𠮷野家「V字回復の仕掛け人」として脚光を浴びる伊東正明さん。ヒット商品を次々と打ち出して、𠮷野家から足が遠のいていた顧客を呼び戻すだけでなく、新規顧客の大幅獲得にも成功しました。
伊東さんは顧客インサイトをどのように探り出し、さらなるアンメットニーズ(まだ満たされていない顧客の潜在的な欲求)を満たすべく、これからどんなことに取り組もうとしているのでしょうか。
そして、あの人気商品誕生の舞台裏で繰り広げられた大逆転劇とは?
今回は元P&G伝説のマーケターで、現在、𠮷野家常務取締役を務める伊東正明さんのインタビューを前後編2回に分けてお届けします。
(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)
※肩書、内容などは記事公開時点のものです。
目次
「牛肉を食べたい」消費者の第一想起に
――𠮷野家をV字回復させた敏腕マーケターとして非常に注目されています。伊東さんが参画される以前、𠮷野家にはどのような問題があり、伊東さんが何を変えた結果、現在の好業績に転じたのでしょうか。
まず、私はとても良いタイミングで𠮷野家に入りましたので、その点が大きいと考えています。
数年前から駅前に全国チェーンのさまざまな飲食店が相次ぎ出店し、供給過多のような状態になっていました。その中で𠮷野家は牛丼メインのスタイルをずっと貫いていたわけです。
しかし、毎日同じものを食べる方は多くありません。競合の牛丼チェーンは毎日でも足を運んでいただけるようにさまざまなメニューを開発して、お客さまを飽きさせない工夫をしていました。
私が𠮷野家に招かれた2018年1月当時は、そうした状況に𠮷野家が危機感を覚え、「お客さまの来店頻度を上げるために、メニューバラエティをきちんと揃えよう」という意識改革への熱意がピークを迎え、十分戦えるだけのメニューバラエティがようやく揃った時期でした。
一方で、問題も浮上しました。それは、メニューバラエティをどこまで広げ続ければよいかわからないこと、さらに他の飲食チェーンと比較したときに𠮷野家の個性が埋没してしまうことです。
そこで、𠮷野家らしさをあらためて押し出そうと考えました。𠮷野家らしさとは、牛丼屋であるということです。牛丼に限らず、牛肉を食べることを目的としたとき、消費者の第一想起はおそらく𠮷野家が1位です。ステーキや焼き肉もありますが、それはハレの食事であり、日常食で「牛肉が食べたい」「肉が食べたい」となったときに𠮷野家が最初に来るというリンクを作ることを重視しました。
つまり、それまでは「𠮷野家に行こう」と指名買いする方がお客さまの中心だったのを、「肉を食べたい」という人にも選んでいただけるようになったのが業績回復のひとつの要因だと考えています。
その象徴的な存在が、メディアでよく取り上げていただいた「超特盛」です。これによって「牛肉をたくさん食べたい人はどうぞ𠮷野家にお越しください」という強いメッセージを打ち出し、お客さまに振り向いていただくきっかけを作ることができました。
来店頻度を上げるための引き出し理論
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