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インタビュー

元マクドナルドCMO足立光が教える「CMOになるために大切なこと」

最終更新日:2023.06.23

The Marketing Native #01

元日本マクドナルド CMO/ナイアンティック Senior Director

足立 光

どこの世界にも実力で圧倒的な成果を出し続ける人がいます。マーケティングでは、足立光さんが間違いなくその一人でしょう。足立さんといえば、業績低迷で300億円の赤字に苦しんでいた日本マクドナルドにマーケティング本部長として外部から就任。「名前募集バーガー」「グランドビッグマック」「クラブハウスバーガー」「裏メニュー」「マックシェイク森永ミルクキャラメル」などの施策を次々と打ち出して、31カ月連続の売上増を達成し、同社をV字回復させた立役者の一人として知られています。

なぜ足立さんはこのような施策を考えつき、短期間で実行に移すことができたのでしょうか?足立さんがこれまでのキャリアの中でつかんだマーケティングの極意とは何でしょうか?
今回はMarketing Nativeならではの視点で、「ミスターV字回復」こと、足立さんに話を伺いました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、人物撮影:稲垣 純也)

※肩書、内容などは記事公開時点のものです。

目次

和訳がない「マーケティング」の本当の意味

――「Marketing Native」はマーケターを読者層とするマーケティングに特化したメディアです。

はい、聞いています。

――こんな初歩的なことを足立さんにお聞きするのはどうかという気もするのですが、そもそもマーケティングとは何でしょうか?足立さんご自身のキャリアの中でつかんだマーケティングの定義や面白さ、難しさを教えてください。

まず定義からいくと、世間一般で共通認識となっているようなマーケティングの定義は日本には存在しません。中学生くらいを対象にした「お仕事図鑑」には「営業職」はあっても、「マーケティング職」は出てきません。つまり、日本ではまだ認知されていない商売だと言えます。

「セールス」の和訳は「営業」ですが、「マーケティング」の和訳は何だと思いますか?ないですよね?私はマーケティングの和訳は「商売」だと思っています。だから「マーケティングとは何ですか?」と聞かれたら、「商売です」と答えています。基本的にはどのようにお客様に喜んでいただいて、ビジネスを継続させていくかという話ですから、商売そのものです。しかし、日本ではマーケティングを「販促」と捉えている人もいますし、「コミュニケーション」だと考えている人もいて、統一されていないのが現状です。

足立光さん

その上で、著書『「劇薬」の仕事術』にも書きましたが、私が考えるマーケティングの定義を3つ挙げると、1つめは人の心を動かして実際の行動を促すことです。その意味では、選挙で1票を入れてもらうのもマーケティングですし、宗教で高い壺を売るのもマーケティングです。

2つめはビジネスにつながるタスクをすべてやることです。プロジェクトを進めていると、誰の担当でもないけど、必要な仕事がたくさん出てきます。それらをひとつひとつ拾って、担当者を割り振るなり、自分でやるなりしながら進めていくことが大事です。つまり、仕事に結びつくことは全部行うのがマーケティングだということです。

3つめは仕組みづくりです。よく「ブランドが重要だ」と言う人がいますが、ブランドは長期的に利益を出し続けるための仕組みのひとつでしかありません。そういう意味では、ブランドという観点を含めて継続的にビジネスを行い、成功し続けるための仕組みをつくるのもマーケティングだと考えています。

――マーケティングの面白さはどこにありますか?

恋愛と同じで、まず相手がいて、相手の心を動かす仕事ですから、そこを面白いと思う人は面白いでしょう。B to BであろうとB to Cであろうと、町の魚屋さんだろうと本屋さんだろうと、何かで人の心に影響を与えて、結果的に商品を買ってもらったりサービスを利用してもらったりするわけですから、ほとんどすべてのビジネスにはマーケティング的な考え方が当てはまると思います。

――では、難しさは?

まさにそこが難しい(笑)。人の心を自由自在に操ることなんて基本的には無理です。マーケティングは恋愛と同じだと言いましたけど、私も恋愛は得意ではありませんから(笑)

マーケターは経営を目指すべき

――『「劇薬」の仕事術』の中には、マーケターというのは扇動者であり、プロデューサーであり、経営者であるという趣旨のことが書かれています。では、「マーケティング=経営」という考え方は、国内でどの程度浸透しているとお考えですか?また、企業の中で「マーケティング=経営」という考え方を共通認識として持ってもらうためには、どのような意識改革が必要でしょうか?

「マーケティング=経営」という考え方は、日本ではほとんど浸透していないと思います。それは、マーケティング出身者が社長になることが定着している企業が、花王さんなどほんの数社しかないからです。そもそもマーケティング部が存在しない会社のほうが多いんです。銀行にはないし、保険会社にもない。イオンさんのような小売事業の多くにも、マーケティング部はないと思います。おそらく上場企業の7~8割くらいには、マーケティングを専門とする部署はないでしょう。販促や広報をマーケティングと呼んでいることはあるかもしれませんが。

「マーケティング=経営」という考え方は、セオドア・レビット(※1)の『マーケティングの革新』という本が最初だと思いますが、そこからどこかのタイミングで曲がってしまって、「マーケティング=コミュニケーション」になりました。私はそれは全く違うと考えています。

――つまり、「マーケティング=経営」という意識改革がなかなか進まないのは、マーケティング部のある企業が日本に少なく、マーケティング出身の社長がほとんどいないのが理由ということでしょうか?

それに加えて、マーケター側の問題もあります。今のマーケターには問題が2つあると思っていて、1つはマーケティングの領域から出ようとしないことです。

――出ようとしない?

学生の頃から「私はマーケティング部に入りたい」「営業に行くのは嫌」などと言う人がいますが、どうかと思います。「マーケティング=経営」ですから、マーケティング部の人は経営を目指すべきです。それなのに、マーケティングから出ない、出たがらない、マーケティング以外の部署の仕事をやりたがらない。そうすると経営まで行かずに、マーケティングでキャリアが終わってしまうんですよ。それは良くないと思いますね。

もう1つは、デジタルとリアルの融合という話をよく聞くじゃないですか。ところが、この両者はお互いあまり行き来しないんですよ。デジタルの人はデジタル、広告の人は広告ばかりやっている。これも良くないですね。マーケティングは経営です。経営というのは俯瞰です。だからデジタルもリアルも両方必要なんです。どちらかに偏っていると俯瞰できません。企業は、マーケターに全体の業務を経験させて俯瞰できるように育てなくちゃいけないし、マーケターは俯瞰する力を身に付けられるようにさまざまな経験を積むことが大事です。そういう存在を目指さないと、デジタルでCPAをせっせと削っているだけの人になってしまったりするんですね。それは厳密に言うと、マーケティングではないと思います。

――そういう意味では、足立さんが新卒で入社されたP&Gのブランドマネージャー制が訓練の場として良かったのではないかという話を聞いたことがあります。

おっしゃるとおりです。P&G以外にもブランドマネージャー的な制度がある会社はありますが、ブランドマネージャー制の長所は、在庫から売り上げ、最終的にどのように利益を出すかという点まで、そのブランドの全部を見るところにあります。そういう意味では小型版社長というわけです。マーケターを育てていくという観点では、ブランドマネージャーのような経験を企業が早い段階で社員に積ませ、俯瞰する能力を身に付けさせることが大切だと思います。

論理からではなく、まず「アイデアありき」で考える

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・マーケターがベンチマークすべき3つの企業
・大事なのは、さまざまな経験をたくさん積むこと
・宴会の幹事をさせればわかるマーケターの資質
・CMOを目指す千載一遇のチャンスは今

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記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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