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インタビュー

成果を出し続けるために必要なマーケティング思考の身に付け方――グロースX取締役COO山口義宏インタビュー

最終更新日:2023.04.14

The Marketing Native #53

グロースX 取締役 COO

インサイトフォース 取締役

山口 義宏

マーケティングへの注目度上昇と比例して、「自分もマーケティングで成果を出したい」「マーケターとして成長したい」と考える人や、業績向上のためにマーケティングやDXに投資する企業が増えています。

一方で「せっかくマーケティングに投資したのに、なかなか成果が出ない」と、マーケティングへの期待値が下がっているケースもあるようです。

なぜマーケティングに力を入れているのに、成果が出ないのでしょうか。

最新刊『マーケティング思考』が好調なグロースX取締役COOでインサイトフォース取締役の山口義宏さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)

目次

必ず押さえるべき強力なフレームワーク

――『マーケティング思考』、発売前から重版がかかり、現在3刷(2023年4月12日現在)とのこと。私もこの本を読んでから「誰に?」「何を?」が口癖になりました。まず本についてお聞きしますが、誰向けに、どんな態度変容を期待して書いたものですか。

大きく2つあります。1つは「マーケティングに強くなりたい」「マーケティングで成果を出したい」と考えている個人のマーケティング人材向け。もう1つは、マーケティング人材の採用や育成をする企業経営者や事業部長クラスの人たちに向けて、チーム編成や成果創出のポイントについて解説しました。

マーケティングが業績を上げる大事なレバーの1つであるとの認識は、P&G出身マーケターの方々のご活躍などによって、日本の企業の経営層で広がっていると思います。また、事業のDX推進やマーケティングの現場では、特にデジタル領域の知識を持つマーケティング人材を採用したい会社が急増しており、そこに関連してマーケティングの教育・人材育成や派遣、転職斡旋ビジネスも拡大傾向にあると感じています。

一方、個人、組織ともに、マーケティングに投資して強化を図っているものの、想定した成果が出ておらず、課題を感じている方もたくさんいらっしゃいます。その背景として、需要の急増に比べて既存の経験者人材では供給が追いつかず、異なる職種から転職したばかりの初心者マーケターも増えており、その人たちをマーケティングのリテラシーの低い会社が採用しつつ育成に苦労されている状況があります。

また、既存の歴史ある中堅~大手企業でも、事業のデジタル化対応は急務で、それを推進する人材が大量に必要ですが、デジタルだけでなくマーケティング視点を強化しないとDXで顧客体験や価値を高めることに至らず、効率化やコスト削減で終わってしまいます。外部からの採用だけでは間に合わず、既存の事業をよく理解している社員にデジタルとマーケティングの知識を学んでもらってさらに活躍してもらうというリスキリングのニーズがあります。

この本はデジタルやマーケティングに投資しているのに顧客体験や業績面で成果が出ていない企業や個人を対象に、成果の出やすい道筋を作りたいと思い執筆したものです。

以前出版した著書『マーケティングの仕事と年収のリアル』は、マーケティング人材個人のキャリアを充実させる視点でした。今回の『マーケティング思考』は企業経営側や事業部長クラスの人たちが、人を採用してマーケティング人材として育成するにあたり、どういうチームを作り、どんなポイントを押さえれば成果が出るようになるか、マネジメント側の視点で多くを執筆しています。

成果を出す第一歩は、「誰に?(顧客理解)」「何を?(顧客価値)」という企画と判断の基準を揃えてから、「どのように?(実現の4P施策)」のモノやサービス、施策を作ることです。実際にお金や時間を負担する顧客と、顧客が感じている価値を外した施策は、投資しても驚くほど反応がなく成果も出ません。自分もたくさんそんな失敗をしてきましたが、そういう人やお金のリソース浪費で終わるシーンを減らしたいという思いがあります。

――「ひと言で、この本には何が書いてあるのですか」と聞かれたら、何と答えますか。

実はこの本を作るときに担当編集者の方に同じことを聞かれて、「業績を伸ばし続けるチームが本当にやっていること」と答えました。それがそのまま本のサブタイトルになっています。20年以上のコンサルティングの経験で、おそらく個人としては多様な業種で200社程度の支援をさせていただきましたが、長期的に成長が持続する企業は、表面的なブランドの世界観や施策のやりかたはそれぞれに異なるものの、マーケティング関連の判断軸は驚くほど共通性が高いと感じます。それらの判断軸が組織の隅々まで浸透していることが、業績を良くする仕組みであり、うまくいっている会社では当たり前な暗黙知を、形式知にして本にまとめたつもりです。

『マーケティング思考』で書かなかったことは施策実行の解説です。したがって、顧客理解の分析手法や広告運用の方法、SEOの実行方法などは載っていません。それらの実行方法を習熟することは大切ですが、すでに世の中にある多くの本で解説されていますし、広告運用のような世界は日進月歩で、私が新しく提示できる部分はありません。

世の中のマーケティングの書籍を見渡すと、アカデミックな原理原則論と各種個別の施策の実行方法の解説は充実しているのですが、その2つの間をつなぐ現場の勘所や、「うまく施策をやる」部分の手前にある「業種、事業フェーズ、顧客、ブランドの特性に合わせて適切な施策を選ぶ」「それをアジャイルに施策運用できるチームをつくる」という実際の勘所の解説書籍が少ないと感じていました。

すでにマーケティング業界にいて一定レベル以上の人たちからすると、目新しい内容は書いていないです。うまくいっている企業は、それらを暗黙知的に実践されています。でも、それができている企業としても5%以下というのが肌感覚です。その「すでに知っている有識者」の方々からは「新しいことは書いていないじゃないか」というネガ反応と、「大事なことだけど社内で理解してもらうのが大変な“成果を出すのに重要な暗黙知”をよくぞまとめてくれた」という反応に分かれる印象です。後者のニーズに思い当たる部分がある方なら、有識者の方にもおすすめです。

「誰に?」「何を?」を身に付けたOS人材の強み

――本の中では、4P施策の実行ノウハウに詳しく専門性の高い「App(アプリケーション)人材」と、4P施策にも一定の知見を備えつつ、顧客理解と顧客価値の「誰に?」「何を?」を理解し身に付けた人を「OS(オペレーティングシステム)人材」と呼んでいます。OSとAppは車の両輪であるとしていますが、なぜ各施策に専門性の高いApp人材は多くても、OS人材は少ないのでしょうか。

一般論として、マーケティング支援会社や広告代理店の立場からすると、顧客理解と顧客価値の整理で対価としてお金を得やすいか?という視点で難しさがあります。要するに、顧客理解と顧客価値の整理はアナログな暗黙知の集大成なので、「自社が提案先企業よりもうまくやれる」ことの事前の証明が難しいし、職人芸なので、それが売り物では事業がスケールしにくく、ビジネスモデルとして注力しづらい構造があります。

しかし、これが広告費ならどうでしょうか。数百万円、場合によっては数千万円のお金を毎月のように支払っている事業会社はたくさんあります。つまり、「顧客理解や顧客価値の棚卸しと整理でマーケティング施策の成果に大きな差がつく」という認識が企業側に薄い、もしくは重要度は高いけど、それが弱くてもひとまず広告はつくれてしまうため、典型的な「重要度は高いけど、緊急性が低く見えるテーマ」になっていて、事業会社側はお金・時間・意識を配分する習慣がないことに尽きます。

もう1つはAppのほうが世の中で情報量が多く、再現性が高そうに見え、学習しやすいことが挙げられます。私はOSとAppのどちらが大事と言うつもりはなく、両方大事なのですが、どうしてもAppのほうが学びやすく、すぐに一定の成果も出やすいため、学習投資としてはAppのほうに比重が偏りがちです。だからこそOSの重要性を啓蒙したいと考えました。

顧客理解の精度を上げる3つの要素

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・生産性向上のカギを握るマーケティングの重要性
・マーケティング人材への期待度の高さと現実
・成果が出ないときこそ顧客理解と顧客価値の棚卸しを

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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