[最終更新日]

2019/05/28

 

累計会員数1000万人を突破したPairs躍進の背景と課題、成長戦略

マッチングサービスの市場拡大が続いています。新規参入する企業も多く、サービスも続々と誕生。ビッグデータとAIを活用したマッチング機能のレベル向上により、将来的には数兆円の市場規模へ成長すると見られています。

そこで今回は、国内最大級の恋愛・婚活マッチングサービス「Pairs」と、ビジネスマッチングサービス「yenta」の2つを取り上げ、業界リーダーへ成長する原動力となったマーケティング戦略に焦点を当てます。

まず、Pairsの運営会社である株式会社エウレカ取締役CPO/CMOの中村裕一さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧)

    

目次

アジア展開の成功とブランディングの効果

――Pairsの累計会員数が1000万人を突破したということで、おめでとうございます。サービスのリリースが2012年10月で、特に2018年2月からの1年間では約300万人もの増加があり、143%の成長率を達成したとのこと。驚異的な数字ですが、背景にはどんな施策があったのでしょうか?

大きく2つあります。1つは展開国が増えたことです。1000万人は日本単体ではなく、台湾と韓国を含めた3カ国の数字です。台湾は2013年10月、韓国は2017年9月にリリースしています。日本のスタートアップの中でアジアで事業を拡大できている企業は少ないと思います。それが1つ目の成長要因です。

もう1つはブランディングです。Pairsを利用して結婚や交際に至った方々にお話を伺い、「Testimonials」(編集部注:「お客様の声」の意味)という形のクリエイティブをしっかりと腰を据えて作ってきた成果が現れたと考えています。

株式会社エウレカ取締役CPO/CMOの中村裕一さん(撮影・早川)

――今でこそPairsの健全性や安全性に関する認知度は高いですが、当初は「出会い系サイト」のような偏見を持っていた人もいると思います。そうした負のイメージをどのように払拭してきたのでしょうか?

これも大きく2つあります。1つは「顔を出して利用しても恥ずかしくない、安心安全で、普通に周りの人も利用しているサービス」であるという空気を醸成し続けてきたことです。

確かに最初は「出会い系」というイメージが一部でありましたので、ユーザーに安心して使っていただくために、リリース当初は実名制であるFacebookのソーシャルアカウントからPairsに会員登録できるようにしました。その際、「興味はあるけど、使っていることを友達に知られたくない」という人もいますので、Facebookからログインしてもニュースフィードには一切投稿されないことも明記しています。

そこからスタートして、基本的にマーケティングはFacebookに特化し、広告予算のほとんどをFacebookに寄せました。

画像提供:株式会社エウレカ

重点的に行った2つのイメージ戦略

――なぜFacebookに絞ったのですか?

FacebookからPairsにそのままログインできるので高いコンバージョン率を獲得できる点に加え、「Facebookでよく見るサービス」というイメージ付けが重要だと考えたからです。友達との間でも「あぁ、あのFacebookでよく見るサービスね」と話題にしやすくなります。最初は「Pairs」という言葉を検索する人も少ないですし、ユーザーに明確な印象を与えるという点で、Facebookに集中的に広告を打つ戦略は良かったと思います。

次に、ホームページ上にPairsで結婚や交際をした方々のインタビューを掲載するようにしました。それが「幸せレポート」です。今でこそ競合さんも同様のことを行っていますが、当時はPairs以外ほとんどありませんでした。これは現在も力を入れて取り組んでいまして、結果として「安心して顔を出せるサービス」であり、「使っていることが恥ずかしくない」「自分も恋人や結婚相手が見つかるかもしれない」という空気の醸成に役立っています。

ほかにも、大手企業とタイアップしたマッチングイベントを開催したり、B.LEAGUEさんやJリーグの湘南ベルマーレさんとスポーツ観戦のデートイベントを開いたり、電車や駅構内、タクシービジョンなどに一般のPairsカップルが登場する大々的な交通広告のキャンペーンを打つなどのブランディングを行い、「オープンに語れる、普通に使えるサービス」というイメージ付けを繰り返し実行してきました。それが1つです。

――もう1つは何でしょうか?

もう1つは、単純に若い人たちが出会い系を知らないということです。

――出会い系を知らない?

かつて出会い系サイトで問題が起きていたことを知らない人たちが20代にはたくさんいます。むしろ今はTwitterやInstagram、Facebookなどのソーシャルメディアを通して会話をしたり出会ったりすることは当たり前で、別に怖いことではないという認識が一般的です。その世代にとってPairsに登録するハードルは決して高くありません。したがって、半分は我々の努力であり、もう半分は時代が変わったということだと思います。

画像提供:株式会社エウレカ

24時間365日の監視体制で浸透した安全性に対するユーザーの意識

――自分は旧世代なので、結婚した方々のインタビューを見ても、「サクラではないか?」と考えがちなんです。しかし、検索すると「Pairsにサクラはいない」とすぐ出てきます。その辺も注力されたのでしょうか?

そうですね。まず、そもそも「サクラ」と「業者」は違います。ユーザーはその2つをあまり使い分けませんが、サクラとは企業が成りすましをすることです。もちろん、サクラはいません。もう1つは業者で、Pairsを悪用してマルチ商法を展開するような人がいると、ユーザーにサクラがいると思われてしまいます。これは問題です。

その対策として、公的証明書による年齢確認はもちろん、24時間365日のカスタマーケアと投稿監視体制を構築して、不正ユーザーを排除し、安心安全なサービスを作り上げる努力を継続しています。現在はテクノロジーの進化によって、機械学習で業者の検知を行ったりもしています。とはいえ、それを広告で謳ったから安心安全なイメージが定着するというわけではなく、むしろサービス運営上の前提条件かなと思います。

「恋愛・婚活」で純粋想起されるサービスへの取り組み

――Pairsの課題点を挙げるとすれば、何でしょうか?

地方ではまだ受け入れられているとは言い難いので、もっと地方に住んでいる方々にも利用してもらえるサービスにしたいというイメージはあります。

――弊社のユーザーに聞くと、「結婚のきっかけがマッチングアプリとは、まだ親には言いづらい」とのことでした。その点についてはいかがですか?

希望としては親世代にも理解されたいという思いはありますが、その世代にアプローチをしていくよりも、Pairsを通して結婚した方々、恋人ができた方々を増やしていけば、おのずと親世代にも理解されるときが来ると思っています。

――わかりました。では、中村さんが今、重点を置いている施策を教えてください。

やはりブランディングです。「結婚したい」「恋人が欲しい」と思った人たちが全員Pairsを利用しているようなトップ・オブ・マインド、純粋想起になるサービスブランドに育てていきたいと思っています。来年・再来年以降を考えたとき、ブランディングに関する施策はとても重要です。

――それは主に成功者の方々のインタビューですか?

そうです。誰かが「友達にPairsで結婚した人がいる」と言うと、「私の周りでもいる」と話が続く。そんな口コミの広がりを大切にしています。だからこそ、Pairsを利用していることを隠さず伝えられる”空気づくり”には重点を置いています。

アルゴリズムの活用で広がるマッチングの可能性

――これまでに集まった会員データの活用については、いかがですか?

基本的にはアルゴリズムです。我々は「軸をずらす」という言い方をしているのですが、恋愛・婚活というと、「身長が高くて、年収が高くて、見た目が良くて」となりがちで、それを検索条件に入力すると「身長180cm以上、年収1000万円以上」となってしまいます。本当は「身長178cmで年収600万円、趣味が同じ」という人と相性が良いかもしれないのに、現状の検索では出てこないわけです。不動産の物件探しで「30平米以上、家賃10万円未満」で検索したら、「29平米、家賃10万円未満」の物件が出てこないのと同じです。

その点をアルゴリズムでもっと柔軟にできないかというわけです。Pairsには、参加することで同じ趣味・価値観を持ったお相手を探すことのできる「コミュニティ」機能がありますので、コミュニティのデータを活用しながら「趣味がぴったりだから、この条件は少し柔軟にしてもいいのでは?」というレコメンドができれば、恋愛の可能性がもっと広がると思います。最初はそういうところにデータを活用したいと考えています。

エウレカ広報 実際に「散歩好きな男性はお風呂好きな女性と合う」とか「お寿司好きの女性は焼き肉好きの男性と合う」というデータがありまして、属しているコミュニティの分析から表示すると意外とマッチングするんです。

オンラインデーティングサービスが「文化」になる時代を目指して

――最後に、Pairsをこれからどのように発展、成長させていこうとお考えなのか教えてください。Pairsの成長性はいかがですか?

成長性という点で言うと、利用者の中心が東京なので、地方に浸透すればまだまだ伸びる可能性はあります。さらに国外の市場はもっと巨大ですから、成長性は非常に高いと感じています。

我々はPairsだけでなく、オンラインデーティングサービスを文化にしたいというビジョンを持っています。文化にするためには業界のリーダーであるPairsが成長していかないと市場も伸びませんし、伸ばしていくことによって世の中が良くなると本当に信じています。

恋愛したくない人に恋愛をしてくださいと言っているわけではありません。我々は、恋愛が楽しいと生活が豊かになると信じていますので、恋愛したいのにできないと思い込んでいる人や、忙しいという理由で諦めている人たちが恋愛のきっかけを見つけるサポートをしたいんです。そのためにも市場を拡大し、文化として定着させていきたいと思っています。

もう1つ、先ほど親世代の理解の話が出ましたが、やはり現状ではその世代の方々が企業やメディアで重要なポジションにいるのは事実です。彼らに理解してもらわない限り、世の中の認識が大きく変わることもないので、我々は業界のリーダーとして、健全性や安全性、社会意義性をより発信していきます。ですから、これからはPairsというよりもオンラインデーティング業界をどう発展させていくかがポイントになるかなと。

――なるほど。ちょっと、業界リーダーとしての余裕を感じます。

余裕はありません。なぜ余裕がないかと言うと、例えば、サブスクリプションビジネスの場合、Amazonのプライム会員に入会しても、価値が適切に提供されていれば、その後退会することは少ないじゃないですか。Netflixやマネーフォワードでも同様でしょう。でもPairsは恋人ができたら卒会するんです。

――言われてみれば……。

Pairsは今良くても、1年後にトップとは限らないサービスなんです。だから余裕などないですねー。

――厳しいですね。

ただ、市場を伸ばせばPairsはトップに居続けられると思います。そのためには一切の停滞は許されませんし、やるべきことをしっかりと行っていくのは当然です。むしろPairsがトップでなくなったときは、市場も停滞すると考えています。競合さんもいろいろありますが、市場を伸ばしていけるのはPairsだけだと自負していますから。

Interview Points

・Pairsが業界リーダーの地位を占める背景には、健全性、安全性への取り組みと成功者インタビューというブランディングの地道な積み重ねがある。

・市場は国内外とも巨大であり、成長性は非常に高い。

・オンラインデーティングサービスを文化として定着させることが今後のポイント。

 

Profile
中村 裕一(なかむら・ひろかず)
株式会社エウレカ取締役CPO/CMO。
2011年に横浜市立大学大学院を中退後、同社入社。2012年マーケティング事業部のマネージャーとして、企業のFacebookを活用した集客支援を行う。Pairs立ち上げとともに、Facebookページの集客事業を立ち上げ、1年間で250万人を超えるファンを獲得、リーチ数で国内No.1ファンページに育てる。2014年執行役員CSO、2016年取締役CPO/CMOに就任、現在に至る。

 

[記事執筆者] 早川巧
株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writerとして四半世紀以上のキャリアあり。Twitter:@hayakawaMN

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