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WACUL垣内勇威が教える!デジタルマーケティングで成果を上げる「定石」と4つのステップ【シード・ゼミレポート第2回】

最終更新日:2022.11.25

株式会社ビタミンが創業期(シード期)のスタートアップ企業向けにオンラインで開講している「シード・ゼミ」のレポート第2回です。テーマは「スタートアップがデジタルマーケティングでやるべきこと」で、株式会社WACUL代表取締役の垣内勇威さんが講師を務めました。

垣内さんが登壇するのは「ビタミンゼミ」(シード・ゼミの前身)に続けて2回目です。2020年に行われた垣内さんの講義内容を当時の参加者が実践したところ、LPのCVRが30%改善されたとの報告があったと言います。

2年前の講座ではLPの必勝パターンに関する内容が中心でしたが、今回はデジタルマーケティングの基本と、営業につながるリードの増やし方に焦点が当てられました。講義内容の一部をご紹介します。

(構成:Marketing Native編集長 佐藤綾美、画像提供:株式会社WACUL)

目次

デジタルマーケティングは万能ではない

垣内 「デジタルマーケティング」は、実はそれほど万能ではありません

例えば過去によく耳にしたのは、「データをたくさん集めてとにかくAIに学習させれば、何かわかるだろう」と、社内のデータを大量に集めてAIに学習させたところ、「会員ランクが高いと売り上げが高い」のような当たり前の結果や、「ビールとおむつが一緒に購入される」のような難解な結果が出たという失敗例です。AIは学習させれば何でもわかるわけではなく、仮説に基づくデータ選びが欠かせません。

世の中には紙を切るためのハサミで石を切ろうとしているような事例が多すぎます。デジタルは「できること」と「できないこと」の線引きがとても重要で、何ができて、何ができないかをまず理解することが大切です。

デジタルの弱み

マーケティングの中でもデジタルは中途半端な媒体です。「説得力」を縦軸に、「爆発力」を横軸に取ったとき、「説得力」が最も高いのは営業担当者で、情報を一気に届ける「爆発力」が強いのはマス広告です。デジタルには営業担当者のような「説得力」がなく、マス広告ほど集客の「爆発力」がありません。

営業担当者(人間)とデジタルの違いをもう少し深掘りしましょう。営業担当者なら、感情に訴えかけて相手を説得したり、打ち合わせの前半で失敗しても後から巻き返したりできます。しかし、デジタルはユーザーが1人で使う「セルフサービスチャネル」です。ユーザーはWebページの最初のほうだけを読んで「戻る」をクリックしたり、サイトを閉じて逃げたりできます。そのため、デジタルは必ずしもユーザーの説得に向いているとは言えず、時間をかけて少しずつ態度変容させることもあまり得意ではありません

また、デジタルはマス広告と比較すると少しずつしかリーチが伸びません。非常に大雑把に言うと、テレビCMなら1億円くらいの費用で1,000万人程度にリーチできますが、デジタルは、例えばSEOでGoogle検索から月10万人を集めるには300記事くらいが必要です。ソーシャルも同様で、フォロワーを増やすには時間がかかります。デジタルで作ったコンテンツはストック型の資産にはなりますが、認知の早期獲得にはあまり向いていないのです。

デジタルの強み

デジタルの強みは中長期でのコストパフォーマンスが優れている点です。例えばSEOなら、質の高いページを一度作れば、定期的にメンテナンスが必要とはいえ、継続的に集客を図れます。一度顧客リストを作ったり、フォロワーを集めたりすれば、メールやアプリ、SNSを通じて無料でユーザーに情報の発信・通知が可能です。近年Cookieの制限などがありますが、インターネット広告はターゲティングによって精度高くユーザーに広告を配信できます。

ここまでで気付いた方がいらっしゃるかもしれませんが、スピードが求められるスタートアップ企業は実はデジタルとの相性があまり良くありません。資金調達ができるなら、認知獲得のためにテレビCMを打ったほうが良いかもしれませんし、単価の高い商材でクロージング可能な人材がいるなら、デジタルより営業力重視の選択肢もあり得ると思います。「スタートアップだからデジタルを使わなければいけない」と思っているとしたら、それは誤りです。

デジタルにできることは、基本的には仕事のコストカットです。人間がしなくても良い、説得力の必要ない中途半端な領域の仕事こそデジタルに委ねましょう。デジタルでまず取り組むべきは、コスパの良さで古いマーケティング手段を置換することです。

デジタルマーケティングの定石とリードの増やし方

ここまではデジタルとは何か、強みと弱みの話をしましたが、続いてはデジタルマーケティングの定石と使い方を説明します。

デジタルマーケティングの型は、ビジネスモデルに応じて18種類しかありません。そして大きくは「Web完結型」と「Web to 営業担当型」の2つに分けられます。繰り返しになりますが、デジタルだけでユーザーを説得するのは難しいので、どちらかと言うと「Web to 営業担当型」のビジネスのほうが簡単です。「Web to 営業担当型」のビジネスができる会社で、ようやく「Web完結型」が実現できると考えていただくと良いと思います。

 

営業につながるリードをデジタルで増やす4つのステップ

営業につながるリードをデジタルで増やすうえで、やるべきことは次の4つです。

  1. CV(コンバージョン)障壁を下げる
  2. 全ページからゴールへ直行させる
  3. 運用広告&記事SEOで人を集める
  4. 集めたリストからニーズを検知する

もちろんこのほかにもすべきことはありますが、デジタルを使うなら、まずはこの4つを押さえましょう。

1.CV障壁を下げる

CV、つまりデジタルのゴールは、「問い合わせ」「無料相談」「資料請求」「ホワイトペーパー」の4つに大きく分類できると考えています。Webサイトに設置するCVボタンの文言1つで成果が変わるため、非常に重要なポイントです。

上の図にある「オープンQ(クエスチョン)」とはイエス・ノーで答えられない、相手に自由な回答を委ねる質問で、「クローズドQ(クエスチョン)」はイエス・ノーで答えられる質問のことです。

「問い合わせ」はユーザーが問い合わせたい内容を自ら書き込む性質のゴールなので、オープンクエスチョンと言えます。そのため「問い合わせ」ボタンを押すハードルは高く、サービスに興味がある人しか入力してくれないので、ほかのゴールに比べるとCVR(コンバージョン率)は低い傾向にあります。

「無料相談」は「サービス以外のことでも、いつでも相談してください」と何でも受けているように見えるため、「問い合わせ」よりもCVの障壁は下がりますが、こちらもユーザーが相談内容を書き込むオープンクエスチョンタイプのゴールなので、CVRはあまり高くありません。

一方、「資料請求」は「資料をダウンロードする/しない」の2択なので、CVの障壁は「問い合わせ」や「無料相談」よりも低く、商品・サービスへの関心が高いリードが集まる傾向にあります。

最後はお役立ち資料やノウハウなどを提供する「ホワイトペーパー」です。お客さまが欲しいと思う内容であれば何でも良いので、例えば注文住宅の企業を集めたいときは「注文住宅の経営ノウハウ」のような冊子を作ったり、転職サイトで外資系企業出身者を集めたいときは「外資系企業出身者向け 転職活動あるある」のような資料を作ったりします。会社固有のノウハウを教えるセミナーの申し込みも「ホワイトペーパー」と同じ部類のゴールです。

なお、弊社の調査で「問い合わせ」と「ホワイトペーパー」では、CVRが10倍ほど異なることがわかっています。「問い合わせ」ボタンを設置していると、「問い合わせるほどではないかな」とサイトから離脱するお客さまも、「資料請求」や「ホワイトペーパー」にすると問い合わせてくれる確率が上がるので、4つのうちどのボタンをWebサイト上のゴールにするかは重要です。

2.全ページからゴールへ直行させる

Webサイト上のゴールを決めたら、ユーザーをゴールへ導くための導線が必要です。良質な商品を見せてユーザーに「いいな」と思ってもらうことはできるかもしれませんが、Webページを回遊させたり、SNSで何度も接触したりしてユーザーを説得するのは難しいので、デジタルではゴール直行が正解と考えています。

例えば弊社の「AIアナリスト」のサービス紹介トップページでは「まずは無料分析」と問い合わせフォームを掲載していますし、ブログを読んでいる人向けにもサービス紹介のゴールとなるフォームを見せています。余計な説明を挟まず、いかにゴールへ直行させるかがデジタルでリード数を増やすための勝ち筋です。

さらに、弊社の調査データでは、LPの縦幅とCVRには相関性がないことがわかっています。縦長にいろいろと情報を載せてもCVRにあまり差がないので、「ファーストビューより下はいらない」としています。もう1つ、下の図にある図表2は「ファーストビューで完結しているか否かによるCVR平均の差」を表したグラフです。n数は少ないものの、ファーストビューで完結しているように見せるほうが問い合わせの確率は高い傾向にあることがわかっています。

また、ゴール直行を狙うなら、従来のピラミッド構造ではなく、LPとCVの集合構造のWebサイトが理想形です。流入元によってユーザーの期待は異なるので、LPごとに適切なゴールを設けます。例えば社名を検索して流入した人にはサービスについて伝える「資料請求」のゴールを用意し、ブログ記事経由で流入した人には「ホワイトペーパー」のゴールを用意するイメージです。そうすると、それぞれのLPで完結するため、ページ同士で横串を通す必要もありません。おそらく全部のLPをユーザーが見ることもないので、デザインの統一も不要でしょう。

3.運用広告&記事SEOで人を集める

ゴールを作り、直行させるための装置を用意できたら、人を集めます。集客方法は業態によっても異なりますが、よくあるのは運用広告かSEO、SNSです。SEOは成果が出るまでに時間がかかるので、まず運用広告で集客し、ある程度成果が出てきたらSEOかSNSを行うのが基本的な考え方になると思います。

・運用広告

運用広告では顕在的なニーズを持つお客さまから獲得していくのが基本なので、GoogleやYahoo!でリスティング広告を出稿します。リスティング広告で月額100万円ほどの予算が消費されるため、余裕がある場合はFacebook広告なども検討するのが一般的な手順です。

・SEO

キーワードによっては記事を数本書いただけでも検索結果の上位に表示されるケースがありますが、基本的には記事本数と訪問数が比例し、100記事くらい執筆するとようやく人が集まってくるイメージです。大抵のスタートアップは外注する余裕がなく、自分で記事を書くしかないため、僕も土日にひたすらファミレスにこもり、原稿を執筆していた時期がありました。

SEOで大切なのは、検索ニーズに応えることと、短期的なコンバージョンを狙うことです。Googleは検索する人の期待に応える内容を検索結果の上位に表示する傾向にあるため、書きたいことを好きに書くのではなく、検索ユーザーのニーズに応える内容を書きます。また、検索ユーザーの多くは検索の目的が達成されるとサイトから離脱し、戻ってきません。そのため、記事を読んでくれたその場でCVするように狙う必要があります。

SEO記事を制作する際は、まず順位を上げたいキーワードを選び、どのような方針で執筆するか骨子を定め、その内容をもとに文章を執筆し、公開後も順位に応じてリライトするのが大まかな流れです。

※スタートアップ向けのSEOについては、以下の記事もご覧ください。

関連記事:サイバーエージェント・木村賢が徹底解説!「スタートアップが今やるべきSEO最新版」

4.集めたリストからニーズを検知する

CVの障壁を下げると、今すぐ商品を購入してくれる方だけでなく、なかなか購入してくれない潜在顧客も集まってくるので、潜在顧客のリストをどんどんためて継続的に接触し、ニーズが発生したタイミングで営業をかけられるようにします。

取り組むことはシンプルです。1日1回または週1回などの頻度でメールを送り、ユーザーから開封や本文のリンククリックなどの反応があれば営業をかけて、もしユーザーの反応が悪ければ営業対象外に戻します。メールやWebサイトをセンサーの代わりにして、購買ニーズを検知するのです。

よく「メールを送っていれば、いつの間にかお客さまが育つのでは」と聞きますが、僕は「ナーチャリングは幻想」と言っています。皆さんも、メルマガだけを見ていて顧客に育った経験はおそらくないでしょう。メールですべきなのは、ニーズの検知と認知の定着です。定期的に送信していればメールの送信者名やタイトルが目に入るので、ユーザーに名前を覚えてもらえる可能性があります。タイトルか送信者のどちらかに商品名を盛り込み、認知してもらいましょう。

また、メールの中身をしっかりと読み込む人はあまりいないので、本文に手をかけすぎず、送信頻度を増やしてください。SEOに取り組んでいるなら記事を、ECサイトを運営しているなら商品を紹介するのが簡単でおすすめです。

このほかにも、認知を獲得するためのメディア活用や広報活動、インサイドセールスなどがありますが、まずは上記の4つに取り組んでいれば、「Web to 営業担当型」のビジネスは問題ないと思います。

顧客調査の重要性と意識したいポイント

自社の顧客が何者であるのかきちんと知っておくためにも、顧客調査の実施がおすすめです。ちょうど前回のシード・ゼミがユーザーヒアリングに関する講義だったので、簡単に説明します。

顧客調査の重要性がわかるエピソードを1つ紹介しましょう。弊社で支援している輸入雑貨専門店のPLAZA(プラザ)さんの例です。PLAZAさんにはECサイトがあるものの、店舗に比べて商品があまり売れていませんでした。ECサイトを訪れるユーザーは月間で数百万人いますが、システム投資もかかっているので「商品が売れないならECサイトは不要ではないか」との議論があり、我々が調査することになりました。

調べてみると、PLAZAさんのことを好きなファンは、ECサイトで毎日新着商品をチェックして欲しいものをスクリーンショットし、店舗を訪れた際にその画像を見ながら商品を購入していることがわかりました。つまり、ECサイトで商品が売れていなくても、スクリーンショットされた回数のぶん、店舗での売り上げにつながっていたのです。実際にお客さまの行動を見ればすぐにわかることですが、会議室で議論しているだけではわかりませんでした。

顧客調査のポイント

僕自身も、クライアント企業のお客さまに平均して週3~4人はヒアリングを行っています。

商品を購入していない人に「どうすれば購入しますか」と聞いても答えてもらえないと思うので、既存顧客からヒアリングするのがポイントです。リモートでも良いですから、1対1で「何が購入するきっかけになったのですか」「購入するまでにどのような流れをたどりましたか」などとヒアリングし、購入までの流れを明らかにしていきます。

意識したいのは、意見ではなく事実を聞き取る点です。相手はマーケティングのプロではありませんし、答えが出るわけでもないため、インタビューで「どうすれば購入しますか」と聞くのは避けましょう。意見と行動には差があり、仮に聞いたとしても事実ではない答えが返ってくる可能性があるので、過去の行動を聞いたり、「商品を見せる」「サンプルを持ち帰らせる」といった刺激への反応を見たりするのがおすすめです。

スタートアップのデジタルマーケティングに関するQ&A

高松 垣内さん、ありがとうございます。「デジタルマーケティングはコストカットである」という話にはハッとしました。ここからは私や参加者の皆さんからいくつか質問いたします。

Q. 本日の参加者の中には、Web完結型のビジネスを提供しているD2C企業の方もいます。Web完結型について、少しかいつまんで教えてください。

垣内 まず、D2C=Web完結型かどうかを議論しておいたほうが良いと思います。D2Cの中にはLTVが高く、営業をかけたほうがコストを抑えられるため、テレビCMなどのマス広告で集客を図り、電話でクロージングを行うスタイルのビジネスモデルの企業もあります。

Web完結型にしなければならないのは、売り上げの上限が数億円などと、ビジネスの規模が小さいケースです。そのため、ニッチなターゲットに向けて商品やサービスの良さ、ストーリーを発信し、顧客とコミュニケーションをとる必要があります。Webサイトで取り組むことは「Web to 営業担当型」とあまり変わらず、商品詳細ページのファーストビューにカートの導線を置き、ゴール直行を狙います。

Q. LP×CVの集合構造のWebサイトを作る場合に、人的リソースも予算も限られるスタートアップが「この2種類だけ作りましょう」などと絞り込む際のポイントはありますか。

垣内 流入の多さです。スタートアップのWebサイトは、最初のうちはLP1ページ+フォームで良いと思います。もし資金調達を行い、広告を出稿するようになったら、潜在層のユーザーがランディングした場合にそれまでと同じページでCVを獲得するのが難しいため、新しく受け皿となるLPが必要となるでしょう。

Q. LP×CVの集合構造をうまく活用している企業の例はありますか。また、集合構造のWebサイトが向いていない企業の特徴があれば、教えてほしいです。

垣内 LP×CVの集合構造のWebサイトは一見わからないので、探しづらいかもしれません。例えば弊社のサービスサイトはLP×CVの集合構造です。メイン商材の「AIアナリスト」のトップページとは別にLPを10ページくらい用意しており、基本的には出稿している広告のリンクから遷移するようになっています。お客さまの中には、「SEOだけ手伝ってほしい」「インターネット広告だけ手伝ってほしい」という方もいるためです。

※画像出典:https://wacul-ai.com/

※画像出典:https://wacul-ai.com/seo/

※画像出典:https://wacul-ai.com/ad/

転職サイトも、例えば業種別や企業別でLPを用意するなど、LP×CVの集合構造になっているところがあります。

一方、LP×CVの集合構造が不向きなのは、商品点数が多い企業のWebサイトです。例えば製造業で100万点もの部品を販売している場合は、100万点のLPを作らなければなりません。あとは、既存顧客の対応が重視されていて、問い合わせ件数が多い場合もLP×CVの集合構造ではなくピラミッド構造のWebサイトを作る必要があると思います。

商材の点数が少なく、新規顧客の獲得目的でデジタルマーケティングを行うなら、LP×CVの集合構造のWebサイトがおすすめです。

Q. デジタルマーケティングの部門から営業部門にリードをパスする際、「問い合わせの質と量、どちらを優先するのか問題」が現場では起こりがちです。どのような落としどころを見つけるのが良いでしょうか。

垣内 1つは営業の評価に組み込むことです。例えば「スコアリングで○点を超えているユーザーに営業が電話する」など仕組み化し、営業担当者の評価に反映されるようにすると、対立構造は生まれにくいと思います。

もう1つは、いわゆるインサイドセールスのような、営業に渡すリードを選別する中間組織を設けることです。インサイドセールスのKPIは営業へのトス数や架電数になると思います。

注意したいのは、デジタルを使ってリードの量よりも質を優先するのはほぼ不可能ということです。特に広告を出稿している場合は、まずリードの数を増やし、後から人間が質で選別する方法をとらないと、最適化は難しいでしょう。

高松 「デジタルは絞れない」という前提をチーム内で共有するのが大事そうですね。

垣内 「セルフサービスチャネルで説得しようとすると、人は逃げる」という前提に立つと、まず量を重視するしかないと思います。

データの基本的な使い方は効果検証と健康診断の2つ

最後に、株式会社ビタミンの高松さんが事前に垣内さんから聞いた話のうち、スタートアップ企業が押さえておくべき内容が共有され、質疑応答が行われました。

Q. スタートアップは初期からLTVを意識したほうが良い背景を教えてください。

垣内 LTVから逆算する発想がないと、思い込みでビジネスをするおそれがあるからです。LTVが高い場合は手段をあまり選ばずに施策を打てるだろうし、低い場合は高められるように意識すべきポイントになると思います。

人が説得しても売れないプロダクトは、おそらくデジタルでも売れません。まずは人が売ってみて、それから継続してもらえる理由を作り、LTVを伸ばしていくことが重要ではないでしょうか。

Q. 本日の参加者の中には、資金調達を行うことをすでに決めている方、実行された方、悩んでいる方が混在しています。垣内さんから見て、資金調達に向いているケースと向いていないケースがありましたら教えてください。

垣内 資金調達をすると、事業売却か上場くらいしか選択肢がなくなるので、それでも成し遂げたいことがあるなら調達すれば良いと思います。VCからプレッシャーを受けずにある程度自由にビジネスをしたいなら、資金調達はしないほうが良いでしょう。あとは、自分1人ないしもう1人くらいが幸せに生きていける売上規模を目指すなら、スモールビジネスで問題ないと思います。

高松 自分がどのようなスタイルでビジネスをしたいのかによって分かれますね。「資金調達をするのが格好いい」という雰囲気はだいぶなくなりましたが、それでもスタートアップ企業の検討事項には資金調達が挙がりやすいので、聞いてみた次第です。ありがとうございます。

Q. 以前垣内さんから「結果となる数字よりも変化を捉えたほうが良い」と聞いたのですが、数字ばかりを見て分析沼にハマらないための方法を教えてください。

垣内 データの基本的な使い方は効果検証健康診断の2つだと思っています。

効果検証とは、A/Bテストや広告の出稿など、施策を打ち出した前後に比較を行い、数値が伸びたか否かを見ることです。単純比較で効果がわかりづらい場合は、流入別やデバイス別、お客さま別などと細分化してデータを見ていくと良いと思います。

もう1つの健康診断とは、毎日数値を見て、大きな変化があった場合にそれがなぜか理由を深掘りしていく見方です。

手段があると使いこなしたくなる気持ちはわかりますが、どれだけ数値を見ても何も得られないのであれば、見なくて良いかなと思います。

高松 最後に、本日の講座を通じて最も伝えたいメッセージがあれば教えてください。

垣内 マーケティングには、取り組むことが無限にあります。やろうと思えば何でもできますが、やらなくていいことが99%なので、売り上げにインパクトを与え、成功するとわかっているものだけ取り組みましょう。

特にスタートアップ企業は、創業メンバー集めや資金調達など、最初にしなければならないことがたくさんあると思いますから、デジタルマーケティングについては自信を持ってやるべきこととやらないことを決めてください。

高松 プロの方にそう言っていただけると、とても心強いです。本日はありがとうございました。

【講師Profile】

垣内 勇威(かきうち・ゆうい)@yuikakiuchi
株式会社WACUL代表取締役。
東京大学経済学部卒業後、株式会社ビービットに入社。2013年にWACULに入社し、改善提案から効果検証に至るまで、マーケティングのPDCAをサポートするSaaSツール「AIアナリスト」を立ち上げる。2019年にWACULテクノロジー&マーケティングラボを創設し、所長に就任。2022年5月より現職となり、研究所所長および代表取締役として、ナレッジ創出を牽引している。
著書に『デジタルマーケティングの定石 なぜマーケターは「成果の出ない施策」を繰り返すのか?』『BtoBマーケティングの定石 なぜ営業とマーケは衝突するのか?』(共に日本実業出版社)がある。

【ビタミン株式会社】

高梨大輔(たかなし・だいすけ)@dtakanashi

高松裕美(たかまつ・ひろみ)@_romihee_
株式会社リジョブ(現株式会社じげんグループ)の創業役員の2人が2015年に創業し、エクイティファイナンス型のスタートアップを専門に、インハウスマーケティング支援やエンジェル投資活動を行う。2018年~2022年3月までスタートアップ企業のマーケティング支援コミュニティ「ビタミンゼミ」を運営。2022年8月より「ビタミンゼミ」の後身となる「シード・ゼミ」を開講し、信頼できる専門家から「一次情報」を全国の創業期企業に届ける活動を続けている。
https://note.com/teamvitamin/n/nbfc90efdd547

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記事執筆者

佐藤綾美

株式会社CINC社員、Marketing Native 編集長。大学卒業後、出版社にて教養カルチャー誌などの雑誌編集者を経験し、2016年より株式会社CINCにジョイン。
X:@sleepy_as
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