メンズスキンケアブランド「BULK HOMME(バルクオム)」が男性化粧品市場での存在感を増しています。創業者である株式会社バルクオム代表取締役CEO・野口卓也さんは、2013年、スキンケアに関する知識や経験がほぼゼロの状態からバルクオムを立ち上げました。
それから5年後の2018年にはメンズスキンケア通販部門のハイクラスカテゴリーで売り上げとシェア日本一を達成。最近では、木村拓哉さんを起用したテレビCMが話題となりました。さらに、日本以外にも海外への進出を進めており、野口さんは今後5年以内に世界一のブランドへ成長させたいという夢と熱意を持っています。
短期間で急成長を遂げたバルクオムの成功のポイントと、その背景にあるマーケティング戦略とは何でしょうか。株式会社バルクオム代表取締役CEOの野口さんに話を伺いました。
(取材・文:Marketing Native編集部・岩崎 多、人物撮影:豊田 哲也)
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未経験だけど、初めから世界のトップを狙っていた
――先日バルクオムを取り扱っている小売店をいくつか見て回ったのですが、どこもシャンプーが欠品しているようで、人気の高さを実感しました。ここまで人気のある商品を開発された野口社長は、化粧品業界未経験の状態でバルクオムを2013年に立ち上げられたとのこと。そもそもの創業のきっかけを教えてください。
もともと中学、高校時代から「一旗あげたい」という気持ちが強く、将来は起業したいと考えていました。大学を中退してすぐに最初の会社を立ち上げたのですが、残念ながらうまくいきませんでした。その後、2~3年ほどいくつか他社の事業の立ち上げなどをお手伝いしているうちに、起業に再挑戦したい気持ちが生まれ、どうせやるなら日本だけにとどまらずグローバルを目指すことのできる仕事をしたいと思うようになりました。
そこで、経験ゼロの状態から始めて「世界でNo.1になれる領域はどこか」と自分なりに調査分析して考えた結果、男性向けのスキンケアブランドにたどり着きました。理由はこの領域に圧倒的なリーディングカンパニーが存在しなかったからです。
――圧倒的な企業が存在しなかったということは、それだけNo.1になるのが難しいからではないでしょうか。
マインドシェアという言葉がありますが、第一想起を強く取っているブランドが存在しないことをチャンスだと考えました。
有名なたとえ話があります。海外に出かけた靴の営業マンが裸足で歩く人が多い国に行ったとき、「市場がない」と見るのか、「チャンスが大きい」と考えるのかで、2つに分かれるというものです。私は先行者がいなければいないほどチャンスが大きいと捉えるほうなので、ポジティブに考えることができました。
――バルクオムのバルクとは、化粧品業界では「容器に充填する液体」を表し、中身の品質へのこだわりを象徴したブランド名であると聞きました。未経験で高品質なプロダクトをなぜ開発できたのですか。
私は未経験者のほうが良いプロダクトを開発できると考えています。理由は常識やバイアスにとらわれず、作ったものを客観的に評価しやすいからで、未経験者のほうがむしろ望ましいとさえ思います。
非常に高い品質の商品でなければ、ライトユーザーが「良い商品だ」と価値を感じ取ることはできません。私自身が普段から化粧品をたくさん使うヘビーユーザーではないからこそ、スキンケアに興味のない人の気持ちが理解できます。ですから、ライトユーザーが感じ取るしきい値がわかるのです。
まだ男性のスキンケアユーザーは少なく、美容意識の高い一部の人に限られています。私はこれから新たに男性のスキンケアユーザーを増やしていこうと考えていますので、今後もライトユーザーならではの強みを活かし、一般ユーザーの感覚を大事にして商品を開発していきたいと思います。
――商品を開発するにあたってのこだわりのポイントを教えてください。
こだわりのポイントは大きく分けて2つあります。
1つは品質です。これは知覚の可否によって2種類に分けられますが、どちらも重要です。知覚できる品質とは、使用感とも呼ばれるもので「使ったときに良い感じがする」というようなユーザーが感じ取るファジーな感覚です。一方、知覚できない品質とは、例えば「保湿成分が肌にどのように働いているか」など感じ取るのではなく、情報として受け取る品質のことです。
もう1つは「Wowファクター」と呼んでいるのですが、サプライズのある使い心地です。バルクオムの商品ならではの特別な使用感がないと、他社の商品群と同質化して、ユーザーに選ばれ続ける理由が希薄化してしまいます。具体的に申し上げると、おかげさまで品薄の状態が続いているバルクオムのシャンプーの場合、液体ではなくゲル状になっていて、ブヨッと出てくる触感にオリジナリティがあります。頭皮を気持ちよく洗うことができるシャンプーは数多く存在しますが、この独特な触感を持つ類似商品は世の中にあまり存在しません。そのため、気に入ってもらえると息が長い商品になります。
逆に、現段階でそれほどこだわっていないポイントもあります。それはユーザビリティです。先ほどのゲル状のシャンプーで言うと、粘度の問題からポンプ式のボトルは使用できないため、やや使いづらい面があるかもしれません。ただ、「最低限のユーザビリティさえ担保できていれば、品質の高さに勝るベネフィットはない」と考えています。バルクオムの「品質重視」は、他のことを犠牲にしてでも最高の品質のものを作ることと定義づけているため、現状、使いやすさは優先課題になっていません。
――バルクオムを立ち上げる際に参考にされたブランドは何ですか。
化粧品のブランドではありませんが、イメージとして社員に伝えているのはレッドブルです。
我々はできる限り商品を厳選し、バリエーションを少なくして、世界での売り上げシェアを多く獲得していきたいです。ここ20年くらいのスパンで捉えると、その思想で成功しているブランドのひとつがレッドブルです。レッドブルが企業として成長した規模やスピードは、バルクオムが目指す会社の成長イメージに近いと感じています。
商品のバリエーションを増やして一時的に売り上げを嵩増しすることは簡単ですが、レッドブルはそうした安易な選択は取りません。バルクオムも同様に「1カテゴリー1アイテム」と決めており、洗顔料やシャンプーなど、カテゴリーごとに商品の種類を1種類だけに抑え、バリエーションを作らないというルールで展開しています。
――なぜ商品のバリエーションは少ないほうが良いのですか。
経営的に資本効率がいいという面もありますが、お客様にわかりやすい選択肢を示したいからです。
バルクオムはもともと私がいわゆる化粧品マニアではないところから着想したブランドです。その視点で考えると、わかりやすく正解を提示してくれるブランドがユーザーには便利です。「1カテゴリー1アイテム」と決めることで、お客様に「迷わせたくない」という思いが強くあります。
好転した理由は、泥臭い施策の積み重ね
――これまでに成功したと感じるマーケティング施策はありますか。
成功した施策は…ないですね。2013年から最初の2年くらいは何をやっても鳴かず飛ばずでした。失敗した施策なら100個くらいお伝えできます(笑)
――失敗した施策からどんな気づきを得られましたか。
それもないですね。本当にただしんどい思いばかりでした。
――では、なぜ創業から2年ほど経ってから事業が好転し始めたのでしょうか。
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