Marketing Nativeで好評連載中の「ビタミンゼミ」(※)レポート第9回は、株式会社サイバーエージェントSEOラボ研究室長の木村賢さんが講師を務めた「スタートアップが今行うSEO」をお届けします。
スタートアップでSEOに取り組んでいるものの、「成果が出ない」「リソースが足りない」と悩んでいる方はいませんか。スタートアップのSEOは地道に施策を積み上げる必要があり、大手企業と同じような戦略を取ってしまうと、なかなかうまく行かないと言われています。
では、限られたリソースで成果を上げるために、具体的にどのような施策を進めれば良いのでしょうか。上位表示されているサイトの特徴も踏まえて詳しく解説します。
(構成:Marketing Native編集長・佐藤綾美)
※ビタミンゼミ:ビタミン株式会社が運営し、スタートアップ企業の経営者やCMO候補のマーケターがゼミ生として参加するコミュニティ。コミュニティへの参加は有料で紹介制。Marketing Nativeでは、月1回開催される「朝ゼミ」の内容を不定期でレポートしている。
目次
スタートアップが取り組むべきSEOの2つの方向性
木村さん(以下、木村) 本日皆さんにお話しするのは「スタートアップが今行うSEO」です。前提として、大手企業が行う横綱相撲のようなSEOと、スタートアップがやらなければならない積み上げ型のSEOは異なります。よく見られるのが、スタートアップが大手企業と同じようなSEOに取り組んだり、大手企業出身のSEO担当者が大手企業のときと同様の戦略で進めてしまったりして失敗するケースです。
そうした失敗に陥らないためにも、今回の講義を通して成功するためのポイントや心構えを理解していただけると嬉しいです。
「現在のSEOの成果はInformationalクエリに求めるとともに、未来のTransactionalクエリの成果のために事前に投資する」。これが「スタートアップが今行うSEO」の結論です。まずはInformationalクエリとTransactionalクエリについて説明します。
InformationalクエリとTransactionalクエリとは?
インターネットユーザーが検索する際の目的は、大きく以下の2つに分けられます。
- 「何か情報を得たい」
- 「アクションを起こしたい」(何かをやりたい、何かを買いたいなど)
例えば「お茶」で考えてみると、「お茶 入れ方」「お茶 カフェイン」などの情報を知りたいときに検索するクエリがInformationalクエリです。一方で、「お茶 購入」「お茶 通販」など、お茶を購入したいユーザーが検索するクエリをTransactionalクエリと言います。「お茶」「お茶 おすすめ」など、お茶に関する情報を知りたい場合と購入したい場合のどちらでも検索されそうな、InformationalとTransactionalの両方に当てはまるクエリもあります。
▲InformationalクエリとTransactionalクエリのイメージ。画像提供:木村賢
なお、InformationalクエリとTransactionalクエリのほかにNavigationalクエリもあります。「apple」と検索してAppleの公式サイトに行くなど、特定のサイトやWebページに行きたいときに検索するクエリです。
Transactionalクエリでスタートアップが成果を上げる難しさ
Transactionalクエリは多くがYMYL領域に含まれます。YMYLとは「Your Money or Your Life」の略で、人々の幸福や健康、お金、安全に関わる内容を扱うジャンルのことです。
Some types of pages or topics could potentially impact a person’s future happiness, health, financial stability, or safety.We call such pages “Your Money or Your Life” pages, or YMYL.
出典:Google「General Guidelines」2.3 Your Money or Your Life (YMYL) Pages
Googleの検索結果の品質を評価するためのガイドライン「General Guidelines(品質評価ガイドライン)」には、YMYL領域に当てはまるジャンルとして、栄養や医療、ショッピング、法律などが記載されています。このショッピングには、物を購入する行動だけでなく、ホテルの予約などのTransactional(取引)、つまり決済が発生するものも含まれています。
YMYL領域のページは人々の生活や健康、安全に関わる内容であるため、ほかの領域よりも高い専門性・信頼性・権威性(E-A-T ※)が求められます。つまり、同じ業界に大手企業がいる場合、高い専門性や信頼性、権威性が求められるTransactionalクエリでスタートアップが成果を上げるのは、なかなか難しいということです。
We have very high Page Quality rating standards for YMYL pages because low quality YMYL pages could potentially negatively impact a person’s happiness, health, financial stability, or safety.
出典:Google「General Guidelines」2.3 Your Money or Your Life (YMYL) Pages
※E-A-T:Expertise(専門性)、Authoritativeness(権威性)、Trustworthiness(信頼性)の3つの略。
▲YMYL領域に当てはまるジャンルの一例。画像提供:木村賢
これまでさまざまな会社を支援してきた経験から申し上げると、TransactionalクエリでSEOの効果が出てくるのは、スタートアップがスタートアップではなくなったときです。上場直前くらいの規模の企業になっていないと、あまり勝ち目がありません。もちろん、スタートアップの中でも非常に有名な企業なら、Transactionalクエリで順位が上がる可能性もあり得ます。
では、Transactionalクエリで求められる高い専門性・信頼性・権威性は、どうすれば獲得できるのでしょうか。そこには、被リンクやサイテーションが大きく関わっています。
被リンクとは、外部のWebサイトから自社のWebサイトやページにリンクを受けることです。人気投票の得票と同様で、被リンクが多ければ多いほど評価されているサイトとして見なされます。
サイテーション(citation)は英語で「引用」を意味します。有名なサイトほどサイテーションは大きくなり、無名なサイトほど小さくなります。サイテーションを増やすには「メンション」「指名検索」などが関係すると言われています。
メンションはリンクの有無にかかわらず、サイトや運営者の固有名詞がオンライン上のコンテンツで言及されている数です。指名検索はサイト名や運営者名などの固有名詞が検索され、サイトに流入する数を指します。
InformationalクエリとTransactionalクエリの成果が出るタイミングの違い
Informationalクエリは適切に施策を行えば半年くらいで効果が出ます。そのため、施策を続ければ右肩上がりでサイトの流入数が伸びていくでしょう。
一方、Transactionalクエリはサイトやブランドが一定の水準を超えたときに初めて効果が出るので、今すぐに効果が出なくても準備は進めておくことをおすすめします。Informationalクエリで目先のSEOばかりを進めていると、サイトが大きく伸びるチャンスを逃すおそれがあるので、Transactionalクエリも長期的な投資と考えて対策すると良いでしょう。
画像提供:木村賢
定量データから見る上位サイトの傾向
講義では定量データとともに、InformationalクエリとTransactionalクエリそれぞれで上位表示されているサイトの傾向が説明されました。その傾向を一覧表にまとめてご紹介します(相関関係を示すものであり、因果関係があるとは限りません)。
※Core Web Vitals:Page Experienceとして6月よりランキング要因となる3つの指標のことで、LCP(Largest Contentful Paint)、FID(First Input Delay)、CLS(Cumulative Layout Shift)がある。
▲Core Web Vitalsの3つの要素。木村さんの資料を参考に編集部で作成(数値参考:Web Vitals)
InformationalクエリとTransactionalクエリそれぞれで上位表示されているサイトの傾向をまとめると、次のようになります。
Informationalクエリ
- サイトはHTTPS
- 運営者情報を機械的に理解できる
- ランディングページのメインコンテンツのテキスト・画像量が豊富
- ランディングページのメインコンテンツにキーワード数が多く、キーワード率が⾼い
- title、h1タグにキーワードが⼊っており、⽬⽴つ
- サイト内外への発リンクが多い・キャッシュ更新⽇が新しい
- ランディングページへの直接的な被リンクが多い
- ランディングページの滞在時間が⻑い
- キーワードに関連したページ数が多い
- Core Web Vitalsが良好
Transactionalクエリ
- サイトはHTTPS
- 運営期間が⻑い
- ランディングページのメインコンテンツのテキスト・画像量が豊富
- ランディングページのメインコンテンツにキーワード数が多く、キーワード率が⾼い
- title、h1タグにキーワードが⼊っており、⽬⽴つ
- サイト内外への発リンクが多い
- キャッシュ更新⽇が新しい
- サイト全体への被リンクが多い
- サイト名・運営者名のメンションや指名検索の数が多い
- ランディングページおよびサイトの滞在時間が⻑く、回遊が多い
- キーワードに関連したページ数が多い
- Core Web Vitalsが良好
InformationalクエリのSEO【良質なコンテンツを作る2つの軸】
木村 2つのクエリで上位表示されているサイトの傾向を把握できたところで、Informationalクエリで対策すべきことを解説します。
先ほどご紹介した上位表示されているサイトの傾向の中から、コンテンツ制作時に関係する項目を6つ挙げます。
【Informationalクエリで上位表示されているサイトの傾向】
- ランディングページのメインコンテンツのテキスト・画像量が豊富
- ランディングページのメインコンテンツにキーワード数が多く、キーワード率が高い
- title、h1タグにキーワードが入っており、目立つ
- サイト内外への発リンクが多い
- ランディングページの滞在時間が長い
- キーワードに関連したページ数が多い
上記はあくまで定量的に取れるデータから明らかになっている特徴なので、この6つのみを追求してもなかなか順位は上がらないでしょう。
Googleが何を重視しているかはGeneral GuidelinesやGoogle検索セントラル ブログに書かれていますので、今回はその中から「良い(情報)コンテンツ」として記載されている2つの軸を紹介します。それは、専門性・信頼性・権威性があることと、メインコンテンツの品質の高さです。
専門性・信頼性・権威性を得るための必要事項
専門性・信頼性・権威性を得るためにすべきこととして、次の3つが挙げられます。
- Webサイトやコンテンツの責任の所在が明確で連絡先が明記されている
- 著者やWebサイト、運営者の評判が良い
- 専門家が執筆している
この中でも1つめの「Webサイトやコンテンツの責任の所在が明確で連絡先が明記されている」と3つめの「専門家が執筆している」について、詳しく見ていきましょう。
Webサイトやコンテンツの責任の所在が明確で連絡先が明記されている
アノニマスやステルスではないということです。サイト運営者の情報をGoogleに伝えるには、いくつかの方法が考えられます。
【具体策】
- SSLサーバ証明書を企業実在認証で取得する
- whoisで運営者や連絡先がわかるようにする
- Wikipediaでページを作成し、URLと運営者を紐づける(ただし、大手企業でないと作れないことが多い)
- Googleマイビジネスで運営者の存在を明らかにする
- 問い合わせ先を明記する
※木村さんの資料を参考に編集部で作成。
SSLサーバ証明書を企業実在認証で取得すると、運営組織が法的に実在することが認証され、Googleに運営者が伝わります。whoisはIPアドレスやドメイン名の登録者などの情報を参照できるサービスです。トラブルが発生した際にユーザーが問い合わせ先を確認できるソースにもなり得るので、そうした観点でもwhoisで運営者や連絡先がわかるようにしておいたほうが安全だと思います。
Wikipediaページの作成は、企業や商品・サービスが社会的に認知されたくらいのフェーズで実施すると良いでしょう。メディア露出が多く、知名度の高い企業以外は、Wikipediaページを作成してもBANされやすいためです。
Googleマイビジネスに情報を記載することによっても、運営者の認証はできると考えています。
問い合わせ先の明記に関しては、問い合わせフォームの設置やメールアドレスの記載だけでなく、電話番号も公開できると良いでしょう。電話番号の記載の有無によってランキングが変わるケースが時折見られます。こうした対応が実際にどの程度役立つかはわかりませんが、Googleにも人にも信頼してもらうには、影響が出そうなことは可能な限り対策しておくほうが安全だと思います。
専門家が執筆している
私が経験した限りでは、「専門家が監修している」と示すだけではランキングが上がらないケースがほとんどでした。
過去に上位表示に影響したと考えられる例としては、監修した専門家の方のサイトやブログ、SNSなどから発リンクしてもらう方法です。発リンクが専門家による執筆や監修の証明になることで、専門性の証明になるのではないかと思います。ただし、著者や監修者をGoogleが専門家であると認識していないと、「専門家が書いた(監修した)コンテンツ」と見なされません。そのため、氏名を検索した際にナレッジパネル(情報ボックス)や書籍情報が出たり、Wikipediaページがあったりするなど、Googleが専門性を認識していそうな方に頼めると良いでしょう。
画像提供:木村賢
自分たちが専門家である場合には、自社の専門性をGoogleに伝える必要があります。そのためには以下のような方法が考えられます。
【自社の専門性をGoogleに伝える方法】
- WikipediaページやGoogleマイビジネスで専門性があることを記載したり、カテゴリを選択したりする
- プレスリリースなどを活用し、Web上になるべく多くの情報を発信する
GoogleがWeb上の評判を収集している可能性は高いので、Web上にある自社の情報はできる範囲で整備しておきましょう。プレスリリースの活用なども有効であると思われます。
メインコンテンツの品質を高めるための必要事項
品質の高いメインコンテンツの特徴として、以下のようなものが挙げられています。
- ページの目的が達成できる
- オリジナル要素がある
- 自動生成ではない
- 情報が正しく、コンセンサス(意見の一致)を示している
- わかりやすいタイトルを持つ
- メインコンテンツの量が十分である
- モバイルユーザーの意図に沿っていて、「知りたい」「やりたい」に応えている
「ページの目的が達成できる」とは、読み物コンテンツならば読めること、ECサイトなら買えること(在庫切れがないなど)を指します。
ユーザーのintentを満たす方法:「学生 クレジット」の場合
コンテンツの品質を高めるには、大前提として、検索者の知りたいことに応えたり、課題を解決したりする必要があります。これができていなければ、原則としてランキングは上がらないと考えてください。
具体的なキーワードの例を挙げて考えてみましょう。例えば、検索ボリューム6,600のキーワード「学生 クレジットカード」と検索する人のintent(意図)は何が考えられるでしょうか。
- 学生のクレジットカードのおすすめは?
- そもそも学生はクレジットカードを作れるの?
- 学生のクレジットカードの審査って?
- 学生のクレジットカードの限度額は?
- 学生のクレジットカードの作り方は?
今のGoogleは、検索ワードに対して想定されるintentを推測し、その推測したintentになるべく多く応えているコンテンツを高品質と見なす傾向にあります。では、「学生 クレジットカード」を検索する人のintentに応えるにはどうすれば良いのでしょうか。さまざまなintentに1つの記事で応えようとするとコンテンツが長くなりがちですが、階層構造を作り、ユニット全体でキーワードのランキングを上げる意識を持つことが大切です。
学生のクレジットカードに関するサマリーコンテンツを作成し、そのコンテンツの中に「審査について詳しくはこちら」「限度額について詳しくはこちら」といった形で導線を設け、階層構造を作るイメージです。
かつてのSEOであれば、「学生のクレジットカードについて」というテーマで何万文字もの長いコンテンツを作成し、ランキングを上げていたでしょう。しかし今のSEOでは、学生のクレジットカードに関する情報を1ページに長々と書いても、ランキングが上がりづらくなっています。
ユーザーのintentを階層構造で満たす方法について、もう1つ別のキーワードで例を見てみましょう。
ユーザーのintentを満たす方法:「渋谷 ラーメン」の場合
検索ボリューム33,100の「渋谷 ラーメン」というキーワードのintentはどうでしょうか。検索する人は、主に以下のようなintentがあると考えられます。
- おいしい、おすすめの渋谷のラーメン店はどこか?
- 今開いている渋谷のラーメン店はどこか?
ほとんどの人はおいしいラーメン店の情報を求めており、このようにintentが限られるクエリもあります。ほかに以下のようなintentもあるかもしれませんが、調べる人はあまりいないでしょう。
- 早朝に開いている渋谷のラーメン店はどこか?
- 飲んだ後におすすめの渋谷のラーメン店はどこか?
- 渋谷のまずいラーメン店はどこか?
上記のようなintentは後述するコンテンツのオリジナル性を高める要素にはなり得ますが、Googleが検索者の求めていない情報と判断すればSEOには役立たないかもしれません(ただし、実際にはユーザーのためになるのであれば、是非入れるべきです)。
では、「渋谷 ラーメン」でどうすればSEO上良いコンテンツになるかを考えてみましょう。
たいていのintentは「渋谷のおいしいラーメン店を知りたい」「渋谷でおすすめのラーメン店を知りたい」に集約されますが、検索者にはそれぞれ好みや季節、時間、場所などのコンテキスト(文脈)があります。
例1:味で階層構造を作る
「渋谷 ラーメン」のサマリーページを作り、次に「醤油」「塩」「味噌」「つけ麺」…と味別にページを作り、さらにその先に店舗ページを用意する方法が考えられます。
画像提供:木村賢
例2:場所で階層構造を作る
また、「渋谷 ラーメン」のサマリーページを作り、「道玄坂」「渋谷三丁目」「宮益坂」…と探したい場所別にページを作り、さらにその先に店舗ページを用意する方法もあるでしょう。
検索者のコンテキストを想像し、どのような情報が役に立つかを考え、コンテンツを膨らませていくことが重要です。
ビッグワードでランキングを上げる方法
「学生 クレジットカード」「渋谷 ラーメン」の例のように、ビッグワードでランキングを上げるには、サイト全体でそのワードの関連情報を網羅するつもりで対策すると良いでしょう。ページの力が集まってディレクトリ(上階層)を押し上げ、ディレクトリの力が集まってサイトの力を押し上げるイメージです。
【今回の講師Profile】
木村賢(きむら・さとし)@kimuyan
株式会社サイバーエージェントSEOラボ研究室長
京都大学 経済学研究所 秋田研究室 研究員
2001年、JRグループのSIerに入社後、インターネット事業部門でWeb制作やマーケティングを担当。2003年に株式会社サイバーエージェントに入社後、SEMのコンサルタントとなり、2004年に広告事業本部のSEO部門を立ち上げ。2012年にはメディア部門のインハウスSEO部門を立ち上げる。2016年よりSEOラボを設立し、フリーランスとしての活動も開始。現在は本業とともに、スタートアップのSEOを支援している。
【ビタミン株式会社】
高梨大輔(たかなし・だいすけ)@dtakanashi
高松裕美(たかまつ・ひろみ)@_romihee_
株式会社リジョブ(現株式会社じげんグループ)の創業役員の2人が2015年に創業し、エクイティファイナンス型のスタートアップを専門に、インハウスマーケティング支援やエンジェル投資活動を行う。100名を超える紹介制のビタミンゼミでは、信頼できる専門家から「一次情報」や業界の最新情報をスタートアップに届ける活動をしている。https://vitaminzemi.studio.site/
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