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面白法人カヤック流「地方を盛り上げるシティプロモーション」のノウハウと、意外な成功事例

最終更新日:2022.02.10

観光客や定住人口の増加、企業誘致などを目的に地方の魅力をアピールするのが、シティプロモーションです。地方活性化のため取り組むものの、「どのようにアピールすればいいのかわからない」「成果がなかなか出ない」などと悩む自治体は少なくありません。

そんな地方自治体のシティプロモーションを支援しているのが、Web制作・企画・運営を行う面白法人カヤックと、カヤックの子会社で移住スカウトサービス「SMOUT」などを運営する株式会社カヤックLivingです。これまで埼玉県さいたま市の観光誘致プロモーション「タサいたま」、長崎県佐世保市にある九十九島の観光プロモーション「九十九島からの挑戦」などを手掛け、2018年11月には、長野県茅野市と共同で交換日記の婚活キャンペーン「結日記(ゆいにっき)」をスタート。マッチングサービスやアプリが活況の中、あえてアナログな交換日記で茅野市在住者と市外在住者をマッチングし、5組のカップルを誕生させました。

企画プロデュース・ディレクションに携わった、面白法人カヤックプロデューサーとカヤックLivingの担当者に、成功をおさめた「結日記」の事例と、地方自治体が抱える課題と提案の仕方について話を伺いました。

(取材・文・人物撮影:Marketing Native編集長・佐藤綾美)

目次

Twitter上でじわじわと拡散した「結日記」

画像提供:面白法人カヤック

「結日記」は、2018年11月より始動した長野県茅野市の婚活キャンペーンです。茅野市が企画を発案し、カヤックLivingが企画・運営に協力しています。プロフィールや希望に応じてマッチングされた茅野市在住者と市外在住者が、オリジナルの交換日記(結日記)をやり取りして交流を深めていきます。

「恋に、想像力を。」をコンセプトとする「結日記」では、実際に相手に会うまで、お互いのニックネームとプロフィールしか公開されません。日記も茅野市に郵送し、やり取りします。約3カ月にわたって日記を10回交換し、相手に会いたくなったら、茅野市の花である「りんどう」が描かれたしおりに会える日程を記して日記に挟みます。そして、茅野市の名所である御射鹿池(みしゃかいけ)で対面します。

第1回は男性68人(うち、市外在住者55人)、女性169人(うち、市外在住者162人)の応募があり、10組のうち8組が御射鹿池で対面。5組のカップルが誕生しました。2019年8月よりスタートした第2回は167名の応募があり、10月時点で15組が交換日記のやり取りを行っています。ちょうど紅葉が見ごろの時期に、御射鹿池で対面する予定です。

 

イラスト:Marketing Native編集部 画像提供:面白法人カヤック、長野県茅野市(御射鹿池)

長野県茅野市とともに、「結日記」の企画プロデュース・ディレクションに携わったのが、面白法人カヤックプロデューサーの香田遼平さんとカヤックLivingディレクターの木曽高康さんです。

――「結日記」の企画発案は茅野市からとのことですが、初めから交換日記というアイデアは決まっていたのでしょうか。

木曽さん(以下、木曽) 茅野市からシティプロモーションのご相談を受けたのが、そもそもの始まりです。茅野市を市外の人にも知ってもらうほか、婚活支援の目的もあるとのことで、具体的に企画が決まっていない段階から一緒に作っていきました。

「交換日記をやりたい」というアイデアは、茅野市の担当職員の方から頂いたものです。初めは「この時代に交換日記?」と思いましたが、逆にそのアイデアを企画として広げていこうという話になり、「結日記」が進むことになりました。そして、企画プロデュース、ディレクションとして関わったのが、面白法人カヤックの香田です。

香田さん(以下、香田) 交換日記のアイデアを聞いたときは、このデジタルの時代にアナログな案が出てきたので面白いなと思いました。ちょうどマッチングアプリが盛り上がっていたので、個人的にはそろそろ一度アナログに方向転換するような気がしていたんです。交換日記のデザインを今っぽくおしゃれにアップデートすれば面白くなるのでは、と考えました。

▲写真左:面白法人カヤックプロデューサーの香田遼平さん。右:カヤックLivingディレクターの木曽高康さん。

――「結日記」の制作にあたり、こだわった部分はどこですか?

木曽 日記の内容です。お互いのことをより深く知れるよう、かなりこだわりました。ニックネームや出身地などのプロフィールを尋ねるライトな質問から始めて、時を重ねるにつれて、『あなたの人生を「折れ線グラフ化」してみよう』「これまで見てきた相手の文字からどんな性格だと思ったかを伝えよう」といった踏み込んだ内容に触れるようになっています。

▲1日目は「ニックネームは?」「出身地は?」などのライトな質問から始まる。

画像提供:面白法人カヤック

香田 通常の交換日記は、ただ日記を書くだけです。それでは面白くないと思ったので、「結日記」の1日分の書き込むスペースは質問とその日の日記という構成になっています。

僕自身は「結日記」というプロジェクトをジェットコースターみたいなものだと考えていました。ジェットコースターが一度乗ってしまったらゴールまで勢いよく進むように、「結日記」の参加者も、始まったら「御射鹿池で会う」というゴールまで引っ張られていきます。

第1回の「結日記」では、最初のページに参加者2人が手形を押すようになっていました。参加者に少々面倒くさいことをやってもらいたかったのと、文字以外も相手のことがわかる情報の一つなので、そこからコミュニケーションを発生させるのが狙いでした。例えば相手の手形を見て、「生命線が長いですね」とコメントする…といった感じです。日記のやり取りが始まってしまえば、「手形を押す」みたいに普段はやらない無茶振りも受け入れられやすいので、ついノリで暴露してしまうようなゲーム性を盛り込みました。手形を押すのは、やはり面倒くさいということで、2回目以降はなくなったのですが(笑)

また、「結日記」には茅野市の婚活キャンペーンとしての側面もあったので、日記の中で地域の魅力が語られるようにしたのもこだわったところです。例えば、交換日記の3日目は日本地図が載っていて、参加者が行ったことのある場所や、今後行きたい場所を書き込めるようになっています。その日の日記ページには、茅野市のシンボルである土偶(※1)をさりげなくデザインしました。日記のカラーに赤を起用したのも、茅野市が「まんなかに愛のあるまち」(※2)というブランドフレーズを掲げていて、結日記が二人を結ぶ赤い糸のような存在になると思ったからです。

▲3日目の日本地図のページ。お互いが行ったことのある場所、行きたい場所に書き込んでいく。

画像提供:面白法人カヤック

茅野市以外の地方で「結日記」を実施するときも、できるだけ地域性を盛り込んだ日記帳にしたいと考えています。沖縄県だったら、最後は首里城の前で会う…といった感じです。

※1:茅野市内で出土した、「縄文のビーナス」「仮面の女神」という愛称で知られる土偶のこと。それぞれ国宝に指定されており、茅野市のシンボルとなっている。
※2:茅野をローマ字で表記すると「CHINO」となり、真ん中に「I」があることから。

――第1回は20名(10組)の募集に対し、男性68人(うち、市外在住者55人)、女性169人(うち、市外在住者162人)の応募がありました。この数字は想定の範囲内だったのでしょうか。

香田 いやいや、予想外の反響でした。日記を交換する期間が3カ月くらいありますし、マッチングアプリのような気軽さはないので、応募者は数十人程度を想定していました。

木曽 茅野市内の参加者を集めるにあたっては、地元の新聞などのメディアを利用したようです。一方、市外の参加者は、Webサイトをベースに、ソーシャルメディアも少し使った程度でした。

――予想外に反響があったということですね。

木曽 「結日記」は表面上バズっている感じがあまりなく、ずっと地道に口コミが伸びていったのが、ソーシャルメディア上の反応で面白かった点です。弊社で普段手掛けるプロモーションの多くは、ソーシャルメディア上で一気にバズる傾向にあります。

「恋に、想像力を。」というキャッチコピーにのっとり、日記の交換相手の姿がわからない、匿名性の高い企画だったので、特にTwitterとの相性が良かったのではないかと考えています。

香田 「すごくいい企画だ」「参加してみたい」といった声をたくさんいただきました。「こんな企画を待っていました!」みたいな反応はあまりなさそうだと想定していたので、世の中意外と捨てたものではないなと思いました(笑)。みんな出会いを求めていて、ニーズはあるんだな、と。

人が付き合うのに必要な情報は、本当は少ない

――実施してみて、参加者の反応はどうでしたか。

木曽 僕たちは参加者が交換日記に書いた内容を必要最低限しか見ていませんが、次第に記述量が増えて、高い熱量でやり取りが進んでいったのが面白かったです。付箋なども使いながら、相手のレスポンスに対してさらにレスポンスを重ねていくといった、紙媒体特有のやり取りが見られました。

香田 参加者の方にアンケートを実施したところ、結果的にカップルにならなかった方々も含めて満足度が100%だったんです。「わくわくした」「日記が返ってくるのが待ち遠しかった」といった感想がありました。

木曽 今の時代、ポストを期待して見る機会はあまりありません。だから、「家に帰ってポストを見るのが楽しみでした」という声をいただけたのは、意味のあることができた気がします。

▲7日目の日記ページには文字が羅列され、「最初に見つけた3つのことばを丸で囲もう」と書かれている。「『つきがきれいですね』『すき』のほか、『たてのいとはあなたよこのいとはわたし』ととても長い言葉も入れてみました」(香田さん)。

――10組中5組のカップルが成立したというのも、個人的には多いなと感じました。

香田 そうですね。僕も「そんなに成立するのか」と驚きました。きっと、付き合うか否かにおいて、本当に必要な情報は少ないんだと思います。このご時世、情報があふれすぎているんです。

木曽 マッチングアプリは外見に関する情報から相手を知っていくことが多いのに対し、「結日記」は内面から掘り下げていくのが特徴ですよね。

――2019年11月から予定している第3回は、茅野市以外の参加自治体を募集していました。自治体の反応はどうでしたか。

木曽 説明会には5~6つの自治体がオンラインで参加してくださり、第3回は茅野市のほかの地域でも実施することになりました。茅野市のシティプロモーションとして始まったプロジェクトですが、「結日記」という企画自体が広がることになり、茅野市の方ともお話ししながら進めています。

近年、自治体の婚活そのものがマンネリ化の傾向にあり、担当者は新たな施策を求めています。そういう背景もあり、「結日記」に興味を持ってくれる自治体が多いのだと思います。

地方にこそ遊びの要素が必要

――カヤックにはシティプロモーションの依頼も多数あるかと思いますが、地方自治体からはどのような課題を相談されますか。

木曽 「移住・定住してもらうために人を呼びたいけれど、まず何をすればいいのかわからない」という相談はよくいただきます。あとは、「地域の資源や魅力が何もない」と言われることもあります。

香田 「地域の資源や魅力がない」と言っても、実際はあるんです。でも、その伝え方がわからない。自治体の中に企画したり、デザインしたりできるチームがいないせいもあると思います。

――地方自治体が自分たちの地域の魅力に気付きづらいのは、なぜでしょうか。

木曽 その地域で育ってきた人にとって、ずっとそこにあるものだから、周りと比較して面白い部分は外からの目線がないと気付きにくいんでしょう。確かに自然以外に何もない地域もあります。

――その場合は、どのように魅力を売り出しますか。

香田 「風が気持ちいい」とかですね。

木曽 何もないがゆえに、それが資源になる場合もあります。観光の話になりますが、美しい自然の中できれいな空気を吸って、身も心もリフレッシュする「洗肺旅行」が、大気汚染で悩む中国人の方に人気だそうです。

香田 僕たちはアイデアを出しますが、地方自治体の担当者はその中から「これで打ち出していこう」「地域のブランディングをしていこう」と選ばなければならないので、その作業が一番難しいと思います。

――「人を呼びたいけれど、何をすればいいかわからない」「資源や魅力がない」といった課題に対して、木曽さんと香田さんはどのように解決してきましたか。

木曽 「地域に人を呼びたいけれど、何をしていいのかわからない」という課題には、カヤックのクリエイティブチームが一緒にその自治体の魅力を探したり、作ったりしてきました。

カヤックLivingが運営する移住したい人と地域を結ぶ「SMOUT」 では、200以上の市区町村の魅力を伝えるシティプロモーションの企画もしています。そのため、「地域の資源や魅力が何もない」という課題を持っている地域は多いのですが、その地域にある面白いものを、世間の適切な流れの中に位置づけて、企画として提案し、一緒に作っていきます。香田もお話ししたように、本当は資源や魅力があるのに気付いていないだけなんです。あとは、そもそもなぜ人を呼びたいのか、担当者としっかり話し合うことも大切にしています。

香田 僕は、その地域に行きたくなるような、面白いものを作ってきました。依頼を受けた地域特有の色が出るようにも心がけていますね。

例えばシティプロモーションの依頼を受けて、単に「茅野市の○○が魅力です」と広めるよりも、茅野市と一緒に面白いものを作って、それを見た人が「茅野市って面白いことをやっているな。ちょっと行ってみようかな」と訪れてくれるような企画にしたいと考えています。

物事を面白くすることを、自分の中では「遊びを作る」とよく表現しています。もし、地域に「牛肉がおいしい」という魅力があったら、単に「この牛肉がおいしいんです」と紹介するのではなく、少し変わった体験ができる牛肉のレストランを作ります。例えば「断崖絶壁で牛肉を食べられるレストラン」といった感じです。そうした遊びの要素があると、地方はもっと楽しくなると思います。

木曽 その地域で魅力となっているもの自体をそのまま売り込むことは、あまりしません。

香田 はい。僕は地方にこそエンターテインメントが必要だと感じていて、それを作りたいんです。

――現状の地方自治体には遊びの要素が少ないということでしょうか。

香田 そうです。遊びの要素が圧倒的に少ないと思います。多くの自治体は真面目すぎる印象があります。個人的には、ただ真面目な講演を行うより、面白いものを用意したほうがいいと思います。

47都道府県分の面白いものを世の中に出すことができれば、日本はもっと面白くなるはずです。

木曽 移住したい人と地域を結ぶ「SMOUT」でも、遊びの要素がある地域には人が動きやすいです。地域に遊びの要素が少ないと、そもそも興味を持ってもらえません。だから、遊びの要素を作るのは、地方自治体の認知を上げる意味でも大切なことだと思います。

――地方自治体との取り組みで難しいと感じることはありますか。

香田 特にありません。自分たちの住む地域を変えることに対する思いが強く、熱量の高い方が多いので仕事をしていて楽しいです。企画の内容も重要ですが、成功するか否かは担当者の熱量の高さによっても変わると思います。

木曽 あえて挙げるとすれば、前例主義のようなところがあるので、ほかの自治体がやっていない新しい企画を通すのは一般的に難しいです。そうした困難を乗り越えてでも、やりたいという熱量があれば、民間企業と変わりなく取り組みができると思います。

――最後に、良い企画やアイデアを出すために心がけていることがあれば、教えてください。

香田 面白いと感じた映画一つをとっても、何が面白かったのか、その根源にある抽象的な部分を掘り下げるようにしています。「人はなぜ映画を観るのか」といった根本的な欲求について考えることもよくあります。世の中の文脈と「なぜ今これが面白いのか?」という疑問を紐づける癖があるので、そうした考え方が企画に活きていると思います。

木曽 僕も似ていて、世の中の文脈と流行している物事をつなげて考えるようにしています。一見ジャンルが違っていても、それらがウケている理由や背景は共通することがあると感じているからです。

最近で言うと、デジタルの反動でアナログなものが流行していますが、そうした流行は、時代の気分によって表に出てくる部分が異なるだけで、根本にある人間の欲求はあまり変わらないと思います。だから、「この時代だったらどうか?」「あの時代だったらどうか?」と頭の中でよく比較しています。

あと、何かが流行しているときは、どのようなところにはまったり、喜んだりするのかを自分の目で確かめるようにもしています。

香田 依頼内容に合わせて「本当に面白いのか」と自問自答し、自分が面白いと思うものを提案することが大切ですね。

――ありがとうございました!

面白法人カヤック
「つくる人を増やす」を経営理念とし、ゲームや広告、Webサービス、リアルイベントなどのバズコンテンツを企画・制作する。シティプロモーションの実績としては、埼玉県さいたま市の観光誘致プロモーション「タサいたま」、長崎県佐世保市九十九島の絶景をドローンで空撮した「九十九島からの挑戦」などがある。神奈川県鎌倉市に本社を置き、「まちの社員食堂」や「まちの保育園」などの地域に根差した取り組みも行う。
設立:1998年
本社所在地:神奈川県鎌倉市
代表取締役CEO:柳澤大輔、貝畑政徳、 久場智喜
https://www.kayac.com/

記事執筆者

佐藤綾美

株式会社CINC社員、Marketing Native 編集長。大学卒業後、出版社にて教養カルチャー誌などの雑誌編集者を経験し、2016年より株式会社CINCにジョイン。
X:@sleepy_as
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