インタビュー
2020.09.24

note「P&G流マーケティングの教科書」が40万PV超え!Marketing Demo代表・石井賢介が語る「マーケティング思考の学び方」

Marketing Demo代表取締役社長

石井 賢介

「【1時間で分かる】P&G流マーケティングの教科書」というタイトルのnoteが、公開から2週間で約40万のPV数と1万2500以上のスキを集めました。100以上のスキが付いていれば人気記事とも言われる中、1万以上の数値は非常に珍しいケースであり、多くのマーケターに驚きをもって受け止められました。

このnoteの著者である石井賢介さんは、商社の営業からP&Gのマーケターへと転職した中途入社組です。石井さんはP&Gに転職後、担当するブランドで大きな成果を出すことに成功しますが、なぜ、石井さんは結果を残すことができたのでしょうか。また、今後どのようなチャレンジを目指しているのでしょうか。

今回はMarketing Demo代表取締役社長・石井賢介さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・岩崎 多、人物撮影:豊田 哲也)

目次

P&Gで実感した商社とのギャップ

――執筆されたnoteがすごく反響を呼びました。スキの数が1万を超えているnoteは、かなり珍しいのではないかと思います。執筆者がどのような方か注目している読者も多いと思うので、まずは、石井さんのこれまでの経歴から教えてください。

大学卒業後は住友商事に入社して、「30歳までに社長になりたい」と考えていました。当時は会社で結果を出し続けることが、唯一社長になる方法だと思っていて、まずは関連子会社の社長になろうと頑張って仕事をしていました。

商社では主にアルミニウムのグローバルなトレードの仕事をしていたのですが、2年目で大きな長期契約を獲得できましたし、かなり結果を残せたと思います。しかし、先輩や上司の昇進の速度を考えると、このペースで実績を上げていっても子会社の社長になれるのは早くて40代だろうと気付き、転職を意識し始めました。

そこで経営者を多く輩出しているような企業や業界を調べることから始めました。Googleで「経営者になる 仕事」などで検索していると、該当する企業の多くは、マッキンゼーやBCGなどの外資系コンサルティング会社と、ゴールドマン・サックスやJ.P.モルガンなどの外資系金融機関であることがわかりました。

そうした企業が並ぶ中で、目を引いたのがP&Gのマーケティングでした。

自分はコンサルティングや金融業界に友人が多くいるので、その業界がハードワークであることは知っていましたし、優秀な友人たちと既に数年分の差をつけられているところに新参者として入社しても勝ち目がありません。一方で、友人にマーケティングをしている人間はおらず、当時はサントリーがハイボールを流行らせていた時期でもあったため、ブームを作ったマーケティングという職業に興味を持ちました。

――30代で社長になれる可能性がある仕事を探したときに、P&Gのマーケターが候補として出てきたのですね。

今となって考えると愚かな発想ですが、プロの経営者になる近道になるだろう、くらいに思っていました。今ほどではないですが、すでにP&G出身者というクラスターがあり、国内外問わず、P&Gのマーケティング出身で活躍されている経営者が目立ち始めていました。そうした条件が重なり、P&Gのマーケティングに応募し、採用されたので転職しました。

――営業からマーケターへ職種を変えることに対して不安はなかったのですか。

良くも悪くも楽天的なので、不安は感じていませんでしたが、P&Gに入ってからはそれなりに苦労しました。

まず、商社出身の自分にはマーケティングそのものが全く持って未知のもので、全体像がわかりませんでした。わからない状態で、コンセプトを考えたり、チャネル戦略を練ったり、広告を作ったりと、暗闇の中でタスクがたくさんある状態に戸惑いました。実務で学ぶだけではあまりに時間がかかると判断し、業務の質を上げるためのインプットとしてマーケティング関連の書籍を読み漁り始めたのもこの時期です。

その中でも、最も苦労したのは「消費者が何に困っているか」という超ミクロな消費者課題を理解することでした。商社では、B2Bかつ究極のコモディティである金属資源を扱っていたこともあり、マクロな目線でしか仕事を考えたことがありません。例えば、「電気自動車が浸透していくにつれ自動車の軽量化が進む」→「軽量化のために自動車部品が鉄からアルミニウムに代わっていく」という流れがあると、今後は「電気自動車が主流となる先進国を中心にアルミニウムの需給がひっ迫する」ので、「今のうちにアルミニウムを購入しておこう」といった視点です。

一方で、マーケターとして最も求められるのはそんなことではなく、「目の前の消費者が何に困っているか」です。消費者インタビューをして出てきた些細な発言に、先輩や同僚が「今の発言にはどんな意味があるのかな?」と話しているのを聞いていて、「いや、適当に答えているだけじゃないの?」とか「結局値段でしょ」と思ってしまい、全く理解することができない時期が続きました。

例えば、店頭に貼るポップ1枚でさえ、P&Gではブランドマネージャーから「どのような消費者のインサイトがあって、どのような戦略に基づいて、このポップにしたのか」と問われます。初めは「赤字で書けば目立つから売れると思いました」程度しか答えられない状態でした。というのも、これまで1回の売買が数億~数十億円だったB to Bの経験だけの自分にとって、数百円で買う日用品は「適当に選んで買うもの」と思っていたからです。

当時の自分からすると取るに足らないと感じても、そのディティールが実は重要で、売れるか売れないかの決定要因であることを理解するのに時間がかかりました。消費者のミクロな課題を理解することが、マクロなトレンド以上に重要であるとP&Gで知りました。この経験が、マーケティングについて深く勉強する必要性を強く感じるようになったきっかけです。

成長を促してくれた上司と本

――勉強が必要だと感じたときに、参考になった先輩社員の方はいらっしゃいましたか。

ロールモデルにしてトレースしようと決めた特定の方はいなくて、皆さんから学ばせていただいたと感じています。中でも特に影響を受けたと言えるのは、シンガポールに赴任していた頃のフィリピン人の女性上司です。

自分がまだアシスタントブランドマネージャーだった頃、ブランドマネージャーが産休に入ったため、上司と自分の2人で日本のマーケットを担当する機会があったのですが、上司が「日本のマーケットは石井に全部任せる」と言ってくれたんです。本来であれば上司もかなり不安だったはずです。なぜ任せてくれるのかを聞いたとき、「君にはポテンシャルがあると思うから、心配する声はあるが任せる」と言われ、「ここまで信頼されたら、この上司を裏切るような結果を出したくない」と強く感じたことを覚えています。

そのときから初めて「このキャッチコピーで本当に売れるのか」など超細かい部分を真剣に考えるようになり、調査部による消費者インタビューの調査結果だけで満足せず、自らも消費者インタビューを行って、本当に調査結果が正しいのか確認するようになりました。「自分がブランドの生命線を握っている」という感覚が生まれたのだと思います。この状態になってから、これまで本で読んだ知識が頭の中で有機的につながり始めたのです。

この上司にはほかにも、経理や営業など他部署を巻き込むための人心掌握のテクニックも教えていただきました。それまで自分はミーティングで承認を得ようとする際も、単に自分が考えている理由を説明できれば、すぐ説得できると考えていました。その際にすべき社内営業や交渉なども教えていただき非常に参考になりました。

――本で学んだことが有機的につながったというのはどのような状態ですか。

知識として断片的に知っていたことが、自分の中で体系立てて整理されてきたという状態です。例えば「消費者のことを考えることが重要」と言葉では断片的に知っていたことが、経験を重ねることで「このフェーズではこういうことを指す」というように体系立てて理解できるようになりました。

本の良いところは他者の経験を効率よく自分に吸収できるところです。本に書かれてある断片を読んで「自分に置き換えた場合どういうことになるだろう」と考えることで、成長速度を速めることができます。自分はP&Gに5年いて、担当ブランドが変わるのは大体2年ごとに1回でした。裏を返せば2年ごとに1回しか新しいブランドマネジメントの経験ができません。自分の経験だけでは成長速度が遅くなりがちで、本はその不足を補ってくれます。

――特にその時に役立った本でおすすめのものがあれば教えてください。

最初に役立った本は、株式会社 刀を設立し企業のマーケティング支援を行っている森岡毅さんの『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』(KADOKAWA)です。P&Gにおける基本的な思考法が書かれた本で、部下に業務を引き継ぐ際には、引き継ぎ書とともに「これを読んで」と渡していました。全ての駆け出しマーケターの方に、まず読むことをおすすめします。

実際自分がnoteを書いた理由も、「誰もが読んで理解できるマーケティングの教科書があればいいな」と思ったことがきっかけです。その意味で、非マーケターの人にも読みやすい文章を作るうえで参考になったのが森岡さんの本で、このように簡単に読めて、網羅性の高いものを作りたいと考えていました。

森岡さんの本をひと通り読んで、自分もある程度実務を積んだ後は『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)や、『コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則』(朝日新聞出版)、『[新版]ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する』(ダイヤモンド社)など関連する書籍をたくさん読みました。

これらの本と現場での実務が、今でも自分のコアになっています。ほかに起業系の本もよく読んでいたのですが、これも私のコアになっています。中でも『リーン・スタートアップ』(日経BP)は、テクノロジー業界がどのようにスピード感をもってイノベーションを実現しているのか理解することができて、消費財という真逆のような業界でも、大いに実務で生かす側面があったと思っています。

――起業系の本がマーケターに役立つのはなぜですか。

起業家が行っていることを突き詰めると、顧客の課題を正しく理解し、いかにスピーディにそれを解決する手段=商品・サービスを提供するかです。マーケターが行っている仕事も、消費者の不満を理解し、解決する商品を開発し、求めている人たちに効率的に届け、不満を解決することです。その意味において、起業家が達成しようとしていることと、マーケターが目指す目的は本質的に一緒です。だからこそ、P&Gではブランドマネージャーがブランドを”経営”するというマネジメントの形をとっているのだと思います。起業家の友人たちと話していると、皆マーケター出身ではないためマーケティング用語こそ使いませんが、話している内容は極めて日々マーケティングで考えていることと共通していると感じます。

――P&Gの文化や経験で、自分の成長に役立ったと思うことはありますか。

最初にパンチを食らったのは、上司や同僚が「How can I help you?(私はどうやってあなたを助ければいい?)」と聞いてくることです。助けてもらいたいことを説明するには、任された仕事をどのように進めるか自分自身で決めておかなければなりません。つまり、仕事に対して常に「自分が何をしたいか」という観点を持つ必要があるのです。日本の企業の場合、上司から部下への基本姿勢は「この仕事を済ませておいて」と、トップダウン型で指示されることが多いと思います。P&Gでの上司の基本姿勢の違いを受けて、まず自分ならどのように仕事をこなすべきかを主体的に考えるように意識を変えることができました。

また、「ミーティングで発言していない」=「仕事していない」という企業文化も、自分の意識を変えてくれたと思います。出席したら「必ず自分が先に発言してミーティングのイニシアチブを取る」「発言内容で爪痕を残す」と考えるようになりました。

忘れられない苦い経験もあります。過去にいくつかの条件が重なってしまい、妥協して広告を作ったことです。それを見た友人から「お前も結構しょうもないものを作るんだね」と言われたときに、ものすごく恥ずかしくなってしまって…。その一件があってからは、心の底から「これは俺が作ったんだ」と自慢できるものしか作らないよう決めています。

成果を出すために重要なことは?

――石井さんはP&Gに転職されるまでマーケターの経験がなかったにもかかわらず、担当するブランドで成果を出すことができたと伺いました。その理由について、ご本人としてはなぜだとお考えですか。

月並みな答えにはなりますが、「人を動かすこと」と「論理立てて考えること」の2つができたからだと思います。

「人を動かすこと」とは、「自分はこういうことがしたい」という思いや目標を、チームや人に伝え、その方向に向かわせる能力のことです。人によってスタイルはさまざまですが、私の場合は、正しいと思っていることを解像度高く分解し、「なぜ正しいと思っているか」からパッション高く伝えることにしています。自分は文章力には自信があるほうですが、伝える能力についてはP&Gでさらに鍛えられたと感じています。ビジネスは一人では行えないので、いかに周囲の人を巻き込めるかが重要だと思います。

▲話題になったnoteの記事 (https://note.com/141ishii/n/na578fec5ef84

「論理立てて考えること」については、多くの人が納得できるロジックを作れることが重要です。ビジネスは多くの利害関係の中で動くものなので、パッションをいくら伝えたとしても、その中身が伴わなければやりたくない人も出てきます。関係する全員を納得させることは難しいかもしれませんが、なるべく多くの人が納得して行動できるようなロジックを、自分のパッションを持って伝えることが、自分は比較的得意だったのかなと思います。

――その2つの能力を身に付けるには、何をすればよいでしょうか。

まず「人を動かすこと」については、一般論になりますが、なるべく意思決定に近いところで日々仕事することで鍛えられます。決められた仕事をこなすのではなく、自分が「こうしよう」と決めた仕事を上司やチームに提案して説得していく経験をいかに積むことができるか。そして結果を出すことで、さらに大きなチャレンジの裁量を得ていくことが求められていると感じます。

「論理立てて考えること」を身に付けるには、複雑な事象を自分が理解できるところまでひとつずつブレイクダウンして考えることが重要です。例えば、売り上げを伸ばそうと思ったら、売り上げの要素を、購入者数と単価に分解します。そのなかで購入者数に着目すると、リピーターと新規ユーザーに分かれます。さらに新規ユーザーに焦点を当てると、テレビで知ってから購入した人と店頭で何となく買った人に分かれて…という風に、分解していきます。そして、自分たちがアクション可能なレベルまで分けることができれば、「売り上げ」という大きすぎる課題も、解決可能なものとなります。

そのように分解して考える作業を、仕事以外の隙間時間で行うことも良い訓練になると思います。例えば、レストランに入って待っている時間に店の混雑具合を見て、1日の売り上げを計算してみたりするのです。「昼の段階で8割しか埋まっていないということは平均で4割くらいだろう。1時間に2回転して、単価はこのくらいで…」と考えていくと、およその予想がつくようになります。電車の中吊り広告など、こうしたトレーニングはいつでも行えます。

また、先に挙げた2つの能力のほかに、目の前の仕事で常にテンパっていないことも、仕事で成果を出すためには重要です。時間に追われていては良い仕事ができません。よく「時間がない」「今の仕事で精いっぱいで手が回らない」と言う人がいますが、そこは順番が逆だと思っています。仕事が忙しいからインプットができないのではなく、インプットをしていないから仕事が効率よく終わらずにいつまでも忙しい、ということがほとんどだと思っています。

自分は商社時代もP&G時代もほとんど残業したことがありませんし、おそらくP&Gの中でも、業務時間のもっとも少ないブランドマネージャーだったという自負があります。

――業務効率を上げるために、どのような工夫を行ったのですか。

自分が苦手な仕事のタイプを見極めて、そのような仕事は周りにフォローしてもらえるよう、チームメンバーと接点を持ち、良い関係を構築することに努めました。その体制ができれば、自分は得意な仕事に集中できて効率は上がりますし、自分の苦手な業務はより得意な人がカバーしてくれるという状態になります。フォローしてもらう人は上司や部下でもいいですし、他部署の人でも構わないと思います。

「いつも残業が多くて学ぶ時間がない」と言っている人は、知識を身に付けられず、仕事の効率を上げられないから、ずっと残業地獄から抜け出せないでしょう。効率が上がれば、同じ質の仕事を仕上げるのにかける時間が少なく済みます。

アウトプットは「時間×効率」で決まるとすると、多くの人は時間をかけることでアウトプットを上げようと試みます。しかし、これは長い目で見たら根本的な解決方法になりません。時間をかける癖がついてしまいますし、長時間になればなるほど疲れて効率は落ちていきます。なにより、時間は最大でも24時間しかありません。

時間あたりのアウトプットを増やすためには、本を読むなり、学校に通うなり、優れている人と一緒に勉強させてもらうなり、インプットを意図的に増やすことが必要と考えています。だから自分は残業しない分、家に帰ってマーケティングや英語、ビジネスなどについての勉強に時間を費やしてきました。そうして知識が徐々に体系化されていくと、仕事における時間あたりのアウトプットが増えていき、残業しなくても成果が出せるようになります。

真面目で完璧主義な人ほど、チームメンバーに頼ることができず、仕事がどんどん溜まっていきます。自分はそういう意味では割り切って、自分の苦手な仕事を明言することで、助けてもらっていました。

目指すのはマーケティングの民主化

――今の石井さんのお仕事と、目標を教えてください。

まず起業のきっかけからお話しします。P&Gにいた頃から、個人でベンチャー企業のマーケティングのお手伝いをしていたのですが、その際にP&Gのマーケティングでは一般的な知識と思われていることが、他の企業では常識ではなく、高い価値を持つ知識であったと実感できた経験が何度もありました。方法論についてご説明するだけで喜んでいただいたり、実際に企業の業績が好転したりすることもありました。世の中のニーズと自分のスキルがマッチしていることを実感できたのです。

ちょうど今年30歳を迎えるタイミングになって、これまで「30歳で社長になりたい」と言っていたこともあり、今がその時ではないかと感じました。というのも、これからさらに10年間P&Gに居続けたとして、得られる知識や経験は引き続き会社員としてのものであり、そのことで起業の成功確率は大きくは上がらないと思ったからです。

そして、自分が何をすべきかも考えました。今、P&G出身の多くの先輩方があらゆる業界で活躍されています。コンサルタントとして活躍されている森岡毅さんのような方もいれば、ファミリーマートのCMOに就任される足立光さん、吉野家を回復させた伊東正明さんなど、挙げればキリがありません。

しかし、コンサルタントもしくは社員としてP&G出身者を雇えるような体力のある会社以外にもマーケティングは必要です。もしかすると、マーケティングの力がより大きく発揮できるのは、P&G出身者を雇うほどの財力はないが、競争力となる技術や文化がある会社ではないかと思っています。誇るべき技術や文化はあるけれど、売り方がわからないという会社です。

そこで、テクノロジーの力で、どんな会社でも最高峰のマーケティングを手に入れる仕組みを作ることで、「マーケティングの民主化」をしたいと思ってMarketing Demoという会社を作りました。「Salesforce」はトップセールスの極意をウェブサービスに落とし込んで、皆が使えるようにしたことが素晴らしいわけで、それと似たようなことがマーケティングでもできるはずだと信じています。

その仕組みさえあれば、町のパン屋さんでもP&Gと同じくらい高い精度のマーケティングができるようになり、もっと売り上げを伸ばしたり、町の人を幸せにしたりできると思っています。もしかしたら、町のパン屋さんからグローバル企業に成長するかもしれません。いつもコロッケパンを何となく作っていたパン屋さんが、確固たる理由を持ってメンチカツパンを販売する、という風に意思決定の手助けができるようになれば最高だと考えています。

――マーケティングを知らない人でも使えるシステムを作るということですね。

創業間もない会社ですが、幸いなことに会社のサイズからは考えられないくらい強力なエンジニア、ビジネスリーダー達と既に10人近いチームを組成することができています。3~5年というスパンでは、必ずこの領域に大きなブレークスルーを持ち込みたいと思っています。非常にお金もかかる難しい課題だと思っていますが、我々ならできるという確信があります。

足元では、自分がP&G時代に課題だと感じていた「リサーチの民主化」領域から事業を行っていきます。日本では定性リサーチを行うにしても、約1.5~2カ月のリードタイムをかけて、ようやく5人くらいの人に会えるような状況です。それでいて100万~200万円という凄まじいコストがかかります。

モノによる差別化が難しい現代において、タイムリーに顧客と繋がり、常にインサイトを取り、スピーディにサービスに落とし込んで市場に問うことの重要性は増しています。そのためには定量調査よりも定性調査の重要性が増していることは間違いないと思っていますが、残念ながら依然として顧客との距離は遠いのが現状です。話したいときに顧客と話すのは、想像以上に難しいのです。

自分自身、本部長からのリサーチ許可がおりなかった、リードタイムが長くて間に合わなかった、などの理由で、リサーチをあきらめざるを得なかったアイデアの種の数は50では済まないでしょう。マーケターの数だけそのような事態があれば、それは会社にとって大損害です。私たちは、全てのマーケターが心ゆくまでコストと時間を気にせずにリサーチできる環境を作る必要があると考えており、12月のα版ローンチ(仮)に向けて全速力で向かっているところです。

日本の会社はあまりリサーチをしない傾向にあります。日本の広告費に占めるリサーチ費用の割合は4%ほどで、海外は8%ほどが主流です。そうした消費者インサイトの理解への投資不足により、日本では「この技術でこんな商品が作れる」というプロダクトアウト寄りのイノベーションばかりになってしまうのです。マーケターが自分の机から消費者のインサイトを取れる状態にして、マーケットインのイノベーションを生みやすい状況にしたいと考えています。

――まずリサーチ領域から民主化を行い、次はマーケティング全般に向かうということですね。

今回、noteの記事がバズったことで大きな注目を集めることができました。そのために戦略を立てて執筆にも1カ月をかけましたが、結果として200名以上の方から相談依頼が入っています。各企業のマーケティング課題に対する市場調査を行うことは、noteの執筆目的のひとつでしたので、これをもとに事業を発展させていければと思います。先ほど述べた、心ゆくまでリサーチができるResearch Demoというサービスにご興味ある方がいれば、連絡をいつでもお待ちしております。「この記事を見た」と言っていただければ特典があるかもしれません。

――本日はありがとうございました。

Profile
石井 賢介(いしい・けんすけ)

1990年生まれ、神奈川県出身。東京大学農学部卒業後、住友商事に入社。2年半後にP&Gに転職してブランドマネージャーを経験。2020年5月末に退職後、マーケティングを民主化するMarketing Demoを創業。

Twitter  @IshiiKensuke
note  https://note.com/141ishii/

岩崎多

記事執筆者

岩崎多

いわさき・まさる 出版社2社でビジネス誌やモノ・グッズ誌の編集、週刊誌の編集記者を経験し、2019年1月CINCにジョイン。編集長として文房具ムックシリーズを立ち上げ、累計30万部以上を記録。 Twitter:@iwasaki_mn
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