インタビュー
2021.04.01

PR TIMES代表・山口拓己インタビュー「さあ海外へ再挑戦! 『行動者』に焦点を当てたPR事業が快進撃を続ける背景と、世界進出への意気込み」

CEO Interview #09

PR TIMES代表取締役社長

山口 拓己

PR TIMESの快進撃が続いています。利用企業社数は2月15日に5万社を突破。しかも2020年6月2日に4万社を達成してから約8.5カ月での記録となり、新規登録のペースも毎月1000社超と加速しています。

ほかにもPR会社が複数存在する中で、なぜPR TIMESはこれほど多くの注目を集め続けることができるのでしょうか。さらにこれからどのように事業を発展させようとしているのでしょうか。

今回はPR TIMES代表取締役社長・山口拓己さんに話を聞きました。

あわせてPRパーソン向けに、「人の心を揺さぶるプレスリリース」を書くための考え方についても伺っています。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、写真:矢島 宏樹)

目次

市場と顧客を自ら定義し、競合を作らない

――中期経営計画(2016年発表)で掲げていた2020年度内における利用企業数5万社の事業目標突破、おめでとうございます。売り上げ、営業利益の伸びも素晴らしく、経営者としての手腕が称賛されています。好調さの背景を教えてください。

お客さまに恵まれたことに尽きると思います。お客さまに恵まれたからこそメディアの方に興味を持ってPR TIMESを利用いただけていますし、一般の生活者の方にも関心を持たれやすいプレスリリースを出してくださるから、PR TIMESのページビュー数が5200万PVまで伸びてきました。

それだけのページビュー数があるから、それまでプレスリリースは必要ないと考えていた企業の方にもPR TIMESを利用いただけるようになっているのだと思います。つまり、お客さまが全ての起点となって好循環が生まれ、それがPR TIMESの事業価値となり、その価値がまた新しいお客さまに利用いただく形で広がっているということです。ですから謙遜ではなく、お客さまのおかげとしか申し上げようがありません。

――山口さんたちが企業に対して、「こんなプレスリリースにしたほうが効果的ですよ」とアドバイスしてPRパーソンの育成を図ってきたのですか。

いえ、お客さまご自身がどんどん進化していきました。例えば、ある会社が10年以上前に出した最初のプレスリリースは、数百字の文章に写真素材1、2点を添えただけの簡潔なものでした。それが今ではプレスリリースの枠を超えて、情報発信にとどまらずコンテンツとして楽しんでいただける内容に進化しています。

切り口や視点、見せ方を工夫して進化したプレスリリースを積極的に発信することで、結果的にその情報を必要とする人が増え、読んだ人がまたPR TIMESにアクセスして、今度は自分もプレスリリースで情報発信をする。そういう好循環がPR TIMESで生まれ、加速することで目標の達成につながったのだと思います。

――好循環が生まれるきっかけは何ですか。

1つのきっかけは、スマートフォンとSNSの普及です。それ以前も企業とメディアだけでなく、その先にいる生活者も含めた3者を結ぶプラットフォームにしたいというコンセプトはありましたが、生活者の方に見ていただくハードルは高く、コンセプト倒れの状態でした。

流れが変わりだしたのは2010年にスマートフォンが普及し始めてからです。PR TIMESのページビュー数を見ると、2011年頃からPCに代わってスマホで読む人が増えています。そのとき単純に「PR TIMESをスマホで読む人が増えてきた」で終わらせず、「スマホによって人々の行動が大きく変化するかもしれない」と気づけたのが大きな転換点になりました。

ちょうどその頃、SNSについてもTwitterやFacebookのユーザー数が日本で1000万人を超えています。SNSによる情報発信は人々のライフスタイルやビジネスにも影響を与えていて、一例は「インスタ映え」を意識した消費行動です。その高まりを受けて企業側も、ホテルのナイトプールのようにインスタ映えするイベントや装飾を施す動きが生まれました。

コミュニケーションツールが変わると、表現だけでなく、人々の行動やビジネスにも変化をもたらします。PR TIMESは、企業・団体と大衆との戦略的コミュニケーションプロセスという従来のPRの枠組みを超えて、スマホやSNSの普及によって生じたライフスタイルやビジネスに関するさまざまな変化に気づき、その流れをうまく捉えられることができたと考えています。

――企業・団体とメディアのやりとりだけだった従来のプレスリリースから、スマホとSNSの浸透を受けて、一般の生活者を巻き込み、発信者と受信者、閲覧者を多様な形に変化させられたのが飛躍のきっかけになったということですか。

そうですね。その上で、情報発信をこれからさらに活性化させるには、発信内容だけでなく発信に至るまでの事象にも目を向ける必要がありますし、その事象が社会にどれくらいのインパクトを与えられるかについてももっと深く考えることが重要だと認識しています。つまり表現を良くするだけでなく、発信する中身をもっと深めていこうという考え方です。

そこでPR TIMESでは人々の行動に良い影響を与える、私たちが言うところの「行動者」を増やそうと考えています。行動者とは、人の心を揺さぶり、社会にインパクトを与えられるような情報発信ができる人のことです。

私たちは行動者にフォーカスしてビジネスを展開していますので、市場はすごくニッチだと思います。上場するときも「競合はどこですか?」と何度か聞かれましたが、PR会社が競合だと認識していないので、競合名を答えたことはありません。「〇〇社と比較するとどうですか?」と聞かれたら答えますが、そもそも私たちが目指す世界はPRという広いくくりで十分に捉えられるものではないと思います。もちろん、営業のときは「プレスリリース業界シェアNo.1」とは言いますが、私たちはこれまで競合を作らず、自ら市場と顧客を定義することで事業拡大を図ってきました。

主役は会社ではなく、「個」の活躍を「ヒーロー」に

――山口さんたちが言うところの「行動者」を「ヒーロー」と表現するのも独特ですよね。御社のプレスリリースには『誰もが当たり前のように「PR TIMES」を利用し、あらゆる行動者がヒーローとして発信され、受け取られるようになったとき、プラットフォームを超え、社会的インフラに近付けると考えています。』とあります。この「ヒーロー」という表現、賛否を含めて反響はいかがですか。

私たちが考える「ヒーロー」の概念と、一般的に流通しているヒーローとはおそらく少し違うのではないかと思います。ヒーローというと一般的には、多くの人の期待を背負った飛び抜けた存在で、圧倒的な成果を上げた起業家や、スポーツ、芸術などの分野で高く功績が認められた唯一無二の存在を指すのかもしれません。一方、私たちの場合は、ポジティブに行動する人であれば誰でもなれる、そんな身近なヒーローを意味していて、そういうヒーローをたくさん感じられる社会を目指しています。

一緒に働いていても、ヒーローをいっぱい感じられる会社と、どこか手の届かない世界にしかいない会社とでは、日々の暮らしや見える景色がかなり異なるのではないでしょうか。私はもっと身近にヒーローを感じられて、自分もヒーローになろうとする人がたくさん現れる社会をPR TIMESの事業を通して実現していきたいですし、実際に少しずつ増えていると感じます。

――行動して情報発信する人たちが少しずつ増えてきたということですか。

今までもヒーローはいましたし、行動している人もいましたが、そういう人たちが行動をベースに発信する場がプレスリリースに紐づいていなかったと思います。従来のプレスリリースはやはり会社、社長が主語であって、個が立っているとはあまり言えませんでした。だからいくらさまざまな人の活躍があっても、行動者の功績が伝わる機会が少なかったと思います。

ソーシャルメディアにしても、アカウントのプロフィール欄に「発信内容は所属する企業・団体と関係ありません」と明記する人が少なくありません。一生懸命仕事を頑張っているのにSNSにさえ紐づけられない。もっと自分たちが成し遂げた成果を発信したい人もいるはず。それならPR TIMESのプレスリリースで、個まで感じられる情報発信をもっとできる環境を整えたい。主役はいつも企業・団体の社名や社長ではなく、実際に手を動かし功を成し遂げた人であってもいいはずですし、そんな行動者の情熱と行動力をヒーローとして称え、プレスリリースの形でもっと表現する機会があってもいいのではないでしょうか。それが私たちの目指す個の時代におけるヒーローの意味です。

「気を引き締めよう」と思っている時点で緩んでいる証拠

――5万社の目標を達成し、売り上げ、営業利益ともに好調という中で、社内では気の緩みを戒めるため、もう一度引き締め直そうとのムードも出ていると聞きます。そういう言動が社員から自主的に発せられることもすごいですが、山口さんの中にも今、気を引き締め直そうというお考えはありますか。

「今、気を引き締め直そう」という考えは持っていません。うまくいっているから気を引き締めようと思っている時点で、実はもう緩んでいるのだと思います。自分が緩んでいるかどうかは本人にはわからないですし、そもそも人は多かれ少なかれ緩むものだと思っていますから、うまくいってもいかなくても常に変わらず、一定の状態を保つべきですし、むしろそのほうが難しいと感じます。うまくいったと自己認知するタイミングで気を引き締めたから良くなるわけではなく、事業として致命的なミスをしないよう、常に緊張状態を保つことしかおそらく意味はないのではないでしょうか。

――海外のPR会社が参入して手ごわい競合となり、顧客を奪われる心配はないですか。

本当の競合は、競合の顔をしてやって来ないと思います。結局、PR TIMESに割いていただいていた可処分時間を奪われるとしたら、おそらくPR会社ではなく、人々を夢中にさせる全く異なるサービスになるのではないでしょうか。

――利用企業数が増えるのはPR TIMESにとっては良いことでも、利用者側にとっては自社のプレスリリースが埋没してしまうという不満があると思います。その点はいかがですか。

それも基本的には可処分時間の奪い合いであり、パイが決まっているという前提に立つと、そういう点があるのかもしれません。ただ、その量を増やそうと思えば、実は何倍にも拡大できると考えています。

実際、世の中に流通する情報の中には事件・事故、スキャンダルなどネガティブな内容も多くて、人の可処分時間が大幅に奪われています。その時間をポジティブな情報の閲覧に置き換えられれば、パイはもっと大きくできるはずです。誰かの失敗に向けられている人々の興味関心の時間を置き換えられるような、もっと注目に値する行動者の活躍をプレスリリースとして発信する。そんな身近なヒーローを生み出す積み重ねが、会社のブランド価値向上につながるはずですし、私たちもそんな社会を作っていきたいと思います。

――昨年、日本経済新聞に全面広告を出した「PR、14の使命」や「たとえ読まれなくても、ぜんぶ書く」という宣言もその一環ですか。

世の中で定義されているPRと自分たちの考えるPRとのギャップをこの数年ずっと自問自答してきており、その思いを自分たちの言葉で社会に問うてみました。さらに多くの人に関わってほしいとの考えから、企業広告だけで終わらせずに、お客さまにも参加いただいて、『PR、415の使命』という本も作成しています。

良いプレスリリースを書くには、日々の仕事に誠実に向き合うこと

――PRの在り方やPR TIMESという会社の方向性について、これからどのように進化させていくか自問自答しているところである、と。

正解がわかっていたら動きやすいのですが、今の社会は正解も、そこにたどり着ける方法もわからないですから、疑問や迷いを全部抱え込みながら自問自答して手探りで進むしかないですし、また力強く進める力が問われている気がします。それはもしかしたらPRに携わる人が特に求められている能力ではないかとも思います。

――なぜですか。

過去の正解をなぞってみたところで、社会に良い意味で驚きも与えられなければ、大して歓迎もされないでしょう。それでも発表しないと伝わらないですし、発表するためには発表するに足る行動の起点を作る必要があります。PRに携わる人にこれから求められるのは、単なる表現の問題ではなく、行動の起点を作ることだと思います。

ドラッカーの著書『企業とは何か』の中には、PRは広告、宣伝のように理解されがちだが、PRの目的は社会の反応とその理由を経営陣に教えることだとの趣旨が書いてあります。しかし、今はそうした広聴、ソーシャルリスニングはドラッカーの時代と比べて容易になっていて、自分たちがどんな存在か、コストをそれほどかけずに把握できるようになっていると思います。ですからPRパーソンは広聴した上で、経営陣に教えるだけでなく、行動を促すことが重要だと考えます。うまくいくかどうか正解がわからない中で行動を促すわけですから、とても勇気がいることです。「こうしたらうまくいきます」「こうすればメディアに取り上げてもらえます」と確信を持って言えない中での行動になりますが、それでもPRパーソンはその大きな点を打ちにいってもらいたいですね。

――そういうお話を伺っておきながら聞きづらいのですが、多くの人に読まれて、行動の起点になるようなプレスリリースを書くにはどうすれば良いのですか。

常日頃の仕事に誠実であること、それに尽きると思います。記者発表会でも、メディアの方との取材でも、またプレスリリースを書く場合においても、そのときになって力を入れるのではなく、常日頃の仕事に誠実に向き合う姿勢こそが表にあふれ出て、相手に伝わるものです。そう思って仕事をするのが、結局は一番の近道だし、王道だと考えます。

――写真の点数を多くして、エモーショナルで長文のプレスリリースを書くみたいな話ではない、と。

全然違いますね。反響の大きなプレスリリースには端的なものもあります。ノウハウの話ではなく、仕事への向き合い方の問題だと思います。

――最後に海外進出の話を教えてください。いよいよですか。

そうですね。今年か来年には何か発表できることを作りたいと考えています。もともと上場して、2020年度に5万社達成という目標を立て、目標を達成した次はやはり海外に再挑戦して、PR TIMESを世界的なインターネットサービスにしたいと考えていました。

一度進出して失敗していますので、次こそは失敗を糧にし、成功確率を高めた上で挑戦します。もちろん、海外にも大手のプレスリリースサービスが複数存在しますが、その多くが企業・団体とメディアを結ぶ段階でとどまっていますので、PR TIMESが日本で起こした、生活者を入れた3者による社会的な変化を海外でも起こせるかどうか、あらためて試してみたいという気持ちが強くあります。もし私たちのサービスがアメリカやヨーロッパでも受け入れられれば、それは私たちのミッションである「行動者発の情報が、人の心を揺さぶる時代へ」に大きく近づくことになります。再挑戦の時が近づいています。この1~2年が大きな勝負です。

――本日はありがとうございました。

Profile
山口 拓己(やまぐち・たくみ)
株式会社PR TIMES代表取締役社長。
新卒で山一證券入社。アビームコンサルティングなどを経て、2006年ベクトルに入社し取締役CFOに就任、上場準備責任者として陣頭指揮を執る。2007年PR TIMES立ち上げ。2009年PR TIMES代表取締役就任。2016年東証マザーズ上場、2018年東証一部へ市場変更。

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早川巧

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
Twitter:@hayakawaMN
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