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顧客解像度を高めるためのユーザーヒアリング実践法|朝日メディアラボベンチャーズ 白石健太郎【シード・ゼミレポート第1回】

最終更新日:2022.10.06

株式会社ビタミンが2018年~2022年3月に開講していたスタートアップのためのマーケティング支援コミュニティ「ビタミンゼミ」が、新たに「シード・ゼミ」となって今年8月に帰ってきました。企業成長のための具体的なアクションにつながる1次情報にアクセスしづらい創業期(シード期)のスタートアップ企業を対象に、月1回のオンライン講座を1年間限定で開講しており、Marketing Nativeでは不定期で講座内容のレポートをお届けします。

記念すべき第1回のテーマは「ユーザーヒアリングを活用した顧客解像度の高め方」です。60社以上のスタートアップに投資するだけでなく、デューデリジェンスの際、自らユーザーヒアリングを実践する朝日メディアラボベンチャーズ株式会社 パートナーの白石健太郎さんが講師を務めた内容をご紹介します。

(構成:Marketing Native編集長 佐藤綾美、画像提供:朝日メディアラボベンチャーズ)

目次

    顧客解像度を高める重要性と必要なステップ

    白石 今回お伝えするのは「ユーザーヒアリングを活用した顧客解像度の高め方」で、弊社実施のアクセラレータープログラム参加の企業や、投資先などで実践して成果が出たノウハウをまとめています。僕らもデューデリジェンス(DD)を行う際に実践している方法です。

    VCの業務でスタートアップ企業から商品・サービスについて聞いたときに、顧客は誰かを深掘りしていくと、起業家が話していた顧客像とユーザーにヒアリングして明らかになった実際のお客さまの姿がずれていることがよくあります。

    なぜ顧客の解像度を高めていく必要があるのでしょうか。まず「市場においてスタートアップは弱者であるから」という前提が、理由として挙げられます。

    弱者が強者と戦うには工夫が必要です。限られた経営資源の中で、顧客ターゲットを絞り、成果の出るところに戦力を集中させなければなりません。例えば、戦力が100あるとした場合、ターゲットが10あってすべてを対象にしてしまうと、ターゲットごとのパフォーマンスは低くなります。しかし、シード期に限ると、10あるターゲットの中から特に成果が上がりそうな1つに絞れば、そのターゲットに100%の戦力を割けるので、パフォーマンスも高くなるわけです。

    つまり、ターゲットセグメントを正しく設定し、購入する可能性の高い人だけに認知させていくことが、シード期は重要だと考えています。自社の商品・サービスを有益と感じる人に、いかに情報を訴求するか。そのターゲットを絞り込むためにヒアリングで顧客解像度を上げるのです。

    一般的なターゲットの決め方としては、「6R」や「SWOT分析」などのフレームワークが知られています。6Rは市場規模(Realistic Scale)や成長性(Rate of Growth)、競合(Rival)などを思考するターゲット選定のフレームワークで、サービス立ち上げ前には有効です。

    SWOT分析は、強みや弱み、機会、脅威の観点で分析するフレームワークです。ただ、SWOT分析で挙がる強みや弱みは自社視点での絶対評価になっていることが多く、分析した人の願望になっている場合もあります。

    では、どのようにターゲットを明確にすれば良いのでしょうか。ポイントは「今サービスを使っている人たちにヒアリングを行うこと」です。ヒアリングによって解き明かした特性から、初期ターゲットを逆算していくのが良いでしょう。

    ユーザーヒアリングは、自社の商品・サービスについて、「誰(どんな人)」に「何(どんなこと)」が「どのように」刺さっているのかを解き明かしていく作業です。ヒアリングで聞き取った内容は、「誰が」⇒「何を」⇒「どのように」の順番で整理し、まとめます。

    また、ユーザーヒアリングにより顧客の仮説を作る際は、1つだけでいきなり当たることはほぼありません。いくつか作ったうえで、下の図のようにギフティングやインフルエンサーマーケティングなど、ターゲットへの情報の伝え方を検証します。

    顧客解像度を高めるまでのステップをまとめると、次の通りです。

    Step1:既存顧客の分類

    まずは既存顧客を「ロイヤル顧客」「一般顧客」「離反顧客」の3つに分類します。これは、「N1分析」を提唱した西口一希さんが書籍『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』(翔泳社)で紹介している「5seg(5セグマップ)」と呼ばれる顧客ピラミッドの上から3つの顧客です。

    ※画像出典:『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』(翔泳社、西口一希著)

    レイターステージになると9seg(9セグマップ※)を使って分析しているスタートアップもあります。しかし、9segを使って分析するには時間もお金もかかり、シード期のスタートアップには不向きなので、5segを使います。

    顧客ピラミッドを作成するには、以下のように質問していき、顧客を分類します。こちらも西口さんの書籍で紹介されている方法です。Q3の頻度は主観的に決めて問題ありません。

    • Q1. 商品を知っているか。
      ⇒Yes:Q2へ ⇒No:未認知顧客
    • Q2. 商品を購入したことがあるか。
      ⇒Yes:Q3へ ⇒No:認知・未購買顧客
    • Q3. 購入頻度はどれくらいか。
      ⇒年●回以上:ロイヤル顧客 ⇒年に●回未満:一般顧客 ⇒もう使っていない:離反顧客

    「ロイヤル顧客」「一般顧客」「離反顧客」の3つに分類するのは、2つ重要な理由があります。1つは、売り上げの80%はロイヤル顧客から生まれると言われているためです(パレートの法則)。弊社の投資先の企業もほとんどがこのパターンになるため、特にロイヤル顧客中心に話を聞くようにしています。

    もう1つは、「ロイヤル顧客」「一般顧客」「離反顧客」は企業が提供している商品・サービスを価値として受け取っている人であり、その人たちから話を聞くのが合理的だからです。

    ※9セグマップ:書籍『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』で紹介されている、5segをさらに細かく分けた顧客分析のフレームワーク。

    Step2-1:ヒアリングの方法

    ヒアリング方法について話す前に、量的調査の問題点について知っておきましょう。例えば、以下3パターンのプレゼントを考える場合、その難易度は「1 < 2 < 3」となるのではないでしょうか。

    1. 大学時代の友人1人
    2. 会社の同僚10人
    3. 東京都在住の30歳から40歳で子どもがいる主婦1,000人

    これは、1人の顧客から離れた瞬間に、浅い思考になる可能性があることを表しています。こうした考えを書籍にまとめているのが西口一希さんです。西口さんの「N1分析」とは、平均値でも架空値でもない1人の顧客を中心にインタビューする方法で、調査したい内容によってヒアリング対象は変えることが重要とされています。

    今回は顧客の仮説を作りたいので、朝日メディアラボベンチャーズ式・ロイヤル顧客を対象にしたヒアリング方法をお話しします。

    ヒアリングのポイントは、顧客が何をきっかけに気持ちの変化が起こり、購入に至ったのか、詳しく読み解くことです。▲お客さまは何かきっかけがあって商品・サービスに魅力を感じるから購入する。しかし、心理的変化が起こった部分はブラックボックスになっており、ヒアリングしないとわからない。

    ヒアリングでわかることはたくさんありますが、主に2つ挙げられます。

    • サービスが受け入れられている理由
    • サービスが受け入れられている(可能性がある)特定のユーザー層

    どちらも既存のロイヤル顧客からインサイトを引き出すことによって判明します。

    Step2-2:ヒアリングのポイント

    前提として、ヒアリングはシンプルなようで難しい作業です。聞く行為自体は本来受け身ですが、インタビューは相手を理解する能動的な姿勢が求められます。最初は難しく感じられるかもしれませんが、以下のポイントを意識すれば、うまくできるようになります。

    ヒアリングは代表が行う

    特にシード期は、ユーザーにヒアリングを依頼しても断られることが多いため、代表が連絡してヒアリングしたほうが良いでしょう。もし代表が電話をかけても断られるなら、社員は10回くらい断られていると思います。商品・サービスを使っている企業の代表から連絡が来ることはほとんどないでしょうから、代表に「うちの商品(サービス)をたくさん使ってくれてありがとうございます」と言われたらユーザーも嬉しくなるはずです。

    ヒアリングの目的と対象者は明確に

    ヒアリングの目的と対象者を明確にしていないと、必要のない話や聞こえがいい言葉を聞いてしまって、何をしたいのかわからなくなることがあります。

    特にヒアリングの目的は重要です。サービスが受け入れられている理由を知りたいのか、新サービスを作るためのヒントが欲しいのかなど、目的によってヒアリングの対象者も変わることを忘れないようにしましょう。

    弊社の投資先の企業では、ヒアリングを実施する際、目的や課題、ヒアリング対象者などの情報を社内の共有会で必ず報告するようにしているところもあります。

    顧客の声は社内で共有する仕組みを作る

    顧客からヒアリングした内容は、必ず社内で共有する仕組みを作ってください。共有する仕組みができていないと、担当者がおのおのヒアリングした意見を鵜呑みにし、異なる方向で施策を進めてしまうことがあります。

    ヒアリング実施前に加えて、実施後もヒアリングから明らかになったユーザーの課題や目的、実施すべき施策について必ず社内で共有するのがおすすめです。今年7月の「インフィニティ・ベンチャーズ・サミット(IVS)」で優勝したPETOKOTO 代表取締役社長の大久保(泰介)さんもユーザーヒアリングを重要視していて、お客さまのヒアリングには全社員でチャレンジし、月1回のミーティングでその内容を共有する仕組みを設けています。全社員でユーザーヒアリングを行う仕組みを設けておくと、日頃ユーザーと接する機会のない社員も、ユーザーの意見を直接聞くことによって商品・サービスを自分事として捉えやすくなり、社内の一体感の醸成にもつながります。

    ヒアリングは1時間以内に終える

    プロのカウンセラーでも50分から1時間程度でヒアリングを行うので、ユーザーヒアリングは1時間以内に終えるのが理想です。長時間話し込んでしまうと大抵は良い情報が得られておらず、無駄な内容が多くなります。「この時間内で終わらせる」という気持ちで臨みましょう。

    二人一組で行う

    慣れてくれば一人でも問題なく実施できますが、最初のうちはメモを取る人と質問する人に分かれ、二人一組でヒアリングすることをおすすめします。

    なぜ二人一組が良いかというと、ユーザーの顔の雰囲気が話していることと違っていたり、少し言いよどんだりするときがあるからです。質問することに集中できていればそうした表情の変化にも気付けるので、「今一瞬だけ右斜め上を少し見ましたが、そのときは何を考えていたのですか」などと聞けます。そのため、質問する人はとにかく相手の顔を見て話を聞くことに集中し、メモを取る人はひたすら書く、というふうに役割を分けたほうが良いと思います。

    台本を作っておく

    いくら頭の中で考えていても、実際にヒアリングの場になると出てこなかったり、緊張して質問がクローズドクエスチョンのようになったりすることがあるので、最初のうちは台本を作成しておくのがおすすめです。

    質問する順番も重要です。当たり障りのない質問から始め、徐々に核心に迫るようなアプローチをすると、相手も話しやすいと思います。

    また、専門用語や業界用語を多用している場合があるので、ヒアリングの台本を作成したら社外の人に聞き、わかりづらいところがないか確認してもらうと良いでしょう。

    ヒアリングでは気を使われやすいと考える

    ユーザーヒアリングをアメリカで行っていて「日本と違うな」と思うのは、日本人のほうが空気を読む傾向にある点です。ヒアリングを始める前に「良いことも悪いことも言ってください」と伝えておくと、事前に伝えないときよりも顧客が本音で話してくれやすくなります。

    ロイヤル顧客の中には「悪いことを言ってしまうと申し訳ない」と考える人が一定数います。そういう人は気を使ってこちらが気持ちの良いことを言ってくれますが、発言と本心が一致していない場合があるのです。

    「長く使ってもらっている方に悪いところを指摘していただいたほうが、私たちのプラスになるので、ぜひお願いします」と最初に言うと、不思議なことに「××は本当に良いけれど、△△は良くないと思う」と顧客が教えてくれるようになるので、ぜひ意識してみてください。

    ヒアリングの場所も重視する

    ヒアリングでは、その商品・サービスを使っている場所で顧客に話してもらうことが大切です。以前はお客さまの自宅に訪問して話を聞いていたので、ヒアリング時に家の雰囲気なども知ることができましたが、最近はオンラインが中心になっていてわかりません。

    顧客が商品・サービスを使わない場所でヒアリングを行うと、使い方を聞いても覚えていないことがあるため、普段使用している場所へ移動してもらいます。例えば車のパーツを販売している会社でヒアリングを行う際は、お客さまに車の中へ移動してもらうイメージです。

    頭を空にして質問する

    私はよく投資先などに「頭の中を空にして質問してください」と強く言っています。商品・サービスを作った人がヒアリングすると、「私の商品(サービス)はこういうものだ」「××が良いところだ」といった事柄が頭の中にあり、「こうであってほしい」という願望で顧客に質問することがあるためです。

    「いいですよね?」と聞かれた相手は「そうですね、いいですね」と答えざるを得ません。私はこの「いい」は「どうでもいい」の「いい」と一緒だと思っています。そうした聞き方にならないよう、頭の中はフラットにしてヒアリングを行いましょう。

    また、ロイヤル顧客の顧客像を決めつけないことも大切です。この場合も自分が思っている仮説をぶつけがちで、「△△だから、××が役に立っていませんか」と聞いて「そうですね」と顧客に言われてしまい、ヒアリングした内容をまとめても「わざわざ聞かなくてもよかった」となります。

    ヒアリングはあくまでも顧客になり得る人を見つけるための作業なので、ロイヤル顧客がどのような人かは決めつけず、ヒアリングした内容から考えることを意識してください。

    質問は狭く深く

    質問は5W1Hについて狭く深く聞くことを意識しましょう。

    例えば「弊社の商品のどこに惹かれて購入したか」と尋ねて、「御社のコンセプトが非常に気に入って購入しました」と返ってきた場合、慣れないうちは「ありがとうございます。それでは次の質問です」と終わってしまいがちです。顧客がどのようなコンセプトを気に入ったのか具体的に掘り下げて聞いておかないと、企業側の思っているコンセプトと違う場合があります。

    ヒアリング中に顧客から曖昧な言葉が出てきたら、「具体的にどのようなコンセプトだと思って購入したのですか」「どうしてそのコンセプトがお客さまに刺さったのでしょうか」などと、必ず掘り下げるようにしましょう。

    エピソードや感情を引き出す

    ヒアリングではエピソードと感情を一緒に引き出すことを意識してください。皆さんも「どう思いますか」と聞かれるよりは、「エピソードと一緒にお話しください」と言われたほうが「家族で××に行ったときに、~~で、とても便利でした」などと話しやすくなるのではないでしょうか。

    また、感情には「△△になったから嬉しかった」「××ができなかったから、少しイラっとした」などとプロセスが含まれていることが多くあります。同じプロセスを踏めば顧客の感情を再現できる可能性があるので、詳しく聞き取りましょう。

    「なぜ?」をできる限り使わない

    ヒアリングでは「なぜ?(Why?)」をできる限り使わず、「What?」「How?」で聞くことを意識してください。「Why?」と尋ねると「Because…」と答えられてしまい、本当に聞きたい回答を引き出すのにさらに深掘りが必要になることが多いためです。

    例:
    × なぜ弊社の商品を使い続けているのですか。

    ○ この半年間、弊社の商品をどのように利用してきましたか。
    ○ 最近、どのような体験が弊社商品に対するお客さまの愛着度を高めたのでしょうか。

    「What」や「How」を使って尋ねると「何が」「どうして」に対する部分をユーザーに答えてもらえます。そしてさらに、「何があなたを幸せにしているのですか。エピソードと一緒に話をしてください」とエピソードを一緒に答えてもらうのがポイントです。

    以前は何を使っていたのか確認する

    「自社の商品・サービスを使う前に、顧客が何を使っていたか」もポイントになります。他社を利用していたときと現在で、顧客は感情に何かしらの変化があり、商品・サービスを乗り換えているためです。

    この場合は前の商品・サービスをどのような気持ちで使用していたかがポイントになるので、「Aを使っていたときは、どのような気持ちでしたか」と尋ねます。すると「仕方なく使っていた」「良かったけれど、○○がすごく手間だった」などの話が出てくるでしょう。

    もし自社商品・サービスの前に何も使用していなかった場合は、「では、商品(サービス)は使っていなかったけれど、どのようにその作業をしていたのですか」とどう代用していたのかを聞いてみてください。

    今抱えている課題をどのように解決しているか確認する

    以下のような瞬間や体験、サービスなどには、顧客のインサイトの本質が詰まっているケースが多く見られます。詳しく聞きましょう。

    • 人の生活に起こる悪戦苦闘の瞬間
    • もっと良いものと取り換えたくてイライラする瞬間
    • 不満足な体験
    • 顧客が進歩を求めていながら利用できる解決策に制限があり、何度も我慢を強いられていること
    • 罪悪感がありながらも使用しているサービス

    顧客が自社の商品・サービスをどのタイミングで、どのように使っているかを確認する

    自社の商品・サービスを顧客がどのように利用しているのか掘り下げていくと、インサイトに関する重要な知見が得られる場合があります。特に、意外な振る舞いがされていたり、想定外の使われ方をしていたりする場合、その点が訴求ポイントになることがあるので詳しく聞きましょう。

    “なら・しか”を見逃さない

    「御社のサービスしかこれがないんですよね」のように、顧客のコメントに「なら」や「しか」が出てきたら、そこは重要なポイントなので具体的に掘り下げてください。弊社ではこれを「なら・しか理論」と呼んでいます。

    「なら・しか」は競合が持っていないものを自社が持っているときに出てくる言葉です。SWOT分析による強みは自社視点ですが、「なら・しか」で出てくる要素はお客さま視点の相対評価による強みと言えます。

    競合他社をとにかく褒める

    「Bも購入しているそうですが、何か不満はありますか」と聞いても、人は悪口をあまり言いたくないので「御社のほうが良いと思っているから、特にありません」と話してくれないでしょう。

    ところが「Bはすごいですよね」と褒めると、「実はそうでもないんですよね…」と顧客が不満な点を教えてくれる場合があります。競合他社の悪口を顧客と一緒になって言うのは論理的にもアウトですが、真実を知らない人に本当のことを教えてあげるのは正義と考える人間心理を上手に利用しましょう。

    ユーザーヒアリングのお願いは情熱的に

    ユーザーヒアリングの依頼をメールで送る際、機械的な文章は断られることが多いので、代表が熱い思いを自分の言葉で伝えるのが良いでしょう。

    以下の文面をご覧ください。左は50人中50人に断られた文面で、右は5人中4人からOKをいただいた文面です。左はヒアリングの概要やお礼としてプレゼントを提供することなどが丁寧に書かれていますが、迷惑メールのような印象を持たれやすいようです。熱い思いを込めれば、右の文面くらいの長さや説明で受けてもらえます。

    以上の点に注意しながら、ロイヤル顧客へのヒアリングを実施します。目安は最低5人です。質問に絶対的なフォーマットは存在しないので、一度ヒアリングをしたら、サービスの内容や相手の状況に応じて項目を変えるようにしてください。

    Step3:仮説の構築

    ヒアリングが終わったら仮説の構築に移り、購入する可能性の高い顧客層を見極める作業を行います。ヒアリング内容について、どんな人がどのような課題を感じ、どう解決したのか分析していくのです。

    最低5人に話を聞くと、何人かは共通する話が出てくると思うので、複数のロイヤル顧客から浮かび上がった属性をもとに特徴をデフォルメし、検証可能な仮説を立てます。

    Step4:仮説の検証

    最後は仮説の検証です。ロイヤル顧客にヒアリングして仮説を作ったら、その仮説をもとに対象となり得る顧客を割り出し、ギフティングやインフルエンサーマーケティングなど、情報の伝え方を検証します。

    例えばギフティングの場合、一般的には以下のような流れで進めます。

    1. サービスの対象となり得る人をSNS上で探す
    2. DMで課題を解決できる点を伝え、ギフティングの許可を得る
    3. 商品を無料で提供する
    4. 利用後に商品を評価してもらえたら、UGCの投稿を依頼する

    誰でも無料で商品をあげるのではなく、サービスの対象となり得る人に提供することが重要です。仮説が正しければ、ギフティングした人たちがそのまま商品・サービスのユーザーになる可能性も高く、特定のユーザー間で活発に利用されている状態を作れます。一方、そもそもロイヤル顧客にヒアリングできていなかったり、聞き込みの内容が足りていなかったりして仮説が正しくないと、想定通りの反応が得られないため、ヒアリング結果を見直し、新たな仮説を立てる必要があります。

    シード期は、狭いターゲットを少しずつ獲得していくイメージで、小さな市場で圧勝している状態を作ることが大切です。小さな市場とはいえPMFが達成されていると言えますし、「次の資金調達で、この(具体的な)ターゲットを狙っていきます」と示してくれる企業のほうがVCも投資しやすいでしょう。いかに早い段階でコストをかけるところを見つけ、特化できるかが重要で、コストをある程度かけているのに事業の成長率が良くないと、投資家は「ほかのサービスと比べると見劣りする」「数億円を調達した割にはこれくらいのトラクション(※)なのか」と過小評価されるおそれがあります。

    最初に中途半端にマスのターゲットを取りに行くと、後から細かいターゲットを獲得するのに苦労しがちなので、まずはピンポイントでも熱量の高そうなターゲット層を獲得することに集中したほうが良いと思います。

    ※トラクション:顧客数や売上の増加など、スタートアップの成長の兆しを指して使われる言葉。

    Q&A

    講義の後は、高松さんや参加者から白石さんに質問が寄せられました。ここでは、その一部をご紹介します。

    Q. 決裁者とプロダクトの利用者が異なる場合、ヒアリングは両方に行ったほうが良いでしょうか。

    白石 toCの場合は決裁者から、toBの場合はプロダクトを使ってくれる人から聞くのがいいと思います。例えば子ども向けのtoCサービスの場合、お金を出すのは親で、サービスの利用者は子どもです。子どもに欲しいと言われてサービスを購入したのに、思ったよりも使っていないことがわかったら、親は買わなくなりますよね。まずはお金を払う親に聞いて、次に子どもに聞くのが良いでしょう。

    一方、toBサービスの場合、決裁者はお金を出しているだけでサービスの良さを知らないことがあるので、プロダクトの利用者から話を聞いたほうが良いと思います。

    Q. toBとtoCでヒアリングのコツは変わりますか。

    白石 コツは同じです。聞く内容もあまり変わりません。

    Q. 新しいサービスをこれから立ち上げる予定で、β版ができたタイミングでヒアリングの実施を検討しています。既存顧客がいないフェーズでのヒアリングはどう行えば良いですか。

    白石 β版のサービスの対象となるユーザーについて、いくつか仮説を立ててください。そして、サービスを使ってくれそうな人たちに対し、「××の課題を解決できるので、良かったら使ってみてください」と依頼して利用してもらいます。使用後のヒアリングで「便利だった」「ここがもっと○○だったら良かった」などの反応を得られたら、サービスが刺さっていそうな層を見極めていくのが良いと思います。

    Q. スタートアップ初期以外で、ヒアリングを行うべきタイミングはありますか。

    白石 事業が成長してくるとユーザーの声を忘れてしまうときがあるので、中だるみが出てきたときにおすすめです。社員のモチベーションアップやプロダクトの改善を目的に「自分たちのプロダクトがユーザーに本当に求められているか否か」をユーザーヒアリングで確認します。目的を明確にしたうえで、月1回など定期的に実施するルールを決めておき、ルーティンに組み込んでおくのが良いと思います。

    高松 ありがとうございます。本日教わった内容は私も「シード・ゼミ」の開講前に実践しており、ヒアリング内容を事前にドキュメントに整理して45分の時間制限を設け、ロイヤル顧客に話を聞きました。中でも「サービス利用前は何で代替していたのか」という質問は、「シード・ゼミ」の前身である「ビタミンゼミ」のバリューの明確化につながったので、特に重要だと思います。実践して良かったです。

    白石 他社サービスの不便さなどを聞けると、自分のサービスにもうまく反映できるので、過去との比較は大切だと思います。スタートアップの皆さんは半信半疑でも良いので、まずは本日お伝えしたヒアリング方法を実践することをおすすめします。

     

    【講師Profile】

    白石 健太郎(しらいし・けんたろう)@ShiraishiK2
    朝日メディアラボベンチャーズ株式会社 パートナー。
    2001年朝日新聞社入社。同社販売局にて600店以上の新聞販売店のエリアマネージャーを担当。2013年に新規事業部門のメディアラボに参画。2017年より朝日メディアラボベンチャーズの設立に携わり、ディレクターとして出向。2016年4月よりギグベース株式会社の社外取締役も務めている。

    【ビタミン株式会社】

    高梨大輔(たかなし・だいすけ)@dtakanashi

    高松裕美(たかまつ・ひろみ)@_romihee_
    株式会社リジョブ(現株式会社じげんグループ)の創業役員の2人が2015年に創業し、エクイティファイナンス型のスタートアップを専門に、インハウスマーケティング支援やエンジェル投資活動を行う。2018年~2022年3月までスタートアップ企業のマーケティング支援コミュニティ「ビタミンゼミ」を運営。2022年8月より「ビタミンゼミ」の後身となる「シード・ゼミ」を開講し、信頼できる専門家から「一次情報」を全国の創業期企業に届ける活動を続けている。
    https://note.com/teamvitamin/n/nbfc90efdd547

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    佐藤綾美

    記事執筆者

    佐藤綾美

    株式会社CINC社員、Marketing Native 編集長。大学卒業後、出版社にて教養カルチャー誌などの雑誌編集者を経験し、2016年より株式会社CINCにジョイン。
    Twitter:@sleepy_as
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