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インタビュー

最高のスターバックス体験をつくるCMOの役割とは――スターバックス コーヒー ジャパン CMO 森井久恵インタビュー

最終更新日:2024.01.21

The Marketing Native #56 前編

スターバックス コーヒー ジャパン CMO

森井 久恵

グローバル企業のマーケティング責任者として日本だけでなく海外でも活躍してきた森井久恵さんが、スターバックス コーヒー ジャパンCMOに就任したのは2018年8月のこと。それから5年。途中、コロナ禍という未曾有の危機を挟み、約8割の店舗を一時休業させるなど難しい意思決定を繰り返しながら、今もスターバックスの成長を牽引する一員として日々、奮闘しています。

Marketing Nativeでは森井さんのインタビュー記事を2019年10月に公開しましたが、そのときに話していた施策の多くが実を結び、今ではスターバックスの圧倒的なブランド力を支えています。

なぜスターバックスは多くの顧客から支持され続けるのでしょうか。

今回は、約4年ぶりに森井久恵さんを取材しました。インタビュアーはCINC取締役 アナリティクス事業本部 本部長の山地竜太が務めます。

(構成・文:Marketing Native編集部・早川 巧 人物撮影:矢島 宏樹)

※肩書、内容などは記事公開時点のものです。

目次

荒波の日々に考えた「スターバックスにとって大切なこと」

山地 スターバックスのCMOに就任してから、この5年間、コロナ禍を含めてさまざまな出来事があったと思います。あらためて振り返って、CMOとして達成した実績や機会点(課題点)をご自身でどのように評価していますか。

森井 マーケティングの捉え方が大きく変わりました。20年以上携わっていますが、コロナ禍では特に「店舗の休業判断」など私が経験してきたマーケティングの範疇では判断しきれないことへの意思決定を連日のように求められました。不確実性が増す時代の中でも動きを止めず、時流に乗って素早く、かつしなやかに意思決定を下す機動力と胆力の必要性を感じた5年間でした。

言い換えると、「CMOとしてどう判断したか」ではなく、「スターバックスにとって大切なことは何か」を軸に据えながら、先行きについての仮説を立て、新たに取り組むべきと判断したことには果敢に挑戦してきた日々だったと思います。

森井久恵さん

山地 「スターバックスにとって大切なこと」とは具体的に何でしょうか。

森井 コロナ初期の頃、あらためて考えたのは「私たちにとって大切なのは“人”である」ということです。店舗の休業判断はマーケティングと直接関係ないかもしれませんが、私もスターバックス全体の意思決定をする一人として、「パートナー(従業員 ※)を守るためにお店を閉めるべきだ」と判断しました。決め手になったのは、ある方がおっしゃった「自分の子どもがパートナーだったとして、今、お店に立たせられますか?」という言葉です。当時はまだコロナに対してわからないことが多かったせいもあり、みんなの答えは「ノー」でした。

※「パートナー」は、スターバックスで働く従業員を指す。

思い返せばシンプルな話ですが、スターバックス全体の約8割にあたる約1,200店舗休業の意思決定に関する議論は経験したことのない不安や焦り、責任を取れるのかという緊張感と常に表裏一体でした。そんな状況下で発せられた「自分の子どもをお店に立たせられるか?」という言葉は、これからもずっと忘れられないだろうと思います。

大変だったのは、休業判断だけではありません。お店を再開するときも大きな決断を迫られました。休業前、積極的なプロモーションを準備していたのですが、緊急事態宣言の発令などコロナ禍の真っただ中の再開時にお客さまが望んでいることを考え、準備をしてくれていたサポートセンター(本社)や店舗のパートナー、ベンダーを含む協力いただいた全ての皆さまには申し訳なかったのですが、「今スターバックスに求められているのは、こういうプロモーションではないからやめよう」と話して、中止にしました。サプライチェーン全体に影響する重大な意思決定でした。

あらためて振り返ってみると、この5年間は、それまで身に付けてきたマーケティングの知見や常識だけでは通用しない、荒波のような日々だったと感じます。その中で、「スターバックスにとって大切なこと」は何かを念頭に置き、時流に合わせて柔軟、かつ大胆に対応できたことは、私にとってとても学びの多い経験になりました。

山地 生々しいお話ですね。

森井 ビジネス的に見ると、コロナ前よりも現在のほうが多くのお客さまにお越しいただいています。実績面の好調さはマーケティングの力だけの成果とは思いませんが、激しい変化の中でスターバックスにとって大切なことを軸に、それぞれの意思決定を適切に行えたことが、お客さまにも届いていたのではないかと感じています。もちろん、数字の裏にはチームの涙ぐましい努力と、アウトプット最大化のために考えられた組織づくりの成果があることは言うまでもありません。

確かな成果につながった特筆できる3つの施策

山地 ありがとうございます。いくつか施策を展開する中で、先ほどおっしゃっていたような、時流にうまく乗れたり、お客さまのインサイトに応えられたりしたと感じた施策には何がありますか。

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・サステナビリティのファンをつくる「タンブラー部」の仕掛け
・サステナビリティ推進の合言葉は「Walk the Talk」

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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