日焼け止め商品で3年連続No.1(※)と人気の花王「ビオレUV」。同商品の売り上げ増加に貢献している施策の1つがInstagramを活用したプロモーションです。過去に実施したクリエイタータイアップ投稿やUGCから得たインサイトをもとに広告を打ち出したところ、商品名に関する会話量と購入行動がいずれも向上したと言います。
では、花王はどのようにして成果を上げたのでしょうか。今回は、日本初の開催となった広告主・企業向けのイベント「Meta Marketing Summit Japan 2023」(10月27日、東京・虎ノ門)の中から、「好きと欲しいをつなぐ、自分ごと化プラットフォームとしてのInstagram」のセッションの内容を「Instagramがミドルファネルに有効な理由」と「花王ビオレUVのキャンペーン事例」に分けてお届けします。
(文:福永太郎、取材:Marketing Native編集長・佐藤綾美)
※インテージSRI+日やけ止め市場 累計販売金額
目次
Instagramがミドルファネル攻略に有効な理由
Meta日本法人Facebook Japan 執行役員 営業本部長 南勲さん(画像提供:Facebook Japan)
Meta 南 まずは皆さまが抱えがちな、マーケティングにおける3つの課題感をご紹介します。
- デジタルKPIへの疑問
KPIとしてこれまで重要視してきた「視聴完了」や「バズの創出」などは売り上げの貢献度の証明にならない。 - 第三者の声が購買に与える影響力が増加傾向にある
ブランドからの一方的なメッセージの発信など、従来のやり方ではモノが売れない。最近は、クリエイターや口コミといった第三者の声が購買に与える影響力が増加しており、Z世代を筆頭に影響を受けやすい。 - パーチェスファネルの分断
予算の投資先がアッパーファネルとローワーファネルに二極化しており、それぞれにおいて飽和状態。
中でも「3.パーチェスファネルの分断」は、重要な要素ですので、詳しく解説します。パーチェスファネルとは、消費者が商品を購買するまでの心理的な変化を3段階に分解したものです。
- 第1段階:アッパーファネル ― 認知
- 第2段階:ミドルファネル ― 検討(意識・態度変容)
- 第3段階:ローワーファネル ― 購入促進
現代は情報過多の世の中にあって、パーソナライゼーションの進化によって個人への情報や提案が最適化されるようにもなっており、「アッパーファネル」でこれまでと同様に認知獲得を狙うだけでは、必ずしも売り上げにはつながりません。また、「ローワーファネル」でROASなどの改善を図り、購入促進の効率を追求するにも限度があります。効率化の限界にたどり着いた結果、あらためてオーディエンス(広告メッセージの受け手)の拡大が必要となり、ローワーファネルからアッパーファネルに逆戻りして施策をやり直すような現象が起こることもあるのではないでしょうか。
こうした状況を打開するために注目されているのが、「ミドルファネル」です。ミドルファネルの施策をきちんと設計して予算を投資すれば、ブランドとオーディエンスの関係構築により自分ごと化を促進することができます。単発の売り上げではなく、中長期的なブランド成長につながるブランドエクイティの蓄積も可能でしょう。また、ミドルファネルの攻略は、ファネル間のギャップを埋め、広告キャンペーン全体の成果を最大化することにもつながります。
投影資料提供:Facebook Japan
このミドルファネルの領域を得意とするのがInstagramです。なぜなら、Instagramは利用者が興味を持ちそうな投稿や広告を表示してブランドの自分ごと化を促し、購買などのアクションへとつなげやすい「好きと欲しいをつなぐ自分ごと化プラットフォーム」だからです。
Instagram上では、バズや世間の話題についてのみ語られているわけではなく、好きなブランドや自分に合ったブランド、独自性のあるブランドについての会話も目立ちます。ブランドエクイティとの相関係数は0.92と強い相関関係を示しており、ブランドを自分ごと化した内容が利用者によって語られているといえるでしょう。
また、Instagramでブランドの自分ごと化を最大化するためのベストアプローチは、「価値共創マーケティング」です。価値共創マーケティングは、Instagramのコミュニティ内で、ブランド、クリエイター、利用者が共創で意見(評判)を形成し、ブランドの価値を高めることを指します。
過去1年間、Instagram上で利用者との価値共創を意図したキャンペーンが多数行われましたが、その中でも特に高い成果を上げていたのは、花王のビオレUVのキャンペーンでした。商品名に関する会話量は非広告接触者の3.9倍、購入行動は19倍増加という成果を収めています。
購入行動19倍増を記録した花王ビオレUVのキャンペーン事例
Meta南さんの講演後、花王ビオレUVのキャンペーン事例について、成果につながった具体的なポイントがMeta日本法人Facebook Japan 営業部長 丸山祐子さんによるファシリテーションで紹介されました。ここでは、その一部をご紹介します。
Meta 丸山(以下、丸山) 価値共創マーケティングの実施には、以下のような課題があるのではないでしょうか。
- クリエイターマーケティングに投資しない場合
‐既存のマーケティングモデル・プランを何となく継続している
‐SNSの管理はマーケティングと別部門が担当 - クリエイターマーケティングに投資している場合
‐クリエイターマーケティングに投資しても売り上げに寄与しない
そこで今回は、Instagramを活用したマーケティングで、ビオレUVの売り上げを伸ばしている花王 ヘルス&ビューティケア事業部門 スキンケア事業部 シーズン ブランドマネージャーの小林達郎さんと、同社のメディアプランニングを担当する博報堂 ビジネスプロデューサーの上山修一さんにお話を伺いたいと思います。
画像左から:Meta日本法人Facebook Japan丸山祐子さん、花王 小林達郎さん、博報堂 上山修一さん(撮影:Marketing Native編集部)
花王 小林(以下、小林) ビオレUVは、3年連続で日焼け止め商品の売り上げNo.1とおかげさまで好調に推移している商品です。中でも、「ビオレUV アクアリッチ アクアプロテクトミスト」は、肌に吹きかけると霧のようなミストが密着し、UVをカットする日焼け止めです。
投影資料提供:Facebook Japan
今年の春に全国で発売され、日経トレンディ「2023年上半期ヒット大賞」美容・ファッション部門で大賞を受賞し、日経MJ「2023年上期ヒット商品番付」(西の前頭4枚目)に選出されるなど大きな反響を呼びました。
丸山 ありがとうございます。Instagramに注力するようになったきっかけは何でしょうか。
小林 これまで花王はマス広告を中心にプロモーション施策を行っていましたが、それだけでは戦えない実感がありました。
というのも、ここ数年は、マス広告を使わずにヒットを生み出したブランドが突如躍進するケースがあり、調査を行った結果、我々の商品とSNS上の発話の量や質が異なることがわかりました。そうした状況に危機意識を抱き、デジタルの比率を上げるだけでなく、アプローチの変更も検討しました。
丸山 その後、デジタル広告の割合が50%以上になり、Instagramが非常に高いパフォーマンスを生んだと聞いています。
小林 はい。昨年の「ビオレUV アクアリッチ アクアプロテクトミスト」テスト販売時のトラッキング調査では、店頭に次いで、Instagramが購入に大きく寄与したことが明らかになりました。さらに他の調査で、Instagramが商品の特徴の認知に貢献していることもわかり、本格的に取り組みを開始しました。
成功のポイントはWow!が生まれて回る「3Sサイクル」
撮影:Marketing Native編集部
丸山 SNS施策の重要性は理解していても、実行するのは難しいもの。成功のポイントは何でしょうか。
小林 「3Sサイクル」によって、Wow!が生まれ、サイクルが回ることが商品のヒットにつながるポイントだと考えています。
<3Sサイクル> 1.店頭(Store):商品を見て「使ってみたい!」というWow!が生まれる ↓ 2.使用場面(Scene):商品を使ってもらうことで感動体験のWow!を生む ↓ 3.SNS(UGC):使用後の感動体験をシェアしてWow!が広がる |
そのため、SNSでの拡散を考えるにあたっても、商品開発から一貫した取り組みが必要です。花王では、商品開発からプロモーションまで一貫して事業部のブランド担当者が関与しているため、3Sサイクルを実行することができました。
なお、テレビCMやサンプリングなどは、3Sサイクルを回すためのブースターとして機能すると考えています。
丸山 日々SNSをチェックして得た情報も商品開発に活かしていると聞きました。
小林 はい。SNSで投稿されるリアルな使用体験は、商品の強みや弱みを理解する上で役立ちます。UGCを広げるには、SNSで発見した感動体験だけでなく、今ひとつの体験についても、商品開発にフィードバックすることが重要です。
UGCの中から広告を採用し、投稿の質を担保
丸山 続いての質問です。クリエイターの投稿を広告として積極採用する理由は何でしょうか。
博報堂 上山(以下、上山) 前提として、商品の認知向上を促すためには、既存のマス広告を含め、必要な範囲のリーチを確保することが大事です。
その上でSNSでは、クリエイターの投稿を広告としてブーストすることにより、フォロワー以外の人々にも投稿を配信でき、購入意欲を高める効果があると考えています。認知を拡大しつつ、購買意欲を高める。この両輪を回すことが重要です。
画像提供:Facebook Japan
丸山 クリエイターを起用したマーケティングでは、フォロワー数が多い人をアサインすると、投稿内容の質が伴わないケースもあります。しかし、花王はフォロワー数にかかわらず優れた投稿をUGCから選定しているため、広告の質を担保できているのですね。
続いての質問です。Instagramでは利用者によって表示されやすい広告のクリエイティブフォーマットが異なるため、リーチを最大化するには、各利用者に適したフォーマットでクリエイティブを配信する必要があります。花王はこれに見事に適応していると感じますが、いち早く対応できているのはなぜでしょうか。
小林 最初からうまくいっていたわけではありません。はじめのうちは、テレビCMの素材をデジタル広告に流用していました。ただそれでは、リーチ数は獲得できても、商品の特徴理解や購入につながりにくく、想定以上の効果が出ていないという課題感がありました。
一方で、SNS上の生活者のリアルな声はPOSデータにダイレクトに影響があることがわかりました。利用者にとって企業広告は煩わしく、出合ってもスルーしてしまう。そこで、情報の発信方法の改善を図り、生活者の視点に立って、共感や好感を得られるクリエイティブを作成する必要があると考え直しました。
マーケティングチームは毎日のようにSNSをチェックし、暇さえあれば「#日焼け止め」「#UV」などの関連するキーワードを検索し、良い投稿や発話内容を確認しています。それをもとにディスカッションを重ねることで、結果としてSNSの活用レベルが向上しているのではないでしょうか。
撮影:Marketing Native編集部
丸山 花王全体のブランドを担当している上山さんから見て、花王がInstagramのさまざまなクリエイティブフォーマットにいち早く対応できているのはなぜだと思いますか。
小林 SNSに対する理解があり、投稿もよくチェックいただいていますので、Instagram広告に関する提案も「配信する面ごとに適したクリエイティブの出稿が必要ですね」とスムーズに受け入れられて取り組みが進みました。その結果、成功するブランドが出てくると、取り組み内容が他のブランドにも展開されて、新たな施策にも積極的にチャレンジする状態が花王全体に広がりやすくなっているのでしょう。
投影資料提供:Facebook Japan
インサイトを分析し、広告クリエイティブを改善
丸山 最後に、花王、博報堂、MetaによるInstagramでの具体的な取り組みの流れについてお話しします。
まず花王より、Instagramで行うキャンペーンについて弊社にブリーフィングを行っていただきました。そして、ブリーフィング内容をもとに弊社がInstagram投稿の中からインサイトを分析。するとエンゲージメントの高い投稿は、日焼け止めを塗布した結果をビジュアルできちんと見せていることがわかりました。
上山 さらに博報堂で広告接触後に生まれたUGCを分析したところ、配置面で異なる投稿傾向が見られました。
投影資料提供:Facebook Japan
- フィード
商品紹介・PRテイストの内容、カタログのような投稿が多い。「良い」「使う」「購入」などポジティブなワードとともに発話されている傾向にある。 - ストーリーズ
日常的に使っていることを伝える投稿が多い。「焼ける」「外出」「海」「持ち運び」などのワードが含まれる外出シーンでの発話が目立つ。 - リール
「馴染む」「使える」などのワードを含む使い方解説や本人の使用感などが多い。短尺で商品をおすすめする動画も目立つ。
つまり広告でも、投稿素材を配置面に合わせて検討する必要があることがわかりました。
丸山 これらのインサイトを活用して、より広告効果の高いクリエイティブの作成を進めました。たとえば、日焼け止めを肌に伸ばした状態のカットやカタログのようなデザインのカルーセル用のカットなどです。その結果、広告非接触者と比較して広告接触者の購入行動は19倍、会話の量は3.9倍増加し、ビオレUV自体へのメンションも多数見られるなど、非常に高い成果を上げる施策となりました。
投影資料提供:Facebook Japan
最後に今回の取り組みについて小林さんから一言お願いいたします。
小林 Metaによるインサイト分析の結果、ブリーフィングの方法が大きく変わりました。クリエイターの方も納得感をもって、魅力的なコンテンツ、クリエイティブを作っていただけるようになったのではないでしょうか。
その結果、売り上げに寄与したことはもちろん、ビオレUVに関する発話量が増えている点も大切なポイントだと思います。商品に関する発話が増えることでブランドと生活者の距離が縮まり、関係が構築されていくため、短期的な意味合いだけでなく、中長期的なブランドロイヤルティにも影響を与える重要な要素と考えています。
ビオレでは来年以降も画期的な商品を発売できるよう準備を進めていますので、引き続きInstagramを活用し、成果最大化につなげたいと思います。
丸山 ありがとうございました。