インタビュー
2021.01.21

テレビ朝日人気プロデューサー・芦田太郎が語る「『あざとくて何が悪いの?』が国境を越えて愛される理由と新規視聴者獲得への取り組み」

Special Interview #10

テレビ朝日 プロデューサー

芦田 太郎

山里亮太さん、田中みな実さん、弘中綾香さんの3人が「あざとさ」をテーマに語り合う『あざとくて何が悪いの?』(テレビ朝日系列・土曜21時55分~ ※一部地域を除く)が人気です。

現在、中国や韓国などアジア14の国と地域でも配信されているそうで、これはバラエティ番組としては他局を含めても初めてとのこと。しかも、いずれも高い評価を獲得しているといいます。

「あざとい」という言葉はこれまで、「こずるい」「抜け目ない」などネガティブな意味合いで使われる印象が強かったと思います。では、『あざとくて何が悪いの?』と開き直ったようなタイトルの番組が、なぜ国境を越えて注目されているのでしょうか。

今回は番組プロデューサーを務めるテレビ朝日の芦田太郎さんを取材しました。前後編の2回に分けてお届けします。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、人物撮影:永山 昌克)

目次

番組タイトルは、1行で内容を伝えられるわかりやすさとインパクト重視

――番組がかなり話題ですね。最初からヒットの予感はありましたか。

田中みな実さんと弘中綾香アナの組み合わせはそれなりのインパクトがあるだろうと思っていましたが、ここまでの反響を頂くのは想定外です。

――ORICON NEWSの「好きな女性アナウンサーランキング」(2020年)で1位が弘中アナ、2位が田中みな実さんと強力な組み合わせですが、個性の強そうな2人だけにいつ衝突するかとヒヤヒヤする緊張感があります。その点で心配はなかったですか。

むしろその緊張感が狙いでした。ヒリヒリする空気を視聴者に伝えたくて、事前の顔合わせもさせずに最初の収録に臨んでもらったくらいです。ところが、田中みな実さんが弘中アナを思った以上にかわいがってくれて、今では仲良くなってしまいました。同じクラスなら絶対仲良くならない組み合わせだろうと考えていたので、ちょっと意外ですね。

©テレビ朝日

――もともとこの番組の企画を立案したきっかけは何ですか。

初めから田中みな実さんありきで発想しました。彼女のことをずっと面白いと思って見てきて、自分ならもっと魅力を引き出せる番組を作れると考えたのがきっかけです。

彼女が写真集を出す以前の話ですが、女性誌での存在感が少しずつ強くなっていた時期に、「男性にモテるためにどんな工夫をしているか」と手の内を明かし始めたフェーズがありました。そんなふうに美容を語るだけでなく、モテの手法まで解説して女性人気を獲得している人はほかにあまりいなかったので、次第に興味を惹かれるようになり、彼女しか持っていない独特のフィールドを企画に落とし込んだら何が生まれるだろうかと考えた結果、「あざとい」という言葉が出てきたのです。

「あざとさ」はネガティブなワードとして使われがちですが、田中みな実さんならタイトル通り「人に好かれたいとか、男性によく思われたいと考える言動を突き詰めて何がいけないんでしたっけ?」「相手がハッピーになるなら別にいいじゃん」と受け止めていただける人もたくさんいらっしゃるのではないかと考えた点が番組のベースになっています。

その上で、マンパワーのかけ算が最大化できる組み合わせを考えたときに、弘中アナという選択はテレビ朝日にしかできないキャスティングですし、彼女のことを会社の後輩として新人の頃から見ていて、ポテンシャルとコミュニケーション能力の高さを評価していましたので、田中みな実さんの相手に配置しました。ただ、女子会トークになると男性に見てもらいにくくなりますし、バラエティとしてうまく消化しきれないと思い、『テラスハウス』で女性の言動を斜めに分析する優れた力を見せていた山里亮太さんをキャスティングさせていただきました。

――先輩から見て、弘中アナはどういう人物ですか。

世間のイメージと変わらないですよ。芯があって、やりたくないことはやりたくないときちんと言えるので、個が立つし、彼女でなければいけない理由がある人ですね。番組の進行はもちろん、言葉のチョイスや語彙力に唯一無二的なところを感じますし、生意気なところもありますけど、良い意味でそれが個性になっていて、尊敬する後輩です。

――「あざとい」はネガティブに使われがちですし、「何が悪いの?」という言葉も挑発的で冒険だなと感じました。このタイトルにする際に躊躇はなかったですか。

全くなかったですね。僕は『あいつ今何してる?』(水曜18時45分~)という番組の演出もしていますが、その番組同様、タイトルは1行で内容を伝えられるわかりやすさとインパクトの強さを大事にしています。その意味では、『あざとくて何が悪いの?』は強いワードですし、今までの価値観や概念を覆していきたいという僕らの意気込みや思想が投影されたタイトルだと思うので、しっくりくるものを付けられたと捉えています。『あざとくて何が悪い』で止めるパターンと最後に「?」を付けるかどうかで少し迷いましたが、他に候補はなかったですね。

ニッチな具体性のあるリアリティが共感のポイント

――「あざとさ」は諸刃の剣だと思います。人をイライラさせるあざとさと、笑えるあざとさのギリギリのラインをどのように見極めていますか。

多義的な見方を提示して、みんなで語り合えるような番組にしたいので、「こういう人、いるわ」という“あるある”や、「かわいい」というシンプルな感情のほか、腹を立てて見ている人がいてもいいと思っています。逆に、わかりやすい勧善懲悪型にすると人気番組の二番煎じになってしまうので、視聴者をイライラさせたくないと怯えて縮こまるのではなく、今までにない番組にしたいという心づもりを大切にしています。

――番組が人気になった理由は、イラつかせるのではなく、笑えるあざとさが視聴者のツボを突いたからですよね。そのポイントはどこにありますか。

今のところは、「ニッチな具体性のあるリアリティ」にあると考えています。例えば、松本まりかさんが出演した再現ドラマに、「サウナに入りながらラジオを聴くのが好き」というくだりがあるのですが、普通のドラマのようにわかりやすくセクシーな展開へ行くのではなく、好きなラジオを聞かれて「『三四郎のオールナイトニッポン』が好き」と具体的に答えるのがポイントです。そこで「おぎやはぎや霜降り明星のラジオではなく、なぜ三四郎?」「王道のお笑い好きではなく、ちょっと変わったセンスを持った子だな」と相手に興味を持たせるのが大事で、これがテクニックとしてのあざとさですね。普通のドラマなら「ラジオが好き」止まりで、「『三四郎のオールナイトニッポン』が好き」というセリフまでは書かないと思います。

ほかには、これもオンエアしましたけど、「King Gnu(キングヌー)を売れる前から知っている」というセリフ。そうすると、相手によっては「え、King Gnuを売れる前から知っているの?」「どこで知ったの?」と食いついてきて、次の質問につながります。

そういうニッチな具体性のあるリアリティが、あざとく人を魅了する秘訣の1つだと視聴者が感じて、番組の人気につながっているのではないかと思います。だから、人を喜ばせたい、楽しませたいというよりも、普通は描かない細部をいかに取りこぼさずにリアルに描いていくかを重視しています。

――細部を取りこぼさずにリアルに描くために、どんな工夫をしていますか。

大事なのはリサーチですね。新型コロナウイルス感染症の拡大後はZoomを使って、最初は友人、そこから友人の友人と広げて、最終的にはほぼ面識のない女性と合計100人くらい話しました。

初めは知り合いに「お酒を飲みながらでもいいから、友達を呼んで話を聞かせてくれない?」と頼んで、「飲み会でこんな人がいた」というフリートークから始めます。さらに「~なシチュエーションだったらどうする?」「LINEの場合は?」「相手を少しでも好きだったら?」と細かく状況や条件を掘り下げて質問していきます。そうした座談会をADが記録を取っているので、印象に残ったエピソードやワードを「ネタリスト」にストックしていく作業をひたすらやっています。

――今もですか?

頻度は落ちましたけど、今もやっています。ありがたいことに、最近では番組にたくさん投稿を頂けるようになりました。ただ、本当はやはり現場というか、実際にお会いして情報収集したほうがよりリアルな情報を集められると思います。とはいえ、今は状況的に飲み会に行けませんし、僕ももう35歳ですから、若いADや脚本家さん、作家さんに積極的に話を聞くようにしています。中でも、男性のあざといネタについては全く筆が進まないので、女性ディレクターに全部任せています。

新規の視聴者獲得へ向けたカテゴリの拡充

――私が子供の頃に「ぶりっ子」という言葉が流行ったのですが、それとはまた違うのですか。

広義に捉えると同じかもしれないですが、僕らが立てたあざとさの定義には2つあります。1つは「自己ブランディング」です。自分の個性を自分なりに客観視して、いかに外部発信できるかが大事な要素で、『三四郎のオールナイトニッポン』と言えば男性が反応してくれるかもしれないという打算だって素晴らしいあざとさだと思います。ただ趣味を発表するだけの話ですが、「私はラジオを聴く人です」「『三四郎のオールナイトニッポン』が好きです」という情報発信も立派な自己ブランディングだと捉えています。

もう1つの定義が「処世術」、対人コミュニケーションです。恋愛も対人コミュニケーションですし、職場における上司・同僚・部下と上手な関係を築くのも処世術の一種です。フワちゃんをゲストにした回では、怖い女性上司との上手な接し方を描きましたが、上司に気に入られるための戦略的なコミュニケーションも、あざとさと捉えることができます。

ですから、僕なりの解釈としては「ぶりっ子」は少し浅いテクニック、あざとさは自己ブランディングと処世術だと考えています。

――そのフワちゃんの回は「職場での上手な怒られ方」を描いていて、それまでの恋愛ネタとは打って変わった新機軸でした。反応はいかがですか。

賛否両論でしたね。「恋愛ネタがもうなくなったのか」「こういうことじゃないんだよな」みたいな声がある一方で、「普通に役に立つ」という賛も結構ありました。

僕自身はネタがなくなったという意味ではなく、いろんなカテゴリの話題を広げていくためのトライだと考えています。というのも、「恋愛」カテゴリに全く興味がない人も一定数いるからです。実は僕自身もそうでした。しかも、スタジオにいるのは恋愛で勝ってきたように見えるMC陣。だから番組を「勝ち組の宴」のように感じる人も少なからずいると思って番組を作っています。その客観的でドライな視点がないと、コアな番組ファン層だけの番組になって新規の視聴者が入ってきづらくなるからです。だから、早い段階で「勝ち組の宴ではなく、仕事や社会生活にも役立つあざとさがある」と提示したいと考えていました。

番組というのは、いつかは終わるものです。だからこそ延命のためにいろんな路線、可能性があることを自分の中で見つけておきたいし、スタジオや視聴者のリアクションも見てみたい。そう考えていたときに、ちょうどフワちゃんがゲストに来ることになりました。彼女はブランディングとして恋愛トークはしていないので、どうしようかと思っていたところ、打ち合わせの中で「芦田さん、私、処世術ノートは取っているよ」と言い出したのです。見せてもらったら、ビジネススキルのあざとさとして面白かったので、番組にしたところ、それまで見つけられていなかった新機軸となりました。だからフワちゃんには感謝していますし、僕の思考回路のギアをもう1段上げることができたと感じます。

アジア諸国の視聴者に共感される「あざとさ」の共通点

――アジア展開についてお聞きします。バラエティ番組がアジア14の国と地域で配信されるのは他局も含めて初めてとのこと。すごいというか、失礼ながら「なぜこの番組が!?」と意外な印象もあります。これについてはどのように捉えていますか。

自分自身もびっくりしています。『三四郎のオールナイトニッポン』なんてドメスティックなネタの中でもニッチな線を狙っている番組が、まさか海外からオファーを受けて配信できるようになるとは思いもしませんでした。だから、なぜアジアでウケているのかを検証しているところです。

――検証というのは?

視聴者の行動観察です。リモートで海外の方とつないで、番組を見てもらっているところを定点で撮影し、どこで笑ったり面白がったりしているかを検証ロケしようと考えています。

中国のbilibili(ビリビリ)というサイトの方と一度、オンラインで話を聞いたところ、やはり「あるある」らしいです。

中国/bilibili
「有点心机 又如何?」(日本語訳:ちょこっと思惑、それが何か?)

――中国でも同様に「あざとい」と感じられているんですね。

「こういう人、いるわあ」と思って見ているらしいです。ほかには、日本のかわいい女の子たちが男性にモテるためにどういう努力をしているのか、これまであまり知る術がなかったけど、この番組を見ていたらその一端がわかった、と。ファッションなどを含めて情報としての価値が高いとおっしゃっていました。ちなみにbilibili視聴者の評価は10点満点で9.5点を獲得しています(2020年11月3日現在)。

韓国、中国などアジアの国々の中には日本に対するあこがれの気持ちを持っていただけている方も一定数いらっしゃるようで、「女性の努力+カルチャー」のような情報は国境を越えて拡散するのだなと感じています。

――出演者の3人が向こうの空港で降りたら、やはりウチワを持った人たちに歓迎されるのでしょうか。

それはどうかわからないですけど、弘中アナの友達の彼氏が韓国の方で、その人から「韓国で今、人気だよ」と言われたらしいです(笑)。ほかにも山里さんの奥様が台湾で人気で、山里さんはその女優さんの夫としてかなり知られているらしいです。だからもしかすると、さらなる展開があるかもしれないですね。

とはいえ、僕自身がまだ現地の温度感をつかめていないので、まずどこで皆さんが笑っているかのリサーチをしっかりした上で、いつかコロナが落ち着いたらロケに行きたいですね。例えば、その国ならではのローカルネタを使って、海外版の『あざとくて何が悪いの?』を作ったら面白いと思います。

韓国/dorama korea
「여우 같은 게 뭐가 나빠?」(日本語訳:狐っぽくて何が悪いの?)
※韓国では一般的に、あざといことを「狐みたい」と表現するとのこと。

東南アジア/WAKUWAKUJAPAN
What’s Wrong with Being Wily?(日本語訳:ずるがしこくて何が悪いの?)

後編はこちら。芦田さん自身が部下から“あざとい”アピールをされたときの反応や、田中みな実さんのプロとしてのあざとさについて語ります。

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Profile
芦田 太郎(あしだ・たろう)
テレビ朝日プロデューサー。
1985年東京都生まれ。早稲田大学卒業。2008年テレビ朝日入社。以来、『雑学王』『爆笑問題の検索ちゃん』『ナニコレ珍百景』『関ジャニの仕分け∞』『関ジャム 完全燃SHOW』など主にバラエティ番組の制作を担当。現在『あいつ今何してる?』『あざとくて何が悪いの?』などの演出・プロデューサーを務める。

早川巧

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
Twitter:@hayakawaMN
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