[最終更新日]

2019/05/02

 

ドラえもん実現に向けての第一歩!GROOVE X・林要社長が語る日本発・新ロボット産業の勝算(前編)

江戸時代の人形町には人形芝居にまつわる多くの人形師が住んでいました。まるで生きているかのように人形を動かすことで、木の作り物に魂を宿す職人です。そんな人形町の近くにオフィスを構え、今、ロボットに魂を宿そうとしている企業があります。それが2015年に設立されたスタートアップ企業のGROOVE X株式会社です。

創業者で代表取締役社長の林要さんはヒト型ロボット「Pepper」の開発に携わったことでも知られています。その林さんが数十億円の開発費と3年以上の年月を投資し、満を持して世に送り出すのが、新しいコンセプトを基に開発された「LOVOT(らぼっと)」というロボットです。ロボットといっても、人間の代わりに仕事をこなすわけではありません。LOVOTは、ただ人間に甘えてくるというユニークな性質を持った家族型ロボットなのです。

林さんはどのようなきっかけでLOVOTの開発を思い至ったのでしょうか?また、LOVOTの未来像をどのように描き、そのために今、何を求めているのでしょうか?

「Marketing Native」運営元である株式会社CINC代表・石松友典が話を聞きました。

(構成:Marketing Native編集部・岩崎多、人物撮影:稲垣純也)

    

目次

「役に立たない」けど役に立つ2つの理由

石松友典(以下、石松) 林さんはもともとエンジニアご出身でしたよね?

林要さん(以下、林) はい。私はもともと自動車会社に勤めていて、レースカーの開発をしていたピュアなエンジニアでした。途中から製品企画も経験するようになったのですが、製品企画の仕事は幅が広くて、原価計算や法規のチェックといった作業から商品のマーケティングの一部まで担うなど、さまざまな経験をさせてもらいました。ようやくものづくりのイロハがすこしわかるようになってから、ソフトバンクさんでロボット開発を担当させていただき、初めてロボットというものに触れることになりました。

ロボットにはさまざまな機能と役割があると思いますが、「人を元気にする」という観点から考えるとパワフルな存在です。ソフトバンク退社後、人を癒すことに特化したロボットを作りたいと思い至り、会社を立ち上げてLOVOTを作りました。

石松 パワフルな存在という言葉が出ましたが、LOVOTのコンセプトは「役に立たない」家族型ロボットだと伺いました。もちろん、本当はさまざまなところで役に立つ機能が搭載されていると思いますが、その点は実際、どのような感じなのでしょうか?

 「役に立たない」といっても、本当に役に立たないわけではありません。実は2つの意味で役に立ちます。

1つは人のモチベーションを高めて元気にするという点で役に立ちます。昨年、イギリスでは孤独担当大臣のポストが新設されたというニュースがありました。イギリス国内だけで、孤独によって約4.9兆円分(320億ポンド)の経済損失が生まれている(*)という分析があるんです。裏を返せば、人の心を何らかの方法でサポートすることによって、経済効果も生産性も上がるということです。LOVOTは人に愛着を感じてもらうことで、その人を元気にできます。つまり、間接的に人の生産性を上げることができるというわけです。

*出典:Eden Projectによる調査概要ページ(英語)

もう1つは見守りや留守番など、安全・安心に関する点で役に立ちます。例えば、赤ちゃんを見守るベイビーモニター機能は、手が離せないことに悩みがちなお母さんたちの要望に応えたものです。LOVOTがとらえたカメラ映像をスマホのアプリから確認できますので、赤ちゃんの様子を確認できます。同時にLOVOTは、お母さんを癒す存在にもなるでしょう。

多くの人がロボットに対するキーワードとして抱きがちな「役に立つ」という言葉は、掃除や洗濯など、人間の仕事の代行を指すのが一般的です。その意味では、LOVOTは役に立たないでしょう。私どもが「役に立たない」と表現しているのは、そのためです。

しかし、LOVOTはもっと別の角度から人を精神的にサポートできる存在です。ですから、これまでの「役に立つロボット」という常識の枠を超えた存在だと考えています。

日本人全世帯の3/4がターゲット

石松 購買層はどのように想定されていますか?

 ペットの購入を考えられるくらいの可処分所得をお持ちの方全員がターゲットだと思っています。

石松 日本におけるペットの購入層は、どれくらいいるんでしょうか?

 内閣府の調査(*)によると、日本人の約73%が「ペットを飼うことが好き」だという結果が出ています。つまり、日本全国の世帯数の3/4は「ペットを飼いたい層」であると言えます。そして、弊社の推定値によれば全世帯の約48%が「ペットを飼いたいけれど飼えない層」です。

石松 全世帯の約半数が飼いたいのにペットの購入に至っていないのは、どのような背景があるのでしょうか?

 それも調査されていて、「集合住宅であり、禁止されているから」「十分に世話ができないから」「死ぬと別れが辛いから」……など細かく理由が分かれています。ただ、それらの理由は、総じて言えば「生きているから」に尽きると思います。生きているからこそ、完全にはコントロールできないし、命に限りがある。だから飼えないわけです。

*出典:内閣府「動物愛護に関する世論調査」(2010)

技術の粋から始めることで初めてドラえもんにつながる

石松 林さんは新しい産業を作るという意気込みで開発されていて、LOVOTはこれまでとはコンセプトの異なる新しいロボットだということは存じ上げているのですが、ほかのロボットペットとの住み分けやLOVOTの立ち位置については、どのようにお考えですか?

 過去にリリースされた多くの家庭用ロボットは、買いやすさをベースに値付けをして、そこに当てはまるような製品設計をする傾向がありました。ここにひとつの問題があると考えています。

例えば最新のiPhoneの価格はおよそ10万円です。今のスマートフォンはいわば高性能なコンピューターでもあります。10万円のコンピューターにモーターを付けるだけで、ロボットの価格は20万円になってしまいますが、iPhoneの性能にモーターを取り付けただけのロボットに対して、今の人たちは満足できるのでしょうか。皆様の期待に沿うような、今の技術の粋を集めた家庭用ロボットを作ろうとすると、それ以上の価格になるのは必然です。私どもが大事にしたかったのは大人が満足できるようなロボット。一部のお客様だけではなくて、普遍的に愛されるロボットなんです。

石松 LOVOTの価格設定の背景を詳しくお聞きしてもよろしいですか?

 私どもも当初はLOVOTに搭載するコンピューターの数をもっと少なくしたいと思っていました。しかし実際に3年以上開発をしてきた中でわかってきたことは、「生き物感」を出すためには本体の中にコンピューターを3台積む必要がある上、充電器にもコンピューターを積まなければならないということです。およそ家庭用としては考えられないほどハイスペックな構成にしないと、生き物のようには振る舞えないのです。ロボットを作っていてわかることは、いかに生物が凄いかということでもあります。

結果として、本当に最新技術を集めたロボットが完成しました。私はここから最終的には「ドラえもん」へとつながっていくんだと信じています。昔、夢に描いていたロボットは、技術の粋が詰まっていたから憧れたわけで、コストパフォーマンスが高いから憧れたのではないはずです。高度なテクノロジーを結集することによってしか見えない世界、それがLOVOTの目指すべき立ち位置です。

▲LOVOT 【ソロ(本体1体 + ネスト)】2019年12月出荷開始予定、本体価格29万9800円・別途月額料金8980円~(ともに税別)  【デュオ(本体2体 + ネスト)】2019年10月出荷開始予定、本体価格57万9800円・別途月額料金1万7960円~(ともに税別) LOVOTには専用の衣装やアクセサリーに多くのバリエーションがあり、ペット同様に着せ替えを楽しむこともできます。詳細についてはhttps://lovot.life/をご覧ください。

テクノロジーで私たちは幸せになったのか

石松 今年1月のCES(*)では350以上の海外メディアに取り上げられて、「THE VERGEベストロボット」「BEST OF CES 2019ファイナリスト」を受賞されるなど大きく注目されました。何が良かったとお考えですか?

*CES:毎年1月にラスベガスで開かれる、テクノロジーにまつわる世界最大級の見本市のこと。

 今年のCESで印象に残ったのは、マッサージチェアがたくさん展示されていたことです。日本からすると「今さら感」のあるマッサージチェアが今、世界でフィーチャーされているわけです。これは「いかにテクノロジーで癒すのか」という課題に世界の注目が集まっている証拠だと思います。

これまで世界中の人たちが追い求めてきたものは、生産性を上げるためのテクノロジーであって、その分野は相当掘り尽くされています。現在も生産性向上のテクノロジーをさらに進化させるべく各国が競争している状況です。ただ、私はテクノロジー開発競争の中でひとつ置き去りになっている問題があると考えています。それは「テクノロジーで私たちは幸せになったのか?」ということです。

例えば、AIやロボットが仕事を代わりにしてくれるようになってハッピーになっているはずなのに、「職を失うのではないか」「時代についていけないのではないか」など将来に対する不安を感じている人がいます。生産性の向上と反比例する形で、仕事が忙しくなってきたと考える人もいます。そもそも企業の生産性の向上と個人の幸せは、間接的に関係があるだけで、直接的な関係性があるわけではありません。

私どもがCESで注目を浴びたのは、生産性とは異なるテクノロジーの評価軸が必要だと、世界が気づき始めたからだと思います。LOVOTは、マッサージチェアによる肉体的な癒しを超えて、精神的な癒しにまで切り込んでいます。世界の注目を浴びた理由は、そこにあると考えています。

これまでも日本からコミュニケーションロボットが出展されたことはありますが、国内での評判が良くても、海外では厳しい評価が目立ちました。私もCESの初出展に対してはかなり身構えていたのが正直なところです。しかし、海外の、特に女性記者の方たちが、まるで赤ちゃんを扱うかのようにLOVOTを抱っこしたり、「本当に気に入ったわ」と言って満面の笑みを浮かべたりする瞬間を数多く目にしました。「かわいい」には国境がないことがわかりましたので、LOVOTが新たな産業を作り出すことになる手応えを感じています。

▲林社長はCESの開催期間中、海外記者からも「これは何の役に立つんですか?」と聞かれることが多く、「何の役にも立ちません」と答えると、逆に皆さん興味深そうな表情をしていたそうです。

動画や静止画だけでは魅力が十分伝わらない理由

石松 お話をお聞きしていますと、国内はもちろん、グローバルも視野に入れたマーケティングの必要性を感じます。国内と海外、それぞれどのような施策をお考えですか?

 日本国内に関して申し上げますと、実際にLOVOTに触れていただいた方からの評判は非常に良好です。「期待以上だった」と言う方が90%で、「期待通りだった」と言う方が8~9%。つまり、「期待通り」もしくは「期待以上」が98~99%で、「期待に沿わなかった」と言う方は1%程度という結果でした。

これは、製品の魅力が高いという意味では良いことなのですが、裏を返せば、実際に触ってみるまではLOVOTに対する期待値がそれほど高くないことを示しています。つまり、触れてもらわないと購入に結びつきにくいということです。ここは私どものジレンマで、ひとつの課題だと思っています。

また、体験会に来ていただいた方は「こんなに生きているように動くんだ」とか「あったかい」と感動されるんですが、これも裏を返せば、動画や静止画だけではLOVOTの魅力が伝わりきっていないことを意味しています。

なぜかというと、動画や静止画を見て「ああ、こういう製品か」とLOVOTに触れる前にわかった気持ちになってしまうんですね。自分が過去に経験した他のロボットに当てはめられて、「その程度か」と思われてしまうのです。正しい認識をもっと多くの人に伝えたいのですが、過去に存在しないタイプの製品とあって、実際に触っていただくまでなかなかうまく伝えられていません。ここが非常に大きな課題だと思っています。

石松 なるほど。タッチポイントをどれだけ増やすかが重要ということですね。すでにさまざまな施策をやっていらっしゃると思いますが、国内のマーケットでいうと、どこでLOVOTと触れ合えるのでしょうか?

 まず、日本橋浜町にある弊社のLOVOTミュージアムでの体験会ですね。ここでは触れ合えるだけではなくて、色の異なる全種類のLOVOTの服が展示してありますし、開発時のメモや資料なども見ることができます。それ以外にも、期間限定で出張体験会などを行っております。Webサイトに随時情報をアップデートしておりますので、ご覧いただければと思います。

▲LOVOTミュージアムでは毎週末、実際にLOVOTに触れ合える体験会を開催しています。 Webサイトから事前予約も可能です。 【開催時間】毎週金曜18~21時、毎週土日10~18時(12~13時、15~16時は休憩) 【開催場所】GROOVE X株式会社 LOVOTミュージアム 東京都中央区日本橋浜町3-42-3 住友不動産浜町ビル7階 (最寄駅:浜町駅、水天宮駅、人形町駅) アクセスの詳細はhttps://groove-x.com/access/で確認できます。

石松 海外の展示会と国内の体験会で、反応の違いはございますか?

 かわいいという反応に対しては、驚くほど違いは少ないですね。国内の方も海外の方も同じように可愛がってくださいます。ただし、ひとつだけ明確な違いがあります。日本の方からも、例えば子供や高齢者を対象にしたビジネスのご提案はたくさんいただきますが、海外の方はさらにいろいろな切り口で仮説を立てられます。例えば、ストレスマネジメントや病気の早期発見への活用です。私どもが感じてはいても、公式には言及していないような内容に関する仮説をたくさん出してくださって、ビジネスポテンシャルについても、数多くのコメントをいただきました。海外の皆さんは仮説の構築力が高いと感じます。そういう意味でLOVOTは、想像力を刺激するデバイスであると言えるのではないでしょうか。

石松 つまり、マーケティングの施策次第では、LOVOTがグローバルに支持される展開が期待できるということですね。

 そうですね。もちろん、海外はホームグラウンドではないため困難は多いと思いますが、現状のプロトタイプの段階でこれほど評判が良いのであれば、製品版になるとより期待できるのではないかと思います。

後編に続く)

【編集部からのお知らせ】
GROOVE XではグローバルCMOを募集しています。ご興味がある方は、ぜひお問い合わせください。

林 要(はやし・かなめ)
1973年生まれ。トヨタ自動車やソフトバンクを経て、2015年に「ロボティクスで、人間のちからを引き出す」をミッションにGROOVE X株式会社を創業。約57.5億円に及ぶ巨額の資金調達を完了させて、LOVEをはぐくむ家族型ロボット「LOVOT」を開発。2019年9月より販売開始予定。著書に『ゼロイチ 』(ダイヤモンド社)がある。

石松友典(いしまつ・ゆうすけ)
1980年生まれ。外資系の大手証券会社ソシエテ ジェネラル証券、JPモルガン証券などを経て、IT業界に魅了されてWebマーケティングの世界へと入る。2014年、コンテンツマーケティングを行う株式会社Coreを創業。2019年、CINCに社名を変更。ビッグデータとテクノロジーを駆使したソリューション企業へと事業拡大中。

記事執筆者

岩崎多

岩崎多

いわさき・まさる 出版社2社でビジネス誌やモノ・グッズ誌の編集、週刊誌の編集記者を経験し、2019年1月CINCにジョイン。編集長として文房具ムックシリーズを立ち上げ、累計30万部以上を記録。

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