インタビュー
2021.10.05

ライブ配信市場を勝ち抜く17LIVEの戦略とは?――17LIVE COO・竹中重人インタビュー

The Marketing Native #35

17LIVE COO

竹中 重人

17LIVEはこのほどグローバル展開を加速させるため、2021年末までにグループのグローバル本社を台湾から日本に移すことを発表しました。それに伴い、「イチナナ」と呼ばれて親しまれてきた社名やライブ配信プラットフォームのサービスの呼称も新たに「ワンセブンライブ」と変えてリブランディングを図ります。

その17LIVEで国内のオペレーションを統括するのが2020年9月にCOO(チーフ・オペレーティング・オフィサー/最高執行責任者)に就任した竹中重人さんです。強力な競合が多数ひしめき合うライブ配信業界で17LIVEはどのように競争に勝ち抜こうとしているのでしょうか。

今回は17LIVE COOの竹中重人さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、人物写真:矢島 宏樹)

目次

17LIVEへの参画を決断した背景と、キラキラした課題

――竹中さんはベイン・アンド・カンパニーやソニー、Netflix、OYO Hotels Japanなどを経て17LIVEに参画されたとのこと。どういうきっかけで、17LIVEにどんな可能性や課題を感じて入社したのですか。

何を基準に会社を選んでいるのかと疑問を持たれる経歴かもしれませんが、意識しているのは「半歩ずらす」ことです。新しい領域を学べるチャレンジングな環境があり、かつこれまで培ってきたキャリアや知見を活かして貢献できること。その2つがバランスよく交差する場所であることを新しい職場選びの基準にしています。

17LIVEの入社に関しては、NetflixとOYO Hotelsの仕事が関係しています。OYO Hotelsについてはコロナの影響を直接的に受けてビジネスが少し難しい状況になっていました。一方で私はその状況をビジネスチャンスでもあると捉えました。今回のパンデミックはある程度不可逆的な変化であり、今後はパンデミックのリスクを織り込んだ新しいビジネスが立ち上がるだろうと考えたからです。

最初は自分で音声系のSNSサービスを始めようとして会社の登記もしました。ところが調べてみると、プレーヤーがすでにたくさん存在して競争が激しいことがわかったのです。海の向こうではClubhouseというサービスが流行していて、今から参入するのは難しいとも感じました。そこで別のビジネスを始めようと考えていたところ、たまたまヘッドハンターさんから17LIVEのオファーを頂きました。話を聞くと、自分が始めようと考えていたサービスと重なるところがたくさんあります。また、Netflix時代の経験を活かしやすい上、パンデミックによるリスクを織り込んだ社会に対してニーズの高いサービスを展開していると思いました。そうした点を受け、立ち上げようと考えていたサービスを一旦ストップして17LIVEに懸けようと決断したのです。

入社前に課題として認識したのは、配信内容の偏りです。良くも悪くも、とてもキラキラした素敵な容姿の配信者の方々を中心としたサービス展開になっていました。もちろんそこがプラットフォームの素晴らしさの1つであり、サポートすべきところではありますが、広く一般ユーザーに浸透させる点を考えると少しハードルの高い作りになっていると思いました。

そのため、エンゲージメントの高いライバーさんやオーディエンスさんに支持されているというサービスの強みを活かしながら、よりカジュアルに楽しめるよう一般層に対してもアピールできるサービスとしてプラットフォームを進化させていく必要があると考えました。そういう観点で考えると、Netflix時代に培った知見を活かして貢献できそうなことに加え、ライブ配信サービスの進化に取り組むという新たな学びの点で、自分の「半歩ずらす」考え方にぴったり当てはまると感じたのが17LIVEに入社した理由です。

ライバーの活動を支える17LIVE報酬の仕組み(参考:17LIVE Webサイト)https://jp.17.live/

競合ひしめくライブ配信業界における17LIVEのポジション

――Netflix時代の経験とは具体的にどんなことですか。

新しいサービスのエントリーですね。私はNetflix日本法人で採用された2人目のメンバーで、入社が2015年1月、サービスのローンチが同年9月です。Netflixは今でこそ広く使われているサービスと認識されていますが、最初は苦労しました。まず「Netflixって何ですか?」と聞かれてもサービスの説明がうまくできなくて、「Huluみたいなものです」と言うと、何となく納得してもらえる状況が3~4年続きました。「地上波のテレビ番組がいっぱいあるのに、なぜそんな動画を見なければいけないの?」と言われたりして、一部エンタメ好きな人たちだけのハードルの高いサービスという認知の壁をなかなか崩せませんでした。

そのレベルからスタートしましたが、今ではNetflixの説明はほぼ不要な状況になっていると思います。そこに至るまでの流れに自分はきちんと貢献できたと思いますので、その知見を17LIVEで活かせそうだと感じました。

――やはり大事なのはコンテンツですか。

結局「誰を狙って、どういうコンテンツを作っていくのか」が大事で、今でも17LIVEで日々知恵を絞り、いろいろなチャレンジを続けています。Netflixも17LIVEも、コンテンツを通してユーザーさんに楽しい時間を過ごしていただくためのサービスなので、コンテンツを通した顧客体験をいかに良くしていくかが重要です。

――ライブ配信というと、Instagram やYouTube、TikTokなどたくさんの競合が存在します。その中で、竹中さんは17LIVEとはどういうポジションだと定義していますか。

私自身は、ライバーさん、オーディエンスさん双方にとって居心地のいい自分の場所になってほしいと考えています。ライバーさんとオーディエンスさんの間のコミュニケーションや距離感がYouTubeやTikTokなどのメガプラットフォームと異なるポイントです。現状、1人のライバーさん、1つの配信ストリームに対してオーディエンスさんの数はそこまで多くありません。これが1つの強みです。つまり、1人のライバーさんが行う1つの配信に対してオーディエンスさんの数がちょうどいい具合に保たれていて、インタラクションがしやすい環境にあるわけです。その結果、オーディエンスさんが何か質問や働きかけをすると、ライバーさんがナチュラルに答えを返してくれるインタラクションが良い形で成立しています。

さらに、ライバーさんとオーディエンスさんのコミュニケーションだけでなく、ライバーさん同士のコミュニティ、コミュニケーション、オーディエンスさん同士のコミュニケーションなどが発生していて、ライバーさん、オーディエンスさん双方にとってエンゲージメントの高いプラットフォームになっています。これを維持する必要があります。このインタラクションの重要性を忘れてYouTubeなどを意識してマスを狙いにいくと、強みそのものを失ってしまうと思います。

私がイメージしているのは、数億人のフォロワーがいる海外セレブのようなコミュニティではなく、数十人、数百人規模のコミュニティが17LIVE上にたくさん存在している状態です。ふと17LIVEにアクセスすると、顔なじみの人が配信していたり、名前だけ知っているライバーさんを見つけて気軽に訪問したりできる。ライバーさん、オーディエンスさん双方が気分よく利用できて、自分の居場所のように落ち着ける存在として認知されるといいですね。

メジャーな活動が多くなったライバーさんも人と人がつながるマイホームグラウンドのような場所として17LIVEをご活用いただくと、相乗効果でオーディエンスさんとのエンゲージメントが高まりやすいのではないかと思います。

音楽コンテンツと相性のいい17LIVEではサービス開始4周年を記念し、浜崎あゆみさんが審査員を務めるオーディションイベント「17LIVE 4th Anniversary meets 浜崎あゆみ“シンガー発掘オーディション”」を2021年10月18日より開催。

トライを繰り返しつつ、「鉱脈」の見極めを急ぐ

――なるほど、考えましたね。ライブ配信プラットフォームとしてはダウンロード数が国内No.1なので、メガプラットフォームと対比したときのホームグラウンドとしてユーザーとインタラクティブな関係を結ぶには17LIVEがいいと想起される状態になっているのが強いですね。竹中さんが参画される前の話になりますが、これまでサービスをどのようにスケールさせてきたのですか。今のようにテレビCMやYouTube広告ですか。

私の理解はそうではなくて、ある程度サービスの中身が整ってからマーケティング活動にアグレッシブな投資を行ったと聞いています。最初はやはりライバーさんの獲得とコンテンツの充実であり、それを軸としたサービス、インタラクション、プラットフォームの構築です。そこは当然競合さんも注力しているわけですが、他社よりも早く2017~18年から始められたところが大きかったのではないかと思います。

その上でサービス初期の段階で大きく成長できたポイントは2つあると捉えています。1つは代表取締役兼17LIVE Global CEOの小野(裕史さん)を中心とした強いチームを構築できたこと。もう1つは台湾本社(当時)での経験があったことです。17LIVEは台湾市場におけるライブ配信のドミナントプレーヤーですから、そこでの学びは日本市場への参入に対して大きなアドバンテージになったのではないかと思います。海外市場での学びと、日本市場に向けた強いチームの構築。この2つがキーポイントで、マーケティング活動はその後に出てくる話だと理解しています。

――優れたライバーの獲得と育成が大変で、課題でもあると思うのですが、最初はどのように獲得していったのですか。

その点についてはまだ試行錯誤の途中ですし、日々努力と学びを続けているところです。過去の活動で私が聞いている範囲では知り合いの伝手を頼ったり、SNSでご連絡をしてみたりとかなり地道な努力をして獲得していったようです。

――今は広告への積極的な投資のほか、アーティスト、芸能事務所、地上波テレビとのコラボ、文化教養系コンテンツとの連動企画など幅広い領域でプロモーションを行っていますが、領域などについて基準などはないのでしょうか。

ガバナンス的に問題があるかもしれませんが、入社当初は私自身が把握していないプレスリリースが打たれたりして、「あ、こんなのやるんだ」とプレスリリースを見て知ることも以前はありました(笑)。しかし、もともといろいろなトライを非常に推奨している企業文化ですから、さまざまな領域でトライをした結果、成功したコンテンツは伸ばし、うまくいかなかったら原因を分析した上で切り替えて次に行けば良いだけです。今はまだ統一感を問題視するのではなく、トライを推奨している段階であり、それで良いと思います。

――PDCAを回す中で、手応えを感じている領域は何ですか。

音楽ジャンルとライブ配信の相性は良いですね。音楽系イベントさんとのコラボや著名なミュージシャンの方による配信については手応えを感じています。音楽という共通言語を使ったいろいろな切り口があるのが魅力です。例えば、本番のコンサートだけでなく、コンサート前の準備の様子、盛り上げ、コンサート後のフォローアップ、ファンとの密度の高いコミュニケーションなどが17LIVEで成立しつつあり、そこが音楽業界と我々の間でWinWinの関係構築につながっていると感じております。

――地上波テレビとコラボすると、取り込まれませんか。

その点もNetflixでの経験が生きてくるところで、やはり違うメディアですからあまり競合しないと考えています。結局、地上波テレビで見られるコンテンツは地上波テレビで見るべきで、17LIVEのようなニューメディアが提供するコンテンツは、地上波テレビでは見られない、地上波テレビでは成立しにくい企画であるべきだと思います。17LIVEの強みはインタラクティブであることで、その点を前提としたり、前面に押し出したりしたコンテンツは現状の地上波テレビでは難しいのではないでしょうか。そう考えるとテレビ局のプランナーの方々と我々のニーズは競合にはならず、クロスしてシナジーを生み出すのではないかと思います。

――これまで「ライブ配信アプリはイチナナ」と相当な広告投資をしてきたと思いますが、今回のリブランディングで「ワンセブンライブ」とサービスの呼称が変わり、浸透・定着させるには費用・時間ともにさらに大きなコストがかかりそうです。その点はいかがですか。

そうですね、リブランディングは数年単位で考えています。ただ、「イチナナ」というサービスの呼称を完全に捨ててしまうかどうかは議論の余地があると捉えていて、絶対に「ワンセブンライブ」と呼ばなければダメなわけではなく、皆さまに親しまれたニックネームとして「イチナナ」と呼んでいただけたら幸いです。

後編へ続く
今度こそライブコマースを日本で定着させるには?――17LIVE COO・竹中重人インタビュー

Profile
竹中 重人(たけなか・しげと)
17LIVE株式会社COO(チーフ・オペレーティング・オフィサー/最高執行責任者)。
東京理科大学工学部卒業。日本テキサス・インスツルメンツ入社。2006年ダートマス大学 経営大学院修了。ベイン・アンド・カンパニー参画。2011年ソニー入社。研究開発企画部門の部長として全社レベルのプロジェクトに従事。2014年ソニー不動産を創業し、執行役員に就任。2015年Netflixの日本事業立ち上げにファイナンス・ディレクターとして参画。日本での2人目の社員として、コンテンツ戦略の立案とバックオフィスのマネジメントを担当。2019年OYO Hotels Japanバイス・プレジデント。2020年9月 17 Media Japan(現17LIVE )COO就任、現在に至る。

早川巧

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
Twitter:@hayakawaMN
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