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成果を上げるマーケターに共通する思考・行動パターンとは?――栗原康太(才流)×黒澤友貴(ブランディングテクノロジー)特別対談【前編】

最終更新日:2021.10.21

会社の枠を超えて共に学び、研鑽し合う関係として知られる才流・栗原康太さんとブランディングテクノロジー・黒澤友貴さん。お二人が10月にマーケターの思考・行動パターンに関する共著を出版することになり、一足早くMarketing Native LIVE vol.3で内容の一部を披露していただきました。

今回は栗原さん、黒澤さんの全面協力のもと、お二人が日頃の業務から学んだ「成果を上げるマーケターに共通する思考・行動パターン」をわかりやすく解説した記事となっています。

「施策が思うように進まない」「なかなか受注につながらない」と壁にぶつかりがちな方には、ヒントを得られるきっかけになるかもしれません。

ぜひお読みください。

(進行:Marketing Native編集長・佐藤 綾美、構成:編集部・早川 巧)

目次

優れたマーケターの思考・行動には一定の再現性がある

黒澤 本日のテーマは「マーケティングパターン」、すなわち「成果を出すマーケターの思考・行動パターン」です。その内容を私と栗原さんの2人で書籍にまとめ、8月に出版する予定となっています。

マーケターにセンスは必要かというと、向き不向きはあると思います。ただ、80点の成果を出すのであれば、ある程度再現性があると考えています。成果を出している人が皆、優れたセンスを持っているわけではなく、むしろ成功するための思考や行動パターンを理解している人が多いのだと感じます。ですから成果を出すためには、センスよりも思考・行動パターンを理解し身に付けたほうが良いというお話です。

※ブランディングテクノロジー株式会社

書籍は大きく7大カテゴリー・50行動パターンで整理していて、抽象化してすぐに役立てられるよう、全てにおいて「パターンの解説」と「実践している方のインタビュー」「その方の成功ポイント」で構成しています。マーケティングチームに1冊置いていただいて、活用すべきパターンを見極め、関連パターンを組み合わせながらイメージを深めて、行動量を担保していくのが成果を出すためのポイントです。戦略立案から組織内の課題抽出までさまざまなシーンで役立てていただければと思います。

※ブランディングテクノロジー株式会社

思考・行動パターン1「顧客を観察する」

栗原 私からはここで50の行動パターンのうち6つのパターンについて解説し、それぞれなぜ重要なのか、そのパターンを実行するとどんな成果を得られるのかを紹介します。

まず「顧客を観察する」という行動パターンです。マーケティングの戦略や施策の設計をする上で、顧客理解の深め方はかなり肝になります。当たり前のように感じられるかもしれませんが、顧客を理解することで、顧客がいるチャネルで広告を出稿したり、顧客の興味関心事や課題点を把握した上でコンテンツを作成したり、Webサイトであれば問い合わせや資料請求など顧客の行動を促すために必要なアクションも自ずと見えてきます。

顧客理解の濃淡を「顧客への解像度」として表現したのがこのスライドです。

※株式会社才流

解像度が低い状態で戦略や施策の設計をすると、企画やアイデアの質は当然低くなります。私がこれまで一緒に仕事をさせていただいた優れたマーケターは顧客のことを非常にクリアに理解しているケースが多く、ディスカッションをしていても個々の施策に関する成果を精度高く予測していました。これが1つの行動のパターンです。

もう1つ申し上げたいのが次のスライドです。

※株式会社才流

私は職業柄、さまざまな企業や外部支援会社、代理店、制作会社などが作成したマーケティングの戦略資料を見る機会があるのですが、なぜかこの「3C分析」の左下、顧客について触れているスライドが少ないと以前から感じていました。顧客という重要な視点が欠如していると、施策がなかなか進まなかったり、期待した成果を十分に得られなかったりすることが多いと考えています。

事例としてまず、私たち才流で起きたことを解説します。弊社のお客さまのペルソナをざっくりとまとめたのがこのスライドです。

※株式会社才流

弊社も昨年のコロナのタイミングでいろいろな変化が起きました。もともとお客さまで多かったのは「ペルソナC」に当たるBtoBのSaaSで資金調達をして、これからマーケティングへの投資を検討している方々です。コロナ以降は、業種・業界・規模を問わず多くの企業で展示会がなくなったり、テレアポがつながらなくなったりするケースが見られ、規模の大きな「エンタープライズ企業」からの相談・問い合わせが増えました。

そこで、「ペルソナA」のエンタープライズ企業に関するカスタマージャーニーを描いていたところ、問い合わせいただいて商談までは進むのですが、その後なかなか進捗しないという事態が起きました。

スタートアップの社長さまとの打ち合わせでは、詳細な提案書などは作成しなくても、よしなに物事が決まってその場で意思決定をしていただけることもあったのですが、大手企業の場合は購買プロセスが異なります。上長の事業部長や役員の決裁が必要になって、そこでストップして受注に至らないことが課題として浮上しました。

そうした事態を受けて、お客さまとのやりとりを見返したり、社内で議論したりした結果、次のスライドのようなことがわかってきました。

※株式会社才流

例えば、コンサルティングのプロジェクト担当者を明示するために、コンサルタントのプロフィールスライドを提案書に追加しました。「役割分担」とあるのは、「別途見積もりの範囲」などを示したものです。ほかにはお客さまが社内でリソースを押さえるために必要な細かいスケジュールの作成や、納品物のサンプル提示を行いました。また、「上司に説明しやすいか」は、稟議のプロセスで役員会に諮るときに、才流をどのように紹介すると説得力を持たせられるかを簡潔にわかるようにしたという意味です。

シンプルな話ではありますが、そのように個々の課題に1対1で対応する形で営業上の対策を行ったところ、ストップしていた壁の突破要因となり、スムーズに稟議にかけていただける機会が増えました。その結果、一時的に低迷していたエンタープライズ企業の商談受注率が約3倍にまで改善しています。これは特別なことをしたわけではなく、お客さまの側で起きていることをしっかりと観察し、それを基に打ち手を考えて実行した成果が出た事例です。

次のスライドも顧客観察の事例です。

※株式会社才流

あるプロジェクトで弊社のコンサルタントが、お客さま(A)とそのお客さま(B)の商談に同席させていただいたときに、「B」のお客さまの反応を観察して行った施策です。何をしたかというと、「A」の営業の方が「B」のお客さまに営業資料の説明をしていたところ、あるスライドのときに「それはまさに弊社で起こっていることです」と「B」のお客さまが反応したことがあったそうです。おそらく視聴者の皆さまの扱っている商材の中にもお客さまの反応の良いスライドと反応の薄いスライドがあると思います。これもシンプルなことですが、営業時にお客さまに刺さったスライドをWebサイトのトップページに反映したところ、ターゲットのエンタープライズ企業からの問い合わせが約2倍に増えました。これもお客さまの営業に弊社のコンサルタントが同席して観察をする中で見えてきたことです。

思考・行動パターン2「顧客にインタビューする」

2つ目の思考・行動パターンは、実際にお客さまにインタビューをする重要性です。皆さまのターゲットのお客さまになるような方々をペルソナごとに3~5名くらい集めて、情報収集の方法や業者を選定するときに重視するプロセスなどをストレートに聞いていくのがおすすめです。

我々もいろいろなプロジェクトを手掛けていますが、顧客インタビューをすることでほぼ100%一定の傾向が見えてきます。お客さまが情報収集している場所にしっかり露出して、お客さまが参考にしているコンテンツに合わせた表現にすると、当然お客さまに刺さります。

求められるコンテンツは商材によってバラバラです。お客さまの事例を重視するだけでなく、セキュリティ優先の場合もありますし、大量発注する商材なら供給の安定性や品質保証を重視するところもあります。「BtoBは事例が大事」という解像度が粗い話をたまに耳にしますが、事例は供給業者側が横並びに持っているから意思決定の参考にならず、セキュリティや供給の安定性のほうを求める業界もありますから、そうした点をインタビューで把握するのが大切です。

次のスライドは、グループウェアの移行を支援する会社の話で、ビフォーアフターで受注率やLPのコンバージョンが約3倍上がりました。

※株式会社才流

もともとグループウェアの移行代行サービスですから、当初お客さまは業務効率化を求めていると考えて仮説を立て、個別機能の説明や実績企業数を紹介していました。ところが、インタビューをしてみると、グループウェアで業務効率化できることは顧客側のご担当者は百も承知で、気にしているのは移行したときにデータが吹き飛ばないか、吹き飛んだ結果、大きなトラブルが起きないかでした。そのため、東証一部上場企業のグループ会社であることや大手企業の大規模な移行を支援した実績があること、24時間365日のサポート体制があることなどに訴求を変更したところ、一気に数字が引き上がりました。

こうしたことは特別なセンスやひらめきが必要なわけではなく、お客さまの声を反映した行動を取っているかどうかが重要だという話を証明するものです。

思考・行動パターン3「顧客が購買検討段階で使っているチャネルを理解・選定する」

3つ目の思考・行動パターンは「顧客が購買検討段階で使っているチャネルを理解・選定する」です。

※株式会社才流

あるマーケティングツールを提供する会社を支援したときにわかったことがあります。マーケティングツールである以上、事業会社側がツールベンダーに関する情報収集を積極的に行っていると当初考えていたのですが、インタビューなどをしてみると、意外としていないケースが多いのです。

代わりに何をしているかというと、大手であれば懇意の広告代理店がしっかりいらっしゃいますので、まずそこに「おすすめのツールはないか?」と聞き、代理店が調べて紹介するケースが比較的多いとわかりました。そのため、代理店の人たち向けにマーケティング施策を行ったところ、リード獲得数が2倍になりました。

思考・行動パターン4「LTVを伸ばし、マーケティング戦略の選択肢を広げる」

4つ目の思考・行動パターンは「LTVを伸ばし、マーケティング戦略の選択肢を広げる」です。

※株式会社才流

「LTV」とは顧客生涯価値の累計で、1人のお客さまから見込める粗利の合計を意味します。グラフにもう1つ入れているのは「CAC」で、1人のお客さまを獲得するのにかかる営業やマーケティングのコストを表しています。

パターンとして正しいのは、LTVを伸ばすことです。BtoBの場合、300万円の商材もあれば、50億円の商材もありますし、200億円の商材や取引もありますので、LTVは巨大な金額まで伸びていきます。一方、CACはLTVほど線形に伸びず、上げ止まりする構造があります。LTVとCACの差分が投資の源泉で、差分が大きければ大きいほど、マーケティングのプロモーションや営業コストにお金を使えます。ですからLTVを伸ばす努力が非常に重要だというわけです。

例えばこのスライドは某マーケティングツール会社を支援させていただいたときの事例です。

※株式会社才流

既存のお客さまを分類すると6つのセグメントに分かれ、セグメントごとにLTVがかなり違うことがわかりました。最も低いセグメントは60万円で、ほとんどマーケティングや営業にコストをかけられない状態でした。一方、最高は1億円でさまざまな施策が打てる状態だったのですが、顧客ニーズを満たすためには追加のプロダクト開発が必要でした。

私たちが注目したのは、LTV600万円のセグメント「F」のための施策です。これはもともとセルフサーブ型のツールだったのですが、プロフェッショナルサービス、人的サービスを付与すると解約率が下がる傾向があるのではと仮説を立て、プロフェッショナルサービスを付帯したパッケージを開発しました。その結果、単価が上がって契約期間も延び、売り上げが非常に伸びました。

思考・行動パターン5「成功している顧客の特徴を理解する」

5つ目の思考・行動パターンは「成功している顧客の特徴を理解する」です。私の前職のGaiax社は「ソーシャルメディアラボ」という月間100万PVくらいのモンスターオウンドメディアを運用しています。

高LTVユーザー、つまりGaiax のサービスに満足してお金をお支払いいただいているお客さまの行動の特徴をSFA・MAのデータと連携させたところ、ソーシャルメディアラボの特定のコンテンツを見た人が高LTVユーザーになる傾向が高いとわかりました。そこで該当コンテンツの本数を増やしたり、他のコンテンツからも導線を作ったりして、高LTVユーザーが通過するコンテンツのPV数を増やした結果、問い合わせや受注金額が増え、継続期間が延び、案件単価も上げることができました。成果からの逆引きのようなことをして成果が出た事例です。

思考・行動パターン6「第三者の意見を取り入れる」

最後の6つ目は「第三者の意見を取り入れる」という思考・行動パターンです。我々にもよく「どんな体制、チーム組みがいいのか」「内製か、アウトソースすべきか」などの相談をいただきます。

※株式会社才流

我々が普段関わっているのはBtoBの企業なので、特にBtoBに該当する話だと思いますが、一番うまい座組は社内に専任のマーケターを置いて、そこに意思決定者が入って予算確保をはじめとする施策がスムーズに進捗する状態を作り、さらにそのチームに外部の専門家パートナーを入れるパターンがうまくいきやすいと思います。この3つのうちどれか1つが欠けても不十分で、意思決定者がいないとなかなか物事を決められないですし、専任のマーケターがいないと絵はきれいに描けるけど実行されない状態に陥りがちです。

宣伝するわけではないのですが、特に「第三者の意見を取り入れる」のが重要です。自分たちだけで試行錯誤しているときに陥りがちなのですが、私も前職のBtoBマーケター時代、勝ちパターンを見つけるまで3年くらいかかったことがありました。その間、時間もお金も溶かしていて、よく上司に怒られていたのですが、今思うと、もし詳しい方がいらっしゃるのであれば知見を共有いただいたりフィードバックをいただいたりして、半年や1年で勝ちパターンを見つけられたはずです。スライドには「ライザップ的実行支援」と書いてありますが、最終的に成果を出せるかどうかという点に多大な影響を及ぼすので、第三者の意見を取り入れることはおすすめの思考・行動パターンと言えます。

後編では前編の内容や視聴者からの質問を受けて、栗原さんと黒澤さんがパネルディスカッションを行います。

後編はこちら

Profile
栗原 康太(くりはら・こうた)
株式会社 才流 代表取締役社長。
東京大学文学部行動文化学科社会心理学専修課程卒業。2011年にIT系上場企業に入社し、BtoBマーケティング支援事業を立ち上げ。事業部長、経営会議メンバーを歴任。2016年に「才能を流通させる」をミッションに掲げる株式会社才流を設立し、代表取締役に就任。カンファレンスでの登壇、主要業界紙での執筆、取材実績多数。著書は『事例で学ぶ BtoBマーケティングの戦略と実践』(すばる舎)など。
Twitter:@kotakurihara

黒澤 友貴(くろさわ・ともき)
ブランディングテクノロジー株式会社 執行役員 経営戦略室CMO。
「日本全体のマーケティングリテラシーを底上げする」をミッションに9,000人近くのマーケターが集まる学習コミュニティ#マーケティングトレースを主宰。著書は『マーケティング思考力トレーニング』(フォレスト出版)。
Twitter:@KurosawaTomoki

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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