インタビュー
2020.08.12

秤代表・小川貴史に聞く「尖ったマーケターになるためのキャリア形成と勉強の仕方」

Marketer’s Career #01

株式会社秤 代表取締役社長

小川 貴史

Marketing Nativeでは2020年4月から人材紹介業「Marketing Native Career」を開始し、自身の経験を活かしてキャリアアップを検討しているマーケターと、自社のビジネスの成長に必要な人材を求める企業のマッチングを行っています。

2019年12月に株式会社秤を立ち上げた小川貴史さんもMarketing Native Careerに登録しているマーケターの一人です。現在は複数の企業で兼務しながら、個人向けに研修を開催するなど、多方面で活動しています。

小川さんがキャリアをスタートしたのは、イベント制作会社でした。そこからどのようなきっかけでマーケティングの仕事に携わり、マーケターとして独立したのでしょうか。今回はMarketing Native Career特別インタビューとして、株式会社秤 代表取締役社長の小川貴史さんにご自身のキャリアをはじめ、マーケターとしてのキャリア形成のポイントについて話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集長・佐藤綾美、撮影:矢島宏樹)

目次

意思決定に必要な秤を提供したい

――Marketing Native Careerにご登録いただき、ありがとうございます。担当者が喜びながらも驚いていました。ご登録いただけたのはなぜでしょうか。

Marketing Native CareerのことはTwitterで知り、CINCさんの知り合いに連絡して登録してもらいました。プロ人材市場におけるマーケティング業務は、例えばデータ分析や広告運用などの戦術寄りの実行支援が多いと感じていて、その点Marketing Native Careerには自分の得意としている戦略寄りの業務の求人があるのではないかと考えたからです。

――わかりました。小川さんはこれまでネットイヤーグループやカーツメディアワークスなど複数企業を経験し、現在はフリーランスのように活躍しています。マーケターの中には、小川さんのように独立して複数企業にまたがる活躍をしたいと考えている方もいると思うので、本日はキャリアのことについて詳しくお聞きします。まずは経歴を教えてください。

キャリアのスタートはイベント業界からです。イベント会社の映像機器オペレーターから始まり、ディレクターやプロデューサーを経た後、総合広告代理店に転職し、新規営業職やマーケティングプランナーを経験しました。セールスプロモーションからTVCMのバイイングまで幅広く関わり、その後はDAサーチ&リンクや電通ダイレクトフォース(現・電通ダイレクトマーケティング)でダイレクトマーケティングの経験を積んだあと、ネットイヤーグループ、PR会社のカーツメディアワークスでコンサルティングに特化した業務に携わってきました。

2019年12月に株式会社秤(はかり)を設立し、現在は秤の代表として兼業ワーカーに近い形で5社以上の企業で兼務しています。

――2019年12月に秤を立ち上げたのはなぜでしょうか。

秤に関する思想がおぼろげにあって、ちょうど2020年3月にビジネス書を出す予定だったので、せっかくなら自分の肩書きとして秤の社名を載せたいと考えたのがきっかけです。出版社も決まっていましたが、事情があって書籍の刊行は取りやめました。

「秤」という社名は、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)を再生させたことで知られる森岡毅さんの企業名「刀」に触発されて、「マーケティング組織に『秤』を提供したい」との思いから付けました。メインミッションは「マーケター、あるいはマーケティング組織に『秤』を提供する」です。マーケターや企業が適切な意思決定を行えるよう、必要な知識やノウハウを提供したり、コンサルティングなどでサポートしたりします。

日本のマーケティングの現場には統計学や因果推論などの基礎知識が浸透しておらず、それゆえに誤った意思決定を行っているケースが多いと感じています。こうした課題意識を抱えるようになったのは、書籍『Excelでできるデータドリブン・マーケティング』(マイナビ出版)を執筆していた最中で、知識を身に付けて過去を振り返ると、自分のやってきた意思決定にも誤りがあることに気付いたのです。たとえばTVCMを実施した前後の売り上げを単純比較して効果を考える(※)など、マーケティングの意思決定にまつわる議論の中には不毛なものが多いとも感じました。そのため、秤では統計学や因果推論などの分析ノウハウを提供し、マーケターの意思決定のレベルを底上げしたいと考えています。

ちなみに秤は自身の世界観を表現するための会社で、スケールさせる意思はありません。アシスタントは雇うかもしれませんが、社員を採用するつもりはないんです。

※因果推論の分析では、単純な前後比較による効果の推定は「前後比較デザイン」と呼ばれ、効果を把握したい原因(プロモーション施策など)と結果以外の第三の要因(トレンドなど)を考慮できない、平均への回帰などの課題があるとされている。より信頼性の高い因果推論の分析のデザインとして「差分の差分法」などがある。

――現在は業務委託で受けている仕事がメインなのでしょうか。

はい、月間10~30時間程度のタイムチャージをベースとした契約で複数社からの業務委託を受けており、6割ほどの稼働が埋まっています。今後は、残り3割で法人向けの研修やコンサルティングなどの追加の業務に対応し、1割で個人向けの研修を行っていく予定です。業務委託で担っている役割の例を挙げると、データレイクを構築しAutoML(Automated Machine Learning)による予測や推定を駆使したDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するDATAFLUCTのエバンジェリスト、パナソニックのD-Locator’s HUB(※)のアドバイザリーメンバー、SaaS型インタラクティブ動画プラットフォーマーのMILのエバンジェリスト兼データアナリスト、ネットイヤーグループのマーケティングストラテジスト、カーツメディアワークスのフェローです。

個人向けの研修では、マーケティング・ミックス・モデリングをExcelで実装する「【Excelでできる】統計モデルで効果検証」や、森岡毅さんと今西聖貴さんの共著『確率思考の戦略論』で紹介された需要予測をExcelで実装する「【Excelでできる】確率モデルで需要予測」などの講義をオンラインで開催しています。2018年に『Excelでできるデータドリブン・マーケティング』を刊行したのもマーケターに統計学や因果推論などの基礎知識を浸透させるためで、可能な限りわかりやすくしたつもりでしたが、「難しい」と言われてしまったんです。そこで、拙書の知識の要点をわかりやすくレクチャーするための個人向け講義を作りました。また、『確率思考の戦略論』はマーケターに人気があるものの、書籍を読んで実際に分析する方がなかなかいないことをもったいないと感じており、紹介されていた分析法の一部を演習する「【Excelでできる】確率モデルで需要予測」という講義も作りました。今後は企業向けの研修の提供にも注力したいと考えています 。

※D-Locator’s HUB:データを活用したマーケティングや商機の提案をパナソニック社内で横断的に行っているメンバーのチーム名。Digitalizationへの道を拓くLocators(水先案内人)という意味が込められている。

「【Excelでできる】統計モデルで効果検証」
「【Excelでできる】確率モデルで需要予測」

量産型ザクにはなりたくなかった

――小川さんはこれまで数々の企業を経験しています。転職するときの軸があれば、教えてください。

詳しくない方には刺さらないかもしれませんが、ガンダムに例えると、私は量産型ザク(※)になりたくなかったのです。悪役でも何でもいいので、尖ったやつになりたい。20代の頃から「自分にしかできない仕事やバリューをつくらないとマズい」という危機感を強く持ってキャリアを築いてきました。これから先に伸びるジャンルを常にキャッチアップして転職先を選び、自身のスキルの幅を広げてこられたと思います。

※ザク:ガンダムシリーズに登場する、敵側勢力の主力量産型モビルスーツの一つ。

――量産型ザクにならないためにも、今後伸びるジャンルをキャッチアップし、転職したということですね。

そうですね。9年前、33歳のときに、総合広告代理店からインターネット広告代理店のDAサーチ&リンクに転職したのが自分にとってのターニングポイントだと思います。

当時、総合広告代理店と比較して、インターネット広告代理店は人気があまりなく、周囲の人からも「なぜネット系の企業に行くの?」と言われました。しかし、「これからはインターネットが伸びて、デジタルマーケティングが重視されるだろう」と予測したのと、幹部にかつての上長がいたこともあって、DAサーチ&リンクを選んだんです。当時の総合広告代理店マンにしてみれば、いばらの道とも言える選択だったと思います。TVCMのバイイングと比較して運用型広告のタスクは細かく煩雑でしたが、工夫次第でクライアントのビジネスに数値的な成果をもって貢献できることにやりがいを感じるようになりました。

DAサーチ&リンクで新規営業を担当した後に転籍した電通ダイレクトフォース(現・電通ダイレクトマーケティング)ではマーケティング・ミックス・モデリングを学び、書籍の執筆につながるノウハウのベースができました。松本健太郎さんと出会ったのもこの頃で、会社のWebサイトに載せるコンテンツの企画で対談させていただき、データサイエンスを学ぶきっかけができました。それから松本さんを心の師匠として慕っています。電通ダイレクトフォースに5年ほど勤めた後、転職したのがネットイヤーグループでした。

――それも、いばらの道をあえて選んだのでしょうか。

いえ、ネットイヤーグループに転職したのは、いばらの道を選んだのではなく、同社の経営者や社員の方々を尊敬していたからです。たとえば、尊敬するプロデューサーの日下陽介さんは、施策やテクノロジーを売るのではなくクライアントのビジネスやサービスデザインのようなところから絵を描いて関係者を動かし、プロジェクトにまで落とし込んでしまうんです。広告マンとは発想の仕方が全く違うと思いました。私もそうした支援ができるようになりたいと考えて転職しました。

とはいえ、カルチャーの違いに慣れなくて、入社当初は結構苦労しました。どちらかと言うと、物事を定義せずに感覚的な働き方をしてきたのが、プロジェクトや会話する内容などをしっかりと定義するカルチャーの会社に移ったのでつらかったです。要件定義やMECE(ミーシー)などの言葉も知らない状態でしたから。

デジタルマーケティング界隈の方々は、自分たちが稼働する工数をベースに見積もりを計算するので、自然と相手の時間も尊重するカルチャーがあると思います。今はこうした建設的な働き方のほうが性に合っていますし、ネットイヤーグループで学んだ「稼働するということは、時間をチャージすること」といった考え方は今の仕事に活きています。

年間7億円の広告運用を任せられるほどの信頼を獲得

――これまで携わったマーケティング施策の中で、成果を上げたと思うエピソードを教えてください。

どの会社に勤めていたときかは言えませんが、テレアポで獲得したクライアントに成果を認められて、最終的に年間7億円の広告運用を任されるようになったことがあります。

初めは月額30万円でディスプレイアドの最適化を担いました。緻密に運用して少しずつ成果を上げたところ、その実績が評価され、次に月額600万円程度で一部のリスティング広告、最終的には年間7億円(月額4,000万~8,000万円)でアフィリエイトやDSP広告を含む運用型広告ほぼすべてを任されるようになりました。自分とアフィリエイト運用コンサルタント、アシスタントの3名で担っていたので、そのぶん責任も重かったのですが、嬉しかったです。

また、このクライアントの運用型広告を担当していたときに、月々の運用とは別予算でYouTubeのインストリーム広告(※)にチャレンジさせてもらい、ある時期に日本で一番スキップされていない動画広告を作ったのも成果の一つです。YouTubeの視聴特性を考慮し、脱力系ギャグのCMを有名なフラッシュアニメ制作会社に1000万円で制作してもらい、30秒以上の再生回数は月間300万回を記録しました。30秒未満の再生も含めると月間1200万回以上のペースです。当時はまだ大手企業も動画広告に参入していないようなYouTubeの黎明期だったこともあって、30秒以上の再生で課金されるインストリーム広告の1課金あたりの金額は1円強でした。2~3カ月配信し、ブランドの指名検索数と指名検索数によるコンバージョン数も2倍になり、クライアントにも非常に感謝されたのを覚えています。

※インストリーム広告:YouTubeの動画再生前または再生中、再生後に表示される動画広告。5秒経過後にユーザーがスキップできるタイプと、できないタイプ(ただし動画広告は15秒以下の長さになる)がある。

――年間7億円を任せてもらえるのはすごいですね。

その依頼を受けたとき、電話口では「はい、わかりました。ありがとうございます」と冷静に対応し、電話を切ってから大喜びしました。私にとって初めての金額でしたが、電話口で大喜びしたらクライアントも「この人初めての受注金額なのかな?」と不安になるでしょう。クライアントを安心させるため、自分自身を洗脳するために「月額3億円くらい回しているので、安心してください」という雰囲気を醸し出すように意識しました。

こうしたハッタリが時には重要で、自身の成長にもつながると私は思っています。例えば年間1億円しか担当していなくても、10億円を任されているような雰囲気を出すんです。クライアントを安心させるために必要な振る舞いを身に付けるよう努力しますし、「10億円を任されている自分」に追いつくために必死に勉強するでしょう。

――小川さんがこれまで成果を上げてこられたのはなぜだと思いますか。

行動力と「取捨選択する力」、そして「常識を疑う力」があったからだと思います。

例えば、100人くらいの勉強会などでは、講義が終了した後に必ず講師のところに挨拶に行って、質問をするようにしていました。別の講義を教えてもらって「次はそこにも参加させてください!」と言って実際に参加するので、講師の方とすぐに仲良くなるんです。自分が講師側に立つようになってからも、そうした積極的な行動を取る人は意外と少ないと感じています。話しかけるうえでは当然最低限のマナーも必要ですが、同じ時間を使うなら、挨拶したり積極的に質問したりしないのはもったいないと思います。

私が成果を上げることができた2つめの理由は、代替できないキャリアや立場をつくるために、時間の使い方を取捨選択してきたからです。努力しても将来につながるスキルにならないような仕事は極力避けました。すべてを避けることはできませんが、「私はこの仕事はやりません。代わりにこの仕事をやります」とコミットする姿勢を示すんです。そうすれば、サラリーマンでも意外と仕事を選べると思います。

将来につながらなさそうでも、背負わなければいけない仕事が発生したことももちろんあります。そういうときは、その仕事を突き詰めて、将来につながるように転換させるんです。過去に、自身の営業数字をいったん無視してでも精神的に参った後輩を助ける必要があり、通常業務とは関係のない労務や法律を深く学んだことがありました。独立した今となっては、そのときの知識が今後の役に立つだろうと思っています。

3つめは、果敢に新しいことにチャレンジしてきた中で、常識を疑えるようになったことです。20代のときに担当した新規営業では、クライアントのマーケティングにおける全体予算の内訳や本質的な課題を聞けるような関係性になるまで、アポイントから始まり、仕事を経て、1年ほどの期間を要していました。しかし、見込み客向けにマーケティング・ミックス・モデリングのノウハウに関するセミナーを開催してみると、初対面の経営者や幹部の方から、年間数10億円規模のマーケティング予算の内訳や内容を教えていただけることが何度かあったのです。「これまでの営業プロセスは何だったのか」と目から鱗が落ちました。

それから、常識を捨てて根本から仕事のやり方を変え、最短距離で営業する方法を考えた結果、マーケティング・ミックス・モデリングの分析で培った知見を体系化した書籍の出版に思い至りました。書籍を一人でも多くの方に手に取ってもらい、自らのバリューも高めつつ、マーケティング資源配分の全体最適を担うコンサルタントを目指したのです。先ほども申し上げたように、多くのマーケターには難しい内容となってしまい、書籍は爆発的なヒットとはなりませんでしたが、通販ではロングテールで堅調に売れています。『Excelでできるデータドリブン・マーケティング』の出版がなければ、今のように独立して兼業ワーカーとして自走している状態はあり得ませんでした。

浮ついた情報収集は意味がない

――マーケターの中には、小川さんのような兼業ワーカー、または副業に近い働き方を検討している人もいると思います。そうした働き方のメリットと大変なところは何でしょうか。

私が複数の企業を兼務できているのは、これまで広告代理店やデジタルマーケティングコンサルティング会社など多様な企業に勤めた経験や、そこで得た幅広い視野が生きているからだと思います。いろいろな会社のカルチャーを知っているので、順応もそれほど難しくありません。兼業のメリットは、複数の仕事を兼務するぶん、得られる学びや気付きが多いことです。

一方で大変なのは、タスクやスケジュールの管理能力が求められるところでしょうか。仕事によって複数のメールアカウントやチャットツールを使い分けているので、契約締結後の初動では、各社のルールに沿ったタスクやスケジュール管理に慣れるまでは苦労します。

また、倫理観も問われると思います。兼務していると複数の企業のいろいろな情報を知るわけですが、もちろん守秘義務があるので勝手に第三者に話してはいけません。当たり前のことですが、本日話している内容も、オープンにしていい固有名詞とそうでない固有名詞はしっかりと意識していて、実名で紹介したいときはきちんと許諾を得ています。

――小川さんの経験を踏まえて、20代・30代のマーケターが中長期的なキャリアを形成するうえで勉強しておいたほうがいいことを教えてください。

データ分析を実際に行う勉強はすべきだと思います。これから、マーケティングにおいてAI活用の場面は確実に増え、分析や意思決定の自動化など、データを活用したデジタルトランスフォーメーションにマーケターが関わる場面も多くなっていくと思います。その際、そうした仕組みを作る側の人間になるか、それとも誰かが作ったツールを使うだけの人間になるか――前者になるほうが、個人の市場価値を上げることができるはずです。データリテラシーは、これからのマーケターにとって欠かせない基礎であり、筋肉だと考えています。筋肉がない状態でデータやAI活用に関連する事例記事を読み漁ったり、話を聞いたり、浮ついた情報収集ばかりしていても無意味だと思います。

――では、その筋肉を付けるためにどのような勉強をすれば良いでしょうか。

私の研修をどうぞ…というのは半分冗談で(笑)、とにかく手を動かして学ぶことです。私も数字や数式を見てもわからなかったので、とにかく手を動かして1000時間くらいは勉強したので、書籍を1冊書けるくらいになりました。

私の書籍や講座では、数理モデルによる効果検証の分析を演習することで、「数字(データ)から事象を説明(推定)する、または予測する感覚」を身に付けられます。その感覚は、マーケティング分析のAI活用を検討していく際に役立つデータリテラシーになると思っています。マーケターとしてのビジネス感覚を持ち、データサイエンスやデータエンジニアリング力を兼ね備える人材の需要は増えていき、相対的な価値も上がっていくでしょう。

データ分析に関連する知識は記事や書籍を読むだけでなく、手を動かして実装する努力をしないとなかなか身になりません。私もデータエンジニアリングにはまだ弱く、危機感を持っており、DATAFLUCTにジョインして活動しながら学んでいくつもりです。

――勉強以外で意識したほうがいいことはありますか。

ハッタリが大事と言いましたが、もっと大切なのはわからないことを「わからない」と言う素直さと勇気です。クライアントとの会議で、知らないと恥ずかしいであろう業界用語がわからなかったら、会話を遮ってでも、遠慮せずに聞きましょう。わからないまま話をするのは時間の無駄ですし、相手に対しても失礼です。これは勉強に対しても言えることだと思います。ただし、私が今のようにわからないことを素直に聞けるようになったのは、特定の領域で書籍を1冊出すくらいの勉強をして、プロと言えるプライドを持つことができたからです。わからないことにも徹底的に向き合って勉強し、自信をつけたことで、素直さと勇気を持てるようになりました。

また、良いキャリアを築く絶対条件は「自分の仕事の責任範囲を大きくしていくこと」だと考えています。たとえば支援会社の人が上司のクライアントを引き継ぐとき、細かくやり方を聞いて模倣していくか、初めは上司の方法を踏襲しつつ自分流の新しいやり方にチャレンジし、クライアントの信頼を得て上司がいなくても大丈夫な状態を作るか。成長できるのは後者だと思います。

同じ役割の仕事に就いていても、責任範囲を大きくしていける人と、そうでない人がいます。それはテクニックではなく、スタンスの差だと思います。独立してあらためて実感しましたが、企業に所属するぶん、個人事業主に比べてサラリーマンは安定しています。果敢にチャレンジして「自分の仕事の責任範囲を大きくしていくこと」がとにかく重要だと思います。

――最後に、小川さんご自身の今後のキャリアに関する抱負を教えてください。

まずは、DATAFLUCTのエバンジェリストとしての活動に注力しようと思っています。データを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)の先進的な取り組みをマーケティング業界に紹介していきたいです。AutoML(Automated Machine Learning)を活用し、SNSなどのデータから各企業が重視するKGIやKPIへの貢献を把握するアトリビューション分析に特化したSaaSも開発中のため、秋以降に紹介する予定です。もちろん他の業務委託先にもそれぞれ期待されている役割がありますので、いずれも全うできるよう邁進するのみです。

また、今後長期的に関わっていくのは「社会視点のデジタルマーケティング」です。情報銀行やスマートシティの動向には特に注目しています。たとえば自動運転技術を本格的に実装するには政治や行政との連携が必要ですが、現在はテクノロジーの発展に対して法整備が追い付いていない状況です。個人情報保護法の改正やスーパーシティ法案(※)の成立といった動きもあったように、先進テクノロジーの社会実装はまさにこれからです。単体企業としてのデジタルプラットフォームビジネスでGAFAなどに大きく水をあけられた日本企業が、更なるイノベーションにチャレンジすることは不可避だと思っており、「社会視点のデジタルマーケティング」に注目すべきだと思っています。

おかげさまで、今はインターネット広告運用やTVCMを含めたメディアプランニング、UXデザインやデータサイエンスなど、これまでの経験を活かして、さまざまな企業にアドバイスを行うことをビジネスにできています。秤に問い合わせが来たときに、1時間ほど課題を伺ったり質問に答えたりすることがありますが、その1時間の打ち合わせで示す指針が、最も高い価値を提供できると思っています。例えば「○万円でリスティング広告を回してほしい」とご依頼いただいても、よく話を聞くと、リスティング広告ではなくオウンドメディアのコンテンツマーケティングサイト化とSNSでのコンテンツ発信に注力したほうがいいこともあります。プロジェクトが動き出す初期段階でのアドバイスはそれくらい重要なので、Marketing Native Careerにはそうした価値を提供するCMO補佐やアドバイザー、壁打ち役などの求人とのマッチングを期待しています。

※スーパーシティ法案:「スーパーシティ構想」を盛り込んだ「国家戦略特別区域法の一部を改正する法律」のこと。通称「スーパーシティ法案」と言われている。

――良い求人をご案内できるよう、尽力いたします!本日はありがとうございました。

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Profile
小川 貴史(おがわ・たかし)
株式会社秤 代表取締役社長。
株式会社DATAFLUCTエバンジェリスト/パナソニック株式会社D-Locator’s HUB アドバイザリーメンバー/MIL株式会社 エバンジェリスト兼データアナリスト/ネットイヤーグループ株式会社 マーケティングストラテジスト/株式会社カーツメディアワークス フェロー。
イベント会社で映像機器オペレーター、ディレクター、プロデューサーを経た後、総合広告代理店へ転職。2011年にDAサーチ&リンクに転職し、新規営業を担当した後、2012年に電通ダイレクトフォース(現・電通ダイレクトマーケティング)へ転籍。2017年よりネットイヤーグループのアカウントマネージャー職、2018年よりカーツメディアワークスに執行役員兼デジタルマーケティング事業部長シニアコンサルタントとして勤める。2019年12月に自身が代表取締役社長を務める秤を立ち上げ、研修やコンサルティング事業などを提供している。著書に『Excelでできるデータドリブン・マーケティング』(マイナビ出版)がある。
Twitter:@dancehakase
note:https://note.com/ogataka
オフィスク講師プロフィール
https://hakari.jimdosite.com/

 

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佐藤綾美

記事執筆者

佐藤綾美

株式会社CINC社員、Marketing Native 編集長。大学卒業後、出版社にて教養カルチャー誌などの雑誌編集者を経験し、2016年より株式会社CINCにジョイン。
Twitter:@sleepy_as
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