多くの企業がマーケティングにTwitterやInstagramなどSNSを活用しています。
しかし、その全てにおいて望ましい成果が出ているわけではなく、コストを抑えながら認知度や売上を大きく向上させた施策もあれば、インフルエンサーを起用して、一時は「大成功」と称賛されながらすぐ飽きられてしまい、方針変更を余儀なくされているところもあり、結果はさまざまです。
では、SNSを活用したマーケティングを成功させるポイントはどこにあるのでしょうか。エルモさんの連載「逆境をチャンスに変えたビジネスを分析」の第4回は、SNSを活用したマーケティングの実態とメリットについて取り上げます。
目次
今回のテーマは、『ブランディングの科学2 新市場開拓編』を参考図書にしつつ、「SNSを活用したマーケティング」の優位性や実態について考えていきます。
- コストをかけずにマーケティングができる
- ユーザーがUGCを生むと、自然に商品が売れるようになる
- インフルエンサーに取り上げられたら一気に認知が広まる
などのメリットがよく挙げられますが、実際にSNSを活用したマーケティング手法は他の打ち手と比べて、どのような点に利点や優位性があるのでしょうか。
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SNSマーケティングは分けて考えること
まずSNSマーケティングを語るにあたって、発信者やその効果について整理した上で話を進めていきたいと思います。
ソーシャルメディアは特殊なメディアで、「誰もが発信できる」という特徴を持っています。それゆえ、ブランド側による発信だけでなく、第三者や愛用者による口コミ(UGC)発信が考えられ、これらを一言で「SNSマーケティング」とくくってしまうのは、リスキーだと捉えています。
最低でも「誰が発信するのか?」と「どのような効果を期待しているのか?」について、それぞれ以下のように分けた上で、SNSマーケティングを考えたほうが良いと思います。
- 発信者
・ブランド自身
・リアルユーザーによる第三者視点 - 期待する効果
・ブランドビルディング(リーチ獲得や好意形成)
・アクティベーション(購買獲得)
よく「SNSマーケティングが上手くいった」「SNSマーケティングが失敗した」という話を聞くのですが、「1」と「2」のどの掛け合わせで行ったのか、そもそもブランドサイドはどのような効果を期待して取り組んだのかが不明瞭なことが多いのが実態です。
SNSをマーケティング手法として活用するためにも、まずは「発信者」と「期待する効果」について、整理した上で進めていくのが得策でしょう。
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SNSの活用は飛び道具になりがち
SNSマーケティングが注目される理由は、その施策がもたらす瞬間的な結果が他施策と比べて非常に大きいからです。
とくにインフルエンサーがブランドとタイアップすると、インフルエンサーが抱えるフォロワーが反応し、大きな話題や購買行動が発生します。
ただし、インフルエンサータイアップは持続力に欠けることが多く、同じインフルエンサーが2回目以降に同じPR投稿や告知をしても、1回目ほどのエンゲージメントが見られないことがよくあります。
たとえば、一般に公開されている決算資料とそのブランドの露出内容を踏まえると、以下のような事例があります。
・露出手段をインフルエンサーに切り替えたブランド
とあるアパレルブランドは、テレビCMを打つことをやめ、若年層に人気のYouTuberとのタイアップに舵を切る。1度目は爆発的な売上・認知度アップに貢献したものの、その後が続かず、現在は再度テレビCMの使用を検討中。テレビ媒体とYouTuber起用では、リーチ力で前者に軍配が上がる結果に。
・マイクロインフルエンサータイアップで売上を急拡大したブランド
ブランド側が商品をマイクロインフルエンサーに配り、人為的に口コミ(UGC)を大量発生させた事例。この事例では実際に売上貢献にまで繋がったものの、1回のお試し買いが多く、売上は頭打ち。タイアップするインフルエンサー候補も減り、限定的な施策にとどまる結果に。
ブランド名は伏せますが、大きなブランドでもインフルエンサーやSNSでの一本足打法で、中長期的には売上が伸び悩んだ事例が既に出てきています。(※決算資料などの公開情報を見ると、意外とすぐに見つけられると思います)
口コミを生み出すには自社によるニュース作りが不可欠
先ほど紹介した事例と比べ、SNSを活用したマーケティングで継続的に成長を続けているブランドにはどのような違いがあるのでしょうか。
結論、「自社主体でブランドについて発信しているかどうか?」に尽きます。『ブランディングの科学2』にはこのような記載があります。
また、絶えず口コミを発生させるためには、人は同じ相手に同じ話題を何度も伝えたいとは思わないため、常に新鮮な話題を提供し続けなければならない。
イチユーザーとして、口コミを発信する人の気持ちになってみるとわかりやすいと思います。誰かに伝えたい口コミは、本人にとっても、受け取るフォロワーにとっても、「価値あるニュース」でなければなりません。
『ブランディングの科学2』の著者バイロン・シャープ氏が指摘しているように、何かしらの形で新鮮な話題がユーザーに届かなければ、UGCは発生しません。そのためにはブランド側が、商品のベネフィットや使い方、新しいタイアップ先などの形で、ユーザーにニュースを届ける必要があり、ブランド側が何もせずUGCだけが自然発生することを待つというのは、神頼みに近いと私は考えています。
<参考にしたい事例>
画像提供:Uand
佐賀にUandという2021年にオープンしたお菓子屋さんがあります。佐賀という立地で、東京と比べ人口が少ない街にもかかわらず、オープンして1年以上経っても行列が絶えないお店です。
このお店が、開店当初(※厳密には開店前)から力を入れていたのがInstagramの活用です。
自社ブランド発信⇔UGC創出の好循環が生まれ、いまでは地方のイチローカル店舗ながら、Uandというハッシュタグは1000件以上Instagramに存在しています。
画像出典: UandのInstagram
そんなUandがいまだに人気であり続けている理由は、お客様からの良質な口コミ発生もさることながら、その原点は自社ブランドからの発信を絶えず続けていることにあると思っています。
ニュース(自社ブランドからの発信)は、ライトなブランド体験とCEP拡大の場となる
『ブランディングの科学2』では、どのようなユーザー層が肯定的な口コミを発信しているかについてのエビデンスも取り上げられています。
「肯定的な口コミを発信している人の71%がブランドコアユーザー、22%がブランド経験者、7%がブランド未経験者であった」という調査結果(East, Romaniuk & Lomax,2011、6カ国の先進国市場と新興国市場での15カテゴリーの平均値)で、ブランドユーザーほど肯定的な口コミを発信する傾向が出ています。
この傾向は当たり前に聞こえると思いますが、ポイントはブランド体験が口コミ創出にとって最重要であると同時に、ブランドを体験する方法は必ずしも購買である必要はないのではないか、ということです。
あくまで私個人の意見ですが、実際に商品を手に取って使ったりせずとも、ブランド発のコンテンツ発信があれば、ライトなブランド体験となり得ると考えています。
仮にそうだとすれば、そのライトなブランド体験の積み重ねがメンタルアベイラビリティ(商品の思い出しやすさ)強化と肯定的な口コミ誘発に繋がるのではないでしょうか。しかもコンテンツの多くは無料で提供されていて、ブランド体験のハードルが非常に低いため、ノンユーザーとブランド体験者を繋ぐ糊代のような役割を担えると考えています。
さらに、ニュース提供によるメリットがもう一つあり、それがCEP(カテゴリーエントリーポイント)の拡大です。
出典:『“未”顧客理解 なぜ「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?』(芹澤連・著、日経BP)
『ブランディングの科学2』では、「商品を利用するきっかけとなるシーンやタイミング」をカテゴリーエントリーポイント(CEP)と呼び、CEP、つまりブランドへの入り口が多いほど、ブランドが想起・利用される確率が高まると語られています。
そして、CEPを増やすことに役立つのがブランドによるコンテンツやニュース発信だと私は思います。新商品発売など物理的にコストのかかるニュースでなくても、ブランドのスタンスや商品にまつわる企画を発信していくことで、目新しく見える話題を定期的にユーザーに提供していくことが大切ではないでしょうか。
自社発のコンテンツ発信でCEPを拡大しているブランドといえば、なんと言っても「北欧、暮らしの道具店」でしょう。
画像出典:株式会社クラシコム「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」
https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/nlsgeu000006hvwd-att/08Kurashicom-1s.pdf
今回のテーマで取り上げてきたように、日々のコンテンツ発信でライトなブランド体験を提供し、さらに複数のソーシャルメディアをフル活用してCEPを拡大する中で、ブランド購入者とブランド未経験者を繋ぐ役割を、日々のニュースが担っている形です。
SNSを活用したマーケティングの結論
これまで見てきた事例、SNS上の口コミを活用したマーケティングの特徴をまとめると、以下のようになります。
表作成:エルモ
個人的な意見を言わせていただくと、短期的にはインフルエンサータイアップやギフティングの効果は計り知れませんが、中長期的に見ると、やはりブランド側からのコンテンツ発信に勝るものはないと思っています。
そもそも『ブランディングの科学2』では、「口コミの量もまたシェア(浸透率)に比例する」という法則が打ち出されており、ブランドシェアが低いのに口コミだけが多い状況を維持するのは非常に難しいはずです。
もちろんSNS上の口コミに限れば、シェアの低い特定のブランドが突出して口コミ(=会話量)が多いという状況は作り出せる可能性もあります。しかしこの場合においても、自社ブランド側による発信量がモノを言うのは間違いなく、ブランド側によるコンテンツはやはり必要不可欠となるのではないでしょうか。
私の予想ですが、ブランドによるコンテンツ発信量と口コミ発生量もまた正比例関係にあるはずで、1度や2度のSNSを活用したマーケティング施策だけでは、売上が持続的に伸びることはまずないと思っています。
むしろ、SNSを活用したマーケティング施策の最大のメリットは、自社ブランドからのニュース提供によるCEPの拡大と、ユーザー同士の会話のネタ提供にあるのだと私は認識しています。
SNS発信に取り組むにあたって、今回の記事が一つでも新しい気づきに繋がれば幸いです。
参考図書
『ブランディングの科学 新市場開拓篇 エビデンスに基づいたブランド成長の新法則』(バイロン・シャープ、ジェニー・ロマニウク・著、前平謙二・訳、加藤巧・監訳、朝日新聞出版)
『“未”顧客理解 なぜ「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?』(芹澤連・著、日経BP)