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仕組みだけでは解決できない、BtoBマーケティングの重要なポイントとは――マーケター高井伸

最終更新日:2024.02.13

「マーケター高井がすべて担当してB2Bマーケティングを支援する株式会社」という社名を掲げ、クライアント企業各社のマーケティング支援に大忙しの高井伸さん。

実は高井さんは、Marketing Nativeを運営する株式会社CINCのサービス「エキスパートソーシング」にも登録していて、マーケティングのエキスパートとして支援先企業の課題解決に取り組み、成果を上げています。

なぜ高井さんはBtoBマーケティングの支援で成果を上げ続けることができているのでしょうか。今回は元インターパーク取締役COOで、現在はフリーのマーケターとして活躍する高井伸さんに話を聞きました。

(文:椎原 よしき、取材:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)

目次

集客やリード獲得だけがマーケティングではない

――最初に、高井さんの現在までのキャリアを教えてください。

28歳まで、テレビ番組制作会社でディレクターとして働いた後、2009年に飲食店向けの予約サイトを運営するビジネスで起業しました。その事業はサービスインから半年ほどで撤退して、その後はフリーランスの事業コンサルタントになり、いくつかの会社の取締役として事業の立ち上げを経験しました。2015年にSaaSベンダーのインターパークにジョインし、私も出資を実行して常勤の取締役COOになり、専属で働いた後、2022年11月に任期満了で退任しています。

並行して、2022年9月に、「マーケター高井がすべて担当してB2Bマーケティングを支援する株式会社」を創設しました。

――高井さんというとインターパークのイメージが強いのですが、どんな業務を担当していましたか。

インターパークは、主にマーケティングオートメーション(MA)ツールの開発・販売をしているSaaSベンダーで、1,000社以上のお客さまがいました。業務的には、まずCOO業務としての営業全体の数値管理から、ビジネスサイド全般の管掌ですね。あとはCMO的な立ち回りで事業開発、マーケティング的な動きをすることも多かったです。

MAツールをお客さまに提供するためには、当然、お客さまのビジネスやマーケティングの状況を理解した上で、MAツールを用いた施策を提案しなければなりません。お客さまとのコミュニケーションを繰り返す中で、自然とBtoBマーケティングの知見が蓄積されていきました。

また、プロダクト開発や事業開発もずっと手掛けていましたので、BtoBマーケティングと合わせた経験や知見が積み重なり、それを武器に企業へのコンサルティングに取り組み始めたのがここ4~5年です。インターパーク在籍中は副業ではなく、社内で私が専門で担当するコンサルティングサービス事業という形で受けていました。

――マーケターにもさまざまなタイプがあります。高井さんは、ひと言でいうとどんなマーケターですか。

「大体、何でもできます」ということでしょうか。数多くあるマーケティングの施策については、どの領域でも私より詳しいスペシャリストはいるでしょう。私は特定の施策のスペシャリストではありませんが、それでも具体の施策それぞれにある程度のレベルで知見があります。また、起業経験があるので、マーケティングだけでなく、ビジネス全体を俯瞰して捉えることができます。商売そのものを全体的に見られることは私の強みであり、一番の特徴だと思います。

――なるほど。では、マーケティングに対する哲学や考え方はありますか。

哲学まではいかないですが、マーケティングはあくまでもビジネスの一部であり、マーケティングだけを切り取って考えるのではなく、ビジネスの全体感の中で位置づけることが大切だと思います。集客やリード獲得がうまくいっても、それだけではあまり意味がなくて、マーケターの自己満足で終わりかねません。大事なのはあくまでビジネスに与えるインパクトであって、売り上げや利益などの成果に結びつけることです。ですから、マーケティングを経営とイコールで考える点は大事にしています。

全体設計から見直して、クライアントの課題解決をサポート

――分業制で、集客やリード獲得に特化した業務だけを担当していると、つい近視眼になりがちですからね。次に、高井さんのキャリアの中で、実績として挙げられるものを教えてください。

今までプロダクトを7つ作っているのですが、3つは今も残っていて、うち2つはARRが数億円のSaaSビジネスです。

サブスクリプションで数億円のビジネスといっても、エクイティファイナンスをして事業開発するスタートアップのモノサシで測れば、それほど大きな数字とは感じられないかもしれません。ただ、ファイナンスせずに、ほぼ内部留保のキャッシュの範囲での開発で、しかもギャンブル的な先行投資なしに、初めから商売として成り立つサービスを運用するという考え方でしたので、数億円のARRを生むプロダクトを作れたのは、実績といえるかもしれません。

ただ、プロダクト自体はチームでつくっていくものなので、私の実績というよりもメンバーみんなとの共同実績ですね。

――しかも3つ残っているわけですから、インターパークとしてはありがたいですね。

3つのうち数億円のARRを生んでいるのは2つで、あとの1つはまだこれからというタイミングで私はインターパーク社を退任しました。組織の新陳代謝が目的でしたので、残った優秀なメンバーが事業拡大してくれると思います。

私は小粒で伸ばしていくのが得意で、120%くらいを複利で伸ばしていくイメージ。コンサルティングでも、累計で30社くらい入っていますが、ほぼすべて何らかの形で、小粒でも結果は出しています。

――ここであらためて、弊社のエキスパートソーシングにご登録いただいたきっかけと、エキスパートソーシングを通じて実際に担当した案件について、差し支えない範囲で教えてください。

CINCさんのご担当者と以前から知り合いだったので、「登録してみませんか」と直接声をかけていただきました。

うち1社はすでに契約終了しているのですが、クラウド関連の保守・運用会社です。ミッションは、プロダクトのマーケット内における強みや弱み、いわゆるマーケット内におけるプロダクトのポジショニングの言語化、およびそこに伴った施策案、訴求のデリバリー方法の策定でした。

私が入ったときは具体的な施策に関する話が進んでいたのですが、「そもそもその方向性でいいのか」と疑問を感じ、プロダクトのマーケット上でのポジションなど全体の設計からもう一度考えようと提案しました。

営業、マーケティング、技術、経営層などさまざまな役割の方々からプロダクトの方向性に関する意見を伺い、その中から課題を仕分けして、解決策をセットで方向性を提示。現在の状況と未来の状況をキュレーションさせてもらい、2カ月くらい並走しながらお客さまの状況に沿う形でマーケティングプランを立案していきました。

マーケティングのフレームワーク的な話と経営、現場の要望、所感を統合させて、社内の最大合意点をつくる。プロダクトの方向性を定める。動ける状態をつくる。動かしてみてPDCAを回す。ご依頼いただく仕事の内容はいずれか、もしくは全部といったオーダーが多いですね。

――2カ月で、ある程度成果は出ましたか。

方向性は打ち出せました。目標とするゴールをある程度設定できたので、あとは達成するための具体策を進めながらプロダクトをブラッシュアップさせましょうというところで落ち着いた感じです。

――実際に利用してみて、エキスパートソーシングをどのように評価しますか。

100%満足です。CINCさんからはすごく良くしてもらっていますし、クライアントのお客さまからも評価していただけるので、自分も一生懸命やらなければならないとあらためて感じています。

ピンチのときは逃げずに“前進解決”で信頼を獲得

――高井さんはマーケターとしての経験値が豊富で、クライアントからも高い評価を得ているとのこと。ご自身としては、自分のどんなところが優れていると思いますか。

先ほど申し上げたように、私は10年ほど取締役をしていた経験があり、自分で会社経営もしていたので、ビジネスの全体感がわかっている点は強みだと思います。例えば、マーケティングの上流設計は、ビジネスの流れの全体像を把握していることが大切です。個別の施策だけ得意でも、出口の受注や、お客さまとの良好な関係構築まで思考が及ばないと結局、具体の施策がなかなか成果として現れません。経営全般を概念として理解することが、マーケティングで成果を出すためにとても大切だと考えています。

ほかには、MAツールの市場について、Oracleが日本に入ってくる前の黎明期からずっと見ていることも大きいかもしれません。MAはBtoBマーケティングと切り離せないので、その市場に長くいたことで自然と知見が貯まり、自分の力になっている気がします。

――時にはうまくいかないこともあると思います。ピンチを乗り越えるためにどうしているのか、対処法を教えてください。

これは結構わかりやすくて、自分が矢面に立つことに尽きます。ピンチのときほど下がらずに前に出て、矢面に立って当事者になり、しかも中心に立つのです。結果として、逃げ惑うよりも被弾が少なくなると思います。私はピンチのとき、必ず“前進解決”するようにしています。これは別に立派な人間だからではなく、結局弾は浴びるわけですから、それなら前進して解決に動いたほうが周りからも信用を得られやすいと考えているのが理由です。

――全体像を俯瞰してアドバイスできるし、トラブルが起きたら矢面に立つしで、まさに会社名のとおり、全部高井さんが責任を持って面倒を見てくれるのですね。

そうですね。でも、1人でやっていたらみんなそうだと思います。基本的には誰も守ってくれませんし、自分で解決しなければなりません。

――会社に所属せずにフリーランスとして1人で仕事をすることについてはどう感じていますか。

私は、あまり変わらないと思います。会社にいたときも、ルーティンの作業は全部マネジメントに渡して、自分は好きなことをやらせてもらっていました。

ただし、逃げずに矢面に立つ意識の弱い人は、1人で仕事を続けていくのは厳しいかもしれません。何か問題が起きたときに、誰も守ってくれないような事態に直面することは避けられないと考えたほうがいいでしょう。

――例えば、会社にいれば、最新の知識や情報が自動的に入ってきやすいですが、フリーランスの場合、自分でアップデートしなければならない面もあると思います。

会社にいたときもフリーになってからも基本的には同じで、常に複数のプロジェクトに同時並行で関わっていますから、業務を進める過程で最新の情報が何かしらの形で入ってきます。

そもそもインプットとアウトプットはイコールでつながっていると考えていて、アウトプットをしたら結果が出ますが、それは自分が仮説を立てて実行したアウトプットであり、その一部始終がそのままインプットされます。そのインプットは他の施策で転用できて、さらに新しい結果を得られます。そういうサイクルで、新しいインプットは基本的に現場から吸い上げることが可能です。世の中に出回る常識的な情報は当然取得しにいきますが、それ以外は現場のインプットとアウトプットのサイクルをしっかりと仕事で回しながら入手していくのが一番効率がいいと思います。ですから、インプットで困ったことはあまりありません。

マーケティングの魅力は創造的なクリエイティブ

――ありがとうございます。次に、マーケティングのどんなところに面白さや魅力を感じるかを教えてください。

やはり、クリエイティブですね。ゼロから作ることもあれば、何らかの制約内で考えなければならないこともありますが、すべて何かを生み出す、クリエイティブ作業だなと思います。また、仮に同じ案件でも、私がやるのと他の人がやるのとでは、違う色も出ます。そういう創造性を発揮できる部分に魅力を感じます。新しいトレンドも続々と出てきて、それをどう活用するかを考えるのも面白いですね。

――マーケティングという仕事自体がクリエイティブということですか。

そう思います。実は私自身、有形商材を扱ったことがなく、SaaSなど無形商材にずっと携わってきました。無形商材では、形のないプロダクトをどう表現するかが重要で、まさにゼロからの創造力が問われます。コピーを書いたり、Webサイトをデザインしたりという狭い意味でのクリエイティブではなく、もっと大きなくくりでマーケティングの仕事そのものに創造性が必要だと思います。

――「優秀なマーケターとはどんな人か?」と聞かれたら、何と答えますか。

優秀だと思うのは、やはり全体像から自分の仕事を捉えられる人です。私の仕事はビジネスの全体像を捉えた上で、リード獲得からナーチャリング、受注、カスタマーサクセスまで全体の流れを見ることですが、全体像を捉えてから具体の施策で打ち手を考える人もいます。一方、具体のスペシャリストでも、全体像から外れた施策ではほとんど刺さりません。ですから、全体像を俯瞰して自分がマーケターとしてどんな施策を打つべきかを適切に判断できる人が優秀だと思います。

――高井さんは個別の施策を担当することはないのですか。

ありますよ。例えば、テレマーケティング用のスクリプトも書きますし、今はハンズオンでお客さまと一緒にインサイドセールスをしたり、フォーム営業をしたり、ウェビナーを作ったり、Webサイトを作ったり、広告をかけたりなど、具体的な施策部分にもコミットしています。口だけ出すのではなく、手もちゃんと動かします。

社内のパワーバランスを踏まえた提案がコツ

――エキスパートソーシングへの登録を検討しているマーケターに向けて、アドバイスをお願いします。

偉そうなことはいえませんが、仕事の難度は高い気はします。文字通り「エキスパート」に頼みたいということですから。もちろん、何かあったら矢面に立つ覚悟は必要ですし、お客さまと視座、視線を合わせることは前提です。

――お客さまと視座を合わせることは難しいものですか。

そうですね。例えば、現場のマーケティング支援で入ったら現場に合わせる必要がありますし、経営者と一緒のプロジェクトなら経営的視点に合わせなければなりません。これがとても重要で、かつ難しいことです。現場の人しかいないのに、経営側の話をしても相手には刺さらないでしょう。

会議に社長がいて、部長も課長もいて、さらに現場の人もいる場合は、アジェンダを提示する際にある程度コントロールしたり、ネクストアクションを決める際の粒度が上流か具体かを判断したりして、あたりをつけていきます。その視点が外れると、「エキスパートといいながら、何をしに来たんだ?」と思われかねないので、注意が必要です。

――そのためには、やはり経営全体を俯瞰して要所を判断するスキルが必要ですね。

私は現在42歳ですが、この年齢のマーケター自体、あまり聞かなくて、もっと若い人が大半だと思います。だから年齢的に考えると、若いマーケターが大手企業の年配の経営者と目線を合わせるのは少し難しいかもしれません。

それに関連して、盲点になりがちですが、とても重要なのが、いわゆる社内力学の把握です。比較的大きな会社や昔から続く伝統的な会社には、往々にして社内の政治力学や社内だけに通用する論理があります。そこを無視して、一般論でマーケティングの理屈を語っても通じません。正直にいうと、「この工程ではこちらの部門、次の工程ではあちらの部門の顔を立てよう」などの要素も加味して、提案する必要があると思っています。

――それによって、マーケティングの持ち味、切れ味が失われないですか。

失われることもあります。しかしそれはトレードオフなので、トレードオフであることをきちんと説明するしかありません。「一般的にはA案が効果的ですが、それではX部門が少し難色を示す可能性があります。その場合はB案が向いています。ただし、A案より効果は低くなります」と説明しながら、社内で合意できる最大地点を目指すのが重要です。つまり、私の仕事は社内の合意点の最大地点で施策を進捗させることにあるといえます。

そんなふうに落としどころを探るのは、マーケティングの知識だけでは不十分です。社内の政治力学的な機微の理解は、ある程度の段階まで会社で働いた経験がなければ難しいでしょう。だからといって、そんな機微を無視してマーケティングの一般論やプロ論をぶつけたりしてもうまくいきません。「一般的にはそうかもしれないけど、うちには合わないね」でおしまいです。

BtoBマーケティングの場合、マーケティング理論の重要度は実は30%くらいで、あとの70%くらいは、社内の人間関係やパワーバランスを察知し、考慮しながら施策を進める能力ではないかと体感的に思います。そこがうまくできないと、少し苦しいかもしれません。

マーケティングの力ですべてのお客さまを幸せに

――高井さんが多くのクライアントに求められる理由が、何となくわかりました。では最後に、高井さんご自身の今後の目標や夢などを教えていただけますか。

ラーメン店をやりたいんです。おいしいラーメン店は、自分の中でマーケティングの最高峰だと考えています。集客に優れているだけでなく、お客さまとの関係性が良好で、みんながハッピーになれる。プロダクトの強さ、集客力、関係性など、マーケティングで大切な要素がほとんど詰まっているのがおいしいラーメン店だと思うのです。実は、ラーメン店開業に向けて、実際に動き始めています。

一方、マーケティングに関しては、「お客さまのために」がすべてであって、平凡かもしれませんが、関わったお客さま全員にハッピーになってもらいたい。自分や自分の会社をスケールさせる気はないのです。ただ、お客さまにハッピーになっていただくには、結果を出さなければなりません。だから、これからも結果を出し続けられるマーケターでありたいと思います。

――本日はありがとうございました。

Profile
高井 伸(たかい・しん)
2009年に飲食店向けのメディア事業で起業。100店ほどの加盟店、5,000人ほどの会員登録を抱えるメディアになるも、サービスインから半年で資金ショートにより事業撤退。その後、事業の立ち上げ経験を活かしてフリーの事業コンサルティングに。2012年から複数社の取締役も兼任。2015年にSaaSベンダーである株式会社インターパークの2社合併に加わり、自身も出資を実行して常勤の取締役COOとして専属従事。2022年11月の株主総会をもって取締役を契約満了で退任。マーケティングオートメーションツールのクラウドサービス「サスケ」のARRは、2012年から40倍以上を計上。導入社数は数社から1,000社以上に拡大。2019年からはベンチャー企業や大企業のマーケティング顧問も複数社務める。

マーケター高井がすべて担当してB2Bマーケティングを支援する株式会社
https://marketingjobs.jp/

Twitter:@ttttttakai

エキスパートソーシング
戦略策定から施策実行、新規事業立ち上げやサービス設計など、あらゆるマーケティング課題の解決を即戦力人材に依頼できるプロ人材のソーシングサービス。CINCのビッグデータや課題解決力とプロ人材の専門スキルの掛け合わせで課題解決に導く。

サービス概要:https://www.cinc-j.co.jp/dxconsulting/

 

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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