SmartHRでマーケティング部門の責任者を務める岡本剛典さんの取材記事を公開したのが、コロナが急拡大する寸前の2020年3月。それから丸2年が経ち、岡本さんはマーケティング部門の責任者を務めつつ、ミーティングテック・サービスを提供するグループ会社のSmartMeeting代表に就任しました。
再会した岡本さんの発言内容は2年前と大きく変わったところがいくつか見られ、コロナ禍の激流の中で多くの変化を経験しながら、会社とご自身が急角度で成長を続けていることが伝わってきました。
今回はSmartHR執行役員マーケティング責任者でSmartMeeting代表取締役の岡本剛典さんにSmartHR急成長の背景とSmartMeetingの戦略について話を聞きました。
(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)
※肩書、内容などは記事公開時点のものです。
目次
ユニコーンを実現した自律駆動型の組織力と現場主導
――前回の記事(2020年3月)からSmartHRはさらなる急成長を続けてユニコーン企業(時価総額10億ドル以上で、設立10年以内かつ未上場のベンチャー企業)になりました。この2年間で何が強く印象に残っていますか。
やはりコロナです。世界に大きな損失をもたらし、景気を冷え込ませましたが、一方で経済を止めないための方策がさまざまに模索され、その一環でDX、オンラインコミュニケーションが進化しました。SmartHRの成長もその影響を大きく受けています。
一方、ユニコーンは確かに節目ではありますが、社内にいるとそれほど実感はありません。突然ユニコーン企業になったわけではなく、日々の仕事を地道に繰り返してきた結果という受け止め方が社内では一般的ではないかと思います。
大きく変わったのは組織の規模です。これは2年間ではなく、4年間での変化ですが、私が入社した2018年時点で70人くらいだった従業員数が今では500人以上に増えました。組織構造がかなり変わりましたので、その変化は非常に感じます。
――SmartHRの成長スピードの速さは、コロナの影響だけではないと思うのですが、何が良かったのでしょうか。
「T2D3」(※)と呼ばれるSaaSスタートアップにとって理想的な成長速度を目指す方針を掲げて、全力でコミットしてきたことが大きいと思います。今の日本のSaaSスタートアップで「T2D3」を実現するのは難しいとされ、それくらい目線を高く上げて日々の業務に取り組んできた結果が反映されている形です。
※T2D3:Product-Market Fitの後、売り上げがトリプル2回、ダブル3回と5年で72倍伸びるのが良いSaaSスタートアップであるとする考え方。
では、どのように取り組んできたのか。業界が置かれた環境やプロダクトの品質の高さは前提としてありますが、実際のところプロダクト自体は短期的な差別化ポイントになっても、いつかは模倣される可能性があります。
大事なのは、やはり組織作りです。組織力を一朝一夕に作り上げるのは容易ではありません。例えばトップダウン型の組織の場合、速さは担保できますが、中長期的に成果を出し続ける点に欠点があります。なぜならトップの意思決定が揺れるたびに組織が振り回されて、摩耗しがちだからです。
一方、SmartHRはある程度、現場主導による意思決定を尊重した自律駆動型の組織運営ができています。そもそも現場が一番、変化を敏感に察知できるはずなので、中長期的な観点から現場主導で柔軟かつスピーディに変化に対応できる組織力を構築すべきだと考えました。
したがって、「T2D3」という最高の目標を掲げて取り組んできたこと、高品質なプロダクトで短期的な差別化ポイントを獲得できたこと、中長期的な観点で自律駆動型、現場主導型の組織力を構築できたこと、この3つが急成長の主な原動力になっていると考えています。
――現場主導の「現場」って、どのレベルですか。岡本さんがその現場にいて意思決定するんですよね?
いや、もっと現場の社員が意思決定することも多いですね。
――えっ!文字通り現場の社員が意思決定するのですか?「なぜそんな大事なことを上長の頭越しに勝手に決めるんだ?」「ちゃんと手続きを踏んでくれ」といったことはないんですか?それで怖さや失敗は?
もちろん、方針については事前に会社からメッセージを出していますし、途中経過はSlackを通していろいろなやりとりをリアルタイムでチェックしていますので、「一切何も聞いていなかった」ということはありません。ただ、会社の方針の範囲内であり、途中経過の共有がある限り、実際のやり方は現場主導でお任せしています。
怖さが全くないかと言われれば、当然少しはあります。しかし、これまでのところ現場を信用して失敗したことはありませんし、得られた成果のほうがずっと大きい認識です。
良い例があります。「交通広告グランプリ 2021 企画・プロモーション部門」最優秀部門賞に選ばれた「ハンコを押すために出社した。」の交通広告もまさに現場判断の成果です。交通広告は出稿計画の立案から申請、デザイン、納品まで早めに行うことを求められます。もともとその交通広告は入社シーズンに合わせたメッセージを考えていたのですが、入稿の2週間ほど前、緊急事態宣言が出される1カ月以上前に、現場が自ら動き出して「メッセージを変えたいんです」と連絡が来たので、私は「確かに変えたほうがいいですね」と伝えただけです。世の中の変化の兆しを感じ取り、現場が柔軟かつスピーディに動いた結果、大きな成果が出た典型例です。
開放感のあるSmartHRのオフィス。
代表になって初めて見えた世界の広がりと責任
――なるほど、変化に対する柔軟でスピーディな現場主導の動きが奏功したわけですね。では、岡本さん個人として、「この2年間で何を成し遂げましたか?」と聞かれたら、何と答えますか。
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