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インタビュー

秤代表・小川貴史に聞く「尖ったマーケターになるためのキャリア形成と勉強の仕方」

最終更新日:2023.06.06

Marketer’s Career #01

株式会社秤 代表取締役社長

小川 貴史

Marketing Nativeでは2020年4月から人材紹介業「Marketing Native Career」を開始し、自身の経験を活かしてキャリアアップを検討しているマーケターと、自社のビジネスの成長に必要な人材を求める企業のマッチングを行っています。

2019年12月に株式会社秤を立ち上げた小川貴史さんもMarketing Native Careerに登録しているマーケターの一人です。現在は複数の企業で兼務しながら、個人向けに研修を開催するなど、多方面で活動しています。

小川さんがキャリアをスタートしたのは、イベント制作会社でした。そこからどのようなきっかけでマーケティングの仕事に携わり、マーケターとして独立したのでしょうか。今回はMarketing Native Career特別インタビューとして、株式会社秤 代表取締役社長の小川貴史さんにご自身のキャリアをはじめ、マーケターとしてのキャリア形成のポイントについて話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集長・佐藤綾美、撮影:矢島宏樹)

目次

意思決定に必要な秤を提供したい

――Marketing Native Careerにご登録いただき、ありがとうございます。担当者が喜びながらも驚いていました。ご登録いただけたのはなぜでしょうか。

Marketing Native CareerのことはTwitterで知り、CINCさんの知り合いに連絡して登録してもらいました。プロ人材市場におけるマーケティング業務は、例えばデータ分析や広告運用などの戦術寄りの実行支援が多いと感じていて、その点Marketing Native Careerには自分の得意としている戦略寄りの業務の求人があるのではないかと考えたからです。

――わかりました。小川さんはこれまでネットイヤーグループやカーツメディアワークスなど複数企業を経験し、現在はフリーランスのように活躍しています。マーケターの中には、小川さんのように独立して複数企業にまたがる活躍をしたいと考えている方もいると思うので、本日はキャリアのことについて詳しくお聞きします。まずは経歴を教えてください。

キャリアのスタートはイベント業界からです。イベント会社の映像機器オペレーターから始まり、ディレクターやプロデューサーを経た後、総合広告代理店に転職し、新規営業職やマーケティングプランナーを経験しました。セールスプロモーションからTVCMのバイイングまで幅広く関わり、その後はDAサーチ&リンクや電通ダイレクトフォース(現・電通ダイレクトマーケティング)でダイレクトマーケティングの経験を積んだあと、ネットイヤーグループ、PR会社のカーツメディアワークスでコンサルティングに特化した業務に携わってきました。

2019年12月に株式会社秤(はかり)を設立し、現在は秤の代表として兼業ワーカーに近い形で5社以上の企業で兼務しています。

――2019年12月に秤を立ち上げたのはなぜでしょうか。

秤に関する思想がおぼろげにあって、ちょうど2020年3月にビジネス書を出す予定だったので、せっかくなら自分の肩書きとして秤の社名を載せたいと考えたのがきっかけです。出版社も決まっていましたが、事情があって書籍の刊行は取りやめました。

「秤」という社名は、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)を再生させたことで知られる森岡毅さんの企業名「刀」に触発されて、「マーケティング組織に『秤』を提供したい」との思いから付けました。メインミッションは「マーケター、あるいはマーケティング組織に『秤』を提供する」です。マーケターや企業が適切な意思決定を行えるよう、必要な知識やノウハウを提供したり、コンサルティングなどでサポートしたりします。

日本のマーケティングの現場には統計学や因果推論などの基礎知識が浸透しておらず、それゆえに誤った意思決定を行っているケースが多いと感じています。こうした課題意識を抱えるようになったのは、書籍『Excelでできるデータドリブン・マーケティング』(マイナビ出版)を執筆していた最中で、知識を身に付けて過去を振り返ると、自分のやってきた意思決定にも誤りがあることに気付いたのです。たとえばTVCMを実施した前後の売り上げを単純比較して効果を考える(※)など、マーケティングの意思決定にまつわる議論の中には不毛なものが多いとも感じました。そのため、秤では統計学や因果推論などの分析ノウハウを提供し、マーケターの意思決定のレベルを底上げしたいと考えています。

ちなみに秤は自身の世界観を表現するための会社で、スケールさせる意思はありません。アシスタントは雇うかもしれませんが、社員を採用するつもりはないんです。

※因果推論の分析では、単純な前後比較による効果の推定は「前後比較デザイン」と呼ばれ、効果を把握したい原因(プロモーション施策など)と結果以外の第三の要因(トレンドなど)を考慮できない、平均への回帰などの課題があるとされている。より信頼性の高い因果推論の分析のデザインとして「差分の差分法」などがある。

――現在は業務委託で受けている仕事がメインなのでしょうか。

はい、月間10~30時間程度のタイムチャージをベースとした契約で複数社からの業務委託を受けており、6割ほどの稼働が埋まっています。今後は、残り3割で法人向けの研修やコンサルティングなどの追加の業務に対応し、1割で個人向けの研修を行っていく予定です。業務委託で担っている役割の例を挙げると、データレイクを構築しAutoML(Automated Machine Learning)による予測や推定を駆使したDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するDATAFLUCTのエバンジェリスト、パナソニックのD-Locator’s HUB(※)のアドバイザリーメンバー、SaaS型インタラクティブ動画プラットフォーマーのMILのエバンジェリスト兼データアナリスト、ネットイヤーグループのマーケティングストラテジスト、カーツメディアワークスのフェローです。

個人向けの研修では、マーケティング・ミックス・モデリングをExcelで実装する「【Excelでできる】統計モデルで効果検証」や、森岡毅さんと今西聖貴さんの共著『確率思考の戦略論』で紹介された需要予測をExcelで実装する「【Excelでできる】確率モデルで需要予測」などの講義をオンラインで開催しています。2018年に『Excelでできるデータドリブン・マーケティング』を刊行したのもマーケターに統計学や因果推論などの基礎知識を浸透させるためで、可能な限りわかりやすくしたつもりでしたが、「難しい」と言われてしまったんです。そこで、拙書の知識の要点をわかりやすくレクチャーするための個人向け講義を作りました。また、『確率思考の戦略論』はマーケターに人気があるものの、書籍を読んで実際に分析する方がなかなかいないことをもったいないと感じており、紹介されていた分析法の一部を演習する「【Excelでできる】確率モデルで需要予測」という講義も作りました。今後は企業向けの研修の提供にも注力したいと考えています 。

※D-Locator’s HUB:データを活用したマーケティングや商機の提案をパナソニック社内で横断的に行っているメンバーのチーム名。Digitalizationへの道を拓くLocators(水先案内人)という意味が込められている。

「【Excelでできる】統計モデルで効果検証」
「【Excelでできる】確率モデルで需要予測」

量産型ザクにはなりたくなかった

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・年間7億円の広告運用を任せられるほどの信頼を獲得
・浮ついた情報収集は意味がない

記事執筆者

佐藤綾美

株式会社CINC社員、Marketing Native 編集長。大学卒業後、出版社にて教養カルチャー誌などの雑誌編集者を経験し、2016年より株式会社CINCにジョイン。
X:@sleepy_as
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