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インタビュー

ECエバンジェリスト川添隆が実践する「マーケターが一歩抜きん出るための考え方と行動」

最終更新日:2023.06.06

The Marketing Native #09

株式会社ビジョナリーホールディングス 執行役員 デジタルエクスペリエンス事業本部 本部長

川添 隆

圧倒的な行動力と向上心に接し、感動しました。ECやオムニチャネルの推進で高い成果を上げ続け、「ECエバンジェリスト」と呼ばれる川添隆さんです。現在はメガネスーパーで有名な株式会社ビジョナリーホールディングスで執行役員 デジタルエクスペリエンス事業本部 本部長を務めています。

川添さんが高い評価を獲得した背景には、キャリアを積み重ねる中で身に付けたアウトプットに対する考え方と、向上心に裏打ちされた旺盛な行動力がありました。その方法論は、他のマーケターも見習って実践できる内容です。

今回はECエバンジェリストの川添隆さんに「マーケターが一歩抜きん出るための考え方と行動」について話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:稲垣 純也)

※肩書、内容などは記事公開時点のものです。

目次

消費者の心を捉える「非合理性」の魅力

――これまでさまざまな企業のCMOやマーケティング責任者の方々をインタビューしてきました。その中で感じたのは、テクノロジーの進化を追求しつつも、デジタル万能思考ではなく、顧客ニーズ・インサイトの理解や3C分析といった旧来型のマーケティング施策についても同様に深めていくのが重要だという視点です。その辺りどのようにお感じですか。

異論はありません。デジタルシフトに後れを取っていた店舗側、オフライン側がデジタルマーケティングやテクノロジーの活用を加速して、業務効率化を図っていこうとしているのは間違いないところです。

一方、デジタルだけでは捉えきれないものもあります。例えば、アプリを活用したレコメンドや集客、来店計測など顧客の行動・購買データの分析についてはデジタルが得意ですが、お客さまと対面し、表情から察して応対をしたり、接客によって得られた知見を深掘りして、関連業務に活かしていくことはまだできません。デジタルは合理的な判断ができますが、合理的だからお客さまが来店してファンになってくれるかというと、必ずしもそうではなく、オフラインの特徴はむしろ非合理性にあると考えています。

――非合理性ですか。

例えば、最寄り品を中心に取り扱う業態でAIを活用した商品棚のレイアウトや店舗内の最適化を行うことは、エリアマーケティングとしては効果的かもしれませんが、他の店舗も実行しだすと同じような棚割になり、コンビニ化、自動販売機化していく気がします。もちろん、現時点で先行者利益があることは間違いありませんが。

では、「お店らしさ」「ブランドらしさ」とは何かを考えたとき、思い浮かぶのは東京・中目黒のロースタリー(スターバックス リザーブ® ロースタリー 東京)のような超非合理なお店です。店内中央にキャスク(焙煎したコーヒー豆の貯蔵庫)がタワーのようにそびえ立っていますが、採算だけを考えたら、店内にそのような存在は不要ですし、むしろ同様の機能を最小化することを考えます。しかし、建物の4階まで突き抜けるキャスクと開放的でぜいたくな空間があることで、「凄いブランドだ」という圧倒的な存在感を見せつけています。

非合理性については、メガネの修理のときにも言えます。お客さまがフレームの調整でご来店された際、その場の手作業ですぐに直すことが、お客様の意に沿わないケースがあると聞いています。そのため、工具や機器を使い、多少の時間を頂きながら、他の箇所までチェックするといった「配慮」やある種の「演出」は必要だと思います。それはそのほうが「丁寧に直してくれた」と納得されやすいからです。

もちろん、商材やブランドに求められるニーズによって、合理的な部分と非合理的な部分のバランスは変わってきますが、「このお店、面白いからまた行きたい」とか「なんか感じのいいお店だな」とお客さまが感じるのは、非合理的な要素による影響のほうが強く、その点はまだ人間のほうが得意だと思います。特にマーケターの方々は、ムダを省く合理性だけではなく、お客さまの心を動かす非合理性とは何か、想像することが大切です。

――難しいですね。非合理性がウケるからといって、狙って顧客に支持される非合理的なものをつくることはなかなかできないと思います。そこは勘や経験に基づくのでしょうか。

もちろん、「こういう非合理性がウケる」と言うことはできませんが、私の場合は勘や経験に頼るよりも、お客さまの気持ちを汲み取ることを意識しています。例えば、私は今、月1回くらいのペースで「ZOE BAR」というバーを開いています。バーを営業しているわけではなく、お金を払って場所を借りて、交流の場をつくっているのですが、毎回100人くらいの方が集まります。精算はキャッシュオンにしているので、私は主に会計のほか、ハイボールと生ビール担当のバーテンダーをしています。

ところが、「ハイボールと生ビール以外は、バーデンダースタッフが対応しますね」と言っているのに、数人のお客さまから言われるのは「ゾエさんがカクテルを作ってよ」という言葉です。私の隣にはプロのバーテンダーがいるにもかかわらずです。普通に考えればプロが作ったほうがおいしいに決まっています。それなのになぜわざわざ「ゾエさんが作ったカクテルを飲みたい」と言うのか。それで私が作り始めると、写真や動画を撮影して、それをネタにSNSなどにアップしているんです。そういうところも非合理性の一種であり、「なぜ素人の私が!?」と考えるのではなく、相手の気持ちを汲み取って期待に応えていくことが大事だと思います。

――確かに「ゾエさんが作ってよ」という感覚は何となくわかる気がします。

ただし、これは親しいから言ってくれるのであって、一見さんのケースでは注意が必要です。「私が手伝うからゾエさんはフロアで話してなよ」と言ってくださる方もいらっしゃるのですが、この場合は「ZOE BAR」なのにただの飲み会の幹事になってしまうので、サイレントクレーマーが生まれる可能性があります。

ビジネスに話を戻すと、我々メガネスーパーでは、お客さまのインサイトを汲み取り、即時サービス改善に反映させるために、お店で買っていただいた方にはがき形式の「CS(Customer Service)アンケート」をお渡ししています。これは社長宛てに届くようになっていて、クレームがあった場合は即座に応対するようにしています。そうしたスピード面を含めて、営業面での数字に現れにくい定性的なところを汲み取って定量化していくことが重要です。

現状に満足せず、常に感覚を研ぎ澄ます

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・「現状満足時代」打開の鍵となる「ちょっとの差」の改善
・積極的なアウトプットが魅力的な人を引き寄せる
・結果を出せた人と出せなかった人の違い
・徹底的に武器を磨き、レアなポジションを見つけよう

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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