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インタビュー

糖質制限ブーム、人口減少・高齢化時代でも成長を続ける亀田製菓の戦略とは? 亀田製菓 CMO荒生均インタビュー

最終更新日:2022.03.02

The Marketing Native #37

亀田製菓 常務執行役員 CMO 商品本部長

荒生 均

「亀田の柿の種」「ハッピーターン」「ソフトサラダ」をはじめ、強力なロングセラー商品で知られる亀田製菓。新商品も昨年(2021年)「無限エビ」が大ヒットするなど、若年層から高齢者まで幅広い世代から支持されています。

その亀田製菓が昨年、新たにCMOの役職を設け、ロッテ勤務時代に飲むアイス「クーリッシュ」の商品開発担当として同社の世界的な評価獲得に成功した荒生均さんが就任しました。荒生さんは「お客さま起点の戦略設計」を掲げ、亀田製菓でも新たな需要の創造に取り組んでいます。

今回は亀田製菓 常務執行役員 CMO 商品本部長の荒生均さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧 撮影:矢島 宏樹)

目次

    米菓が迎える今後の需要減とCMOの役割

    ――亀田製菓にCMO職が新設されたのは昨年(2021年)4月。荒生さんご自身は、なぜCMO職が必要になったとお考えですか。

    需要を新しく作り出す必要があるからです。私なりの考えですが、世の中にたくさんの食べ物があふれ、需要より供給が大きく上回っている時代にあって、「新しく飲食する人の数」と「喫食シーン」の2つをどう増やすかが食品業界の課題になっています。その課題解決のために必要なことのひとつは需要の創造です。需要の創造は供給側が従来行っていた4P視点のような商品開発やブランド作りだけでは不十分で、今の時代は「お客さま起点」であることが大前提になります。「お客さま起点」に基づく商品開発、プロモーション、広報などはこれまでのようにそれぞれの部署機能ごとではなく、横串で総合的に対応する必要があり、その目的で設置されるのがCMOなどCxOの役職です。亀田製菓がCMOを新たに設置したのは「お客さま起点で新たな需要を創造しなければ、これからの時代にさらなる成長を続けられない」という危機感が背景にあると考えています。

    ――「業績が低迷していてV字回復をさせる必要があるからCMO職を設けました」というわけではなく、需要の創造が求められている、と。

    そうですね。実は菓子食品の中で今後の需要減が見込まれる最後のカテゴリーが米菓なのです。米菓は60代以上、特に70歳以上の団塊の世代がメインユーザーになっています。亀田製菓の創業は1946年で、米菓産業が大きく成長したのも戦後すぐのこと。1947~49年に生まれた団塊の世代がメインユーザーなのはある意味、当然と言えます。

    その下の60代はまだおせんべいを食べますが、50代以下の世代は圧倒的にポテトチップスなどのスナックを好みます。私は前職でロッテにいましたが、ガムやチョコレートは10代、20代のユーザーが多いので、先に少子化による人口減少の影響を受け、需要が減少しています。こうした消費量の減少を「プレミアム」「大人品質」などのコンセプトでターゲットを広げることで売り上げの減少を防いでいました。

    一方、団塊の世代に関しては、これまで食品の消費という点で需要が減ったことがほとんどありません。団塊の世代は15年ほど前に定年を迎えましたが、在宅時間が長くなったことで逆に米菓を食べていただける消費シーンが増え、需要を下支えして盛り上がる傾向さえあったくらいです。

    その団塊の世代も後期高齢者の75歳をこれから迎えるようになり、米菓を食べる頻度も、1回に食べる量も減っていきます。つまりメインユーザーの需要が減少して回復する見込みが薄い上、次の世代である50代以下は圧倒的にスナックを好むという厳しい局面を初めて経験しているのが米菓業界なのです。新しい需要を作り出して右肩上がりの成長を担保するには「お客さま起点での戦略設計と実行」が極めて重要であり、それをCMOは求められていると認識しています。

    亀田製菓で販売されたさまざまな商品のパッケージが同社・東京オフィス内に掲示されている。

    ――よくわかりました。50代以下に作る新たな需要は米菓が対象ですか、それとも米菓周辺や米菓以外も含めてという認識ですか。

    難しいのですが、米菓の周辺には「ちょっとおなかが空いたので何か食べたい」という食シーンでセレクトするスナックやフライドチキン・フランクフルトのようなお惣菜など、いろいろなカテゴリーがあります。このカテゴリーが競合関係になっていますので、そこからどのように米菓の需要を作るかがポイントです。例えば10代、20代の若年層はチョコレートなどの甘い物をよく消費しますが、それなら「米菓とチョコレート」「米菓とキャラメル」のような組み合わせはどうかと考えることもできます。スイーツ系の米菓が少ない現状は、やはり市場の中心が団塊の世代だったためで、若年層に向けた商品開発という意識が十分でなかったことも背景のひとつにあると思います。

    米菓に求められる「楽しさ」のベネフィット

    ――ありがとうございます。先ほど「お客さま起点での需要創造」という話がありましたが、具体的にはどのように取り組まれていますか。

    これまで亀田製菓では、「誰が、どの商品をいくらの価格帯になったときに多く購入したのか」「どういう訴求をしたら、どのターゲットが買ったのか」など、株式会社インテージさんのSRI+(全国小売店パネル調査)に代表される「小売店での買われ方」データを顧客データと呼んでいたと思います。もちろん、それも重要なのですが、私が亀田製菓で行ったのは、10代から70代までの男女約5000人を対象にした「消費の場面」に関する調査です。「何を食べましたか」「誰と食べましたか」「どこで食べましたか」「そのお菓子を食べた理由は何ですか」などの質問でおせんべいの喫食シーンがどのような状況で生まれているのか、1人につき3回、計約1万5000の食シーンを分析しました。小売店での買われ方という顧客データと、お客さまがおせんべいを消費する食シーンデータの2つを収集・分析することで、消費の実態を把握し、お客さま起点での需要創造につなげる取り組みを行っています。

    ――その結果、何がわかりましたか。

    私は前職でもチョコレートやアイスクリームで同様の分析を行っているのですが、お菓子の基本的なベネフィットは「美味しさ」「安全性」「楽しさ」の3つにあると考えています。米菓は美味しさと安全性は高いのですが、楽しさの要素がチョコレートやアイスクリームなどと比較して少ないと感じました。

    ――お菓子会社の方を取材すると、よく「楽しさ」という言葉が出てくるのですが、「お菓子が楽しい」とはどういう意味ですか。

    例えば「コアラのマーチ」には「マスクコアラ」や「盲腸コアラ」などさまざまな絵柄があって、定期的に絵柄を変えることで新たなコミュニケーションツールとしての情報を訴求しています。若い世代に訴求する上で、楽しさは重要な要素です。とはいえ、米菓は商品自体での楽しさ訴求は難しいので、パッケージやプロモーションで、家族団らん時のコミュニケーションツールになるような「食べる楽しさ」を訴求するよう努めています。例えばこの年末年始に、亀田の柿の種で「笑福パッケージ」を実施しましたが、大変好評でした。

    ――なるほど、パッケージだけでなくタレントを起用した大掛かりなプロモーションや、ご当地限定フレーバーなども楽しさを感じさせるのが目的のひとつというわけですね。

    はい、その際にポイントになるのは「笑福パッケージ」のように国内外の催事との連動性です。欧米でも需要喚起の目的で、ハロウィンやイースター、クリスマスなどに合わせてパッケージを新しくオリジナル仕様に作り変えることがよく行われます。中身は同じでも催事に連動させたパッケージデザインにすることで需要を喚起する手法は定番商品のマーケティングとして一般的です。

    亀田の柿の種の「笑福パッケージ」。(引用:亀田の柿の種のTwitter)

    逆に「チャンス」に転換できる糖質制限ブームの捉え方

    ――わかりました。次に、ちょっと水を差すような質問なのですが、糖質制限などの健康志向についてはどうお考えですか、米菓には逆風だと思うのですが。

    必ずしも逆風とは捉えていません。米菓のもうひとつの悩みに購入単価を上げる難しさの問題があり、この数十年、ユニットプライスを上げることになかなか成功していません。そういう状況下で「ロカボ」をはじめ、素焼きナッツのような健康に良いとされる食品と米菓を組み合わせる新たなテーマが登場してきました。これはお客さまに納得していただきつつ購入単価を上げられるきっかけになるかもしれないと考えています。もともと米菓以外のお菓子も需要の量の拡大は難しいわけですし、ロカボブームで量がさらに低下する傾向があるのであれば、商品に付加価値を付けて単価を上げることで、売り上げの減少を防げると思います。

    ――定番商品も強力ですが、新商品の無限エビも大ヒットしました。こうした新商品についてはどのように発想しているのですか。

    米菓カテゴリーの課題は「これまで食べていなかった新しい人に食べてもらう」「米菓を食べている人には、違う食シーンで食べてもらう」という2つです。無限エビはSTP戦略を基に「新しい人」、つまり今はスナックなどを食べていて、米菓はほとんど食べていない人向けの訴求を行いました。

    無限エビはエビを殻ごと生地に練り込んだ商品設計で、濃厚なエビの風味が味わえる品質の高さを追求した商品です。従来の亀田製菓の商品は50代、60代以上にターゲットを設定して品質やデザインなどを訴求していたのですが、無限エビは1個1個の美味しさを担保しつつも、普段スナックを食べている若い人をターゲットに、スナックより歯ごたえがあって「延々に食べ続けられる」「食べ飽きない」という連食性に絞った商品訴求を行いました。

    また、「無限」という言葉は『「鬼滅の刃」無限列車編』や「無限キャベツ」からパワーワードとして認識され、パッケージや個包装には「エビ神様」「エビ神様のゆるっとお告げ」をデザインするなど、子供たちのおやつを意識した情報性、楽しさを考えた商品作りになっています。そのように、今までの品質の高さだけから、「1回は食べてみたい」「延々に食べ続けられる」と喫食と連食性を喚起させるコンセプトやパッケージ作りを新たなベネフィットとして取り入れた点が大きな違いであり、成功したポイントになったと思います。「新規の需要創造とは、すなわち消費者のベネフィットを新しく開発すること」であり、それが新商品のコンセプトを考える際の基本だと思っています。

    大ヒットした「無限エビ」。(引用:亀田製菓Webサイト)

    未来のCMOを目指す若手マーケターに学んでほしいこと

    ――次はSNSの話をお聞きします。Twitterでは亀田製菓の公式アカウント、亀田の柿の種、ハッピーターンと3つのアカウントを運用されていて、それぞれ約25万人から30万人以上のフォロワー数を獲得しています。Twitterはどのようなことを目的に運用していますか。

    亀田製菓に好意を持っていただけるファン作りを意識して、投稿内容を分析し、反応の良いコンテンツを増産するようPDCAを回しています。また、企業として発信したい情報よりもモーメントに合わせた投稿の比率を高め、亀田製菓に強い関心を持っていないフォロワーにもファンになっていただけるよう努めています。ただ、Twitterに関してはKPIと売り上げを関連づける十分なデータをまだ持っているわけではないので、お客さまが食べたときの気持ち、感情に対してタイムリーに反応することで双方向性の関係を築いていければと考えています。

    ――ありがとうございます。ガラリと話を変えますが、読者にマーケターが多く、CMOを目指している若い人もたくさん読んでいますので、そうした人たちにCMOになるためのアドバイスをベテランの立場からお願いします。

    端的に言うと、今後はリベラルアーツを学ぶことが重要になると思います。マーケティングに関する勉強を続けるのはもちろん大事ですし、リベラルアーツといっても少々抽象的で、何をどう学べばいいのか、身に付いているという手応えをどう感じられるのかと疑問もあるかもしれません。それでも、今の仕事と直接関係なくても、古今東西の本を読むなり、美術館や博物館に行くなどして一般教養を幅広く、時には深く学び、審美眼を養っておくことが10年後、20年後のCMOの判断力を支える土台になると考えています。

    例えば、現在は数字やファクトをベースに科学的・論理的に判断することが良いとされますが、近い将来にはロジックを基に自分で判断するのではなく、AIが出してきた提案を正しく評価する能力がもっと求められるようになると思います。すでに囲碁や将棋では人間よりAIのほうが強い状況で、人間にははるか及ばない膨大なデータ量を分析して導き出したAIの勝負手がなぜ最善手なのか、プロ棋士にも判断が難しい状況が多々起きているわけです。それと同じことがビジネスシーンで増えてくると、「AIが出してきた提案の中から最善と感じる施策を採用する」ことが主流になる時代が来るかもしれません。そのとき施策の正しさを判断する思考力をサポートするのが、美術、哲学、歴史などのリベラルアーツを土台にした審美眼なのだと思います。したがって未来のCMOにはマーケティングの専門性と科学・論理に基づく思考力、さらにリベラルアーツの教養に裏打ちされた審美眼が必要になるというのが私の考えです。

    ――わかりました。それでは最後に、亀田製菓がこれから目指す方向性についてCMOの立場から考えていることがあれば教えてください。

    世界に飛び出し、「グローバル・フード・カンパニー」となることが、亀田製菓グループが掲げる大きな目標です。その実現に向けて私たちはお客さまに提供する価値を「美味しく からだに良いものを選び、食べ、楽しむ、健やかなライフスタイルへの貢献」として取り組んでいます。2030年の夢は、こうしたお客さま価値の提供を通じて、あられ、おせんべいの製菓業から、Better For Youの食品業へと進化することです。

    グルテンフリーへの関心の高まりや、アレルギーにお悩みの方が増加する中、アレルギー特定原材料28品目に含まれない「お米」という素材は、まだまだ無限の可能性を秘めていると考えます。また、当社には長年の米菓の製造販売で培った技術力や、お米総合研究所の研究力があります。お米そのものが持つ力と当社が持つ力を融合し、そこに市場やお客さまのニーズを合致させて新たな価値を生み出すことこそがCMOとしての私の役割であると認識しています。亀田製菓のさらなる発展に向け尽力してまいります。

    ――本日はありがとうございました。

    Profile
    荒生 (あらお・ひとし)
    亀田製菓株式会社 常務執行役員 CMO 商品本部長。
    新卒でロッテ中央研究所に入社。商品開発部に異動後、ガム、キャンディ、アイスクリーム、チョコレート、子供向け菓子のおまけをはじめとする主力商品の企画、新製品開発、ブランドマネジメントを担当。特に飲むアイス「クーリッシュ」の開発では、2004年にパリで行われた国際見本市「世界ヒット商品コンクール」で3冠を獲得。アジアの食品で初となる「最高賞(グローバル・シアルドール)」も受賞した。2018年に亀田製菓入社、現在に至る。

    早川巧

    記事執筆者

    早川巧

    株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
    Twitter:@hayakawaMN
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