事例研究
2020.11.26

花王「メリット」が50年守り続ける価値と、コロナ禍で新たに打ち出したコミュニケーションのポイント

台所用洗剤やヘアケア用品、化粧品など、私たちの生活に深くなじむ商品を数多く提供しているのが、花王株式会社です。発売開始から今年(2020年)で50年を迎えたヘアケアシリーズ「メリット」は、同社の歴史の中でも屈指のロングセラー商品となっています。

グリーンのボトルでおなじみのこの定番シャンプーが、半世紀にわたって売れ続けてきたのはなぜでしょうか。

ロングセラーブランドの秘密に迫る連載「ロングセラーを訪ねて」第4回は、花王株式会社 コンシューマープロダクツ事業部門 ヘアケア事業部「メリット」マーケティング担当の篠原健吾さんに「メリット」の変遷とユーザーインサイトのつかみ方、テレビCMとSNSの使い分けについて伺いました。

(文:椎原よしき、取材:Marketing Native編集部・岩崎 多、構成:Marketing Native編集長・佐藤綾美、画像提供:花王株式会社)

目次

50年不変の基本価値と、時代の変遷に合わせた変化

――今年(2020年)は、メリットシャンプーが発売開始されてから50年ということで、大きな節目になる年だと思いますが、なにか特別なイベントなどは行っていますか。

弊社メリットのブランドサイトに「メリット50年の想い」として特設ページを立ち上げ、当時の出来事や生活様式などの時代背景とともにメリットの歴史をご紹介しております。また、同じく今年50周年を迎えるキャラクターとコラボレーションした限定デザインボトルなども発売しました。

50年を記念した特別なイベントなどはほとんど行っておりませんが、節目の年ということで、新聞やメディアで取材を受ける機会を多くいただき、あらためてこのような形で話題にしていただいております。これは、ロングセラーブランドへの信頼感があるからこそだと思いますので、これからも守っていかなければと感じています。

――50年という長い年月の中でブランドを維持していくためには、変わらずに守り続けた部分と、時代の変化に応じて変えてきた部分の両方があったのではないかと思います。まず、変わっていない部分はどんなところでしょうか。

メリットシャンプーが発売されたのは1970年ですが、当時は内風呂の普及率が低かったこともあり、毎日洗髪する方は少数派でした。1980年ごろまで、せいぜい週に2~3回の洗髪が一般的だったのです。そうすると、どうしても地肌のかゆみやフケなどに悩まされることになります。そういった当時多かったお悩みに対して「地肌をケアするシャンプー」をご提供しようとしたのが、メリットが生まれた背景でした。

▲1970年3月に発売されたときのパッケージ。

フケ症が皮膚の病気のように捉えられていた時代に、「きちんと洗髪すれば対処できるものですよ」と提案する形で、フケを抑える成分「ZPT(ジンクピリチオン)」を配合したメリットシャンプーを発売し、市場に広く受け入れられました。それから、時代が進むにつれて商品も進化し、成分を変えたり、ラインナップを増やしたりして、市場への訴求の仕方も変化させながらも、「地肌をケアするシャンプー」という基本部分は受け継いできています。

▲画像上:発売当初の新聞広告、画像下:1973年~1975年当時の中つり広告

――「地肌をケアするシャンプー」の基本は踏襲しながら、変化させてきた部分はどんなことですか。

時代の変化による市場ニーズに合わせて、商品を変えてきました。順を追って見ていくと、まず1980年~90年代になると、内風呂や洗面化粧台が普及して、いわゆる「朝シャン」がブームになるなど、洗髪頻度が増加します。その結果、毎日洗髪して清潔にしていることが当たり前になりました。そこで、より短時間で手軽にシャンプーできる「メリット リンスのいらないシャンプー」を発売します。また、あらゆる方に使用しやすいデザインを採用するユニバーサルデザインの考え方が普及したことに伴い、触っただけでシャンプーとリンスの区別がつく、ギザギザのついたボトルを考案したことも、大きな変化の1つと言えます。この触覚識別は、今やJIS規格だけでなく、国際規格にもなっています。

▲1991年に発売された「メリット リンスのいらないシャンプー」。

――1970年の発売当時とは、清潔に対する感じ方が大きく変化したということですが、シャンプーに対するニーズも変わったのでしょうか。

1990年代は、清潔なのはもう当たり前になっていて、プラスの価値として、髪自体を美しく見せる、いわゆる美髪を訴求する海外ブランドの競合商品が伸長した時代でもあります。また、パーマやカラーリングが増えたこともあって、髪の傷みや髪そのものをケアするニーズが高まりました。そういう背景の中で、フケかゆみを防ぐコンセプトのメリットは、少し勢いが落ちていました。

――勢いが落ちてきたことに対して、どのような打開策を打ち出したのでしょうか。

2000年代に入りデフレ脱却期を迎えると、家族と一緒に過ごすことが見直されて、家庭への回帰という風潮が生じます。そこでメリットは、2001年に新たな価値の提案として「新・家族シャンプー」というコンセプトを掲げました。成分もより刺激が少ない弱酸性に調整して、家族みんなで使える、優しく洗えるシャンプーという価値基軸を打ち出しました。この時期が、今に続く大きな転換期になりました。現在では「家族みんなで使えるシャンプー」という点で、市場においてかなり明確なポジションニングができているのではないかと考えています。

▲2001年に「新・家族シャンプー」というコンセプトを掲げたときのパッケージ。

ロングセラーゆえの難しさ

――時代に合わせてさまざまなことを変えてきたということですが、変えなければならない部分、変えてはいけない部分の基準は、どのように考えていますか。

「メリット」というブランドとして大切にしていることは、大きく2つあります。1つは、「地肌のケア」です。これはお客様との約束とも言えるブレない軸になっています。もう1つは、少し重なる部分もありますが、「清潔」です。地肌と頭髪を清潔に保つという点も、製品改良を繰り返す中で変わらずに追求しています。

――ボトルのグリーンの色も、昔から変わらないですよね。

そうですね。私たちは「メリットグリーン」と呼んでいますが、多少の違いはあっても変えていません。ただ、中身の洗浄液の色は、実は変えています。以前は容器と同じようなグリーンだったのですが、2018年に白色の液に変えました。緑色の液体に対して「刺激が強そう」などのネガティブなイメージを抱えている方もいるとわかったためです。同年には、ボトルの形も変えましたし、ラベルの文字も変えました。

――「メリット」の文字がかなり小さくなって、「The Shampoo」の文字が大きくなっていますね。

▲2018年のリニューアルで「The Shampoo」の表示が大きくなった。

これは、1970年の発売当初の思いに立ち返ろうという意味もあります。1970年当時は、先にも申し上げました通り、清潔に対する意識も今とは大きく異なる状況でした。その中で、当時の考え方として存在していた「清潔な国民は栄える」という考えのもと、少し大げさかもしれませんが、「みんなに清潔になってもらって国を栄えさせよう」との使命感を持って、メリットシャンプーは作られたと聞いております。

つまり、「人々の清潔を支えるインフラのような役割を目指そう」という思いです。その原点に立ち返って、この商品がシャンプーであることをまず伝えたいと考え、ブランド名よりもシャンプーの文字を大きくしたのが、現在のデザインです。

―― 一方で、コンディショナーのボトルカラーは変えています。

▲2018年に登場したコンディショナー。

もともと、メリットでは「リンス」という名前で発売していましたが、2018年に「コンディショナー」という名前に変えて、ボトルの色も新しくしました。一般的には、リンスよりもコンディショナーのほうが名称として知られているとわかったためです。また、だれが見ても間違えないように、ボトルの色をシャンプーとは異なる黄色にしました。これは、「子どもから高齢の方まで誰でもが使いやすい商品」というメリットの根本思想を反映させています。

――花王さん全体で見ると、メリット以外にもたくさんのシャンプーブランドがあります。さまざまなブランドがある中で、50年のロングセラーだからこそ、マーケティング担当者として難しいと感じる部分はありますか?

弊社には、もともとメリットブランドだった「PYUAN(ピュアン)」のほか、「エッセンシャル」「セグレタ」「アジエンス」「and and(アンドアンド)」「ines(イネス)」など、多くのブランドがあり、それぞれ特徴があります。

メリットを担当していて難しいと感じることは、大きく2つあります。1つは、イメージとして「古臭い」という印象を持たれる方がいらっしゃることです。これは、ロングセラーとして受け入れられていることの裏返しかもしれません。

もう1つは、昔使用したときの少しネガティブな印象、たとえば「メリットはスッキリ洗えるけれど髪がきしむ」などのイメージをいまだに持たれている場合、それを払拭するのが難しい面があります。当然ながら商品は時代のニーズを考慮して少しずつ改良して進化しているので、昔の商品みたいにきしむようなことはないのですが、記憶の中の印象を払拭することはなかなか容易にはいきません。

延べ1万3000名以上の頭皮や頭髪を調査

――これまでのお話からは、大切な基本部分は残しながらも、時代に即して変えなければいけない部分を変えてきたことがロングセラーの原動力であったことがわかりました。変えるべき部分を変えるためには、移り気な消費者の変化を捉える努力もあったと思いますが、どのように消費者のインサイトを把握しているのでしょうか。

ヘアケア研究やユーザー調査は、相当な規模で行っています。ヘアケア研究については、メリットの研究部がこの50年間で頭皮や頭髪を見させていただいた方は、記録に残っている人数だけで1万3000名以上になります。記録に残す前に、プレ調査という段階もあるので、その数も含めればもっと多い人数です。その膨大な数の人たちに、実際に髪をどのように洗っているのか、洗髪の前後で髪や地肌はどう変化するのかを調べさせてもらっています。単なるアンケート調査ではなく、美容師と一緒にマーケターや研究員が訪問して、髪や地肌、頭髪全体の状態を観察して調べさせていただく調査です。

また、小さなお子さんがいる花王社員の家に出向いて、お子さんが髪を洗う様子を観察させてもらい、キッズ向け商品の開発に活かすなどの実地調査は数え切れないくらいやってきました。

そうした長年の研究調査の成果として、やはり髪の毛の状態は地肌の影響が大きく、髪の健康のためには地肌を清潔に保つことが必要だと科学的にわかりました。だからこそ、「髪と地肌の清潔を保つ」という基本コンセプトを絶対に変えず、毎日のケアに利用できるインフラのようなシャンプーを提供し続けることにつながっています。

テレビCMで伝えたいことと、SNSで意識していること

――コロナ禍における新しい生活様式(ニューノーマル)が、私たちの暮らし全般に求められるようになっています。その点における影響はいかがですか。

ご承知のように、新しい生活様式においては「清潔」であることが非常に重視されています。その中で、メリットがずっと掲げてきた「髪と地肌の清潔を守る」というコンセプトは、今まで以上に広く受け入れられてきていると感じます。

世の中全体で「安心」を求める風潮が強まっていると思いますが、信頼感や安心感に応えられるという点では、メリットのようなロングセラー商品は強みを活かしやすいです。また、コロナ禍の解消が見えない不安な状況で、メリットはシャンプー市場の中で相対的に高価格帯のポジションにいないことも、販売面ではプラスに寄与していると考えられます。

――御社でも6月からはメリットのテレビCMの内容を変えています。

やはり、コロナ禍に対して、「メリットはどのようなことができるのか」を考えたときに、髪や地肌を清潔に保つ意義をもっと周知するべきだと考えました。手洗いや手の消毒は、非常に意識が高まって普及していますが、髪や頭皮への意識はどうかといえば、そんなに以前と変わっていないと感じます。ただ、髪にも花粉やホコリ等の汚れは付いていますし、シャンプーで皮脂が落としきれていないと、外からの汚れも付着しやすくなることもわかっています。そこで、CMでも「帰ったら、すぐに髪を洗おう」というコミュニケーションを打ち出して、髪や頭皮を清潔に保つことの大切さを伝えています。

――テレビCMは、時代の変化に応じて内容を変えてきていますが、最新のCMでは比較的新しい家族像の提示をしています。

2001年に「新・家族シャンプー」というコンセプトを打ち出した際には、CMでの訴求でも、俳優の保坂尚希さんや高岡早紀さんを起用して、「家族みんなで」「子どもは優しく洗いたい」といったコミュニケーションを用いました。そのメッセージは、現在にまで続く「家族みんなで使えるシャンプー」というイメージの形成に大いに役立ちました。

直近では、主流となる家族イメージもだいぶ変わってきて、男性が大黒柱として一家を支えるという昔ながらの家族像はかなり薄れてきたのではないでしょうか。そこで、私たちも「令和時代の新しい家族像を描いていこう」と考え、メリットのCMでは、夫婦横並びの仲良し家族として、風間俊介さんと、麻生久美子さんに夫婦役でご出演いただき、みやぞんさんに弾き語りをしていただいています。メリットを使用したみやぞんさんがCMの最後にサラサラヘアーになっている場面は、SNSでも話題になりました。

――SNSの戦略はどのようにお考えでしょうか。

SNSでは、ターゲットである30~40代のお子さんがいるママさんに向けて、シャープに刺さるコミュニケーションを取るようにしています。そうした世代のママさんは、子育て情報などもSNSから収集することがあるでしょう。そこで、お子さん向けの商品については、GIFアニメなども使用しながら具体的な情報を伝えるよう、かなり意識的にやっています。

たとえば、子どもでも洗いやすい成分や、髪に汚れがつきにくいダストシールド技術などの製品の細かい機能には、マスメディアだけでは伝えきれない部分もたくさんあります。SNSはマスメディアがカバーしきれない情報を細かく伝えるには最適で、「メリットがこんなにいい商品だったとは知らなかった」といった反応をいただくこともあります。

――キッズ向けに、ポケモン、ドラえもん、ミニオンなどのスペシャルデザインボトルを作られていますが、こうしたテーマ性のある商品も、SNSでは話題になりやすいですよね。

テレビCMでも最後に少し周知していますが、やはりInstagramなどのSNSでお客さまが写真を上げてくださり、口コミが広がったと感じています。最初にポケモンとコラボをしたのが売れて話題になり、さらにドラえもん、ミニオンとコラボが続いて注目いただき、再び話題になる…といった良い循環ができました。シャンプー、コンディショナーのセットで20万個ほど売れました。

▲人気キャラクターのドラえもんやミニオンとコラボしたスペシャルデザインボトル。

――わかりました。本日はありがとうございました。

花王株式会社
「化粧品」「スキンケア・ヘアケア」「ヒューマンヘルスケア」「ファブリック&ホームケア」から成るコンシューマープロダクツ事業と、ケミカル事業を展開する化学メーカー。創業者である長瀬富郎が、1890年に発売した高級化粧石けん「花王石鹸」が社名の由来となっている。
創業:1887年6月(設立:1940年5月)
本社:東京都中央区
代表取締役 社長執行役員:澤田 道隆
公式ホームページ https://www.kao.com/jp/

 

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