インタビュー
2020.07.16

徳力基彦インタビュー(後編)「ソーシャルメディア全盛時代の負の側面に我々はどう向き合うべきか」

Special Interview #09-02

noteプロデューサー/ブロガー

徳力 基彦

note株式会社でnoteプロデューサー/ブロガーを務める徳力基彦さんのインタビューを前編に続いてお届けします。

後編では、緊急事態宣言下に見られたネガティブな事象をテーマに、インフォデミックと誹謗中傷への向き合い方と、そうした点を乗り越えて、これからも生き残り続けるメディアの特徴についてお話を伺いました。

ぜひ最後までお読みください。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、人物撮影:豊田 哲也)

目次

インフォデミックの危険性と改善の兆し

――コロナ禍のさなか、インフォデミックと誹謗中傷という2つのネガティブな事象がよく話題に上りました。これについては、どのようにご覧になっていますか。

インフォデミックはパンデミックのときに人間社会で非常に起きやすい現象です。そのためWHO(世界保健機関)もパンデミック宣言前、インフォデミックに警鐘を鳴らしました。むしろインフォデミックのほうが命を危険にさらすケースもあると言われていて、私もその通りだと思います。

不安なときは藁にもすがりたくなり、「お湯でウイルスが死滅する」などの誤った情報をつい信じてしまいがちです。ですから、人間はそういう生き物だという前提に立ってインフォデミックと戦っていかなくてはなりません。

もっとも、いささか楽観的かもしれませんが、東日本大震災のときと比較すると、みんなのリテラシーが向上して、インフォデミックの度合いは改善されつつあると見ています。東日本大震災のときは、「有害物質が雨と一緒に降る」「肌の露出に注意」という出所不明の間違った情報がネット上に出回りました。

一方、それから5年後の熊本地震のときには、動物園のライオンが逃げたというツイートが流れましたが、すぐにデマだとわかり、デマの発信者は逮捕されました。その後、不起訴処分になったものの、デマを流すと逮捕されることが広く浸透したのではないかと思います。

コロナ禍においても、「中国のマスクのせいでトイレットペーパーが不足する」などの情報を流した人が特定され、社会的制裁を受けました。今回は専門家の情報発信が多かったこともあり、明らかなフェイクニュースは早めに止まるようになってきています。

誤った情報が拡散しやすいのは、LINEグループなどクローズドなネットワークです。「ホントかな!?」と思っても、同調圧力が働いて、どうしても疑問を口にしづらい人も多いでしょう。Twitterのようなオープンな場であれば、誰かが気づいて誤りを指摘できるのですが、多様性に乏しいクローズドなコミュニティの場合は、インフォデミックに惑わされていないか十分に注意したほうが良いと思います。

厳しく罰せられるべき誹謗中傷の深刻さ

――誹謗中傷のほうはいかがでしょうか。

インフォデミックについては、国民全体のリテラシーを高めていくことである程度は解決可能な問題だと捉えていますが、誹謗中傷のほうは深刻です。海外でも見られますが、日本のインターネットにおいても、この30年間、ずっと抱えたままの問題になっています。

個人的に特に問題だと思うのは、過激な書き方をするのが普通だという空気がインターネットにまだ残っていることです。Twitterでフォロワー数の多い人の中には、過激な物言いでフォロワーを増やすケースが見られ、それを真似する人も少なくありません。先ほど(前編)も申し上げたように、リアルとは別の世界がデジタル側に作られていて、リアルではおとなしい人が、デジタル側に来ると豹変するという状況が「2ちゃんねる」から脈々と続いていると感じます。

――確かにひどい暴言を見かけるときがあります。

さすがにこの流れはもう断ち切らなければなりません。リアルの場で発言したら相手を傷つけたり、衝突したりするであろうことはオンラインでもダメだという教育をすべきです。

――教育と規制と2つあると思いますが、いかがですか。

両方ですね。リテラシーを高める教育をすると同時に、誹謗中傷が行きすぎている人に対しては、刑事・民事両面での処分や社会的制裁を受けるべきだと思います。これまでが放置されすぎでした。

ですから私は、ある程度の規制は必要であり、誹謗中傷すると厳しい処分や制裁を受けるという事実をもっと広めるべきだと考えています。

実際、いわゆる「バイトテロ」を起こした人や「バカッター」の人たちはその後、厳しい社会的制裁を受けていることも多いのですが、残念ながらメディアはその後をあまり取り上げないため、なかなか認識が浸透しません。SNSの誹謗中傷についても、人生を棒に振ってしまう可能性があることをもっと広く知らしめるべきだと思います。

ちなみに、教育と規制に加えて、予防的な取り組みも重要だと思います。例えば、Twitterは投稿にリプライできる人を制限できる機能をテストして話題になりましたが、あれも炎上の予防に有効だと思います。noteでも、コメントをする際に、踏みとどまって考えられる機会をつくるための確認画面を挿入するなど、誹謗中傷の予防を模索しています。

みんなが暴言ツイートをするのをやめ、暴言を吐いている人を称賛するのをやめ、コミュニケーションをできるだけ穏やかな方向に向ける努力が今、求められています。プラットフォーマーも政治家も自治体もメディアも、その重要性をよく考え、みんなで誹謗中傷を少しでもなくしていけるよう真剣に取り組むべきだと考えています。

コロナ禍で、メディアの本当の価値が問われている

――最後にあらためて、これから生き残るメディア、衰退していきそうなメディアという観点でお考えを教えてください。

やや抽象的ですが、自分の存在意義をきちんと理解しているメディアは生き残っていけると思います。

例えば、新聞社の方とお話しすると、紙の新聞を作って宅配するのが自分たちの仕事だと思い込んでいる人がたまにいます。そうではなく、本来の新聞社の役割は読者が求めている情報を毎日届けることにあるはずです。

専門メディアにおいても、業界の人たちに専門的な情報を届けるのがミッションのはずなのに、ページビューをKPIにした瞬間に、業界に関係ない人にもバズる記事を書いて、それでページビューが増えたといって、喜んでいるケースがあったりします。そうではなく、自分たちが本当に情報を届けるべき相手は誰なのか、そのターゲットが何を求めているのかをもう一度よく考えてみるべきです。

読者ニーズが明確であれば、デジタル化すべきか、課金制にすべきか、動画を導入すべきかといった課題に対して、自ずと答えが見えてくるのではないでしょうか。

私は時々、メディアの方から「やっぱり動画をやったほうがいいんでしょうか?」といった質問をされることがあります。現状の打開策を見つけたい気持ちはわかりますが、動画を導入すべきか、サブスクにすべきかといった手法から先に入る人が多い気がします。

――確かにそうですね。

それは私ではなく、読者に聞くべきです。その点が多くの産業で今、同じように問われています。

要するに、自分たちの仕事は本当にお客さまにとって必要なのか、なぜ必要とされるのかについて、コロナ禍を機に再考すべきだということです。お客さまに必要とされる産業は当然、これからも残ります。

再び飲食店を例に挙げると、ただ食べ物を低価格で売っている店と、お客さまとのコミュニケーションを通じて地域のコミュニティのハブになっているところではビジネスモデルが異なります。

メディアも同じことです。メディアは読者のコミュニティと連動して存在するものですから、どのようなビジネスモデルを組めば必要とし続けてくれるかを、まずコミュニティの人たちに問いかけるべきです。そうすれば、自分たちにどんな存在価値があり、コミュニティに何を還元しているのか、いろいろなヒントが浮き彫りになるでしょう。その結果を踏まえてから、記事の質をさらに充実させるのか、動画や別の媒体に挑戦するのかを考えてみるのが本来の取り組み方ではないでしょうか。

――本日はありがとうございました。

Profile
徳力 基彦(とくりき・もとひこ)
note株式会社 noteプロデューサー/ブロガー。
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 アンバサダー/ブロガー。
1972年生まれ。NTTやIT系コンサルティングファームなどを経て、アジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。代表取締役社長や取締役CMOを歴任し、現在はアンバサダープログラムのアンバサダーとして、ソーシャルメディアの企業活用についての啓発活動を担当。
note株式会社では、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるブログやソーシャルメディアの活用についてのサポートを行っている。
個人でも、日経MJやYahooニュース!個人のコラム連載など幅広く活動。著書は『顧客視点の企業戦略』『アルファブロガー』など。

早川巧

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
Twitter:@hayakawaMN
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