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西井敏恭が教える「サブスクリプション・マーケティングで成果を上げる3つのポイント」【ビタミンゼミレポート#13】

最終更新日:2021.10.28

Marketing Nativeの「ビタミンゼミ」(※)レポート第13回は、株式会社シンクロ代表取締役/オイシックス・ラ・大地株式会社執行役員CMT/GROOVE X株式会社CMOの西井敏恭さんによる「サブスクリプション・マーケティング」をお届けします。

サブスクリプションは2019年頃から注目を集めるようになり、今ではさまざまな企業がサブスクリプション型のサービスを展開しています。ただ、中にはサービスがなかなか伸長せず、厳しいフェーズに直面しているスタートアップの方もいらっしゃるでしょう。

今回のビタミンゼミ・朝ゼミでは、サブスクリプション・サービスに詳しい西井さんにより、サブスクリプションの基本に関する講義と公開メンタリングが行われました。この記事では主要な部分をご紹介します。

(構成:Marketing Native編集長・佐藤綾美)

※ビタミンゼミ:ビタミン株式会社が運営し、スタートアップ企業の経営者やCMO候補のマーケターがゼミ生として参加するコミュニティ。コミュニティへの参加は有料で紹介制。Marketing Nativeでは、月1回開催される「朝ゼミ」の内容を不定期でレポートしている。

目次

サブスクリプションとは何か

西井さん(以下、西井) 皆さんはサブスクリプションと聞いて何を思い浮かべますか。「月額モデル」「定額販売」「定期サービス」「SaaSビジネス」など、世の中ではさまざまな言葉で表現されていて、Wikipediaの「サブスクリプション」には次のように書かれています。

語源である英語の「サブスクリプション」(英語: subscription、英語: subscribeの名詞形)には、雑誌の「予約購読」「定期購読」「会費」の意味がある。転じて「有限期間の使用許可」の意味となった。

出典:ウィキペディア日本語版「サブスクリプション」(2021年10月28日10:30)

ネットスーパーとオイシックスの違い

サブスクリプションとは何かを考えるにあたって、まずネットスーパーとサブスクリプションの違いについてお話しします。

一般的なネットスーパーは注文してから配達までのスピードが速いのに対し、オイシックスのようなサブスクリプションは収穫から自宅などに届くまでのスピードが速いという点に違いがあります。

ネットスーパーでは、農家の方が野菜を収穫した後、スーパーの倉庫に納品します。そして、お客さまがEコマース上でカートに入れて注文すると、早くて3時間、大体1日以内には商品が届く仕組みです。今すぐ商品が欲しい人には便利なサービスですよね。

一方、オイシックスではお客さまがEコマース上で注文した商品数を基に、必要な数を農家の方に納品していただき、その日のうちにお客さまに配送します。注文してからすぐには届きませんが、生産または収穫後すぐに食材が届く利便性を提供しているのです。

画像提供:西井敏恭

オイシックスで提供しているような有機野菜を求める方は昔からいますが、スーパーではあまり売られていません。値段が比較的高く、毎日どれくらい売れるか予測が難しいため、たくさん仕入れても在庫が余るおそれがあるからです。ミールキットも同様だと思います。オイシックスのサブスクリプションは、地産地消または大量生産が難しい食材をお客さまに予約する形で購入してもらい、新鮮な状態で届く利便性を提供しています。

サブスクリプションと定期販売の違い

ケーブルテレビ、新聞、サプリメントの通販など、定額サービスや定期販売のビジネスは以前から存在します。そうした定額サービスや定期販売、あるいは定期販売をインターネット上で行うことがサブスクリプションと思われがちですが、最近言われている「サブスクリプションが大事」という文脈においては、少し異なると思います。従来からある定期販売と最近言われているサブスクリプションは、ビジネスモデルは同じですが、マーケティング手法が異なると私は考えています。

従来の定期販売はお客さまが購入するまでのマーケティングが重要で、手法は主に広告です。一部では商品の販売後にお客さまを囲い込むようなマーケティングを行っていたかもしれませんが、いずれにせよポイントは「どのように売るか」でした。一方サブスクリプションは、お客さまが購入した後のマーケティングも重要になります。

画像提供:西井敏恭

インターネットで物を販売する際、「○○の機能が付いて、こんなに安い」「○○が今までよりもさらにおいしくなった」と商品の差別化や機能性を押し出すようなマーケティングはなかなか通用しません。ユーザーが能動的に情報を検索するほか、SNSなどを通じて友人や知り合いからおすすめされることもあるため、企業からの一方的な広告や販促は受け入れられにくくなっています。その対策として有効なのは、デジタルマーケティングでお客さまと直接つながり、お客様の声を拾ったり行動データを把握したりして、顧客理解を進化させることです。

サブスクリプションは、お試しセットを提供したり、サービスの利用を初月無料にしたりして、購入のハードルをある程度下げることができます。重要なのは、商品やサービスを使い続けたい気持ちをいかにつくり出せるかです。そのために必要なのがデータに基づいて商品購入後のマーケティングを行うことであり、「月額モデル」「定額サービス」「Eコマース」という要素だけでは、サブスクリプションやD2Cは成立しないと考えておいたほうが良いでしょう。

サブスクリプション・マーケティングを考える際の3つの重要なポイント

サブスクリプション・マーケティングを考える際、重要なポイントが3つあります。

  1. 「モノを買う」から「利用する」
  2. データ活用によるUXのアップデート
  3. ソーシャルによる顧客とのサクセスの共創

1つずつ解説します。

1.「モノを買う」から「利用する」

近年の消費は「モノを買う」から「利用する」に変化しています。「Spotify」などの音楽配信サービスや「Photoshop」のような画像編集ソフト、オイシックスのような食品宅配サービスを例に考えてみましょう。

▼例

  • 音楽配信サービス
    CDが欲しい、曲を買いたい ⇒ 音楽を聴きたい
  • 画像編集ソフト
    画像編集ソフトを買いたい ⇒ 画像をうまく編集したい
  • 食品宅配サービス
    新鮮な野菜を購入したい ⇒ 楽しい食卓をつくりたい

オイシックスはサブスクリプションを通じて食品を売るのではなく、「DEHECS」という6つの価値の提供を追求し、お客さまの豊かな食卓の実現を目指しています。

オイシックスが提供する価値「DEHECS」

  • Delicious(おいしさ)
  • Enjoyable(楽しさ)
  • Healthy(健康)
  • Easy(簡単)
  • Credible(信頼)
  • Social(社会との関わり)

2.データ活用によるUXのアップデート

次に、データ活用によるUXのアップデートです。音楽配信サービス、画像編集ソフト、食品宅配サービスを例にすると、次のようにアップデートされていると思います。

▼例

  • 音楽配信サービス
    CDを購入してもらえればOK ⇒ プッシュ通知やレコメンドなどで定期的にサービスを利用してもらえるように働きかけ、ユーザーが「音楽を聴くことは楽しい」と感じる状態をつくっている
  • 画像編集ソフト
    ソフトを購入してもらえればOK ⇒ 初心者が画像編集でつまずきやすいところをデータ化して対応したり、技術がないと難しい編集作業をAIで処理できるようにしたりして、画像編集ソフトで成功体験が得られる人を増やしている
  • 食品宅配サービス
    冷蔵庫の中を見て、都度スーパーで必要な食材を購入する ⇒ インターネットで注文して定期的に自宅に食材が届くため、スーパーに買いに行く手間が解消される

オイシックスのカスタマーサクセスでは、初めて利用する人に3日分の夕食を提案するなど、サービスを利用する入り口段階でユーザー体験を変えるように工夫しています。以前は食品のみを送り、使い方自体はお客さまに考えてもらっていましたが、3日分の夕食レシピも合わせて提案するように変更したのです。すると、お客さまはオイシックスの食材を使う3日間は夕食の献立を考える必要がなくなるので、「オイシックスで頼むと、料理が楽になる」体験を提供することができます。

画像提供:西井敏恭

3.ソーシャルによる顧客とのサクセスの共創

商品やサービスの利用を通じて、お客さまが実現したいと思っていることを一緒につくるのが「顧客とのサクセスの共創」です。オイシックスでは、お客さまの中から募った公式アンバサダーにご意見を頂きながらミールキットを開発し、「手料理を簡単につくれる」というサクセスを共創しています。

SNSで写真をアップしてくださる方も以前より多くなりました。「料理をするのは大変だけれど、お惣菜で済ませるのは申し訳ない」と悩んでいた方も、ミールキットなら簡単に手料理が作れるとおすすめしやすいようです。もう1つのポイントは、ミールキットは自分流にアレンジしやすいことです。我々が100%の状態のものを提供するのではなく、お客さまがアレンジできる余白を設けていることによって、SNSに写真をアップしてくださる方が増えたのではないかと考えています。

あらためて、サブスクリプションとは

サブスクリプションとは、お客さまが商品やサービスを使い続けたい気持ちをつくることです。オイシックスではそれを「暮らしの提案」と呼んでいて、お客さまにいかに暮らしを提案できるかを大切にしています。

オイシックスのミールキットも、初期の2013年~2014年頃は売れ行きがあまり良くありませんでした。10人中9人は「少し高いし、自分で作れるのでミールキットは必要ない」と回答するような状況だったのです。しかし、少なくとも10人に1人は熱狂的な声を上げてくれていました。その熱狂してくれているお客さまからフィードバックを頂き、キット内の調味料を分けて家族それぞれが好みで味を調整できるようにしたり、レシピの記載を「塩少々」ではなく具体的に表現するようにしたりして改善したところ、結果的に売り上げが上がりました。2019年には累計出荷食数が3,500万食を超えています。

画像提供:西井敏恭

高松(ビタミンゼミ・高松さん。以下、高松) 1つ質問をよろしいでしょうか。オイシックスでミールキットを販売した当初、10人中1人の熱狂があったとおっしゃっていました。10人中9人は否定的であったのに対し、たった1人の熱狂的な意見をどのようにすくい上げたのでしょうか。また、なぜその意見を信用できたのですか。

西井 熱狂しているユーザーは、ユーザー体験が変わった人です。何か大きな課題を抱えていたけれど、その課題を解決できる方法がなかった。でも、このサービスを使うことで課題を解決し、熱狂している――だから信じることができたのだと思います。

感覚的に申し上げると、熱狂度合いが「なんかいいね」ではなく「めっちゃいいね」なんです。お客さまの中では10人に1人でしたが、もっと広く世の中を見てみれば、10人に5人は同じ課題を持っているかもしれません。10人中1人だけ課題解決に成功して「めっちゃいいね」と言ってくれていますが、残りの4人は我々がうまく解決方法を提案できていないだけで課題はきっと持っているのだと思います。熱狂度合いがもしも低かったから、ミールキットにポテンシャルがあると信じるのはおそらく難しかったでしょう。

高松 ありがとうございます。「めっちゃいいね」というフィードバックがあるか否かですね。非常に勉強になりました。

西井 はい。今回の講義を聞いている皆さんも、「めっちゃいいね」という状態ができているかどうかは大切だと思います。世の中全体を見るとまだ少ないですが、GROOVE XのLOVOTも「めっちゃいいね」と言ってくださる方がいて、LOVOTとの生活を非常に楽しんでくださっています。

サブスクリプションに悩めるスタートアップを公開メンタリング

講義の後半では、ビタミンゼミに参加しているスタートアップ企業のうち2社が西井さんに直接相談し、公開メンタリングが行われました。ここでは一部を除き、その内容をご紹介します。

「PETOKOTO FOODS(ペトコトフーズ)」の公開メンタリング

最初の相談者は、フレッシュドッグフードブランド「PETOKOTO FOODS」を展開する株式会社PETOKOTO 代表取締役社長の大久保泰介さんです。

大久保さん(以下、大久保) 弊社は国産無添加の食材を使用したフレッシュドッグフードを冷凍状態でお届けするサービスを展開しています。

現在は全商品について定期販売で提供する形をとっており、配送は2週間に一度から9週間に一度の頻度で選べるようになっています。お客さまの中に「愛犬がそもそもご飯を食べるかわからないので、まずは試してみたい」という意見の方も多くいらっしゃるので、販売方法の変更を検討しています。現在は初回全額返金保証を行っていますが、例えば単品販売を設けて定期購入に引き上げたり、定期販売の初回配送を1~2週間分試せる量にしたりするなどです。開発リソースも限られていて全てA/Bテストを行うのは難しいため、ご意見を頂きたいです。

西井 購入のハードルをなるべく設けずに試せる販売の仕方にしましょう。ハードルを下げたうえで、初回は1週間から2週間くらいで継続するか否かを判断できるボリュームで提供するのが良いと思います。最初から定期購入となるとハードルが高いのと、顧客体験が変わっていない状態でお客さまをコミットさせるのは難しいからです。

例えば私は、1万円の化粧品を定期販売するときも、無料サンプルを提供して、提供した方のうち20%くらいが1万円の化粧品を定期購入してくれるほうがCPO(Cost Per Order。注文1件あたりの獲得費用)は安くなると思います。1万円の化粧品をいきなり定期購入してもらえるようにしても、市場が小さいうちはCPOが安く済みますが、拡大したときに悪化するはずと考えるからです。

体験期間は短く、購入ハードルもできる限り低くして、結果的にその2週間ないしは1週間でお客さまの体験が変われば、定期購入してもらえることが多いですし、離脱も減ると思います。LTVも変わってくるでしょう。

大久保 ちなみに、オイシックスさんが引き上げでうまくいっている施策はありますか。

西井 顧客体験をどう変えたいかによります。お試し期間が3日間、1週間、10日間のどれが良いかはプロダクトによっても変わりますね。顧客体験を変えられるかどうかが全てなので、プロダクトの中身やオファーの仕方を変更したり、レシピを変えたりもします。

大久保 ありがとうございます。2つめの質問は継続率に関してです。定期購入1~2回目のチャーンレートの改善とロイヤルカスタマーを醸成するための施策は、どのようなバランスで優先度をもって取り組むべきでしょうか。

サービスをリリースしてから1年半ほどが経過し、ここ1年くらいは定期購入1~2回目のチャーンレートの改善を行ってきました。一方で、例えばポイント制度を導入するなどのロイヤルカスタマーを醸成する施策にはまだ手をつけられていません。どのタイミングからロイヤルカスタマー向けの施策を開始すべきでしょうか。

西井 1年後も継続しているお客さまは、どのような方でしょうか。1年後も喜んで使ってくれているお客さまの顧客体験を、利用開始の1カ月~2カ月くらいのお客さまがどこまで体験できるかが重要です。購入1~2回目のチャーンレート改善とロイヤルカスタマーの育成はおそらく同じだと思います。

過去に多くの新規事業を立ち上げてきましたが、1年後の継続率が50%以上ないと、その事業は伸びないと思います。例えば100万人の方が利用しているとしたら、翌年もその100万人のうち50万人以上が使っていないと、お客さまをどんどんストックできない状態になります。なお、継続率50%から月々の解約率を逆算すると約4%で、月々の解約率は最初のほうは高く、徐々に低くなっていくのが一般的です。

大久保 1年後も使ってくださっているお客さまの多くは、犬がドライフードを食べないことや偏食で悩んでいた方々です。「PETOKOTO FOODS」に変えたことによって、「犬がおいしそうに食べるようになった」「体重が変わった」「何かしら疾患が改善した」といった体験をされています。

西井 私はペットフードに関してあまり詳しく知りません。たいていの方はペットフードをよく変えるものなのでしょうか。

大久保 スイッチングする方は多くいらっしゃいます。

西井 そうなると、いつ試し終わるかが重要ではないでしょうか。例えば犬や猫が飽きっぽくて、急にペットフードを食べなくなることがあるならば、最初から一定期間で味を変えるような仕組みにすることが大切かもしれません。頻繁に味を変えなくても、2週間ほど続けてみてペットの状態が良くなるならば、2週間のお試しセットを作ります。

やはり、1年後にお客さまがどうあるべきかを考えることが重要だと思います。

大久保 ありがとうございます。最後の質問は組織についてです。現在17名程度のメンバーで、CS本部のPdM(プロダクトマネージャー)はチャーンレート(LTV)を、マーケ本部のPdMはCPAをそれぞれKPIとして持っています。よりスピード感を持って売り上げを上げていくために、組織をどう変えていこうか悩んでします。

西井 広告を運用するチームが、定期購入1回目や2回目のチャーンレートまでをKPIとして一緒に持てるような組織をつくるのがまず1つです。

あとは、ソーシャルメディアを活用し、お客さまの声を拾うスキルをCS本部やPdMが持てるかどうかも重要だと思います。オイシックスのプロダクトをつくるチームとコミュニケーションをとるメンバーはカスタマーサクセスのようなチームになっていて、ソーシャルメディアやアンケートを通じてお客さまと直接コミュニケーションがとれる部隊になっています。定量だけでなく、定性的にもデータを理解できる組織にするのです。

大久保 ありがとうございます。非常に勉強になりました。

「Otomoni(オトモニ)」の公開メンタリング

続いて、クラフトビールの飲み比べ定期便「Otomoni」を提供するmeuron株式会社 代表取締役社長の金澤俊昌さんが相談しました。

金澤さん(以下、金澤) 「Otomoni」というクラフトビールの定期配送サービスを提供しています。日本全国にある1,800種以上のクラフトビールを取り扱っており、毎回異なる6本をセットして隔週でお届けしています。

運用型広告に依存している状態から抜け出せないのが悩みです。UGCや指名検索数を増やすための施策、雑誌掲載なども行いましたが、新規顧客の獲得にどの程度影響を与えているのか手ごたえを感じることができていません。そのため、気が付くといつも広告のCPAが良かった・良くなかったという話になりがちです。

西井 運用型広告に天井はないので、きちんと取り組むべきだと思います。事業をドライブさせていくうえで広告は重要です。オイシックスも広告の予算はどんどん増やしているくらいで、未だにきちんと新規顧客を獲得できています。

運用型広告よりも頭打ちになりやすいのは、サービスのほうだと思います。もともと課題を持っている人が少なかったり、商品やサービスが課題にうまくフィットしていなかったりすると、市場があまり拡大せず、天井が訪れる可能性があります。

どのような体験をしてもらえば、毎日同じビールを飲んでいる方にもサービスの魅力が伝わるのか。面白いと感じてもらえる体験をつくり切ることが大切で、UGCを創出するための小手先の施策だけでは、サービスの本質的な良さにはつながらないのではないかと思います。

金澤 ありがとうございます。次の質問です。ターゲットユーザーを変更するタイミングはいつでしょうか。

初期のターゲットユーザーは、コミュニケーション不足の課題を持つ夫婦でした。しかし、お客さまの中に2人でなくても使いたいニーズが強くあることがわかり、実はサービス名も変更してコンセプトピボットした背景があります。

西井 事業を立ち上げた当初はターゲットユーザーをどんどん変更しても良いと思います。サービス名を柔軟に変更したこともポジティブな話として受け取りました。新規サービスをつくる際、想定していたペルソナから次第にずれていくのは仕方がないことですし、しっかりとリサーチを行ってターゲットを設定してもあまりうまくいかないと考えています。ある程度ユーザーが増加する中で、熱狂している人を探しに行き、アジャイル的にサービスをつくっていくのが大切です。

あとは、キャズムをイメージして市場をつくっていくと良いと思います。イノベーターの熱狂的な方々が御社のサービスにいるのかどうかがまず重要なポイントです。イノベーターの次に利用してくれるのがアーリーアダプターですが、その人たちを攻略しに行くときが、ターゲットを変更するタイミングにあたると思います。イノベーターは「面白そう」だけでも利用してくれますが、アーリーアダプターは「面白そう」だけでは飛びつかず、何かしらの利便性を感じて使い始める人が多いので、2つのユーザー層は異なります。まず、自社の市場においてイノベーターやアーリーアダプターがどのような人物か、きちんとイメージできるようにすると良いでしょう。

金澤 イノベーターは熱狂ポイントがアーリーアダプターとある程度共通しているものの、クラスターが異なるイメージで合っていますか。

西井 そうですね。イノベーターは例えば新しい「Apple Watch」が出たときに、とりあえず購入してみるような人です。アーリーアダプターは「Apple Watch」の何かしらの機能に利便性を感じて「それなら買ってもいいかな」と購入するような人が多いと思います。

金澤 そうすると、イノベーターの熱狂ポイントをアーリーアダプターに継承しつつクラスターが変わっていくのでしょうか。それとも、アーリーアダプターのフェーズで新たに見つけた熱狂ポイントをアーリーマジョリティーに継承してクラスターを広げていくのでしょうか。

西井 後者ですね。イノベーターはいわゆる変わり者ですので、その人たちが言っていることだけに耳を傾けるのではなく、サービスが広がるときに共通するペインは何かを見つけなければ、キャズムを超えるようなサービスにはならないと思います。ただ、キャズムは結構先の話なので、ほとんどのスタートアップ企業はキャズム以降の話はまだ考えなくても良いかもしれません。反対に、キャズムがすぐに来てしまうような市場にはあまり行かないほうが良いでしょう。

金澤 ありがとうございます。

高松 西井さん、金澤さん、ありがとうございました。高梨さんいかがでしたか。

ビタミンゼミ・高梨さん 非常に勉強になりました。もっと聞いていたいです。

西井 これまでいろいろな事業に関わって指標を見て来たので、大体何をすれば良いのかわかるのは私の強みだと思います。皆さんのお役に立てて良かったです。

高松 ありがとうございます。最後にひと言、メッセージをいただいても良いでしょうか。

西井 本日は本当に良い質問を頂いて、皆さんが事業に立ち向かうスタートアップの方々であることを実感しました。私がどんな質問にもサラッと回答できているのは、いろいろな方に同じことを聞かれるからです。聞いているほかの方々も、「うちと同じ課題だ」と思っている人がいたのではないでしょうか。悩んでいることは皆同じで、自分の会社だけが迷っている話ではないことを伝えられたのであれば、良かったと思います。

【今回の講師Profile】

西井 敏恭(にしい・としやす)
株式会社シンクロ代表取締役社長。オイシックス・ラ・大地株式会社 執行役員 CMT。GROOVE X株式会社 CMO。
化粧品会社にてデジタルマーケティングの責任者を務めた後、独立。オイシックス・ラ・大地で3つの部署を管轄し、シンクロでは大手企業やスタートアップのマーケティング支援を行う。著書に『デジタルマーケティングで売上の壁を超える方法』『サブスクリプションで売上の壁を超える方法』(共に翔泳社)がある。
※プロフィール画像提供:西井敏恭

【ビタミン株式会社】
高梨 大輔(たかなし・だいすけ)@dtakanashi
高松 裕美(たかまつ・ひろみ)@_romihee_
株式会社リジョブ(現株式会社じげんグループ)の創業役員の2人が2015年に創業し、エクイティファイナンス型のスタートアップを専門に、インハウスマーケティング支援やエンジェル投資活動を行う。100名を超える紹介制のビタミンゼミでは、信頼できる専門家から「一次情報」や業界の最新情報をスタートアップに届ける活動をしている。
https://vitaminzemi.studio.site/

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記事執筆者

佐藤綾美

株式会社CINC社員、Marketing Native 編集長。大学卒業後、出版社にて教養カルチャー誌などの雑誌編集者を経験し、2016年より株式会社CINCにジョイン。
X:@sleepy_as
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