「アル」は、マンガ好きな人が次に読むマンガを楽しく見つけるためのサービスとして、2019年1月22日にスタートしました。同年6月には第三者割当増資を実施し、総額2億円を調達。着々とマンガ好きの間に浸透していき、Google Playベストオブ2019ではブレイク寸前のアプリとして「隠れた名作部門」を受賞しています。
この「アル」を運営しているのが、「けんすう」の愛称で知られる古川健介さんです。子どもの頃からマンガが好きだった古川さんが「アル」を立ち上げたときのnoteには、「残りの人生、全力ですべてを賭けてこのサービスに注力し、マンガに携わる人がみんな幸せにするような場所を作っていきたい」と書かれていました。
それからおよそ1年が経った今、「アル」は大きく、そして着実に進化を続けています。古川さんはこれから「アル」をどのようなサービスにしたいと考えているのでしょうか。話を伺いました。
(取材・文・イラスト:Marketing Native編集長・佐藤綾美 撮影:海保竜平)
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本当にマンガ好きな人が好きなことだけ書けるサービス
――「アル」は「漫画村」に対抗するために作られた「漫画ビレッジ」(無料で読めるマンガを集めたサイト)をリブランディング・リニューアルしたサイトが前身で、出版業界からの要望も受けてコミットすることに決めたとnoteで読みました。あらためてお聞きしますが、そもそもどのようなきっかけで「アル」を始めようと考えたのでしょうか。
日本発のサービスや商品で、これから市場を世界的な規模で活性化できる可能性があるのは限られていると思いますが、エンタメ領域はその1つになり得ると考えたのが、市場目線での理由です。そのうえで、時代の流れとして、ユーザーが好きなものを媒介にしてつながり、好きな人同士で話せるようなコミュニティがより盛り上がると推測しました。
Twitterや「5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)」のように誰でも好きなことを書きこめる開かれた場所には、自分が好きだと思っているものを好きじゃない人もコミュニティに入ってきますし、Amazonのレビューでは星1つを付ける人もいます。エンタメに対する「これが良かった」「悪かった」などの感想って、本当にそのエンタメが好きな人にはちょっとしたノイズなんです。だから、「アル」はマンガが好きな人が訪れて、好きなことしか書かないサービス設計にしました。
加えて、インターネット上の規制に対する動きも意識しています。今後は法律で縛りすぎたり、逆に業界の自浄作用に任せきりにしたりしないことが重要になると考えています。
2000年代のインターネットは無法と合法が混在し、2010年代は政府による法規制と自主規制(業界や企業による自主的な規制)によって規制されるようになった時代だったと思っています。そして、2020年代は共同規制の時代が来ると考えられています。「共同規制」とは、法規制と自主規制の間を取る考え方で、官庁と民間企業が共同でルールを作り、問題解決することを表しています。
一方、GoogleやAmazon、Facebookなどによるプラットフォームの構築と独占についても2010年代で大体終わり、2020年代は調整と共創の時代にもなると思います。例えば「金融×テクノロジー」のように、重いアセットを持った企業とベンチャー企業などの技術力に優れた小資本が、いかに共創していくかがトレンドになると予測しています。つまり大企業とベンチャー企業が一緒になって国や業界も巻き込み、規制などをうまく整理しながら、ユーザーにも業界にもメリットのある形に調整していく方向に動くでしょう。そのため、「アル」もマンガ業界における調整と共創に取り組んでいるところです。
▲「アル」の主な機能の一部。ユーザーが新しいマンガを読みたくなるきっかけを提供している。今のところ課金制度はなく、投資により集めた資金やアフィリエイトによる本の売り上げ、オンラインサロン「アル開発室」の会費、古川さんの有料noteの売り上げなどを運営資金としている。画像出典:アル
「アル」には、ユーザーが好きなコマをスクショ(または撮影)して投稿できる「コマ投稿」という機能がありますが、それはそのような時代の流れを踏まえて設計しました。
マンガのコマをスクショしてアップロードする行為は違法ですが、ネットユーザーがシェアしたりコミュニケーションに使ったりすること自体は作品の宣伝につながります。とはいえ、コマの使用を無制限に業界的に認めてしまうと、「漫画村」のように著作者に損失を与える例が出てきてしまう。そこで、「アル」はマンガの作品ごとにコマの使用について許可を取り、使い道や制限を設けたうえで、ユーザーが投稿できるようにしました。こうすれば、ユーザーは気兼ねなくコマを使えますし、マンガの宣伝にもなります。さらに、著作者の不利益になるような行為は「アル」がきちんと対応してコントロールしていきます。これは作品を作っている出版社や著者側だけでなく、インターネットのコミュニケーションに詳しい我々からも働きかけたほうが、全体にとっていいのではないか…と思いやっています。
マンガ業界の多様性がなくならないように維持したい
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