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2020.11.10

事業成長に必要なABCと、これからのマーケターに求められる資質「Contents Innovation Conference 2020」開催レポート3

開催レポート2に続き、トークセッションの中から、興味深い事例や具体的なノウハウ、マーケターに必要な資質など印象に残った内容をお伝えします。最後にお届けするのは、「サービスのグロースハック」「データ分析」「ユーザーファーストとプロダクトファースト」について語られた3つのセッションです。

(取材・文:Marketing Native編集長・佐藤綾美)

目次

セッション「サービスグロースの成功企業に聞く事業成長の方程式」

このセッションでは、恋活・婚活マッチングアプリ「Pairs」とクラウド人事労務ソフト「SmartHR」のサービスグロースに関してモデレーターの金山裕樹さんが斬り込み、A(Acquisition:顧客獲得)・B(Branding:ブランディング)・C(Customer Success:カスタマーサクセス)の3点に焦点を当てて、トークが展開されました。

▼登壇者(順不同)
株式会社エウレカ 取締役 CMO 中村 裕一さん
株式会社SmartHR 執行役員VP of Marketing 岡本 剛典さん
株式会社ZOZOテクノロジーズ 代表取締役CINO金山 裕樹さん(モデレーター)

PairsのABC

 

 

中村 裕一さん

A(Acquisition:顧客獲得)

運用のPDCAを回すことが前提としてあるうえで、ユーザーがアプリを利用する後押しになるよう、End benefitとRTB(Reason To Believe)をただの訴求ではなく全体の体験と合わせて訴求するように設計している。ユーザーが求めているのは、恋人ができること。「10万件を超えるコミュニティがあるから、恋人を探せる」「HDI(※)で三つ星を獲得しているから、サポートも安心」など、プロダクトや体験すべてを通じてRTBがあるよう、全体のストーリーを考えている。

エウレカのデータによると、日本はまだアメリカと比較してマッチングアプリに対してオープンな人が少ないため、自分たちが今後さらに市場を広げていかなければならないと考えている。

※HDI:ITサポートサービスの世界最大のメンバーシップ団体。PairsはHDI-Japan主催のHDI格付けベンチマーク「問い合わせ窓口(Eメール)」で最高ランクの三つ星を獲得している。

B(Branding:ブランディング)

ブランディングの方針は空気感を変えること。そのために、主に二つの施策を行った。一つは、Pairsを利用して恋人ができた人や結婚した人に広告クリエイティブに出ていただくTestimonialキャンペーン。オンラインで出会うことを当たり前に感じてもらうには、Pairsを通じて出会えた人を見せるのが効果的だと考えた。もう一つの施策では、キリンビールやピエール・エルメ・パリなどの多様な企業とのコラボイベントを実施した。

ブランディングに明確な成果指標は設けていないが、WOM(Word of Mouse:口コミ)を生むことを目的としているため、WOMの状況はアンケートで調査するようにしている。

C(Customer Success:カスタマーサクセス)

カスタマーサクセスは、プロダクトの中でユーザーをサポートするチャットボットと新規事業「Pairs エンゲージ」の2軸で実現している。Pairsだけではユーザーのニーズに応えきれないことから、オンラインで始められる結婚相談所サービス「Pairs エンゲージ」が誕生した。Pairsは利用者全員を成功に導きたいと考えている。

SmartHRのABC

 

 

岡本 剛典さん

A(Acquisition:顧客獲得)

SmartHRはSTP戦略によって、顧客獲得を実現した。最初のターゲットは新しいプロダクトに感度の高いIT企業向けに、2018年ごろからはプロダクトの価値が最大化される飲食・小売業界に展開した。飲食・小売業界は非正規社員の入社や退社の手続きが多く、店舗が全国に散在しているところもあって紙での管理が難しい傾向にある。そして現在は、テレワーク需要により、さらに多様な業界に導入されるようになっている。

比較的スムーズにスケールアウトできたのは、組織間のコミュニケーションがコンパクトで情報が行き渡りやすく、市場の課題感を把握してからプロダクトに反映するスピードが速かったからだろう。

B(Branding:ブランディング)

SmartHRでは、差別化戦略を取っている。競合サービスが増えて差別化が難しくなり、特徴を出していくうえで、SmartHRならではの提供価値を洗い出し、メッセージを変更した。直近公開したCMは「仕事の無駄よ、さようなら。」をメッセージとして打ち出し、機能的価値の訴求はしつつ、無駄な業務から解放される気持ちよさをアピールしている。

C(Customer Success:カスタマーサクセス)

顧客数が増えたことから、見ながら学べる学習型コンテンツ「SmartHRスクール」を用意した。これによってユーザーが問い合わせをせずに離反する状況の回避に成功している。

セッション「データドリブン・マーケティングの挫折と進化 ~成果を上げるための本質的なデータ分析とは~」

このセッションでは、モデレーターの松本健太郎さんが登壇者二名に「マーケティングにおけるデータ分析のニーズ」「そもそもマーケティングに分析は必要か?」などの話題を振り、複雑に入り組むデータドリブン・マーケティングに斬り込みました。

▼登壇者(順不同)
株式会社メンバーズ メンバーズデータアドベンチャーカンパニー 社長 白井 恵里さん
株式会社DATAFLUCT エバンジェリスト/株式会社秤 代表取締役社長 小川 貴史さん
株式会社JX通信社 社長室 マーケティングマネージャー 松本 健太郎さん(モデレーター)

Howを突き詰める専門家にならないために

 

 

白井 恵里さん

2010年ごろにDSPが流行してからデータの取得、蓄積が可能になり、2016年にはセルフサービスBIツールの流行によってリアルタイムでデータを可視化できるようになった。しかし、取得・蓄積したデータが可視化されている状態で止まっている企業が多いと感じている。次の段階に至り、データをアクションにつなげるには、「どうありたいか」と「なぜ」が必要だ。

定性的なデータ分析があまり好まれないか否かはわからないが、ユーザー調査から出た結果は「それはあなたの主観でしょう」と言われやすい。属人的で再現性がないもののようなイメージがあるのだと思う。また、例えばWebの広告運用の場合は、理由を考えて改善をせずとも、自動最適化に任せたほうが、成績が良くなることもある。そこには、「なぜ」を考えていると運用が回らない状況も背景にあるのではないか。考えなくても良いということは、結果的にWhyに弱くなることでもあり、WebマーケターがHowを突き詰める専門家になってしまっているとも言える。

Whyを見つけるには定性調査が必要。そのためにはユーザーに聞くのが早く、想定ユーザーに近い属性の友人にランチをおごって話を聞くような形から始めるのでもいい。ただし、ユーザーが本当の気持ちを言葉にできるとは限らないし、誘導せずに必要な情報を聞くのも専門技術なので一朝一夕にできることではない。それでもとにかく聞き続けるしかないのが、Whyを見つけるリサーチの難しくもあり面白いところでもある。そこまでして定性調査を勧めるのは、「なぜ」への確信が実行フェーズにおける強力なおまじないになるからだ。施策の土台となる「なぜ」への解釈が入る定量データよりも、ユーザーの言葉のほうが、実行チームも信じやすい。方針が決まった後の実行フェーズでは、「なぜ」が厳密に正しいか否かより、気合いと根性で最後までやり切れるかどうかが大事になってくることも多いので、強力なおまじないが成功に作用すると思う。

リサーチや分析のスキルは機能として分離可能だが、プロのマーケターであろうとするなら使えたほうがいい。定量と定性、どちらのデータも分析できたほうが良く、身に付けておけば、ブランドをマネジメントする際に橋渡しをしてくれるスキルとなるだろう。

リサーチャーとして正しい意思決定を行える知識の習得を

 

 

小川 貴史さん

「マーケティングにデータ分析は必要か」と問われると、その答えは「YES」だと思う。データドリブン・マーケティングには3つの潮流があると考えており、それぞれ目的や実行に必要な人材・リソースが異なる。マーケターはまず以下に挙げる3つの潮流のうち「1」までやるべきだと考えている。

データドリブン・マーケティングの3つの潮流

  1. トラディショナルなデータドリブン・マーケティング
    スモールデータを扱う旧来から行われてきた調査データや時系列データなど
  2. カスタマーセントリックなデータドリブン・マーケティング
    主に顧客の行動ログを扱う
  3. 顧客理解を前提としないデータドリブン・マーケティング
    非構造化データも含む超ビッグデータを扱う

マーケターにもリサーチや分析の最低限の知識は必要だ。書籍なら『サンプルサイズの決め方』(永田 靖)や『マーケティング・リサーチ入門』(星野 崇宏、上田 雅夫)、『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』(松本 健太郎)などがおすすめ。リサーチャーとして正しい意思決定を行える素養が身に付くはずだ。

セッション「ユーザーファーストだけじゃない?~プロダクトファースト型のマーケティング思考とは~」

このセッションでは、モデレーターの有園雄一さんが登壇者の二名に質問を投げかけ、ユーザーファーストとプロダクトファーストの関係性、プロダクトマネージャーの役割などが語られました。

▼登壇者(順不同)
ラクスル株式会社 執行役員CPO 水島 壮太さん
エムスリー株式会社 執行役員 VPoE/PdM 山崎 聡さん
株式会社ビービット マーケティング責任者 有園 雄一さん(モデレーター)

顧客のニーズを満たすことの難しさ

 

 

山崎 聡さん

プロダクトマネージャーにはタイプがあり、中には事業責任を持ちコンセプトメイキングから販売まで責任を持つ重量級のプロダクトマネージャーもいる。そうでない軽量級のプロダクトマネージャーは、事業責任者やプロダクトマーケティングマネージャーとタッグを組み、役割を分担するケースが多い。

ユーザーファーストとは何かを考えたとき、ユーザーが言っているものを作るか、ユーザーが真に欲しいものを作るのかによって大きく異なる。アメリカの自動車会社フォード・モーターの創設者であるヘンリー・フォードの「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」という言葉がある。ユーザーが欲しいと言ったものを作れば売れる場合もあるが、それでは未来のニーズを満たすことができない。3年後や5年後はどうなるか。プロダクトファーストは、その点で可能性を示していると思う。

プロダクトマネージャーはユーザーの声をどこまで聞き、マーケターとどう接するか、真剣に考えていると思う。ぜひ勇気を持って話し合ってほしい。

開発者をモチベートし、動かせるマーケターに

 

 

水島 壮太さん

プロダクトマネージャーは、マーケティングのことを全く考えずにプロダクトを作るわけにはいかない。プロダクトがどのような手段でユーザーを獲得するのか、意識しながら作らないと、プロダクトマネージャー失格と考えている。

ユーザーの意見を聞くときは、開発者視点とのバランスが重要。インサイドセールスから要求を受けて作ってみて、うまくいかないケースもある。

マーケティングにおいて、開発者とのコミュニケーションはどの会社でも課題になっているのではないか。開発者をしっかりとモチベートし、動かせるマーケターこそが強いと思うので、開発者に寄り添えるマーケターを目指してほしい。

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佐藤綾美

記事執筆者

佐藤綾美

株式会社CINC社員、Marketing Native 編集長。大学卒業後、出版社にて教養カルチャー誌などの雑誌編集者を経験し、2016年より株式会社CINCにジョイン。
Twitter:@sleepy_as
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