[最終更新日]

2019/12/04

 

注目のデータサイエンティスト松本健太郎に聞く「現状満足時代を打破するインサイトの見つけ方とアイデアの作り方」

データの分析を基に政治・経済・文化など世の中の事象に鋭く切り込む、データサイエンティストの松本健太郎さん。松本さんは現在、消費者の隠れた心理をインサイトリサーチで解き明かす株式会社デコムでR&D部門のマネージャーを務めています。

「低欲望社会」「現状満足時代」などと称される成熟した日本では、消費者はもはや大きな不満もなければ、欲しい物を聞かれても「別に…」と答えるだけでしょう。その一方で、いつの時代であっても大ヒット商品が誕生しないことはありません。本当は欲しい物はあるのです。

そのギャップを埋め、「特に欲しい物はない」と言う消費者に、「あなたが欲しい物はこれでしょう!」と提示する商品・サービスの開発に役立つのが「インサイト」です。

では、インサイトをどのように見つけ、それをアイデアとして具現化するにはどうすれば良いのでしょうか。

今回は株式会社デコムの松本健太郎さんをインタビューしました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、人物撮影:海保 竜平)

    

目次

データ万能主義への違和感から始まった消費者理解への道

――Twitterでは「松本さんのような記事を書きたい」「松本さんのようになりたい」との投稿も見られますので、まず経歴を教えてください。

わかりました。2007年に社会人としてスタートしまして、前職では主にデジタルマーケティングの効果測定を行う「アドエビス」の開発を行うエンジニアをしていました。プログラマーから始まり、プロジェクトリーダー、プロジェクトマネジメントなど「PMO」と呼ばれるプロジェクト管理でキャリアの大半を過ごしています。

その過程で、アドエビスで取得した膨大なデータを活用するプロジェクトに参加することになり、それがきっかけでデータサイエンスに興味を持ちました。

――エンジニアからデータサイエンティストに転身されたんですね。

はい、とはいえデータサイエンスを独学で身に付けるのはやはり難しく、私も苦戦しました。このままでは自分の成長に限界があると感じ、社会人大学院に2年間通ってデータサイエンスを学びました。

――松本さんは読書家だし、勉強家ですよね。

読書も勉強も好きだから続けているのですが、それ以上に毎日必死で勉強しないと取り残されるという危機感を強く持っているからだと思います。

ところが、私自身の才能の問題もあって、データサイエンスにのめり込んでいるうちに「データでわかることには限界がある」という結論に私自身の中で行き着いてしまいました。理由は、データサイエンスとは何かというと、世の中の森羅万象を数字に置換した上で分析して意思決定をすることなので、そもそも数字にできない領域をどう考えれば良いのかと疑問を持ったからです。また、仮に全てを数字にできたとしても、数字だけで世の中の全てを解釈するのは無理があると思いました。

キャリアの中でこんな経験をしました。あるブランドワードの流入が直帰率60%で、Webサイト全体の直帰率80~90%と比較して優秀な数字だと考えていたら、ブランドの責任者に怒られたんです。「お客さまが自社の商品名でWebサイトを訪問しているということは、購入する気満々か、何か情報を知りたいかのどちらかなので、直帰率は0%でなければおかしい」と言うんですね。責任者が言いたいことはわかります。そんなことは現実にはないわけですが、「直帰率60%の理由は何ですか?」「なぜ答えられないんですか?」と聞かれて十分な回答を提示できない現実に直面したとき、「自分の考えているデータマーケティングの世界は、ブランド観点で見ると非常識なのかもしれない」「データがあれば全てわかるという考え方はおこがましいのではないか」と感じるようになりました。そこから消費者理解に興味を持ち始め、大学院時代に知り合った大松(孝弘さん)が代表取締役を務めるデコムに転籍しました。

「CVが20倍になるように考えてくれ」

――それで、現在のご活躍に至るというわけですね。執筆活動も旺盛で、最近出版された『なぜ「つい買ってしまう」のか?』(光文社新書)と『アイデア量産の思考法』(大和書房)も非常に評判が良いと聞きました。私も拝読し、「現状満足時代」「低欲望社会」における、「理由は特にない」という消費者心理を言語化する方法が素晴らしいと感じました。松本さん自身がこの本をひと言で表現するとしたら、何でしょうか。

「マーケティングリサーチ、すごい」ですね。

――マーケティングリサーチ、すごい?どういう意味ですか。

私は前職のデジタルマーケティング業界から、幅広い意味でマーケティングリサーチ業界に転籍したという感覚を持っています。ただ、デコムに来るまでマーケティングリサーチは衰退産業だと思っていました(笑)

――なぜですか?

いろいろな経営者の方が「お客さまは答えを持っているわけではない」と言っていて、「市場調査からは何もわからない」という忌避感を持たれていると感じていたからです。だから私も幅広い意味で「マーケティングリサーチは役に立たない」と考えていたこともありました。

実際はそうではなく、マーケティングリサーチも使い方次第であり、答えを知っているのはやはり消費者なんだと、この本で伝えたかったのです。ただし、問題は消費者への質問の仕方です。AppleのiPhoneはマーケティングリサーチから誕生したわけではないと言われますが、買い求めているのは消費者であり、消費者に適切な質問ができていれば、iPhoneにたどり着けた可能性はあると考えています。

――「この商品を買わない理由は何ですか?」「今の生活のどんな点が不満ですか?」「この商品ではなく、あの商品を購入した理由は何ですか?」と聞くからダメで、それでは「理由は特にない」としか返ってこないというわけですね。答えにたどり着くためには、消費者がつい行動してしまう「インサイト」を探し当てることが大切なんだと。では、そもそもインサイトとは何でしょうか。

あくまでデコムの定義ですが、「消費者を動かす隠れた不満」と表現しています。大事な点は「隠れている」と「人を動かす」の2つです。隠れていない場合は単なるニーズですから、マーケターが解決に向かって力を尽くせばいいわけです。隠れているのは、消費者が自覚していない、あるいはなぜ好きなのか自分で言語化できていないからで、そこがポイントになります。

もうひとつの「人を動かす」は、ビジネスですから、人が動かないと意味がありません。趣味でやっているのではないのですから。人が動かない隠れた心理の典型に占いがあります。私は「しいたけ占い」にインサイトをガッツリ取られていて、毎週月曜日の更新を楽しみにしているのですが(笑)、とはいえそれで私の行動が変わるわけではありません。何億円、何十億円が動くビジネスの場合、人が動かなければ話にならないので、そこを忘れてはなりません。

――なぜ今、ビジネスにインサイトが求められているのでしょうか。

代表の大松がインサイトに関心を持つきっかけとなった話をさせてください。大松は以前、九州でプランナーをしていました。九州は単品通販の猛者が大勢いらっしゃる、言わば「単品通販虎の穴」でして、CVRをいかに上げるか、コンテンツのレスポンスをどう高めるかについて激しい戦いを繰り広げています。

あるとき、クライアントさんから「大松君の出すキャッチコピーは面白くない。これでCVRが0.1%、1%上がったところでつまらない。そうではなく、CVが20倍になるようなキャッチコピーを考えてほしい」と言われたらしいんです。そのとき、いろんな意味でショックを受けたようで、そこからインサイトの追究とデコムの歴史が始まりました。

CVRを改善したほうが手堅いのは確かですし、その手法が多くの会社で一般化しているのもわかります。ただし、九州のクライアントさんが言うように、既存の延長線上で考えた施策を打ち、商品も広告も1年後にほぼ同じ世界観が広がっていることの何が面白いのか、と考える人もいます。特にFMCG(Fast Moving Consumer Goods、日用消費財)のように3カ月から半年に1回くらいのペースで新商品の開発が必要な業界は、改善と同時に大きく成果を伸ばす施策も求められます。そういうところには確実にインサイトのニーズがあると考えています。

――この低成長時代に0.1%ではなく、大きく20倍も伸ばすには、消費者のインサイト発見が大切だというわけですね。この「理由は特にないけど、大体いいんじゃないですか」という時代は、これからも続いていくとお考えですか。

大それた発言かもしれませんが、そこはマーケター次第だと思います。以前、P&G出身の方にデコムで講演をしていただいたときに、さすがだなと感じたことがあります。それは、顧問として参画している企業でいかにして売り上げを上げていくかを議論していたとき、「こんな人口減少時代に売り上げなんて上がるわけないじゃないですか」と言われて、腹が立ったという話です。人口減といっても、昨年比で5%減るわけではなく、せいぜい1%。前期比1%さえ売り上げを上げられないのか、と反発を感じたそうです。

人口が減っているのであれば、買っていただく頻度を増やす、あるいは別の商品と一緒にあわせ買いをしてもらえるようにするなど、1%であれば何とでも改善のしようがあるはずだとその方が話すのを聞いて、本当にその通りだと感じました。マクロの経済環境を抜きにすれば確かにそうですし、自社だけの観点で考えれば、いくらでも手の打ちようがあると思います。

――「大体いいんじゃないですか」という時代だからこそ、マーケターの腕が問われるし、インサイトの探究が欠かせないと。

その通りです。

インサイト発見につながる、観点ずらしの発想法

――ご著書を読みますと、非常に充実した内容でボリューミーですから、企業全体なら良いとしても、個人がすぐに全てを実践するのはなかなかハードルが高いのではないかと感じました。インサイトを見つける訓練を積むために、最低限実践すべき点があれば教えてください。

人間を見る訓練ですね。

――どんな訓練ですか。

例えば、「Marketing Native」なら、コアの読者層はマーケターだと思います。ただ、マーケターといっても、24時間マーケティングについて考えているわけではないですから、オフタイムに見る媒体は何だろうかと考えてみたり、社内の配置転換でマーケターになった人もいるはずなので、前の部署で興味を持っていたテーマは何だろうと考えてみたりするのも良いでしょう。職業や職種に引きずられて、近視眼的にそこだけに注目するのではなく、観点や軸をずらして、ターゲットが何に興味・関心を持っているのかに思いを巡らせることが大切です。

――具体的にはどのように観点や軸をずらせば良いのでしょうか。

デコムでは、人間がお金と時間をよく消費する範囲を整理した「生活14カテゴリ」を開発しました。つまり、人間の興味・関心はこの「生活14カテゴリ」に収斂(しゅうれん)されると考えられ、人間を見るための基準として提示しています。

【引用】株式会社デコム。アイコン作成はMarketing Native編集長・佐藤綾美

例えば、スポーツ競技で観戦者をもっと増やしたいとして、コアなファンはメッセージを送らなくてもスタジアムに足を運んでくれます。しかし、スタジアムに来てくれるファンの中には、競技自体には興味が薄いものの、イケメンの選手がいて、その選手が好きだからたまに見に来る人もいれば、スタジアムの雰囲気が好きだから来場する人もいるはず。つまり、マーケターとしてもっと視野を広げて、イケメンがたくさん掲載されている雑誌に目を通したり、別の競技の会場を視察したりして、ターゲットになり得る消費者がお金と時間を何に使っているのかを幅広く考えるのが重要だということです。その際、「レイヤーを1つ上げて考える」と言われてもなかなか難しいと思います。そんなときに使えるのが「生活14カテゴリ」です。

――「生活14カテゴリ」をヒントに、消費者の実態をもっと幅広く捉えることが「人間を見る」訓練であり、そこから得られたヒントを基にあらためて自分の業務にどう活用できるかを考えることがインサイト発見につながるわけですね。

はい、もう1回戻ってくる感じです。

――ご著書の中にもインサイト発見の事例がたくさん掲載されていますが、ほかにもケースはありますか。

『マーケティング・リフレーミング』(有斐閣)という書籍に掲載されている東洋水産の事例が面白いと思います。マルちゃんの商品に「鍋用ラーメン」があります。ラーメンを食べるとき、一度下茹(ゆ)でをしないといけない生麺タイプってありますよね。でも東洋水産の「鍋用ラーメン」は半生乾燥麺という技術を採り入れ、下茹で不要で生麺のような食感を楽しめます。

鍋の締めというと、今でこそ「うどん」や「おじや」の次の3番手にラーメンがありますが、以前はラーメンを締めにする習慣はあまりなかったそうです。理由のひとつは下茹でが必要だからです。「じゃあ締めにしようか」となったときに、誰かが一度席を立って台所に行き、麺を下茹でしてから、もう一度戻って麺を鍋に投入するのは確かに少し手間がかかります。あるとき、東洋水産の担当者が家族団らんで鍋を囲んでいるときに、一度席を離れて台所で下茹でをしているお母さんの後ろ姿がちょっと悲しそうで、かわいそうだと思ったそうです。これはインサイトですね。

【イラスト】Marketing Native編集長・佐藤綾美

――ラーメンだけを見て、新商品を考えていたのでは…。

出てこない発想です。東洋水産はバリュープロポジションとして、鍋の締めで食べる下茹で不要のラーメンを実現し、爆発的にヒットしました。

この話はほかにもポイントがあります。メーカーからすると、ラーメンは専用のスープで食べるべきで、鍋の締めに麺を投入するなんて邪道だと思っていた社員の方も、もしかしたらいたかもしれません。そういう従来の価値観を超えて、邪道かもしれない使い方をメーカーが認めた上で、鍋の締め用ラーメンを作り大ヒットさせるに至ったのは、インサイトの事例として非常に興味深いと思います。

CMを見ながらできるインサイト発見力の鍛え方

――松本さん自身は日頃、インサイト発見のために努力していることはありますか。ご著書には「街ブラでインサイトを見つけられるのは天才だけ」との趣旨が書かれていますが、街ブラはいかがでしょうか。

街ブラはしないです。

――では、どのように人間を見る訓練をしているのでしょうか。

CMを見ています。15秒から30秒のCMのために、企業はお金・時間・人など多くのリソースを使っています。つまり、CMには企業が訴えたい多くのメッセージが込められているということです。ですからCMを見ながら企業が発信するさまざまなメッセージを読み解き、仮説を立てる訓練をすると、マーケターとしての能力向上につながると思います。

――例えば、どんなCMが印象に残っていますか。

サントリーの「天然水」ブランドです。水道水でもいいのに、なぜわざわざ「天然水」を購入するのか。これはサントリーの人がインタビューで答えていたのですが、消費者は単に水を買っているのではなく、南アルプスの空気を含めて買っているんだ、と。だからパッケージデザインはくっきりと描かれた稜線と雪山ですし、CMも南アルプスの大自然と、そこから湧き出るひんやりした天然水を描いて、ストイックなイメージを前面に打ち出しています。消費者は南アルプスの山々から湧き出る天然水をサントリーが丁寧にパッケージして届けてくれるから、飲むことでCMの世界のようなひんやりした空気を一緒に味わっているんだと聞いて、なるほどなと思いました。消費者が「水ならどれでもいいけど、毎日仕事でクタクタだし、休日も遠出できるわけじゃないし、せめて水くらいは南アルプスで採水された天然水を飲んで、気持ちと体をリフレッシュさせたいよね」と考えるのは、インサイトとしてあると思います。

一方、日本コカ・コーラから出ている「い・ろ・は・す」のCMは、タッチが全然違います。

【イラスト】Marketing Native編集部・佐藤綾美(両社のCM動画を基に作成)

――確かに、渡辺直美と土屋太鳳が楽しそうで、にぎやかですね。

同じペットボトルの天然水なのに、なぜこんなにCMのタッチが違うのかと考えたのですが、「天然水」ブランドが自然の厳しさ、ストイックさを打ち出しているのに対して、「い・ろ・は・す」のCMは「平日は仕事で疲れているし、休日もグタッとしていたいのに、水までそんなストイックなことを示されても…」というインサイトを捉え、対立概念として提示したのではないかと感じたんです。一方は南アルプスで宇多田ヒカルが1人、もう一方は「あなたの近くで採れた天然水」で、渡辺直美と土屋太鳳を中心にいろんな人が出ていて、ストイックさではなく親しみやすさや楽しさを訴えています。

――面白いですね。

答え合わせができるわけではないですが、「い・ろ・は・す」のCMは「南アルプスの天然水」を念頭に置いたクリエイティブではないかと感じました。こういう観点でCMを見ていますね。

ファン化より新規顧客の開拓を

――なるほど。インサイトについてもう1つお聞きしたいのは、顧客をファン化させ、ロイヤルティを高めることにもインサイトの深掘りが有益なのかという点です。

よく「ファン化させることが大事」「ロイヤルティの形成が重要だ」などと言われますが、インサイトを深掘ればロイヤルティが高まるかどうかは、そんなに簡単ではないと考えています。もしかしたら事例があるかもしれませんが、デコムとしても明確な答えが出せていない状況です。

例えば、人気の飲食店として知られていたのに、3年から5年経過するうちに少しずつ客足が落ちてくることがあります。「いきなり!ステーキ」はその典型で、程度の差こそあれ、ある程度飽きられてしまうのは仕方がない話です。

インサイトがあれば一生飽きずに同じ商品を買い続けてくれるのか?答えはノーだと思います。新たにインサイト「B」を提示して購入する理由を発見しないといけません。インサイト「A」をきっかけに商品を購入したものの、飽き始めた消費者群を調査して発見したインサイトを「A’(ダッシュ)」とします。一方、全ての消費者を対象に調査して発見したインサイトを「B」とします。「A’(ダッシュ)」と「B」のどちらが、より売り上げに貢献するのか。断定できる答えを持ち合わせていませんが、「B」ではないでしょうか。常に数の多い消費者に目を向けたほうが、結果的により多くの売り上げにつながるのではないかと思います。

――そうすると、継続購入していただいてファン化させるのは簡単な話ではないんですね。

そうですね。だからこそ、新規顧客を獲得し続けることが大切です。CRM的なファンマーケティングやサブスクリプションサービスが人気ですが、効果的なブランドと、そうでないブランドがあると思いますし、ユーザーを飽きさせない斬新な発想で常に工夫し続けるのはなかなか大変です。しかもユーザーの大半はライトユーザーで、自社商品を永久に買い続けてくれるわけではありません。ですから、マーケターはユーザーの購入頻度を上げることも大切ですが、何よりも新規顧客を開拓するほうに目を向けるべきだと考えていて、それに役立つのがインサイトの発見です。

AIがインサイトを探り当てる可能性とマーケターの役割

――わかりました。では、AIとインサイトの関係性はいかがでしょうか。松本さんはAIの取材をよくしていますが、人間が考察を重ねて深掘りしなくても、AIが消費者のインサイトをサクサク提示してくれる時代は来ますか。

意外と早く来ると考えています。インサイトとはミーニング、つまり意味、意味づけの世界です。例えば、水の商品開発を「美味しさ」の軸で戦うと、「美味しい」「すごく美味しい」「さらに美味しい」「本当に美味しい」など上位互換の話になっていきますが、各メーカーは今、そういう機能価値ではなく、情緒価値、つまり「あなたにとってこの水はどれくらいの意味があるか」を訴えています。「南アルプスの天然水」も「い・ろ・は・す」も同様で、CMでは基本的に水の美味しさではなく、「南アルプスの冷たい空気」や「あなたの近くで採水された、みんなの水」を訴求していると考えています。

そんなふうに、何かしら訴求しているけど、意味解釈は個人に委ねられるという状況を作り出すのは、AIは非常に得意だと思います。以前、電通のAIコピーライター「AICO」を取材したのですが、あれも基本的には無数の言葉の組み合わせで意味があるような表現を提示しているだけで、意味解釈は人間に委ねられています。

つまりAIで「本当にあなたが欲しかったのは、これではないですか」という組み合わせを大量に作成し、かつマーケティングリサーチをかけて、「こういうのが一定層に好かれる傾向があります」とデータを基にスクリーニングすれば、人間が考えるよりもはるかに大量で精度の高いアイデアをAIが作り出すのは可能だと思います。

――最終的に考えるのは人間だけど、そのヒントになるような材料は、AIが人間の思考をはるかに上回る量を出してくるだろう、と。

そういう気がします。

――最後に、現状満足時代を打破する鍵となるインサイトの重要性について、あらためて説明をお願いします。

インサイトと聞くと「難しい」と感じてしまうかもしれませんが、要するに「自社商品やサービスがなぜ売れているのか、なぜ売れていないのかを、消費者心理目線でどれだけ語れますか」ということです。

自社プロダクトの機能的特徴や強みを話せる人は大勢いても、「消費者はなぜこのプロダクトを使いたいのか?」「競合にも良いプロダクトが複数あるのに、御社のプロダクトを選ぶ消費者はどこにメリットを感じているのか?」と聞くと、的を射た答えをできない人は少なくありません。それはもったいないことです。それを的確に言語化できる人がマーケターを名乗るべきだと考えています。

――わかりました。本日はありがとうございました。

Profile
松本 健太郎(まつもと・けんたろう)
株式会社デコムR&D職(研究開発)マネージャー。
多摩大学大学院経営情報学研究科修了。株式会社ロックオン(現イルグルム)を経て、2018年デコム入社。現在同社R&D部門を統括。主な著書に『データサイエンス「超」入門』(毎日新聞出版)、『グラフをつくる前に読む本』(技術評論社)、『なぜ「つい買ってしまう」のか?』(光文社新書)、『アイデア量産の思考法』(大和書房)など。

[記事執筆者] 早川巧
株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writerとして四半世紀以上のキャリアあり。Twitter:@hayakawaMN

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう