケットインの考え方で再定義した概念です。商品・サービスを購入する「買い手」側、つまり顧客視点を重視したマーケティングのフレームワークとして活用されています。
企業視点の4P、顧客視点の4Cについては以下の記事でも詳しく解説しています。本記事とあわせて参考にしてください。
関連記事:4Pとは?マーケティングミックスの基本的な考え方とポイント
マーケティングミックスの構成要素
マーケティングにおいては、4Pや4Cのように複数の要素を組み合わせることで相乗効果を生み、成果最大化への貢献に役立ちます。ここではマーケティングミックスの構成要素について、代表例である4Pを用いて解説します。
Product(製品やサービス)
Product(プロダクト:製品やサービス)は、4Pの中でも特に重要な要素です。価格や流通、販促方法は「製品・サービス」を軸に決めていくため、プロダクトの部分が明確化しないままでは4Pは機能せず、マーケティングは成立しません。マーケティングの効果を最大化させるためには、マーケターが自ら製品戦略に加わり、マーケティング視点での提案をすることが求められます。
製品戦略においては、何を売ることでどのような価値をお客様にもたらすのかという観点でコンセプトを設計し、それをもとに生産方法や品質、ブランド名、パッケージ、アフターサービスなどを練り上げていきます。品質の高さはもちろんですが、製品のパッケージ(包装・外装)も、消費者の購買意思決定に影響を及ぼすとともに、他社製品との差別化にもつながりやすい要素として重要視されています。
Promotion(販促)
Promotion(プロモーション:販促)は、製品やサービスの価値をお客様に伝える方法を考える要素です。お客様に自社製品を認知してもらい、興味を持ってもらうためには、製品・サービスに関する情報や強みを発信する販促活動が欠かせません。
一般的なプロモーション方法としては、テレビCMや新聞・雑誌などのマス広告、キャンペーンやイベント、パブリシティ、Webメディアのコンテンツマーケティング、インターネット広告、SNS運用などが挙げられます。マーケティング戦略に欠かせない市場・ターゲット・地位を表す「STP」を分析し、想定顧客層に効果的にアプローチできる販促戦略を考えることが重要です。
Place(流通)
Place(プレイス:流通)は、お客様に効率的・効果的に販売できる流通経路を考える要素です。顧客への直接販売か代理店を通した間接販売か、店舗での販売かECサイト経由での販売かなど、販売経路やチャネルを十分に検討しましょう。チャネル戦略(流通戦略)を立てるうえでは、製品・サービスの特徴を踏まえるのはもちろん、ターゲット顧客が購入しやすい方法を検討することが大切です。
Price(価格)
Price(プライス:価格)を設定する際は、お客様に価値を提供する代わりにいただく対価として、その価値に見合った価格にすることが大切です。価格設定においては製造コストを基準とするのが基本的な考え方ですが、競合製品の価格との比較やターゲット顧客の知覚価値(顧客が認識している価値)をもとに決める方法もあります。
価格の高低は自社の強みや選んだ戦略によって異なるもので、ブランディングによっては高価格であることが顧客に「高級感」「高品質」といった価値を提供していることもあります。マーケティングミックスの前段階にある「STP(セグメンテーション/ターゲティング/ポジショニング)」をもとに、ターゲット顧客に合わせた適切な価格戦略を立てることがポイントです。
価格戦略が経営にもたらす影響については以下の記事でも詳しく解説しています。本記事とあわせて参考にしてください。
関連記事:プライシング(価格戦略)がもたらす強烈な利益インパクトとは?
マーケティングミックス(4P)の活用事例
製品開発からプロモーションまで戦略立案に重要な役割を果たすマーケティングミックス(4P)。ここでは、株式会社スナックミーが提供するおやつのサブスクリプションサービス「snaq.me」を例に、マーケティングミックスの具体的な活用事例をご紹介します。
「snaq.me」のProduct(製品やサービス)
100種類以上の中からセレクトされた8つのおやつが自宅や仕事場のポストに届くサブスクリプションサービス。おやつには人工甘味料や着色料が使われておらず、素材の良さを追求する姿勢が顕著です。包材は環境負荷の少ない素材を積極的に使っています。
お菓子という「モノ」を届けるのではなく、おやつ時間を楽しむための「おやつ体験」を届けることに価値を置いているのが強みです。「箱を開けてみるまでどんなお菓子が届くかわからない」というワクワク感を演出するほか、毎月デザインが変わるボックスや冊子など、お菓子の枠を超えてユーザーが楽しめる仕掛けを盛り込んでいます。
「snaq.me」のPromotion(販促)
「snaq.me」はマス向けのサービスではないため、無理に顧客を増やすよりも顧客体験のさらなる向上を目指すプロモーションに注力しています。廃棄する野菜や果物でおやつを作る「アップサイクルおやつプロジェクト」では、全国の生産者とつながりを持ち、おやつにさらなる付加価値を提供。また、熱量の高いユーザーを招待するイベントを定期的に企画し、透明性の高いオープンな交流を積極的に行っています。
新規獲得においてはデジタル広告を中心に出稿し、2020年3月ごろからLINE広告の本格運用を開始しています。配信開始から半年でCV数は8.4倍に増加、1年で新規獲得の30%がLINE広告経由となりました。
「snaq.me」のPlace(流通)
オンライン注文によるサブスクリプションサービスが中心です。自宅や仕事場のポストに直接届けられ、置き配などの指定も可能。配送業者・配達方法の変更や指定は原則として受け付けていません。
流通はオンラインがメインでしたが、2021年から大都市を中心にポップアップブースにて販売を行っています。2022年4月には「ファミマ!!」一部店舗にて販売開始。また、スナックミー初となる常設のリアル店舗「snaq.me 清澄白河」もオープンするなど、近年はオンライン以外のチャネルも拡大しています。
「snaq.me」のPrice(価格)
定期的に自宅まで届くサブスクリプションサービスで、おやつ定期便1BOX(おやつ8個入り)の価格は1,880円(別途送料330円)。
お届け頻度は2週に1回、もしくは4週に1回のどちらかを選択可能です。定期購入のため1箱のみの購入はできませんが、初回のボックスが届いた後であればマイページからいつでもストップできます。
2022年4月よりオフィスやホテルなどに設置された「ファミマ!!」一部店舗では、人気おやつ10種を全商品249円(税込)で1袋から購入可能な形で提供しています。
マーケティングミックスを考える際の注意点
マーケティングミックスにおいては、前段階のSTP分析を基準としてプロダクトや販促、流通、価格を考えていくことが大切です。ここでは、マーケティングミックスを考える際に注意したいポイントをご紹介します。
STPや強みとの整合性が取れるか?
マーケティングミックスをうまく活用するには、STP分析により定めた戦略とマーケティングミックスとの「整合性」がポイントとなります。STPとは、セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングの3つの要素の頭文字を取ったもので、マーケティングミックスの前段階に行う戦略立案プロセスです。
【STPの要素・内容】
S(セグメンテーション):市場の細分化
T(ターゲティング):ターゲット層の選定
P(ポジショニング):製品・サービスの位置付け、競合他社との差別化
【STPとマーケティングミックスにズレが生じている例】
- 高級志向のターゲット層なのに、価格が低く設定されている
- ターゲット層がよく利用する購入手段の中に販売チャネルが含まれていない
- 想定顧客層があまり利用しない媒体に製品の情報や強みを流している
加えて、製品やサービスの強みとの一貫性も重要です。製品・サービス自体の価値が高くても、その強みを活かした4P戦略がとれていなければ、ターゲット層にうまく訴求できません。
このように、STP分析や製品・サービスの強みとマーケティングミックスがズレていると、顧客に製品・サービスの価値を提供することが難しくなります。マーケティングミックスでは、STPや強みと整合性が取れているか確認しながら策定することが大切です。
STPの考え方のポイントについては以下の記事でも詳しく解説しています。本記事とあわせて参考にしてください。
関連記事:セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングの実践的な考え方とチェックポイント
4つの要素同士で一貫性があるか?
マーケティングミックスを考える際は、STPとの整合性だけでなく、4P・4Cそれぞれの要素同士の一貫性も重要となります。4つの要素のいずれかに矛盾やアンバランスさがあれば修正しなければなりませんが、1つの要素を修正した場合はほかの要素も見直しを行い、要素同士の一貫性を保つ必要があります。逆に4P・4Cの構成要素が一貫性を保つとともに、バランスが取れていれば相乗効果が生まれやすく、マーケティングの実行戦略として大きな成果が期待できるでしょう。
なお、4Pの各項目の考え方については、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:戦略を実現する4Pの考え方|価値を提供し、強みを実現するためのチェックポイントとは?
戦略立案を具現化するマーケティングミックス
マーケティングミックスとは、4Pや4Cなどマーケティング戦略を立案するために必要なマーケティング要素の組み合わせです。マーケティングミックスの効果を最大化するには、環境分析やSTP分析のほか、製品・サービスの強みとの整合性が取れていること、4P・4Cの要素同士で一貫性のあることが重要です。マーケティングミックスをうまく活用し、成果最大化へつなげましょう。
以下の記事でもマーケターが押さえておきたいマーケティングの基礎知識をご紹介しています。本記事とあわせて参考にしてみてください。