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インタビュー

「WHO、WHAT、HOW」を決める前にマーケターがすべきこと――コレクシア 芹澤連インタビュー

最終更新日:2024.05.16

キーパーソン深掘り!#04

コレクシア コンサルティング事業部 執行役員

芹澤 連

『“未”顧客理解』に続き、『戦略ごっこ』(いずれも日経BP)と2冊の著書が話題になっている株式会社コレクシア 執行役員でマーケティングサイエンティストの芹澤連さん。

マーケティングの重要フレームワークである「WHO、WHAT、HOW」について、「WHOで顧客を絞る前にマーケターが考えることがある」と問題提起しているのをはじめ、従来「当たり前」とされてきた考え方に異論を投げかけ、注目されています。

具体的にはどんなことなのか。みる兄さんの「キーパーソン深掘り」第4回は、2冊の著書が話題の芹澤連さんに話を聞きました。

(構成:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:永山 昌克)

目次

小さなブランドの浸透率を上げるには

みる兄さん 最初は「書籍が話題になったポイント」を伺います。バイロン・シャープの『ブランディングの科学』(朝日新聞出版)が以前、1つの事例として話題になりましたが、事業会社や広告代理店のマーケティング従事者にとっては、日本の話として実際に適用できるのかどうか、今ひとつ測りかねているところがありました。芹澤さんの著書『“未”顧客理解』と『戦略ごっこ』は『ブランディングの科学』で取り上げられた事例を少し解きほぐしながら、日本の著者として日本人に馴染みやすいように説明しているところが読者には面白かったのかなと思っていますが、どうでしょうか。

芹澤 『戦略ごっこ』に関しては、これまで当たり前とされていた「ロイヤルティ」「差別化」「STP」「新規獲得と離反防止の優先順位」などを実証研究と照らし合わせて検証し、「必ずしも当たり前ではないのでは?」と一石を投じた点が一定の評価につながったのではないかと思います。そうした理論やフレームワークは、いずれもビジネスゴールを達成するための”道具”なわけですが、その“使い方”をちゃんと理解して使っているマーケターは意外に少ないのかもしれません。

『ブランディングの科学』の日本市場における再現性については、現在、消費財・耐久財・サービス財それぞれのカテゴリーの実購買データを使って実証研究を進めているところです。こちらも、そう遠くないうちに紹介できると思います。

みる兄さん 『ブランディングの科学』を読んだとき、多くの人が「では何をすればいいの?」「強いブランドが結局勝って、弱いブランドは打つ手がないの?」と諦め半分、反発半分の複雑な気分だったところに、芹澤さんの著書で「カテゴリーエントリーポイント」(CEP)という言葉とともに、浸透率(顧客数)をどう上げるかが重要だと示されていたため、そこで文脈がつながり、読者の疑問が少し解消されたのかなと思います。

芹澤 ありがとうございます。CEPをはじめとして、拙著で紹介しているエビデンスの多くは、南オーストラリア大学アレンバーグ・バス研究所に由来します。簡単におさらいすると、売り上げを顧客数、購入頻度、単価と分解したときに、大きなブランドと小さなブランドで何が決定的に違うかというと顧客数、つまり浸透率です。大きなブランドでは購入頻度や平均単価もやや高くなりますが、そこまで劇的には変わりません。つまり、ブランド成長のメインドライバーは浸透率だということです。いわゆる「ダブルジョパディの法則」(Sharp, 2010)ですね。

<ダブルジョパディの法則>

売り上げ=顧客数×購入頻度×平均単価

  • 大きなブランドの売り上げ=顧客数(非常に多い)×購入頻度(やや高い)×平均単価(やや高い)
  • 小さなブランドの売り上げ=顧客数(非常に少ない)×購入頻度(やや低い)×平均単価(やや低い)

大きなブランドと小さなブランドの主な差は顧客数であり、ロイヤルティの高さに大差はない。顧客数が増えればロイヤルティはやや高まるが、ロイヤルティだけを高めることはできない。そのため小さなブランドは売り上げにつながる顧客数と購入頻度(ロイヤルティ)の両方が低くなり、二重に不利という意味。

では、どうしたら浸透率を増やせるのか。すごく質の良い商品でも、認知率の高い成熟ブランドでも、需要が発生したときにブランドを思いついてもらわなければ買われません。あるいは手近になければ買えません。であれば、その「需要が発生するシーンやタイミング」こそマーケティングの介入点なのではないか、と気づきます。つまり、そうしたシーンやタイミング、アレンバーグ・バスの用語で言えばCEPに合わせて4P(商品、広告、流通、価格)をデザインし、各シーンやタイミングでの思いつきやすさ=メンタルアベイラビリティと、見つけやすさや買いやすさ=フィジカルアベイラビリティを継続的に高めていくわけです。

本のタイトルは『戦略ごっこ‐マーケティング以前の問題』ですが、実は「マーケティング以前の問題」が主で、「戦略ごっこ」はキャッチコピーのような認識でいます。私が本当に言いたいのは「ビジネスにはいろいろな理論やフレームワークがありますが、ちゃんと自分で確かめましたか?思考停止して会議や企画書、意思決定の場面で使っていませんか?」ということです。

芹澤連さん

「WHO、WHAT、HOW」の前に考えるべき問題

みる兄さん 『戦略ごっこ』というタイトルが話題を呼びましたが、真意は従来のマーケティングの考え方に一石を投じることだった、と。

芹澤 はい。例えば、マーケティングというと「WHO、WHAT、HOW」、つまり「誰に、何を、どのように」を考えるわけですが、カテゴリーエントリーポイントはそれ以前の問題として、「WHEN、WHERE、WHY」、つまり「いつ、どこで利用するのか、それはなぜなのか」という利用文脈を消費者視点で理解する考え方とも言えます。5W1Hのうち「WHEN、WHERE、WHY」こそ先に捉えるべきファクトで、それが「WHO、WHAT、HOW」へつながっていくのだ、というのが『戦略ごっこ』の主張です。

みる兄さん 慣例的なマーケティングのフレームワークでは、まず「誰」、すなわち「WHOを決めよう」が大体初めに来ます。デモグラフィック的に「誰」をいろいろ見た上で、人に対する「WHAT」のオケージョンを考えて戦略整理する方法と、先に「WHO」を決めてしまうと、その後のオケージョンが絞られて想像できる仮説が減るから、「WHO」を決める前にカテゴリーの調査設計から入るべきだとする考え方があると思いますが、芹澤さんはどのように捉えますか。

芹澤 後者ですね。「WHO」から入ると実務上いくつかの不都合が出てきます。例えば、同じ顧客セグメントを対象にマーケティングしていると効果は必ず収穫逓減するため、売り上げは微増してもマージナルリターンが減り、いずれ利益が頭打ちになります。また、ヘビーユーザーに対してリソースを集中させる戦略を推す人もいますが、平均への回帰といって、ある時期にヘビーユーザーだった人は、次の時期にはライトユーザーや未顧客に落ちやすい傾向があります。現在のヘビーユーザーがヘビーのままでいてくれる、ロイヤル客が来年もロイヤルでいてくれると思って投資を重ねたのに、トップラインの動きがどんどん鈍くなっていくこともあるわけです。

もっとも、先に「WHO」を決めたい心理もわかります。取り組みがイメージしやすくなりますからね。

みる兄さん 「戦略を決めるために、まずWHOを確定したい」という思いがおそらくありますよね。

芹澤 ただ、それでは「戦略のための戦略」に陥る恐れがあります。例えば「WHO」から考える代表的なフレームワークにSTP(STP:Segmentation、Targeting、Positioningの頭文字をとったフレームワーク)やペルソナがありますね。同じカテゴリーユーザーでも性年代や価値観、ライフスタイルなどによってニーズやインサイトが異なる。だから市場を分けて、それぞれの顧客セグメントに対する訴求力が高くなるように価値提案を変えていこう、というのがいわゆるSTPのロジックなわけですが、だとすれば、各ブランドが提供するベネフィットに応じて異なるニーズを持った顧客が集まってくるはずです。

つまりSTPの仮定が正しいのであれば、実際に各ブランドの顧客構成は大きく異なってくるはずです。逆に、どのブランドも同じような顧客構成になっていたらおかしいですね。しかし、さまざまな消費財、耐久財、サービス財を含む40以上のカテゴリー、200以上のセグメント変数、2万サンプル以上のかなり大規模な研究によると、同じカテゴリーで競合するブランド間の顧客構成はほとんど変わらないことがわかっています(Kennedy & Ehrenberg, 2001)。少し古い研究ですが、2017年に再現研究が行われ、同様の傾向が報告されています(Anesbury et al., 2017)。

要するに、STPにしてもペルソナにしても、あくまで思考ツールであって実際の市場現象ではないんですね。チーム内の共通言語やアイデア発想法として用いるなら良いですが、『How Brands Grow』(編集部・註:『ブランディングの科学』の原題)、つまり「ブランドがどのように成長するか」を表しているわけではない。にもかかわらず、そうしたキーワードが一人歩きすることで、あたかも現実のブランド成長や消費者行動を表しているかのように錯覚するマーケターが出てくる。これが「ごっこ」につながるわけです。

みる兄さん 整理をするためのツール、フレームであると。

芹澤 そうですね。ペルソナにしても、ユーザープロファイルにしても、消費者の一側面を表しているに過ぎない。例えばマーケティングリサーチでは、よく価値観やライフスタイルのようなサイコグラフィック変数(心理変数)を併用したセグメンテーションが行われますが、いくつかの実証研究で、そうした変数による行動の説明力は通常1割もないことがわかっています(Novak & MacEvoy, 1990; Sandy et al., 2013)。心理変数は、購買行動の予測因子としては極めて弱いのです(Yankelovich & Meer, 2006)。

一方、カテゴリーがどんなときに利用されるかは、基本的に定数です。喉が渇いたときにパソコンを買う人はいません。普通は水分を取ります。そして、そのときに思いつきやすいブランド、目につきやすいブランドが買われます。このファクトは変わりようがないのだから、そこを足場にするのが最適だというわけです。その足場も固まっていないところに理論や概念を当てはめようとしても、私には不安材料でしかないですね。

みる兄さん

パーセプションチェンジに対する疑問と実態

みる兄さん 確かに。では、どのようにブランドを伸ばしていくかというと、芹澤さんの言葉を借りると、まず未顧客への浸透率を上げていくのが重要だと。ブランドを体験している人なら「WHO」の解像度を上げられますが、そうでない未顧客の場合はいろんな人がいるので、それぞれの生活文脈、利用文脈ごとのCEPが大事ということですか。

芹澤 その通りです。「WHO」は結局、顧客の話に収斂(れん)していきます。しかしブランドの成長に必要なのは未顧客です。ところが未顧客のことは事前にわかりません。そうすると「何か障害があって買ってくれないのではないか」「買うべき理由が必要なのではないか」「差別化したら気づいてくれるのではないか」などと顧客側のロジックを未顧客に当てはめようとしがちです。でも、それはゴールに対する手段を履き違えています。

買わない人というのは、何か理由があって買わないのではありません。思いつきすらしないのです。実際いくつかの研究で、「理由があって買わない」という未顧客は、B2CでもB2Bでも10%程度かそれ以下であることが報告されています(Nenycz-Thiel & Romaniuk, 2011; Romaniuk et al., 2021)。要するに、買わない人に買ってもらうというのは「理由作り」や「課題解決」の問題ではないのです。未顧客の場合、人という人格を一回外して、利用文脈のファクトから考えることがポイントです。

みる兄さん 普遍的に起こることというか。

芹澤 そうです。あるカテゴリーをどんなオケージョンで利用するのか。それはいつか。どこか。つまり物理的な話です。これはいわゆる「パーセプション」にも関係してきます。最近はよく認識変化と言いますが、これも結局はCEPにおいて思いつきやすく、買いやすくするためにマーケティング4Pを設計することに帰結します。CEPとは言ってみれば特定の生活文脈であり、利用状況です。そこで価値になるように商品機能や広告のメッセージ、サイズ、パッケージ、価格、支払い方法、流通、小売店のインプロ(インストア・プロモーション)や陳列まで最適化することが、結局は認識変化のためのマーケティングなのだと思います。『“未”顧客理解』ではこのことを、それぞれの利用文脈で価値になるようにブランド要素を再解釈することだと説明しました。

パーセプションは「知覚」あるいは「認識」と訳されるため、「イメージや概念の話」だと思っている人が多いのですが、もっと物理的に捉えたほうがよいと思います。というのも、イメージや連想は利用経験の関数なので、浸透率を増やさずに大きく変えるのは困難です。実際、広告を打ったけどブランドイメージやパーセプションのスコアが思ったより動かず、上にどう説明していいか困った、という経験をお持ちのマーケターも少なくないと思いますが、それはそういうものなのです。

みる兄さん 私も知覚とイコールまではいかないにしても、パーセプションはブランドに紐付いている価値のイメージのように感じているところがありました。でも、それは一面を切り取っているだけで、結局はCEPがあり、4Pが設計されて、それらがちゃんとまとわれている状態がパーセプションとなって、いろんなことに寄与するのだとわかりました。

芹澤 的確な理解かと思います。マーケティングの世界には概念の話がたくさんありますよね。イメージを変えることで競争を避けられる、優位に立つことができると言う人もいます。しかし、「知覚上の差異だけでは競争関係は変わらない」というエビデンスは見たことがありますが、「変えられる」というエビデンスは見たことがないのでずっと疑問に思っています(e.g., Romaniuk et al., 2007; Sharp et al., 2003)。

そもそもデータを見る限り、消費者がブランド間の違いにそこまで興味あるとは思えません。例えばカテゴリーにもよりますが、顧客ですら差別化を認識して買っている人は10%程度しかいないというデータがあります(Romaniuk et al., 2007)。また、いくつもの研究で、ブランド連想の一貫性は50%程度と報告されています(Castleberry et al., 1994; Dall’Olmo Riley et al., 1997)。つまり「このベネフィットを得られるのはブランドXだ」と言った人に対して、しばらく間を開けてもう一度同じ質問をすると、「このベネフィットを得られるのはブランドYだ、いやブランドZだ」とコロコロ変わるということです。

マーケターにとってはなんとも力が抜けてしまう話ですが、現実の消費者にはむしろそれが“普通”なんです。私は、そこを思考のベースラインにできるか、そんなわけないと棄却してしまうかで、「戦略」と「ごっこ」が分かれてくると思っています。

みる兄さん 確かに、パーセプションを変えることが、マーケターの寄与できる部分のひとつという認識が走りすぎたところがあったかもしれません。

芹澤 もちろん、「できません」で終わらせるのではなく、どうすれば売り上げに貢献できるのかを考えるべきです。1つには「記述属性」という視点があります。例えば(洗剤が)冷たい水でもよく溶ける、(自動車が)メイドインジャパンである、などは物理的な機能あるいは事実であり、主観的なイメージではありません。こうした属性への反応は顧客と未顧客で大きな差がつかないことが知られています(Dall’Olmo Riley et al., 1997; Dall’Olmo Riley et al., 1999)。つまり記述属性に関しては、コミュニケーション次第で、未顧客層でも想起形成を行うことができるわけです。なので商品コンセプトを考えるときでも、広告のメッセージを考えるときでも、この記述属性を中心に考えるようにしてください。そこさえしっかりしていれば、クリエイティブジャンプの効果も倍増します。

ただし、記述属性そのものにブランドを選ばせる力があるわけではありません。消費者はマーケターと違ってブランド単体で想起するわけではないので、単に記述属性を認知させるだけでは不十分です。従って先ほど述べたように、利用文脈(CEP)における価値になるように、ブランドを物理的な4Pや顧客体験に再解釈することが大事になってくるわけです。

みる兄さん それがまさにマーケターというより事業主が寄与できる部分であるとするなら、コミュニケーションの文脈を大事にするのはもちろんとして、機能という物理的な変化を、きちんと文脈とカテゴリーに寄与できるように意識した上で設計するのが重要だということですね。

芹澤 そうですね。むしろ積極的に、利用文脈のゴールから逆算して考えるべきだと思います。

スポーツマーケティングにおける既存顧客と未顧客への対応

みる兄さん わかりました。メディアによく取り上げられているマーケティングの事例はナショナルブランドが多くて、話が大きすぎる気がしていました。ロングセラーであり、ブランド自体の浸透率もある程度ある中で、新しい商品を出すとなって「ターゲットを絞ろうか」というならわかりますが、スタートアップやベンチャー、地方マーケにも当てはまるかといえば、そうでないケースも多く、CEP獲得のために間口を広げる重要性も感じました。

それではここで、読者の理解を深めるためにも、具体的な事例としてスポーツマーケティングについて取り上げさせてください。スポーツマーケティングの場合、プロダクト自体に関与しにくい一方で、未顧客だけでなく既存顧客にもCEPに多様性があると思っていて、そこに面白さと難しさを感じます。

芹澤 ちょうど今、別口でスポーツマーケティングに関する原稿を書いているのですが、「ファン」の捉え方が少し特殊で、消費財との違いを感じるところがあります。

みる兄さん その通りで、スポーツビジネスは熱狂が目に見えるので、ファンに施策が向きがちです。確かにファンに対してリソースの多くをつぎ込むと、施策のエンゲージメントなど見かけの数値は高く出ます。でも、それを続けていては目減りするので、未顧客に対する働きかけがもっと必要ではないかと感じることもあります。その際、スポーツビジネスの特徴と思うのですが、未顧客への施策を見た既存の熱心なファンが「自分たちではなく、新しい顧客に目が向いている」と抵抗を感じる傾向が一部あるようです。ブランド内コンフリクトは通常の消費財には起こりにくいだけに、エンターテインメントビジネスやファンビジネスの難しさをあらためて発見しました。

芹澤 チームとの結びつきや共同体意識、地域愛などが強いとそうなるのかもしれませんね。トライブ(共通する興味・関心、ライフスタイルなどを持つ集団)のような内集団の結びつきが強いぶん、外部や新規に対して排他的になる。逆に言えば、いったんそうしたコミュニティの一員として認められれば、ロイヤルティが高まりやすい性質もあるのかもしれません。私見ですが、既存顧客に対して、新規顧客のオンボーディングを促すような施策も有効なのかもしれませんね。

しかしその一方で、ダブルジョパディや負の二項分布、購買重複などの基本法則はスポーツ市場にもあてはまるという研究もあります(Baker et al., 2016; Trinh, 2018)。つまり、消費財のようなレパートリー市場的な特徴もあるわけです。実際、1つのチームだけにロイヤルなサポーターは少数であり、多くの「自称ファン」は特定のお気に入りチームがある上で、それ以外のチームの試合も観戦するそうです。正しくは「レパートリーファン」と言うらしいのですが(Tapp & Clowes, 2002)、ライトユーザーほどその傾向が強いようです。おそらくここを獲得していかないといけないのでしょう。スポーツに限らず、新規が入って来ないカテゴリーは衰退しますから。

サンプリングの効果は?

みる兄さん 応援するチームやビジネスの発展を真に願っているコアファンも多くいます。入り口にいる新規の人たちをファン全体で迎え入れられるような雰囲気づくりが理想です。

その関連で、サンプル提供について、どう捉えていらっしゃるか教えてください。書籍では「態度変容」よりも「行動変容」に注力すべきとありますので、CEPを想起させるというより物理的な行動を意図的に作ってしまえるサンプル提供の効果は大きそうです。

芹澤 サンプリングは配る相手を選ぶべきです。カテゴリーにもよりますが、私のクライアントには、消費者に直接配る以外に、各CEPで消費者の選択行動に影響を与えるような人に配ることを勧めています。特に「周辺・類似市場のプロ」がねらい目です。シャンプーを売りたいなら美容室、化粧品ならモデルさん、調味料を売りたいなら飲食店にサンプリングして、間接効果を狙ったほうがよい場合もあります。あとは高級店など、店員にも客にもインフルエンサーが多い顧客接点も良いですね。

みる兄さん ありがとうございます。あらためて今回いろいろとお話を聞いて思ったのは、情報過多の時代、ブランドの立ち位置や浸透率の段階に応じて理論が当てはまるタイミングもあれば、そうでないときもあるわけで、その見極めをしながら施策の取捨選択をしていくのが、マーケティング従事者の重要なポイントだと感じました。だから芹澤さんの書籍を読みながらも、どのシチュエーションなら自分のブランドが当てはまるのか、いろんな変数を掛け合わせた上で、今のベストは何かを考えていくことが大事だと思います。

芹澤 おっしゃる通りですね。エビデンスをマーケティングに生かすには「規則性と例外」をセットで理解していくことが大切です。「ここまでは当てはまるが、ここからは当てはまらない」という見極めこそエビデンス思考の本質です。その意味では、ダブルジョパディの法則ですら、さまざまなカテゴリーに共通する一般法則であると同時にいくつかの境界条件(例外)も知られています。

こうした見極めのポイントになるのが”カテゴリー理解”です。あるカテゴリーをどれくらい消費するか(需要)、そのカテゴリーをどのように買うか(購買行動)などは定数です。つまりマーケティングで変えられることではなく、かつそれに逆らって成長することもできません。ですから、まずは自社が属するカテゴリーに流れる大きな規則性を理解して、その上で自社のマーケティングで変えられること/変えられないことを見極め、インパクトの高いリソースの使い方を導き出すわけです。それが「戦略」です。

みる兄さん まさにそうですね。本日はありがとうございました。

みる兄さんの取材後記「刺激的だった『戦略ごっこ』の考え方」

マーケティングをテーマとして対話をしていると、時に刺激的なアイデアが生まれる時間があります。今回のインタビューで芹澤氏の著書である『戦略ごっこ』に触れ、そして著者ご本人に質問をぶつける機会を設けることができました。これは非常に興味深いものでした。実務経験を積んできた僕には、自身がこれまで立ててきた「戦略」が本物なのか、それとも単なる「戦略ごっこ」なのかを改めて考える機会となりました。

戦略を構築する際には、目標を定め、全体像を把握し、計画を立てることが重要です。それには、従来のやり方や通念にとらわれず、事実に基づく仮説を踏まえて行動することが必要です。芹澤氏の『戦略ごっこ』と『“未”顧客理解』の2冊を読み、そして今回、著者である芹澤氏へのインタビューと私自身の経験と照らし合わせ、以下のポイントが重要だと感じました。

  1. ロイヤルティ向上と新規顧客獲得の施策をどう優先すべきか。
  2. マーケティング戦略を構築する際に、顧客視点から入るべきか、別の視点から入るべきか。
  3. 新規顧客を開拓するためのカテゴリーエントリーポイント(CEP)の考え方。

従来は、既存顧客からの売り上げが新規獲得よりも重要だとする見解や、既存顧客が施策にかかわらず離反するため新規獲得を優先すべきだというように二つの意見はそれぞれ相いれない部分を感じていました。しかし、芹澤氏の指摘によれば、これは単純化された二元論であり、ブランドのステージや規模によって異なるため、状況に応じてロイヤルティ施策も新規顧客を開拓する施策も組み合わせることが重要とのことでした。

また、「誰」(WHO)を決める前に、「どんなカテゴリーで想起されるか?」(カテゴリーエントリーポイント)を先に考えることが重要だという指摘もありました。顧客視点が重視される中で、「WHO」を決めることで視野が狭まりがちですが、実際にはどのようなシーンで商品やサービスが使われるかを考えることが先決です。近年、顧客視点の重要性が一般的になり、まずは対象となる顧客(WHO)を決めるところから始まり、「WHO、WHAT、HOW」の流れで考えることを重要視していました。しかし、「誰」(WHO)を決めてしまうと、そのプロダクトやサービスがどんなシーンで想起されるか?そこの発想を狭めて考えてしまいがちです。新しい顧客に届けるには顧客を定めて「絞る」より、どんなシーンや需要があって想起されるか?この「入り口を広げる」ほうが有効であると学びました。

このインタビューから得た教訓の1つは、確立された考え方が常に通用するわけではないことです。また、仮説を立ててテストを行い、ケース・バイ・ケースで考えることの重要性についても改めて実感しました。重要なのはロイヤルティ向上の施策や未顧客へのアプローチの両方についてどちらが合っている、間違っているという話ではなく、自身が担当しているブランドで仮説を立ててテストし、エビデンスを積み重ねていくことだと思います。芹澤氏もニッチブランドや購買頻度が低く気分転換で買われるブランド、または導入期でのマーケティング戦略などがダブルジョパディから外れるとおっしゃっていましたが、このケース・バイ・ケースを想定してマーケティングの仮説を組み立てられることが大切だと思います。

(出典:コレクシア『戦略ごっこ マーケティング以前の問題』トレーニング資料より)

今回の芹澤氏へのインタビューにより、「戦略ごっこ」ではなく、「たしかな戦略」をつくるためには、実証研究の論文に目を通し、そこから得られた知見をもとに仮説を立て、自らの行動で学び、経験を積み重ねることが重要であることを再確認しました。

Profile
芹澤 連(せりざわ・れん)
株式会社コレクシア コンサルティング事業部 執行役員。
マーケティングサイエンティスト。数学/統計学などの理系アプローチと、心理学/文化人類学などの文系アプローチに幅広く精通。非購買層やノンユーザー理解の第一人者として、消費財を中心に、化粧品、自動車、金融、メディア、エンターテインメント、インフラ、D2Cなどの戦略領域に従事。エビデンスベースのコンサルティングで事業会社の市場拡大を支援する傍ら、執筆や講演活動も行っており、企業研修などの講師を務める。著書に『顧客体験マーケティング』(インプレス)、『“未”顧客理解:なぜ「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?』『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題:エビデンス思考で見極める「事業成長の分岐点」』(日経BP)。日本マーケティング学会員。海外論文を読むのが日課。猫好き。

X:@serizawa_ren_
株式会社コレクシア:https://collexia.co.jp/

みる兄さん
匿名アカウントなマーケター。
Twitter:@milnii_san
note:https://note.com/milnii
みる兄さんの「話題のプロダクトについて考えてみた」シリーズ一覧

【参考・引用文献】

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記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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