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インタビュー

リクルートのマーケティングの強さとは?リクルート マーケティング室 ユニット長・石井智之インタビュー

最終更新日:2022.12.22

The Marketing Native #49

リクルート マーケティング室 ユニット長

石井 智之

就活や転職で利用した人が多いであろうリクルート。採用をはじめ、住まい、結婚、旅行、飲食など多彩な領域で数百にも上るプロダクトを有していることで知られます。

そのリクルートで、オンライン・オフラインともに、戦略策定から実行までマーケティングに関するほぼ全てを担っているのが「マーケティング室」です。

リクルートのマーケティングにはどんな特徴があるのでしょうか。日頃マーケターはどのような教えを受けていて、どんな強みを持っているのでしょうか。

今回はリクルート プロダクト統括本部 マーケティング室 販促領域マーケティング1ユニット(住まい)ユニット長・石井智之さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、写真:矢島 宏樹)

目次

    団体戦をリードしつつ、個人としても最前線に

    ――まず、略歴から教えてください。

    2008年に新卒でリクルートに入社して、3~4年後にGoogleに転職。フリーランスの期間を経験した後、2013年にリクルートに戻りました。2回目の入社からはそろそろ10年になります。

    ――マーケティング室のユニット長とは、どんな仕事ですか。

    リクルートの中で「SaaS」と呼ばれる領域(事業者の業務支援)と、「住まい・不動産」領域の2つのマーケティング組織をオンライン・オフラインの両方で統括しています。組織と人のマネジメントに軸足を置きつつ、マーケティング自体の進化についてもミッションとして追求するイメージです。

    ――リクルートという大きな会社で、マーケティング部門を統括するユニット長を務めるのは大変なことだと思います。これまでのキャリアで、石井さん自身が成長を感じたエピソードがあれば、教えてください。

    成長という点で大きなきっかけだったと感じるのは、5年ほど前に人をマネジメントする立場になったことです。もともとマーケティングの現場に立つ仕事が好きなのですが、マネジメントの立場になると、どうしても現場の最前線から離れざるを得ません。マネジメントとして俯瞰的に、捉え方を広げれば広げるほど現場から離れていくと気づいたとき、自分がこれ以上、最前線に居続けるのは難しいと実感したのは大きな転機となりました。

    ――最前線から離れることで、後輩に追い抜かれるのではないかという怖さはありましたか。

    怖かったですね。今も怖いです。みんな優秀ですから、特定の領域に関しては自分より詳しい人が何人もいます。ただ、自分には俯瞰して全体を見られるメリットもあります。今は最前線からなるべく離れないように頑張って食らいつきつつ、そこにマネジメント力をプラスして自分の価値を保っています。

    ――ということは、まだ現場の最前線に立っていたいという思いも捨てられていないのですね。

    捨てられていないです。捨てるつもりもありません。ただ、マーケティングの特定の戦術、施策に関して「自分が一番詳しくなる」「自分がアイデアを出して、大きな花火を打ち上げる」という「自分、自分」のような感情は薄れてきたかもしれません。

    ――それが石井さんの成長と、どうつながるのですか。

    自分の中の認識が個人戦から団体戦に変わったということです。団体戦だから、自分がシュートを打たなくても、メンバーが得点を挙げればいいと考えられるようになりました。それはプレイヤーと合わせて、マネジメントの視点も持てるようになった点で転機であり、成長だと感じます。今では組織全体がレベルアップして高い成果を上げられた瞬間や、目立った活躍をしたメンバーが表彰されるときに喜びを感じるようになりました。

    知見を独占せず、「人に影響を与えた人が偉い」という社風

    ――わかりました。石井さんはマーケティングのどこに面白さを感じますか。

    フィールドの広さです。私の解釈なのですが、ビジネスでマーケティングに全く関係なく完結することなどあるのだろうかと感じるほど、マーケティングのフィールドは広いと感じます。また、マーケティングには「態度変容」「行動変容」のような不変の部分と、InstagramやTikTokの台頭のときのように流行り廃りの早い技術的な部分があり、戦い方は無限に存在すると考えています。その戦い方次第で結果が変わりますから、どんな施策を選択して組み合わせるべきか、それを考えることがとても面白く、魅力的です。市場全体で見れば、プロダクトが少し劣位でも、マーケティングの戦い方次第で勝つことは普通に起きますし、そこがマーケターの腕の見せどころでもあります。担当したプロダクトをどのように勝たせるか、その思考を深掘りするプロセスがマーケティングの醍醐味だと思います。

    ――石井さんが考えるリクルートのマーケティングの特徴は何でしょうか。

    いろいろな考え方や強みがありますが、あえて1つ挙げるとすれば、ナレッジの豊富さです。リクルートには大小合わせて数百にも上るプロダクトやサービスがあります。誰がどのプロダクトを担当するか、そのプロダクトのどこに照準を当てるかによって、マーケティングの施策や戦い方が変わります。その結果、各担当者が現場でPDCAを回す過程で生まれた多種多様なナレッジが蓄積されているのです。

    良くも悪くもリクルートには、共通のマーケティング・テンプレートはありません。現場から生まれた多数のナレッジこそが財産であり、リクルートのマーケティングの特徴だと考えています。

    ――それはナレッジマネジメントのように整理されているのですか、それとも点在している感じでしょうか。

    段階的に組織的な整理も進んでいる状況です。そもそもリクルートは人同士がつながる風土があるので、「そのケースでは、〇〇さんが〇〇の施策で課題解決し、成果を上げた」と、すぐにわかるようになっています。そんなふうに人のネットワークを通して、アイデアやノウハウのたまったナレッジにアクセスしやすくなっている点はリクルートの大きな強みだと思います。

    ――でも、そのネットワークにアクセスして質問すると、「あなたはどうしたいの?」という有名な質問で詰められそうで怖いですね(笑)。石井さんも「あなたはどうしたいの?」と言うんですか。

    自分はその言葉通りには言っていませんが、「結局どう考えているのですか」「意思として、どう思いますか」と言うことはあります。社内の友人に聞いても、似たようなことを上長から言われることがあると話しているので、「詰める」という意識ではなく、普通に皆、口にする言葉なのだと思います。そのコミュニケーションによって、思考を深掘りする力が自然と鍛えられていくわけですから、行き過ぎがなければ問題ないのではないでしょうか。ちなみに、私はあまり言われたことがありません。それは質問されなくても、「自分はこうしたい」と言っているからだと思います。

    ――そうした前提の上で、リクルートのマーケターの強さはどこにあると思いますか。

    これもたくさんあると思います。皆に聞いたわけではなく、個人的な体験も含めた回答になりますが、1つ挙げるとすると「仲間が強いこと」です。

    ――「仲間が強い」とは、先ほどおっしゃったように、たくさんの社員がいて、プロダクトも多く、その分ナレッジもたまっているという意味ですか。

    それももちろん環境としてありますが、私が「強い」と表現したのは、社員それぞれの熱量の高さです。ライバルであり、仲間でもある個々の社員が熱量高く頑張っている姿は刺激になりますし、ナレッジも生まれやすくなります。1人で頑張るより10人いたら10倍の速さでノウハウが作られ、社員皆で吸収できる状態になっていきますので、働きやすく、魅力的な環境だと思います。私がリクルートに戻ってきたのも、これが理由の1つです。1人で頑張っていると、つらいことも多いですし、限界もありますが、仲間がいると課題解決力や成長スピードは圧倒的に変わってきます。

    ――相談事があるとき、その仲間に「教えてください」と聞いたら、素直に教えてくれるのですか。

    そこもリクルートの強みで、仲間を頼れる社風になっています。世の中には、「自分で得た知見を独り占めにする」「それでライバルに優位性を築く」と発想する人もいますが、リクルートでは「人に影響を与えた人こそ偉い」との考え方が浸透しています。我々もそんなマネジメントをしています。自分が得たノウハウを拡散させて、それを基に多くの人が成果を上げたら、それは拡散させた人が偉いということです。1人で成果を上げ続けるより、大勢で成果を上げたほうが社内全体に与えるインパクトも大きくなりますから、当然だと思います。

    ――確かにそこはリクルートの強さですね。先ほどの「個人戦ではなく団体戦」という石井さんの転機の話もうなずけます。

    はい、そもそも評価の考え方として、「単よりも多」「個よりも組織」の意識を仕組み化して浸透させている点は、リクルートのマーケターの強さを支えていると感じます。

    解決だけでなく、自ら課題を発見できるのが良いマーケター

    ――関連して、石井さんが「良いマーケター」と思う人を教えてください。やはり他に影響を与えられるマーケターですか。

    1つはそうです。リクルートでは組織戦になりますので、「人に影響を与えられる」のは絶対条件になります。

    さらに踏み込んで一個人にフォーカスすると、自ら課題設定できる人が、まず良いマーケターだと思います。課題を与えられて動いているうちは、不十分です。例えば上長から指示された通りに、指示の範囲内で動くのは課題解決とは言えません。課題解決とは、課題を発見して設定するところから始まっているはずなので、課題発見から解決まで一貫してできることが良いマーケターの条件です。だからこそ、「マーケターである私の仕事はここまで」と、自分の守備範囲を区切らない人のほうが良いマーケターになれると思います。

    ――いいお話が続きますね。次はMarketing Native恒例の質問で、自分自身で思う「他人と比較して優れていたところ」、あるいは「人よりも努力してきた」と感じるところを教えてください。

    自分が優れていると思っていないので答えるのが難しいのですが、その前提の上で、今のポジションに至るまでに何を頑張ったのかを振り返ってみると、「進化をするために次の一手はないか」と考え続けたことと、やり続けたことだと思います。少なくとも仕事中に現状維持を考えた瞬間は多分1秒もないですね。

    ――真摯で熱い回答が多いですね。

    ありがとうございます。プライベートはまた違いますが(笑)、仕事中はずっと「次の一手」を考え続けてきました。それはおそらく、自分がネガティブで小心者だからという背景があると思います。常に最悪の事態を想定し、「回避するにはどうすればいいのか」「次のチャレンジは何か」「次の価値を作るために何が必要なのか」と考え続け、やり続けてきたのが良かったのかもしれません。

    ――具体的にはどんな行動をしてきたのですか。

    自分はマーケターなので、世の中でまだ見たことのない、「マーケティングの進化」と評されるような施策を生み出せないかと考えたり、自分が担当するプロダクトのシェアが他社が追いつこうとしても追いつけない、100%に近いレベルにまで構造的な差を作るには、何が必要なのかと思考したりしました。そんなふうにずっと考え続けて、ここまで来たような気がします。

    自分もかつてはたくさんの失敗を経験しています。若い頃は、経営層に戦略の提言をしに行って、「この環境変化において現状維持はあり得ない」「攻めの戦略をすべきです」と伝えたところ、自分の視座の低さ、思考の浅さを見抜かれて、淡々と、でも反論の余地がないほどに打ち負かされたこともあります。そういう悔しい経験をしているからこそ、もう一歩、二歩、思考の深さをもって物事を考えようとしているのだと思います。

    マネジメントも同じです。「リクルートの組織は強力」「なぜあんなにイケてる組織なのか」と言われたくて、どうすればそんな優れた組織になるのだろうと考え続けています。

    バリューの発揮の仕方と、アイデンティティの見つけ方

    ――わかりました。次に、部下の育成についてお聞きします。リクルートには社員が1万7000人以上いるとのこと。優秀な方も多いと思いますし、余計なお世話ですが、一人一人が埋没してしまわないかと心配になります。アイデンティティをどう保つのか、バリューはどう発揮すればいいのか、石井さんは自分のことを本当に適切に見てくれているのかなど、不安を感じる人もいるのではないでしょうか。そういう中で、マーケターとして人より早く成長したいと向上心旺盛なメンバーにどういうアドバイスをしていますか。

    「成長したい」「特定のポジションを取りたい」という思いと、アイデンティティは別軸で考えています。まず成長やポジション獲得について、いつもアドバイスするのは、「正しいと思ったことは正しいと言おう」「間違っていると思ったら、間違っていると言おう」です。さらに、正しいと思うだけでなく、「やったほうがいいと思っているなら、やりなさい」ともよく言います。失敗のリスクもありますが、それは大したことではありません。失敗を恐れるよりも、やったほうがいいと思っているのに、「自分が提案したら気まずいのではないか」「責任を負わされるのではないか」と思ってやらないのは、成長のチャンスを見逃すことにつながって、本当にもったいないと思います。同様に、間違っていると思いながら何も言えず、何もせず、傍観して終わるのも成長を阻む行為です。結果を恐れず、チャレンジすること。その重要性をいつもメンバーに伝えています。

    ――チャレンジする過程で、軌道からずれ始めたら、上長がストップして指導してくれるわけですか。

    そうです。メンバーが「こういう施策をやったほうがいいです」と言ったときに、私が「確かにそうだ」と思ったらバックアップしますし、私以外の人たちも皆、成功するように協力してくれます。仮に他部署から「なぜそんなことをやるの?」と言われても、私が隣でフォローします。

    ――アイデンティティのほうはどうでしょうか。

    マーケティングのフィールドは広くて、ストラテジーとソリューションといったレイヤーもあれば、ソリューションの手法もそれに関わる技術も拡がり続けています。1人で全部をハイレベルにこなせるマーケターは少ないと思うので、自分が何を選択するか、それがすなわち「個性」につながります。

    マーケティングに「唯一の正解」など存在しないと思いますし、そんなことを考える必要もなければ、「隣の人と同じ方向に進むべきか」と心配する必要もありません。何万分の一のようなルートを考える際に、好きなこと、やりたいことを選択していけば、アイデンティティは自ずと形成されていく気がします。

    ――ちなみに、石井さんはオンラインとオフラインのどちらのマーケティングが得意ですか。

    スタートがオンラインだったので、どちらかといえば、今もオンラインのほうが得意です。

    また、オフラインはオンライン以上にデータに落としづらいので、良くも悪くも突然ホームランが出る環境だなと感じています。つまり、合理で積み上げたロジックで出せない世界がオフラインには残っていると思っていて、ロジックを飛び越えた成功事例を作りだすセンスが自分にあるのかどうか、今ひとつ懐疑的だというのが正直なところです。

    リクルートで考える、キャリアの「次の一手」

    ――ありがとうございます。次に日頃行っているインプットの方法について教えてください。

    基本的には、社内外の人の話を聞いて学んでいます。特に社内のメンバーが自主的に開催している知見の共有会に自分も参加して、そこで交わされている会話を聞きながら吸収しています。

    ――社内にいろんな共有会があるのですね。

    メンバーが各自取り組んだ施策と結果を踏まえて、SEOならSEOの集まりで皆が知見を持ち寄って共有しています。そういう共有会がいくつもあるので、自分も参加して、現場の最前線から置いていかれないように努めています。その共有会で交わされる内容は、実践的で最新、かつ生々しいものが多く、勉強になります。

    ――最後に今後のキャリアについて教えてください。リクルートに戻ってきて10年。リクルートといえば、一定の経験を積んで巣立っていく人が多いイメージなのですが、キャリアに関する「次の一手」をどうお考えですか。

    いろんな意味で裏切ってしまうかもしれませんが、私はあまり中長期でキャリアを考えたことがないのです。自分の1年後は想像できても、5年後を考えられなくて…。

    マーケットなら中長期で考えられるのに、なぜ自分のことは想像できないかというと、その瞬間、瞬間に「面白い」と興味の湧く方向に向かって仕事をするのが好きだからです。もちろん、いつか自分にもライフワークのように興味を持ち続けられることを作れたらいいとは思いますが、それも流れに身を任せながら少しずつ考えていこうと思います。

    ――では、来年は頑張るだろうけど、再来年はどうなるかわからない。どこかに誘われて面白そうなら行くし、そうでなければリクルートに残るし、と。

    そうですね。取り繕って言うつもりもなく、どうなるかは、そのときの気分次第です。それが悪いことだとは思っていなくて、瞬間、瞬間に全力で取り組みたいという思いだけです。

    それにリクルートも変わりまして、以前のように「独立する起業家精神」だけでなく、多様性についても歓迎される会社になっています。長期的に働きやすく、定年まで勤め上げる人も大勢います。

    ただ、自分の場合は「定年まで」など年齢で判断するのではなく、リクルートで価値を出せなくなったり、存在価値を自分で認められなくなったりしたときは辞めるでしょう。「石井さんより自分たちのほうが上だ」というメンバーが出てきたら、自分ではなく、その人たちがマーケティング室を引っ張ったほうがいいと思うからです。

    今はまだマーケティング、マネジメントともに、自分ならではのバリューを発揮できていると思います。引き続き食らいついていきます。

    ――本日はありがとうございました。

    Profile
    石井 智之(いしい・ともゆき)
    株式会社リクルート プロダクト統括本部 マーケティング室 販促領域マーケティング1ユニット(住まい)ユニット長。
    1984年生まれ。2008年早稲田大学大学院を修了後、リクルートに入社。Googleを経て、2013年にリクルートライフスタイルに入社し、アドテクのチームリーダーからデジタルマーケティング部門のマネージャーへ。2016年『ホットペッパービューティー』『じゃらん』など日常消費領域サービスのデジタルマーケティング部門長に就任。2021年販促領域(日常消費)とSaaS領域のマーケティングディビジョンオフィサーを務めた後、2022年4月よりSaaS領域と住まい領域のマーケティングディビジョンオフィサーに就任。

    リクルート
    https://www.recruit.co.jp/

    早川巧

    記事執筆者

    早川巧

    株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
    Twitter:@hayakawaMN
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