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緊急企画「新型コロナ不況にどう立ち向かうべきか?」トップマーケター&経営者8人に聞く(前編)

最終更新日:2022.04.05

新型コロナウイルスの感染拡大による経済への深刻な影響が懸念されています。感染者数の増加や都市封鎖の脅威と隣り合わせる形で、売り上げの大幅減や休業、倒産、内定取り消しなどが報じられており、世界は不安と動揺の重苦しさを抱えたままこの一年を過ごすことになりそうです。

では、マーケターは今、この状況において何をすべきなのでしょうか。

Marketing Nativeではこのほど、「新型コロナ不況にどう立ち向かうべきか?」と題し、CMOをはじめとするトップマーケターや経営者の方々に緊急取材を実施。現状認識と今後打つべき施策の展望をまとめました。前後編でお届けします。(紹介はカテゴリーごとの五十音順)

(構成:Marketing Native編集部)

目次

求められるのは「共感力」と「ビジネス力」-石川森生

【事業会社・マーケター】
株式会社ディノス・セシール CECO 石川森生

Q.ご自身のビジネスへの影響と今後の予測は?

現在、一部商品に関する入荷に影響が出ています。

また、お客様の動きとしては、外出を控えるなどのいわゆる「巣篭もり消費」の傾向が、特にWEBを中心に見受けられます。

当社としては通販企業としての社会的機能を果たすべく、最大限お客様のニーズにあった商品の手配とお届けが継続できるよう努めております。

Q.この状況下でご自身がすべきことは?

政府や企業より不要不急の外出を控える要請が出される中、それでも人は生活をしていかなければなりません。

そうした中で、「自宅にいながらにして欲しい商品が購入できる」という通販の根源的価値が今まさに求められています。

当社の取扱商品は必ずしも生活必需品となる日用品だけではありませんが、自宅にいる時間が長くなるからこそ、収納グッズの需要が伸びたり、運動器具を購入されるお客様が増えたりしていることが分かっています。

私たちはこうした厳しい環境だからこそ、お客様のニーズを敏感に汲み取り、より良い生活を送るための提案をしていかなければなりません。

ぜひ私たちのサイトで展開される企画や特集をご覧ください。全てにそれらをご提案する理由が存在しており、こうした状況下でもお客様の生活に彩りをご提供できればと願っております。

Q.マーケターはどのように考えて行動すべきか?

全ての事象についていえることですが、外部環境の変化が我々のお客様にどのような影響を及ぼすのかを瞬時に感じ取る「共感力」と、適切な打ち手を展開する「ビジネス力」が求められていると考えます。例えば、その時求められる商品を素早くご提案することも一つですし、逆に被害を受けられた地域の方の心情に配慮し販促活動を自粛するといったことも一連の施策に含まれます。

願わくば、私たちが届けるコンテンツや商品がお客様の気持ちを明るくできたらと思いますし、辛い中でも前を向くきっかけになれたらと思います。また、そうした顧客に寄り添う姿勢こそが真のロイヤリティにつながっていくものと考えます。
(寄稿)

Profile
石川 森生(いしかわ・もりう)
1984年生まれ。2008年に新卒でSBIホールディングス入社後、SBIナビ(現・ナビプラス)の立ち上げに参画し、営業統括の責務を担う。その後、2011年にファッション通販サイトのマガシークにてマーケティング部門の責任者を務め、2014年にECサイト「cotta」を運営するTUKURUを創業。2016年2月、ディノス・セシール入社と同時にCECO(Chief e-Commerce Officer)に就任。同年7月よりEC本部EC企画部ゼネラルマネージャーを兼務。既存の枠組みを超える、サスティナブルなECビジネスを構築するというミッションを実践している。

 

売り上げが落ちても、ニーズまで消えたわけではない―川添隆

ECエバンジェリスト 川添隆

Q.ご自身のビジネスへの影響と今後の予測は?

ECエバンジェリストとしてお話しさせていただきますが、実店舗をメインとする小売業への影響は大きく、全体として厳しい状況だと感じています。東京都内のファッション系、雑貨系の中には、売り上げが前年比60~70%ほどに落ち込んでいるところもあると聞きます。

地方のお店はそこまでではなく影響は少ないとも聞いています。もちろん商材で傾向は異なります。日用品や生活必需品の下がり幅は低く、嗜好性の高い商品が大きく下がっている傾向にあります。ご周知のとおり、実店舗でもスーパーやドラッグストアなどは買い溜めによる一時的なニーズで混乱が起きています。

一方、ECの売り上げが上がっているというニュースもありますが、全てが上がっているわけではありません。そもそも、全体に占めるECの売り上げシェアとEC単体の伸び率を見る限り、店舗分の落ち込みを補完できるほどではないのは間違いないでしょう。ECも商品によって差があります。実店舗での売り上げは減っているものの、ちょうど春に向かう季節の変わり目ということもあってアパレル系はECでも伸びていますが、焦る必要のない商品や日用品などのECは通常通りという現象が起きているようです。

必ず収束はありますが、恐らく長期化する見込みですし、それがいつになるかは不透明です。抑制された人間の飽きもあるので、一定の上下動はあるはずですが、今後も大きな流れはしばらく続くでしょう。

Q.この状況下でご自身がすべきことは?

私にできるのはECエバンジェリストとしての情報発信であり、多くの人のヒントになるようなEC系の情報を提供し続けていくことです。昨今はリアルイベントがウェビナーに切り替わっていますが、積極的に登壇するようにしています。

もう1つ、事態が収束して景気が回復しても、経営難から脱することができない企業があり、そういう企業にはすでに予兆があるということを周知させていきたいと考えています。この現象は、私自身、東日本大震災のときに前職で経験しています。景気回復後に取り残されてしまった企業は「なぜウチだけ戻らないのか」とパニックに陥るでしょう。こうした企業は緊急事態になる前から予兆があります。数字としては既存店前年比が100%を切っていたり、リピート率やLTVやNPSスコアが悪化していたり、ブランドの評判が悪くなっていたり、競合優位性がなくなっていたり……と、必ず予兆があるのです。コロナ以前から状況が悪かった会社は、コロナ不況によって壊滅的なダメージを負うことになりかねません。もちろん、現況の対処が優先ですが、今のうちに状況分析をしておき、収束後に経営状況が元に戻るかどうかを調べておくことが大切です。

Q.マーケターはどのように考えて行動すべきか?

緊急事態の場合は、企業内の状況や生活者の行動は変わります。だから、コロナ以前の延長戦ではなく、今に合わせたやり方に切り替える必要があります。また、変化には何かしらのヒントがあるはずです。例えば、メディアで「巣籠もり消費」などのワードが取り上げられることで生まれた変化があると思います。ECを利用していない人が使い始めたり、過去にテレカンを行ったことのない人がWeb会議システムのZoomを触ったりするわけです。一時的に厚労省の通達によって、クオール薬局はスマホから処方薬(医療用医薬品)を入手できる仕組みを導入したように、「ルールの変化→企業の対応→生活者の行動変化」も生まれています。

それに、今回の事態で人々のニーズまでなくなったわけではありません。現在は「外出したいけど、出られない」「欲しい物はあるけど、買えない」という状況です。映画館には行けなくても、映画を見たいというニーズは消えていません。先ほどのアパレルも、街で出会うセレンディピティは減るでしょうが、欲しいモノが決まっていればそのニーズは存在します。現時点で残っているニーズは何か、それに対してどうアプローチすべきかを、想像力を駆使して考え続けることが重要です。

例えばアパレル店の場合、「家で試着できます」という観点で、返品の送料や、往復の送料を無料にするという施策も考えられるでしょう。ほかにもtoC向け企業がtoB向けにアプローチを行う方法があると思います。ビジョナリーホールディングスの場合、リモートワークや外出を控える企業の従業員をサポートするため、法人向けにクリアコンタクトレンズ・ケア用品を送料・手数料無料で届けるという取り組みを行っています(2020年4月5日まで、延長の可能性あり)。これは、明らかに行動の変化が求められているビジネスパーソンへ向けてのメッセージです。どういうメッセージを込めるかという、伝え方の工夫が重要です。

さらに、自分たちのマーケティング活動が会社のキャッシュフローにどのように影響しているかを見極め、残すべきものと切り捨てたほうがいいものを判断する必要があります。これは今すぐやるべきです。判断を実行に移すにはスピードが重要です。今は、ある施策をやるかやらないかで一週間かけて議論する状況ではないと思います。

過去にも景気にインパクトをもたらす出来事は数多くありました。2003年のSARS、2008年のリーマン・ショック、2009年の新型インフルエンザ、2011年の東日本大震災。日本全国を巻き込むような大きな事態は、これまで5年以内に起こっていたものの、今回は震災以降9年間空いていました。過去を見れば今後5~10年のスパンでまた何か起きるはずです。仮に今回の事態が収束しても、小売業の場合、お店が営業できなくなることは起こり得ますから、その時の準備をしなければいけないでしょう。

今は、不安を感じ続ける人々のニーズをどう探っていくのかという「不安との闘い」「通常と異なる行動との闘い」のフェーズであり、収束後は「各企業は苦難の経験を忘れることとの闘い」になると思います。収束しても必ず別のピンチが訪れます。備えましょう。よく「ピンチをチャンスに変えるには」という議論がされますが、ピンチはピンチでしかなく、それにどう対処するかしかないのです。(談)

Profile
川添 隆(かわぞえ・たかし)
1982年生まれ、佐賀県唐津市出身。千葉大学デザイン工学科卒。総合アパレル企業のサンエー・インターナショナル入社後、ネットビジネスを志しサイバーエージェントグループのクラウンジュエル(現ZOZOUSED)へ。2010年ガールズ系アパレルブランドのクレッジに転じ、EC事業を2年で2倍に拡大。2013年メガネスーパー入社。EC事業は6年で約6倍、自社ECは約13倍に拡大。EC・オムニチャネル推進などデジタル全般の戦略~実行に従事。2017年よりビジョナリーホールディングス デジタルエクスペリエンス事業本部 本部長を兼務。2018年にビジョナリーホールディングス 執行役員に就任。また、2017年よりエバンを設立し、複数企業のアドバイザーに従事。著書に『「実店舗+EC」戦略、成功の法則~ECエバンジェリストが7人のプロに聞く~』がある。

 

事態をポジティブに捉え、社会貢献に繋げる―いいたかゆうた

【支援会社 マーケター】
株式会社ホットリンク 執行役員CMO いいたかゆうた

Q.ご自身のビジネスへの影響と今後の予測は?

短期的に大きな問題は生じていないが、中長期で考えると影響が出てきそうな状況である。

旅行系・飲食系・イベント系・スポーツ系はコロナによる事業への影響が多大であり、すでに広告停止や新規事業の案件に影響が出ている。

今後に関しては、アパレル、小売、百貨店は元々業界自体が厳しい中で、消費の冷え込みによる影響がより色濃く出ることが想定できるし、最悪のケースを考えるともっと多くの業界に影響を与えるであろう。

Q.この状況下でご自身がすべきことは?

世界的にパンデミックが起こっており、今回の事態は誰もが想定できなかったことである。

その中で私ができることは、ご支援している企業さまに貢献することで、社会貢献につなげていくことであると考えています。

また、多くの人が想定している以上に不況になることは間違いないことではあるが、そこをネガティブに捉えるのでなく、逆に今だからこそチャンスとなるビジネスも誕生してくるだろうし、今だからゲームチェンジも起きるとポジティブに考え、行動していきたい。

Q.マーケターができることは?

前提として、一マーケターとしてできることは限られている。

とても厳しい状況が予想できるが、今の状況だからこそ近視眼的な考えでなく、もっと先を見て行動することが重要だと考える。

先ほども書きましたが、私が今できることはご支援している企業さまに貢献することであり、そこで消費が起こり、社会貢献に繋げられるよう行動していきたい。(寄稿)

Profile
いいたか ゆうた
株式会社ホットリンク執行役員CMO。広告代理店やスタートアップ企業で複数のWebサービスやメディアの立ち上げと、100社以上のコンサルティングを経験。2014年4月に株式会社ベーシック入社後、「ferret」創刊編集長、執行役員を務め、2018年12月末に退職。2019年1月より現職となる。著書は『僕らはSNSでモノを買う』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

 

 

正しい情報を取得して自らの頭で考え続ける―黒澤友貴

ブランディングテクノロジー株式会社 執行役員 経営戦略室 室長 黒澤友貴

Q.ご自身のビジネスへの影響と今後の予測は?

すでに業種を問わず、広告費と事業投資が削減されている傾向にあります。弊社のお客様の中でも特に観光業やサービス業の影響が大きいと感じています。

一方で、今回の事象をきっかけに、ストック化していくコンテンツとして、デジタルに投資を進めているお客様もいます。もともと投資や新規事業の必要性を感じていたお客様が、新型コロナウイルスの影響でいま意思決定しておくべきだと考えていらっしゃいます。

また、リモートワークなどオンライン化が進んだことで、店舗やイベントなど「リアルに人が集まる」ことに対する価値や必要性が改めて見直されたと思います。収束後、人が集まるという状況は早めに回復すると考えています。今後もZoomでイベント開催を続けるということにはならないのではないでしょうか。

ただ、経済全体は簡単には回復しないでしょう。広告費と投資の削減がここ1~2年のスパンでの弊社にとってのリスク要因です。

Q.この状況下でご自身がすべきことは?

弊社は中小企業や地方企業の支援を担当させていただいており、コロナが一番影響しているのは、こうしたスモールビジネスです。コロナ以降も持続化できるサポートをしっかりしていきたいと思います。

また、マーケターに求められる能力の幅が今後より広がっていくと感じています。より不況に強いビジネスモデルやブランドを考える力がマーケターに必要になるでしょう。自分は「マーケティングトレース」などのコミュニティを通じて、思考能力の高いマーケターを増やしていくことに取り組みたいと考えています。

もう一つ考えているのが、広告に対するマーケターの考え方を変えていきたいということです。これからは一過性のブームを作る広告投資ではなく、ブランド投資をするべきだと感じています。ファンを生み出すコンテンツを作ることができれば、不況などの状況が悪くなった時でも、ファンとなった顧客が支えてくれるでしょう。

Q.マーケターができることは?

大きく2つあると思います。

1つ目は必ず一次情報で判断するようにし、情報が正しいかを自分で考えて判断することです。今はリモートワークが当たり前で「巣籠もり消費」というキーワードも出ています。これを鵜呑みにするのではなく、地方も同様なのか、本当にコロナだけに由来するのかなど、自分の頭で考えて本質を探ることが重要です。お客様の声を拾ったり、複数の情報源にあたって比較したりして、情報の正しさを判断してから意思決定しましょう。

2つ目は、より俯瞰的に会社や経営を捉えられるよう、自らのスタンスを引き上げて思考することです。今後、マーケターは、より会社の上流部分に位置することが求められていくでしょう。外部環境がますます不確実になっていく中で、会社が変化に適応できるようにするため、組織を動かしていく能力を磨く必要があります。そのためにもマーケティング力をトレーニングし続ける必要があると思います。(談)

Profile
黒澤 友貴(くろさわ・ともき)
1988年生まれ。新卒でブランディングテクノロジー株式会社(当時:株式会社フリーセル)に入社。6年間、中小・中堅企業向けに、SEMやアクセス解析を中心にデジタルマーケティング領域のコンサルタントに従事。現在は、経営戦略の策定や人材育成を担当。社外では2018年より、「日本全体のマーケティングリテラシーを底上げする」をミッションに、1500人近くのマーケターが集まる学習コミュニティ「マーケティングトレース」を運営。著書に「マーケティング思考力トレーニング」(フォレスト出版)がある。

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