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2020.12.25

「マーケターが最も時間を使うべきこと、クライアントへの初回訪問時に確認すべきこと」――垣内勇威(WACUL)×松本健太郎(JX通信社)特別対談

垣内勇威さん(WACUL取締役CIO)と松本健太郎さん(JX通信社マーケティングマネージャー)の対談「Marketing Native LIVE vol.1」後編をお伝えします。

後編では主に仕事やキャリアに関する視聴者の質問に対して、2人の考えをお聞きしました。前編同様に身近で実践的な内容になっています。

ぜひお読みください。

(モデレーター:株式会社CINC執行役員 ソリューション事業本部 推進部部長・間藤 大地、構成:Marketing Native編集部・早川 巧)

※すでに会員の方には、12月24日配信のメールマガジンにて視聴URLをご案内しております。

目次

部下に成長を促す管理職の役割と、おすすめの勉強

――おふたりのキャリアを形づくった経験を伺ったところ、垣内さんは新卒で入社した企業で取り組んだ営業とユーザー行動観察調査、松本さんは全部の経験が今に活きているとのことでした。次に、管理職としてのおふたりに対する質問です。現実問題として働き方改革や36協定などさまざまな制約がある中で、自分と同じモチベーションで勉強しろと部下に伝えにくい部分もあると思います。その点でおふたりはどんなメッセージの伝え方をしていますか。

垣内 難しいことを聞きますね。今日一番難しい質問です。

松本 今日イチ難しいなあ。

垣内 勉強するという意味で言うと環境が大事だと思います。仕事が終わって、風呂上がりに読書しようと思っても、なかなか手につかないものです。ですから、自分に旨みがあったり、脳に報酬が来たりするタイプの勉強がいいと思います。例えば、アフィリエイトは報酬が得られる上、SEOやリスティング、LP(ランディングページ)の作成などいろんなことが身に付きますので、勉強としておすすめしています。

――松本さんの学習に対するモチベーションはどこから来るのか気になっている人は多いと思います。

松本 モチベーションですか?私、モチベーションなんて無いですよ。いろんな人に誤解されていますが、モチベーションを持ってやるからモチベーションが落ちたときにできなくなるんです。モチベーションに期待して仕事をする発想が間違いだと思っていて、何の感情もなく、ただ淡々とやるしかないです。ただし、これは完全に生存者バイアスだと思いますが…。

では、それを自分のメンバーにどう伝えるかというと、「勉強しろ」と言ってもしない人はしないので、仕事の難易度を少しずつ上げていくしかありません。それで達成したら、さらにもう一段上の仕事を任せていく。そうやって成長を促すのがマネージャーの責任だと思います。

――わかりました。次におふたりがこれから目指す方向性を教えてください。

垣内 この本で自分の知見は全部出しました。それくらいのことを書いたつもりです。ただ、そんなに簡単に伝わるとは思っていないので、これをどう現場に落とし込み、一般化していくか。それがこれからやるべきことだと考えています。

松本 この前、ある編集者の方から「なぜあんなにデータを疑って見られるのですか?」と聞かれたんです。私からすると「なぜデータを疑わないんですか?」と思っていて、そのときは「なぜデータを正であると思い込んで、それを前提に分析するのか逆にわからない」と答えました。同時に「ここは意外と金脈だ」とピンときたんです。

どうやらジャーナリズムの現場に立たれている方の多くは、データに弱いらしい、と。

データに弱いがために、データを正とした状態で受け止めてしまう。データサイエンティストは、データを深掘りして疑ってかかり、新たなデータを見つけることが好きだけど、ジャーナリズムの方は弱い。ここでコミュニケーション不全が起きているのであれば、自分にはチャンスだと思いました。3年くらいいろいろな挑戦をして、ある程度の実績を残していきたいと考えています。

最もスキルが必要で尊い業務は「組織調整」(垣内さん)

――続いて視聴者からの質問に移ります。「クライアントとの初回訪問、商談のときは何を聞くことにしていますか。また、何を聞かなくてもいいと思っていますか」。

垣内 いろいろありますが、まずは組織とKPIですね。「この方々は何者で、何をミッションにしていて、どんな成果を上げたいのか」。これがわからないと始まらないので、そこから聞いていきます。

組織といっても例えば、統括部署なのか個別の事業部なのか、広告運用が中心なのか、店舗の売り上げまで見ているのかなど形態は幅広くありますから、そこを押さえられるとコミュニケーションが噛み合うようになります。逆にそれ以外のことは自分の知見を話したほうが信頼を獲得できるケースが多いので、相手がどういう組織で、どのような論理を持っているのかを最初に確認したほうがいいですね。

松本 垣内さんのお話と同じです。ちなみに私が長く携わっているBtoBの場合は担当者の一存で決まることはまずないですから、組織の縦と横の系列がどうなっていて、どう動かすと物事が進むのかを早く見極めるのが大事だと思います。

相手が何を当面のゴールにしていて、どんな課題を抱えているかをヒアリングすることは直接KPI、KGIに関わってきます。初回訪問で組織とKPIを把握し、相手の課題点に対して自分たちが解決できるかもしれないという印象を与えられれば初回としてはゴールではないでしょうか。

――ここで勘違いしないようにしておきたいのは、組織とKPIを聞けばいいということではないですよね。

垣内 そうです。組織とKPIを聞いて、それに応じてその後のコミュニケーションを変えていくことが重要だということです。

――視聴者から寄せられた次の質問です。「マーケティングに携わる人間が一番時間を使うことは何でしょうか」。

垣内 事実ベースでいくと組織調整ですね。社内の説明、人の巻き込み、これに最も時間を使うし、使ってもよいというか、使うべき。尊い仕事だと思っています。組織調整はネガティブな意味合いで使われるときもありますが、できる人は素晴らしいし、最も必要なスキルであり、最も必要な仕事だと捉えています。

ほかには、やはり顧客理解とコンテンツ作りに時間を使ってほしいですね。広告運用に細々と注力するよりもコンテンツが良ければコンバージョンは取れます。顧客理解とコンテンツ作りに時間を使うべきというか、使えていないからこそ使う意識を持つべきだと思います。

――データ抽出や分析を毎日しているけど、そんな毎日でいいのか不安だという人にアドバイスはないですか。

垣内 目的もなく、とりあえずGAやエクセルを開くのをやめてみてはどうでしょうか。私、ほとんどGAを見ませんからね。データを集める前に何に使うのか、どんな仮説を検証するために分析するのかをまず考えることが大切です。

松本 少し抽象度の高い発言になりますが、何をすれば売り上げを立てられるかを考えることに最も時間を使うべきではないですか。よく社内で言うのですが、北海道に行くことになったときに、とりあえず歩き出すのではなく、北海道がどの方向にあるかを理解するだけでも大きな違いが生まれます。さらに、歩くべきなのか、電車がいいのか、それとも飛行機で行くのが速いのかを考えるのも大事ですし、そもそも北海道が一番カネを稼げるのかという点から考え直すのも重要で、思考に最も時間を費やすべきだと思います。

データが必要になるのは「何をすれば売り上げを立てられるのか」を考えるときの仮説や勘を裏付けるときですね。

――視聴者からの次の質問です。「俯瞰的な視点や本質的な問いを立てられるようになるトレーニング方法はありますか」。

垣内 いろんな人に会うことですね。視野の広い人、よりビジネスレイヤーの高い人と話すと、「自分はこんなに小さなところしか見てなかったのか」と気づかされるので、インプットの間口を広げてみるのは良いかもしれないです。

あとは「そもそも」を口癖にする。「そもそも」を言いすぎて、この前2歳の子供が「そもそも」と口にしていました(笑)

松本 そんなトレーニングがあるなら、私が受けたいです(笑)。申し訳ないですが、これは自分の中で言語化できていません。

良いマーケターと悪いマーケターの違い

――視聴者から次の質問です。「商材の強さとLP改善の見込み度のバランスはどう判断されていますか」。

垣内 LPの改善はすべきことが明確ですから、最大限に取り組めばいいだけです。それで結果が出なければ、商材に問題があるのではないですか。LPが定数で、変数は商材のほうです。ECやBtoBでもそうですが、最終的には商品を良くすること、中身を充実させることでしかコンバージョンレートは上がらないですね。

ただし、「LPは最大限やりましょう」といっても、ABテストを100回行うことが最大限なのかというとそれは間違いで、勝ちパターンを100点満点中80点までやれば、それ以上LPについては気にしなくていいと思います。

――商材の強さに対してお客さまに何か言うことはあるんですか。

垣内 結構フィードバックしますよ。定性調査をすればすぐにわかりますから、特にECの場合は「この商品では売れないので、もっとこういうのを作ってください」と、よく提案しています。

松本 私も商材の強さを作れるマーケターになるべきだと思います。強いプロダクトを作るのもマーケターの仕事だと常々考えていますので、LPの改善が落ち着いても、プロダクトが弱くてCVRが上がらないのであれば、改善提案を行うべきですね。

――視聴者からの最後の質問です。「良いマーケターとはどんな人ですか」。

垣内 先ほどお伝えした通り、江戸時代にタイムスリップしてもモノを売れる人が良いマーケターだと思います。マーケティング用語の定義を考えている暇があったら1円でも多く売り上げを立てる方法を考えるべきで、そのためにはもっと顧客を見るべきだと言いたいです。

松本 良いマーケターとは「お金を稼げないところから稼げるようにできる人」というのが私の考えです。少し逆説的に、悪いマーケターとはどんな人かを考えたとき、お金を稼げない人が悪いマーケターかというと、状況にもよりますから、そうとは言い切れません。

最近、「スキルを気にしてしまう人」が、おそらく悪いマーケターだと思い始めています。お金を稼ぐのにスキルは直接関係ないと考えていて、スキルはあくまでもお金を稼ぐのに必要な武器を強化する手段だと捉えています。スキルを気にすること自体、いかに視線がお金を稼ぐかに向いていないかを示しているわけで、そう考えるとやはり、スキルばかり気にしてしまう人が悪いマーケターではないでしょうか。

――ありがとうございます。それでは最後に、この対談を通してのお互いの印象をそれぞれお願いします。

松本 垣内さんは本当に切れ味の鋭い方ですね。私は今日、ノートにカンニングペーパーを貼って、それを見ながら話していましたが、垣内さんは見ないじゃないですか。これは重要なことで、言語化できる思考が頭の相当手前にあって、何か言われたら即座に答えを引き出せるレベルにあるんだと思います。すごいです。

――垣内さんは松本さんの印象はいかがですか。

垣内 松本さんの著書のタイトルを見て、最初は正直、構えたところもあったのですが、実際に読んでみたらイメージと大きく違って、人間心理を深く追求している上に、私が考えるマーケティングと通じるところも多くて、非常に良い本だと感じました。

実際にお会いすると、ファーストキャリアが営業と聞いて、だから共感しやすいのかと思いましたし、本気でデータサイエンスを学ぶために大学院まで行かれるほど真面目な方なんだなとも思いまして、好感しかないですね。

――お二方、本日はありがとうございました。

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Profile
垣内 勇威(かきうち・ゆうい)
株式会社WACUL取締役CIO。
東京大学経済学部卒業後、株式会社ビービットに入社。2013年にWACULに入社し、改善提案から効果検証に至るまで、マーケティングのPDCAをサポートするSaaSツール「AIアナリスト」を立ち上げる。現在はWACULテクノロジー&マーケティングラボ所長および取締役CIOとして、ノウハウの構築や新規プロダクトの創出などを担う。著書は『デジタルマーケティングの定石 なぜマーケターは「成果の出ない施策」を繰り返すのか?』(日本実業出版社)。
Twitter:@yuikakiuchi

松本健太郎(まつもと・けんたろう)
株式会社JX通信社マーケティングマネージャー。
多摩大学大学院経営情報学研究科修了。株式会社ロックオン(現イルグルム)、株式会社デコムを経て、2020年JX通信社入社。主な著書に『人は悪魔に熱狂する』『データサイエンス「超」入門』(以上、毎日新聞出版)、『グラフをつくる前に読む本』(技術評論社)、『なぜ「つい買ってしまう」のか?』(光文社新書)、『アイデア量産の思考法』(大和書房)など。
Twitter:@matsuken0716

 

 

早川巧

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
Twitter:@hayakawaMN
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