facebook twitter hatena pocket 会員登録 会員登録(無料)
注目トピック

地方で活躍したいマーケター必見!東京とはひと味違う、地方で働く人が身に付けるべきスキルと心得――ローカルプレイヤーズ 伊藤綾・桜井貴斗

最終更新日:2023.08.16

全国各地、好きなところで暮らしながらリモート勤務する働き方が一般的になりつつあります。なかには「いずれは地元で働きたい」「独立して地方企業のマーケティングに携わりたい」と考えている人もいらっしゃるのではないでしょうか。

そんな地方で働くことに興味がある人にぴったりのイベントが開催されました。それが、きら星株式会社 代表取締役 伊藤綾さんとHONE Inc. 代表取締役/マーケター 桜井貴斗さんによる地域プロデューサー育成スクール「ローカルプレイヤーズ」主催の「ローカルプレイヤーズ サミット」です。イベントでは、伊藤さんと桜井さんから地方の現状や働くうえで求められるスキルなどが語られ、参加者が多くの質問を投げかけました。この記事では、その一部をご紹介します。

(文:工藤 麻里子、取材・構成:Marketing Native編集長・佐藤 綾美)

※本記事は、イベントの内容について、登壇者の方々の許可を得たうえで読みやすく編集したものです。

目次

地方で働くために重要な「ヒューマンスキル」

きら星 伊藤(以下、伊藤) 今は東京で勤務していて、将来地方で働くことを検討している人のなかには、「東京で培ったスキルや経験を地方で活かせるのか」と心配している人がいるかもしれません。私は自分自身の経験から、東京で培ったスキルや経験は地方でも「役に立つ」と考えています。確かに私も、東京の大手企業で働いていたときは歯車のひとつのような仕事をしていたので、そんな自分が地方に飛び込んで「何ができるのか」という不安がありました。

しかし、地方に行ったとしても、これまでに培ってきた経験が無駄になることはありません。例えば、私が不動産デベロッパーとして働いていたときに身に付けた予実管理のスキル、不動産ビジネスのビジネスフローやテナントリーシングを行うにあたって必要なマーケティングの知識などは、地方で働く今も活きていると感じます。

HONE 桜井(以下、桜井) 「営業は潰しがきかないのではないか」という悩みもよく聞きますが、そのようなことはないと思います。というのも、営業パーソンは資料を作ってプレゼンしたり、契約締結のために根回しをしたりすることができます。上長の立場だったら、部下が契約を取れるようにチームのマネジメントも行います。大きな企業のなかで分業制で働いていると、「自分に何ができるのだろう」と感じてしまうのかもしれませんが、心配はいりません。

伊藤 そうですね。企業の歯車のひとつでしかないと思っていても、「営業」という仕事を因数分解してみると「自分にできること」がたくさんあると気づくのではないでしょうか。そこで、私たちが考える「地方で求められるスキル」を整理してまとめました。

地方で求められるスキルのマップ※イベント投影資料を基に編集部で作成

上記のスキルをできるだけ網羅している人が地方でも勝てると思います。このマップで言うと、私は「予実管理」や「業務設計」、「ロジカルシンキング」が得意で、ローカルプレイヤーズの事業に桜井さんを巻き込んだという意味では「巻き込み力」もあると感じています。

桜井 私の主戦場は「マーケティング」ですが、最近はマーケティング以外のことに携わっている時間が多くなっています。具体的には、スキルマップの右側にある「交渉力」や「プレゼンテーション」「傾聴力」などを発揮する仕事です。マーケティングの話を持ち出すのは、ある程度事業が進んでからです。

伊藤 首都圏で働く会社員がキャリアアップを考える際、ビジネススキルを高めようとする人が多い傾向にあります。もちろんそれも重要ですが、人間関係が重視されやすい地方で求められるのは、どちらかというと「交渉力」や「巻き込み力」「傾聴力」などのヒューマンスキルです。地方で働くならヒューマンスキルを高めたほうがいいと思います。

イベントで話す伊藤綾さん▲伊藤綾さん

桜井 よくある副業系のスクールはビジネススキル重視のものが多く、マーケティングについて学べるスクールもあります。しかし地方では、マーケティング戦略を立案できても、ヒューマンスキルがなければ厳しいのが現実です。地方で働く際は「地元の人たちと泥臭く話ができるか」が非常に重要で、例えば自治会や消防団に入ったり、近所のごみ拾いをしたりなど人間関係を構築するための努力も必要になると思います。

ビジネススキルとヒューマンスキルのバランスが重要だと思うのですが、伊藤さんはどうやってバランスをとっていますか?

伊藤 私はビジネススキル寄りのため、ボランティアに参加するなどして、地域のコミュニティに泥臭く入っていくようにしています。しかし、ボランティアワークだけでは仕事にならないので、今はボランティアベースで行っているものをどうすれば持続可能な形で仕事にできるのか考えています。

地方企業をドライブさせるCxO人材の可能性

伊藤 地方によくある課題として、地方企業をドライブさせるCxO人材やその候補が足りないことが挙げられます。「地方が衰退している」とよく言われるのは、地元に根差している地方企業に元気がないことが要因のひとつです。だからこそ、地方企業に優秀な人材を送り込み、活気をもたらしたいと考えています。

ここで言う優秀な人材とは、ヒューマンスキルだけではなく、持続可能なビジネスモデルの構築やマーケティングもできる人材のことです。ローカルプレイヤーズの事業を通して、首都圏でビジネススキルを磨いている人たちの背中を押し、地方でチャレンジする人をより一層増やしたいと思っています。

桜井 最近は地方自治体でCxO人材を募集する例が増えているように感じます。

伊藤 弊社の拠点がある新潟県三条市には、ふるさと納税を増額するためのCMOがいます。その方はもともと外資系企業のマーケターで、マーケティング領域で力を発揮することを期待されてCMO職に就いたのですが、三条市に行ってからはマーケティング領域だけでなく、人材育成などの人事領域にも着手してトータルで物事を変えていこうと動いているそうです。そういう人が1人いると街の様子もガラッと変わるようで、三条市のふるさと納税の寄付額はCMO就任から1年半で7億円から50億円超まで増えたと聞いています。

桜井 三条市の受け入れ態勢がよかったというのもあるかもしれません。どれだけ優秀な人が来ても、それを拒絶してしまってはうまくいかないので、地方側の受け入れ態勢も重要だと思います。

伊藤 地方の人はヒューマンスキルに偏る傾向にあるからこそ、東京で活躍している人たちがビジネススキルを発揮して地方企業をドライブさせてほしいですね。

桜井貴斗さん▲桜井貴斗さん

桜井 地方は人が足りておらず、ブルーオーシャンといえます。地域によってはどんどん人が減っているので、その分ポストと課題が多く、やれることがたくさんある状態です。地方の仕事には業務領域がないことが多く、スタートアップに似ているところがあります。腕試しをしたい人は経験値がたまりやすいですし、初めから自分の業務領域を限定して「ここからここまではやるけれど、これ以上はできません」と決めつけるのはもったいないです。

伊藤 そうですね。地方はこれから二極化していくと思います。新しい風を積極的に取り入れようとしている地方は変わっていくだろうし、一方で変わることを拒み、何かにつけてやらない理由を探すようなところは衰退していくでしょう。

地方には資源など活用できるものがたくさんある一方で、それをうまく活用できる人がいません。だからポストがありますし、業務領域をどんどん広げられるチャンスも豊富です。

地方に必要なのは「支援」ではなく「伴走」

ここからはイベント参加者の方々と伊藤さん、桜井さんによる質疑応答の一部をご紹介します。

Q. 成し遂げたいことを1人でやりきるのは限界があると感じています。同じ志を持った仲間を集めるにはどうすればいいでしょうか。仲間集めの際に重視していることがあれば教えてください。

桜井 私が仲間集めの際に重視しているのは、自分ができない領域は仲間に頼むことと、「自分はこれがやりたい」というビジョンを明確に伝えることです。

自分の得意領域をつくり、得意でない領域は仲間に明確に意思表示しています。私の場合、戦略やコンセプトなど「理念」の部分は得意ですが、戦術を実行するスキルはもっと他にできる人がいるので、そこは別の仲間に頼んでいます。

ビジョンに関しては、「やりたいこと」を明確にし、自分1人では成し遂げられないものを立てて、仲間に頼らざるを得ない状況にします。仲間をつくるというよりは、つくらざるを得ない環境に自分を持っていくイメージです。その先のビジョンが見えていなくても、とりあえず旗を立てることが重要だと思っています。

伊藤綾さん

伊藤 立てた旗は、行動しながら変わっていくものです。行動していれば、大きな旗も小さな旗も立てたくなるのではないでしょうか。まずは行動しなければ何も変わりません。行動するうちに、最初のビジョンから変わっていってもまったく問題ないですし、むしろ変わっていくべきものだと思います。

私も最初は地方移住の旗を立てて走りましたが、今は研修事業の旗を立てています。シリアルアントレプレナー(連続起業家)がなぜ連続して起業できるかというと、動けば動くほどやりたいことが見えてくるからだと思います。旗を振りながら走っていると、面白そうなことや必要な仲間などが見えてくるので、最初から「これだ」と明確なものが見えていなくても問題ありません。

桜井 あとは、自分の通訳者を探すことも大切ですよね。「あの人、本当はこういう人なんだよ」と代弁してくれるような仲間がいるとありがたいです。

Q. 都会でスキルを身に付けた人は地方に行っても活躍できるとのことですが、地方で鍛えて、そこから東京や海外に行く、もしくは地方でそのまま活躍するようなキャリアモデルをつくることはできると思いますか。

桜井 私は新卒で静岡の企業に就職したのですが、最初から地域のコミュニティに入れたことは強みになったと思います。30歳を過ぎて地方に戻ってきた人のなかには、スキルはあってもコミュニティにうまく入り込めない人が多くいました。人間関係を構築するという面では、最初から地方にいるメリットは大きいと思います。一方で、地方で身に付けられるスキルには限りがあると感じているので、外に出ていくことも必要かもしれません。私も週末は東京に行き、ビジネススキルを学んでいました。

伊藤 ヒューマンスキルもビジネススキルも満遍なく育ててくれる会社に入れば、地方からも東京や海外を目指して戦える人材になれるでしょう。ただ、地方の会社自体がビジネススキルは強くない傾向にあるので、そういう人材を育てるのは東京の会社よりハードルが高いかもしれません。

桜井 メンターがいればいいのですが、地方ではメンターに出会える機会もあまり多くありません。インキュベーション施設は増えてきているので、投資家やスタートアップとのつながりをつくるために、そういった施設に足を運んでみるのもいいと思います。

桜井貴斗さん

Q. 私は海外ボランティアをしており、海外から帰ってくるボランティアの若者を日本の地方に送り込む方法を考えています。海外で過ごした彼らの経験は地方でも活きると思うのですが、地方で働くことのやりがいや価値について、どう打ち出していくべきか悩んでいます。このような人材の地方での活かし方について、お二人の意見を聞きたいです。

伊藤 きら星では、1〜2年で起業を目指す「起業型の地域おこし協力隊」を勧めています。海外ボランティアの経験者は「課題を解決したい」「自分で何かをやりたい」と考える人が多いので、起業とマッチングしやすいと思います。あとは、地方のベンチャーが向いているのではないでしょうか。地方にも面白いことをやっていたり、何らかの課題感を持っていたりするベンチャーはたくさんあるのですが、ネームバリューがないために人材を採用しにくいという課題があります。

桜井 ボランティア活動の経験がある人は、社会性が高くても事業のセンスが欠けていることがあります。社会性も重要ですが、「稼げるかどうかわからない」では地方で食べていくことはできません。事業のセンスを育ててくれる場所や、社会性と事業のセンスの両方を持っている経営者を探してみるのがいいと思います。

Q. 会社をさらに大きくしていくために、地方企業にも自社サービスを使ってもらいたいと考えています。しかし、ずっと東京でのみ展開してきた会社なので、地方での具体的な戦い方がわかりません。東京の会社が地方の人たちを支援したいとき、まず何から押さえていけばいいのでしょうか。

伊藤 「支援する」というスタンスでいくと、地方の人たちとは合わないかもしれません。必要なのは支援ではなく「伴走」です。どちらかというと「中の人」として、一緒に走って活動してくれるようなスタンスが求められると思います。

桜井 コンサルタントのような支援するスタンスの人たちと一緒に思われないよう、アクションが必要かもしれません。過去に苦い経験でもあるのか、地方で「コンサル」という言葉はネガティブに捉えられることが多いように感じます。例えば私だったら、最初は何もせずに話を聞くだけにしたり、工場や農場の見学に行ったり、商品を実際に買ってみたりすると思います。

伊藤 東京の企業は「支援します」「教えます」というスタンスで地方に入ってきてしまいがちです。繰り返しになりますが、支援するというよりは伴走する、仲間になる。そういうスタンスが大切です。

桜井 会議をオンラインで済ませるのではなく、直接会うだけでも違うと思います。また、会うときは「1時間」「2時間」と時間制限も設けません。「次のミーティングがあるので」と切り上げずに、しっかりと時間をつくります。

Q. SNSに寄せられる批判的なコメントにショックを受けることがあります。お二人は心ないコメントにどう対応していますか。

伊藤 私は「よくあることだから」というメンタルでいます。地方で成果を上げるとテレビや新聞に取り上げられやすく、なかには批判的なことを言ってくる人もいます。私の場合、行政からお金を受託して事業を行っているので、周りからの目はより厳しくなるものです。地方では出る杭は打たれる傾向にもありますし、新しい事業を始めると皆さん自身にも降りかかってくる問題だと思います。

桜井 SNSで誹謗中傷してくるような人はすぐにブロックしています。直接言ってくる人はほとんどいなくて、一部の人が匿名で憂さ晴らしに来ているだけなので、片っ端からブロックしていけばいいと思います。

伊藤 今回のイベントを通して皆さんの学びと視野が広がっていれば嬉しいです。思いのある人とつながり、率直に意見を言い合える。これがコミュニティのいいところだと思います。本日は皆さん、ありがとうございました。

Profile
伊藤 綾(いとう・あや)
きら星株式会社 代表取締役。
1985年生まれ、新潟県柏崎市出身。イオンモール株式会社にて、全国の大規模商業施設の開発やリニューアルに従事。まちづくりの力で地方の衰退を食い止めたいと起業を決意し、2019年にきら星株式会社を立ち上げ。現在は「地方で暮らす人を増やし消滅可能性都市をなくす」というミッションのもと、新潟県湯沢町で活動する。
https://locacary.com/
Twitter:@KirahoshiYuzawa

桜井 貴斗(さくらい・たかと)
HONE Inc. 代表取締役/マーケター。
北海道生まれ、静岡県育ち。大学卒業後、Uターンで静岡県に戻り、大手求人メディア会社に就職。広告営業や複数の新規事業立ち上げに従事する。2021年に独立後、HONE Inc.を設立。現在は「地方に骨のあるマーケティングを。」という想いのもと、地方企業の事業支援や、地方Webマーケターのためのコミュニティ運営などを手掛ける。
https://www.hone.jp/
Twitter:@LOCAMA_AT

記事執筆者

佐藤綾美

株式会社CINC社員、Marketing Native 編集長。大学卒業後、出版社にて教養カルチャー誌などの雑誌編集者を経験し、2016年より株式会社CINCにジョイン。
X:@sleepy_as
執筆記事一覧
週2メルマガ

最新情報がメールで届く

登録

登録