Instagramのアカウント運用を担当している皆さまの中に、「最近コンテンツが伸びづらくなった」と悩んでいる方はいませんか。
Instagramのアルゴリズムが度々変化する中で、運用に苦戦するアカウントが続出していると言われています。では、アカウント担当者はこのピンチをどう乗り切れば良いのでしょうか。今回は、Instagramのアカウント運用やマーケティング支援を行う株式会社ハピラフ代表取締役CEOの富田竜介さんに、最新のアルゴリズムの変更点や対策方法を教えていただきました。
(取材・文:Marketing Native編集長・佐藤綾美、撮影:永山昌克)
目次
メガアカウントの投稿が最近伸びづらい理由
――Instagramのアルゴリズムが変わったとのことですが、いつ頃から、具体的にどのように変化しているのでしょうか。
今年(2022年)の4月中旬くらいから、Instagramのアルゴリズムが大きく変化したと感じています。自社で運営している100アカウントと、主要ジャンルにおけるフォロワー10万人以上のメガアカウント、クリエイターさんのアカウントなどを随時ウォッチしていて、気付きました。
具体的には、これまでのアルゴリズムではエンゲージメントの総量が重視されていましたが、4月中旬くらいからはエンゲージメント率と投稿後の初速が重視されるようになったと考えています。なお、投稿してから大体1時間以内に獲得する「いいね!」やコメント、シェア、保存などのエンゲージメントのことを弊社では「初速」と呼んでいます。
画像作成:Marketing Native編集部
以前のアルゴリズムでは、フォロワー数が多いほどエンゲージメントの総量も増えやすいため、メガアカウントによる投稿のリーチ数が伸びやすくなっていました。ところが、アルゴリズムの変更後はエンゲージメント率と初速が重視されるようになり、フォロワー数の多いアカウントほど分母が大きくなって、その分より多くのエンゲージメントを獲得しなければならないことから、投稿のリーチ数が伸びづらくなっています。反対に、フォロワー数が少なくても高エンゲージメントを獲得しているアカウントは、投稿のリーチ数が伸びやすくなっています。
――最近まで、投稿は「保存数が重要」と言われていました。初速のエンゲージメントに関して、保存数や「いいね!」、コメントなどに優劣はありますか。
やはり保存数が最も重視されていますが、投稿の保存数が伸びればリーチが伸びるわけでもないようです。見える指標ではないので推測ですが、いまのInstagramは保存数に加えて、コンテンツを閲覧または視聴している「滞在時間」も重視していると考えています。滞在時間はインサイトで確認できないので、リーチ数が伸びた投稿を肌感で分析していますが、テキストが入っていたり、枚数が多かったりしてリッチなフィード投稿は伸びやすい傾向にあります。
――4月21日にInstagram責任者のアダム・モッセーリ氏がオリジナルコンテンツを優遇するようランキングを改善したとツイートしていましたが、この変更とはまた別ですか。
はい、別だと思います。2022年7月時点でリポストを投稿していても成果が出ているアカウントのリーチ数は伸びているので、オリジナルコンテンツの優先度を上げる改善はまだ完全には反映されていないようです。
もしかすると、身のまわりにいるクリエイターのアカウントが伸びているので、「オリジナルコンテンツを投稿しているクリエイターが優遇されるようになった」と感じていらっしゃる方がいるかもしれませんが、それもやはり初速とエンゲージメント率の高さによるものと考えています。アカウントをフォローしているファンが、投稿の通知をオンにしていてすぐに気付いたり、「いいね!」やコメント、保存をしたりしているので、投稿にエンゲージメントが付きやすいのでしょう。
――こうしたアルゴリズムの変更はどれくらいの頻度で起こるのでしょうか。
大きな変更は年に大体2回あり、半年に1回くらいの頻度でアップデートが行われます。ただ、直近は新しい機能を試したり、ほかのプラットフォームの動きに合わせて変えたりしていることが多いので、比較的頻繁に細かいアップデートが行われている印象です。
今回のように大きな変更は今年に入って初めてなので、年内にもう1回くらい同程度のアップデートが行われる可能性はあると思います。
――今回アルゴリズムが変更された背景には、Instagramのどのような意図があるのでしょうか。
TikTokの台頭が大きく影響していると考えています。TikTokはコンテンツファーストのプラットフォームで、良い投稿であればアルゴリズムによってフォロワー数に関係なく再生回数を伸ばすことができます。一方これまでのInstagramは、どちらかと言うとフォロワーファーストのプラットフォームになっており、ある程度フォロワー数を伸ばし、既存のフォロワーが投稿に対して一定の反応をすると、その投稿が発見タブに載るような仕組みになっていました。そのため、Instagramはバズを創出するまでに時間がかかりやすく、その点に嫌気が差した若年層が、フォロワー数に関係なくバズを創出しやすいTikTokに流れてしまっているというわけです。
そこで、優れたクリエイターのTikTok流出を防ぐために、Instagramは短尺動画のリール機能に力を入れたり、アルゴリズムを変更してフォロワー数の少ないアカウントも伸びやすくしたりして、新規参入を促そうとしているのだと思います。
基本的な対策はフォロワーが求めるコンテンツを投稿し、コミュニケーションを深めること
――アルゴリズムの変更による影響を受けている場合、どのような対策が必要でしょうか。
フォロワーの数に関係なく、企業アカウントも個人アカウントもやるべきことは基本的に変わりません。発見タブに載ってバズるようなコンテンツではなく、既存のフォロワーが求めるコンテンツを投稿するほか、フォロワーとコミュニケーションを深めてエンゲージメント率を上げる必要があります。
フォロワーとコミュニケーションを深めるには、ストーリーズの活用が一般的です。アンケートでどのような投稿が見たいか聞いてみたり、クイズを出したりして、双方向のコミュニケーションが生まれるようにすると良いでしょう。また、企業の中には実施するのが難しいところもあるかもしれませんが、インスタライブも既存のフォロワーとの交流や関係値の構築につなげられるのでおすすめです。
画像作成:Marketing Native編集部
――コンテンツについて、2020年8月のリール登場以降はリールを投稿するとフォロワーが伸びやすいと言われています。やはりリールを投稿したほうが良いですか。
リールを見るユーザーとフィードを見るユーザーは大きく異なるため、毎日それぞれ1投稿ずつ作るのが理想的です。リールはフォロワー以外のユーザーにもリーチしやすいのに対し、フィードはどちらかと言うと既存のフォロワーに見られます。毎日リールとフィードを投稿すると、既存のフォロワーと非フォロワーの両方にアプローチできるでしょう。
――1日にフィードを1投稿、リールを1投稿ですか。なかなか大変ですね。
難しい企業は「今日はリール、明日はフィード」のような形で交互に投稿するのも良いと思います。
――リールを作るときに、どのアカウントでも絶対に意識したほうが良いポイントはありますか。
大きく2つあります。公式感ではなく生活感を出すことと、カットを細かく入れることです。
Instagramで求められているのは、ユーザーが「自分事化できるコンテンツ」です。企業アカウントはどうしても、きれいなクリエイティブを作って「よく見せたい」または「ブランディングをしたい」と考えがちですが、例えばコスメのレビュー動画のような、ユーザーの生活になじみやすいクリエイティブのほうが「いいね!」やコメントが付きやすい傾向があります。そのため、きちんとした機材を使用して撮るよりも、iPhoneで撮影したクリエイティブのほうが、エンゲージメントが付きやすいことがあります。ブランディング目的でInstagramを運用している場合は、公式感のある自社のきれいなクリエイティブでリーチ数を伸ばすのは難しいので、商品やサービスに関するUGCをユーザーに創出してもらうような方向を目指したほうが良いと思います。
TikTokやYouTubeショートなど、ユーザーは短尺動画の最初の2秒くらいで、そのまま続きを視聴するか否かを決めるとされています。そのため、リールも最初の2秒でユーザーを引き付けて、2秒に1回程度はカットが変わるように作るのがポイントです。そうしないと、滞在時間を延ばすのは難しいでしょう。
――きちんとした機材で撮影したCMのようなクオリティのリールは、ユーザーに「宣伝か」とスワイプされてしまう…と。
そうですね。もしかすると「いいね!」は付くかもしれませんが、ユーザーが保存して「もう1回見返そう」とはあまりならないと思います。
――ちなみに、リールに投稿する動画の長さは何秒でも良いのでしょうか。
動画が長ければ長いほど滞在時間を延ばすことはできるものの、そのぶん途中で離脱される可能性も上がります。僕の推測ではありますが、Instagramは動画の視聴完了率も見ていると思うので、15秒から30秒くらいがちょうど良いと考えています。
画像作成:Marketing Native編集部
多様なジャンルのコンテンツを投稿してきたアカウントの軌道修正
――ほかに今回のアルゴリズムの変更を受けて対策が必要なアカウントはありますか。
ターゲットが興味を持っていそうな複数のテーマで投稿し、フォロワーを獲得してきたアカウントも、今回のアルゴリズムの変更で投稿が伸びづらくなっていると思います。
例えば、弊社が運営している「節約チャンネル」(@setsuyaku_channel)というアカウントも、4月中旬から徐々にフォロワーが減少しています(2022年7月時点で97.6万人)。これまで節約をコンセプトに掲げ、レシピを中心に節約術や便利グッズなど、多様なジャンルのコンテンツを投稿してきましたが、「時短料理」や「掃除の裏技」などフォロワーによって興味のある投稿内容が異なることから、1投稿あたりのエンゲージメント率が上がりにくく、リーチ数が伸びづらくなっています。
画像出典:節約チャンネル(@setsuyaku_channel)
https://www.instagram.com/setsuyaku_channel/
そのため、節約レシピ、便利グッズ、節約術などと、細かいテーマに分けてアカウントを新しく立ち上げ、それぞれのジャンルに特化して投稿するように方針を変更しました。アカウントを細分化してジャンルを限定すれば、そのジャンルに興味のある人がフォローするので、投稿にも反応してくれやすくなるはずだからです。
――そうなると、さまざまなテーマの投稿を取り上げているメディア系のアカウントも厳しいかもしれませんね。メガアカウントのままテーマを絞って投稿するより、テーマごとにアカウントを分けて運営したほうが良いのでしょうか。
難しいかもしれませんが、メガアカウントと小さなアカウントの両方を並行して運用するのがベストではないかと思います。
Instagramのこれまでのアルゴリズムの傾向を見ていると、フォロワーの少ないアカウントを優遇する時期と、フォロワーの多いアカウントを優遇する時期が大体交互にやってきています。そのため、今はフォロワー数の少ないアカウントの投稿が伸びやすくなっていますが、メガアカウントが優遇される時期もまたやってくると思うのです。
もしそのメガアカウントがプレゼントキャンペーンなどでフォロワーを獲得してきたフォロワー数5万人以上のアカウントだったら、おそらくエンゲージメント率を上げるのは難しいので、アカウントを作り直したほうが良いかもしれません。しかし、例えば美容をテーマに「スキンケア」「おすすめのコスメ」「ヘアケアの仕方」などと多様な投稿で伸ばしてきたアカウントならば、まだ改善できる可能性があります。メガアカウントはファンの母数が大きいジャンルに投稿内容を寄せつつ、ほかのジャンルに特化したアカウントも別途、新しく立てていけば良いのです。
画像作成:Marketing Native編集部
――テーマを絞って投稿することにより、成果を上げているアカウントはありますか。
100円均一の商品レビューを投稿している「リク|100均プチプラレビュー」(@riku_100kin_review)は、アルゴリズムが変わる少し前の2022年4月3日から立ち上げたアカウントです。初めのうちは100円均一以外のアイテムも取り上げていましたが、現在は100円均一の商品レビューに絞って投稿しており、フォロワーが順調に伸びています。100円均一に関する情報を収集している人たちでフォロワーが構成されていて、投稿に反応してくれやすいので、高いエンゲージメント率を維持できているのだと思います。
画像出典:リク|100均プチプラレビュー(@riku_100kin_review)
https://www.instagram.com/riku_100kin_review/
いまのアルゴリズムでは、プレゼントキャンペーンなどでむやみにフォロワーを増やすことはおすすめしません。自分たちのアカウントのコンセプトに共感し、投稿に反応してくれる人たちを集めることが大切です。
――一概には言えないと思いますが、これからフォロワーを増やしていくフェーズのアカウントの場合、どれくらいの人数を目標に置けば良いでしょうか。
各ジャンルにおけるトッププレイヤーのアカウントのフォロワー数を目安にすると良いでしょう。例えばトッププレイヤーのフォロワー数が5万人なら、5万人までは伸ばせる可能性があるということです。あとは、Instagramを活用して自社のビジネスをどれだけスケールさせたいかによります。
いまのアルゴリズムは、フォロワー数が少なくても投稿のリーチ数を伸ばせるので、僕はフォロワー数よりもリーチ数をKPIに設定し、新規ユーザーへの認知向上を目標にするのが良いと思います。Instagramが近年「発見」から「購入検討」のプラットフォームになったと言われているように、商品やサービスのことを知ってもらえる場と捉え、活用するのが良いでしょう。
アルゴリズムに左右されにくい強固なアカウントを作る4つのポイント
――企業のInstagramアカウント運用担当者が、今回のようなアルゴリズムの変更に気付く術はありますか。
1つのアカウントを運用しているだけ、または競合のアカウントをいくつかウォッチしているだけでは、アルゴリズムの変化はなかなかわかりづらいと思います。
インサイトで毎日数値を見ていれば、「リーチ数が伸びない」などの変化に気付くことはできますが、それがコンテンツの不出来によるものか、アルゴリズムの影響かを判断するのはおそらく難しいでしょう。
簡単なのは、Instagramの有識者のTwitterや動画などをチェックして把握する方法です。あとは、Instagramに関連するオンラインサロンなどに入会して、最新情報をキャッチアップできるようにしておくのも1つの手だと思います。
――アルゴリズムが変更される度に施策を検討し直すのは、なかなか骨が折れます。アルゴリズムにできるだけ左右されないようにInstagramを運用できないものでしょうか。
次に挙げる4つのポイントを意識して運用すれば、アルゴリズムに左右されにくいアカウントにできると思います。
1つめがコンセプトを絞って運用すること。「節約チャンネル」のように多様なジャンルを取り扱っているとアルゴリズムの影響を受けやすいので、ワンコンセプトでアカウントを運営するのがおすすめです。
2つめが、既存のフォロワーが求めるコンテンツを作り、常にコミュニケーションをとるようにすること。
3つめが、当該ジャンルにおいてNo.1となるコンテンツ作りを目指すこと。良い投稿は保存数が増えやすく、滞在時間も延びやすいので、同じジャンルの競合アカウントを参考にしながら、その中でも投稿の質が最も高い状態を目指してください。
4つめが、新しい機能をなるべくすぐに試すこと。僕の推測ではありますが、新機能をリリースした直後は、Instagramもなるべく早く反応を知りたいはずです。例えばリールが出たばかりの頃にリールのリーチ数が伸びやすく、投稿したアカウントのフォロワー数が増加したように、新機能を積極的に活用してくれるアカウントをInstagramは優遇する傾向にあると思います。
画像作成:Marketing Native編集部
――Instagramについて今後注意したり、備えておいたりしたほうが良いことがあれば教えてください。
アメリカでは6月下旬にハッシュタグ「#PR」が禁止され、報酬を得て宣伝を行う場合はタイアップ投稿タグの設定が必要となっています。悪質または不正なレビュー、ステマに近い投稿などを防ぐ意図があるそうで、日本でもいずれは導入される見込みです。クリエイターが企業側のアカウントから承認を得ると、タイアップ投稿タグを設定できるようになります。
そのため、インフルエンサーマーケティングは今後取り組み方が大きく変わる可能性があり、注意が必要です。変更点に気付かないまま運用して規約違反になり、シャドウバン(※)されないためにも、新たに禁止となる事項や変更される規約の内容などは積極的にキャッチアップすることをおすすめします。
※シャドウバン:規約違反や禁止されているハッシュタグの使用などの理由により、フォロワー以外のユーザーからプロフィールや投稿が見られない状態になること。アカウントは凍結されていないが、検索結果に表示されなくなる。
TikTokの台頭によってInstagram離れが懸念されていますが、僕は今までもこれからもInstagramの可能性を信じています。今回のアルゴリズムの変更で、どうすれば良いかわからなくなってしまった企業の方もいらっしゃるかもしれませんが、フォロワー数の多いアカウントの投稿が伸びやすくなるタイミングがまた来ると思うので、どうか諦めずに取り組み続けてほしいです。
――本日はありがとうございました。
ハピラフってどんな会社?――前回の取材から2年が経ち、富田さんは株式会社ハピラフの代表取締役CEOとして独立されたとのこと。ハピラフの事業内容を簡単に教えてください。 主に3つの事業を展開しています。1つめがD2C事業です。ダニ取りシートの「Dr.ダニトル」やアイクリームの「Medite(メディテ)」など、インターネットで販売できる小さな商品を中心に自社で30ブランドほど立ち上げており、マーケティング施策を強化しています。 2つめがメディア事業です。メインはInstagramで、累計100アカウントの運営実績を持ち、累計フォロワー数は300万人に達しています。そのほか、TikTokやTwitterでもメディアを運営しています。 3つめがマーケティング支援事業です。支援のパターンは、Instagramアカウントの運用とInstagramマーケティングのコンサルティング、さらにマーケティング全体のコンサルティングの3つのケースがあります。 |
【Profile】
富田 竜介(とみた・りゅうすけ)
株式会社ハピラフ 代表取締役CEO。
2016年、サイバーエージェント子会社のマイクロアドに新卒で入社。広告運用と新規開拓営業に従事した後、2017年にD2Cベンチャーのマーケティング部に転職。2018年よりフィットネス系のスタートアップ企業にてマーケティングの事業責任者を務め、事業の拡大に貢献。2019年にブライダル系のスタートアップ企業に転職し、同年10月に合同会社ハピラフを立ち上げ、代表に就任。2020年6月より、クックパッドに新規事業のマーケターとしてジョインし、同年12月に株式会社ハピラフを登記。2021年1月にクックパッドを退職後、完全独立し、現職に至る。
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株式会社ハピラフ:https://happylaugh.jp/