「都心の好きな場所に気軽に住める」「外泊したら月の家賃が下がる」――。賃貸の暮らし方を大きく変える新サービスが注目されています。平日は都心、週末は郊外の住まいといった二拠点生活に代表されるように、コロナ禍の長期化でライフスタイルは多様化しつつあります。そんな中、これまでにない物件マッチングサービスによって新しい暮らし方を提供しているのが「unito」です。2020年6月にサイトの運営を開始し、1年で売り上げが2億円超と人気を集めています。瞬く間のヒットはいかにして実現されたのか。斬新なビジネスモデルや収益化の方法などとあわせ、同サービスを手掛ける、株式会社Unito代表の近藤佑太朗さんとCMOの玉木崚爾さんに話を聞きました。
(取材・文:Marketing Native記者 百瀬康司)
目次
家賃を変動費に変え、イノベーションを実現
賃貸住まいでは家賃を毎月支払います。家計の中で家賃の占める割合はもっとも高いと言われています。この固定費である家賃を“変動費”に変え、暮らしの最適化に挑んだのがunitoのサービスです。代表の近藤さんは、サービスの概要について次のように説明します。
「unitoは、必要なときに必要な日数だけ暮らせる物件を提供するWebマッチングのシステムです。契約した物件は使った分しか家賃がかかりません。つまり必要最低限の支出ですむわけです。しかも、都心の快適な部屋を選べて、敷金・礼金、水道・光熱費、更新料・退去費用すべて0円。家具・家電、Wi-Fi付きで、1カ月から契約できます。家賃や暮らしのイノベーションを実現した新サービスです」(近藤さん)
出典:unito(https://unito.life/)
家賃は使った分だけ発生し、都心に明日からでも住めるなど、従来の賃貸スタイルと仕組みが異なるのは明らかです。それだけに、ピンとこない人もいると思います。unitoを利用した具体例を紹介しましょう。
unitoのサイトに掲載されている全国約7000室のうち、5000室以上が東京、神奈川、千葉、大阪、福岡、札幌など政令指定都市の都心の物件です。ユーザーは同サイトを通じて物件をリサーチし、気に入ったらその場で契約を申し込めます。
驚きなのはここからです。例えば東京都内で、家賃10万円の物件を契約し、「実家に帰る」「恋人や友人の家に泊まる」などのさまざまな理由で月に10日、15日と部屋を空けたとします。するとその日数分の家賃が差し引かれ、10万円から9万円、8万円…と下がっていくのです。
「家賃を下げられるのは、外泊中に、居住者がいない部屋を“ホテル”として貸し出すからなんです。貸し出した分、家賃を割引する『リレント』という料金システムを日本で初めて採用しました。ユーザーは専用のアプリケーションを使い、外泊する3日前にスマホから申請すればOK。あとは自動的にその部屋が在庫となって楽天トラベルなどの旅行サイトに掲載される流れです。部屋の清掃はスタッフが行い、荷物の管理やセキュリティ面なども徹底しています」(近藤さん)
画像提供:株式会社Unito
また、unitoで提供される物件にも秘密があります。ユーザーが選ぶ部屋はホテルか民泊用の住宅なのです。しかもホテル事業者にはリッチモンドホテルやコンフォートホテル、安心お宿など全国チェーンの大手企業もいます。ビジネスホテル、シティホテル、ドミトリーの空室が物件として掲載され、マッチングしたその部屋に住めるという仕組みです。
「僕たちは旅行業免許を取得し、旅行代理店の形態をとっています(民泊の仲介に必要な免許も取得ずみ)。ですからユーザーがホテルを選んだ場合、賃貸契約ではなく宿泊契約を結んでもらいます。普通にホテルに住むとなると、1泊の宿泊費用×日数の計算で月に家賃の倍以上のお金がかかってしまうことも多い。そこを僕たちのモデルなら使った分だけですむので、リーズナブルかつ手軽にホテル暮らしができるんです」(近藤さん)
▲unitoで住める住居の例。画像提供:株式会社Unito
潜在的なニーズに気づいてもらうのに苦戦
unitoの事業に行き着くまでには紆余曲折あったという近藤さん。クロアチアのビジネススクールに留学後、国内の複数のスタートアップでインターンをし、2017年1月に起業。当初は宿泊施設を国内外に作り、泊まり放題のサブスクリプションサービスを展開しました。しかし手間と時間を要して、収益性も低いことから事業を売却し、新たな道を模索します。
「そのときに思いついたのがリレントのシステムです。当時は物件の買い付けのために全国を駆け回り、都内のワンルームの住まいに帰れるのは月の半分くらいでした。けれど家賃は半値にならず、きっちり取られることを不合理に感じたんです。そこで、この賃貸の課題をリレントで解決するアパートメントホテルの開発・運営に事業を方向転換し、再出発しました」(近藤さん)
再スタートは2020年2月。しかしその直後、新型コロナウイルスの猛威が襲い、都内にオープンしたアパートメントホテルは集客が困難になり、事業は再び壁にぶつかります。
「いまは自社所有の物件で勝負するのは難しい。そう見切りをつけ、プラットフォーム事業のunitoに切り替える意思決定をしたのが正解でした。もしリアル物件にこだわっていたら、会社はきっと潰れていたでしょう」(近藤さん)
もともと近藤さんの頭には、ホテルの乱立を危惧するマーケットの課題がありました。unitoの構想はそこが原点です。2019年頃、都市部でホテルの建設ラッシュが始まり、やがて一泊あたりの宿泊単価は値崩れを余儀なくされるようになります。
「例えば、横浜に大型のホテルが建った際、横浜のホテル全体の平均稼働率が10%下がったと指摘されました。同様のことは他の都市部でも起きていて、東京五輪が終わったら市場は飽和し、崩壊する可能性がある。ユーザーとホテルの空室をリレントでつなげるのはそのときだと読んでいたのですが、コロナによってホテルの圧倒的な供給過多のタイミングが早まったため、unitoの始動を前倒ししたわけです」(近藤さん)
その判断は見事的中し、インバウンドや出張マーケットの減少により空室を抱えるホテル事業者の多くが、unitoの提案を前向きに検討してくれたと言います。
「主に電話で営業をかけました。ホテル側の課題感が大きかったため、電話をかけたうちの約3割がサイト掲載を了承してくれました。前述した有名ホテルが名を連ねたのもあり、加速度的に提供できる掲載部屋数が増えていきました」(近藤さん)
一方でユーザーの獲得には苦戦を強いられたと、CMOの玉木さんは話します。
「必要なときに必要な日数分だけ住むというニーズは、表面化しているようでしておらず、潜在的なままだったのだと思います。従来の賃貸は月30日間ずっと住み続けるのが当たり前ですから。その牙城を崩し、unitoのニーズに気づいてもらうのに苦労しました」(玉木さん)
どのようにユーザーへ訴求していったのでしょうか?
「当初実践したのはFacebook広告です。しかし、あまり効果は得られませんでした。unitoの利点が伝わりにくかったのかもしれません。そこでブランディグとPRに注力しました。いきなり『外泊したら家賃が下がる』とアピールしても伝わりづらいため、『月10万円以内で話題のホテル暮らしができる』『週3日から住める家』など刺さりやすいキーワードを盛り込んだランディングページを作り、訴求していきました。一方でカスタマーチームが丁寧にヒアリングし、ユーザーに『その暮らし方ならこの部屋でも月〇万円で住めますよ』といった感じで最適な提案をできたのも大きかったと思います」(玉木さん)
こうして会員ユーザーは次第に増え、約4300人に。流通総額ベースの売り上げは約2億3000万円に到達しました(2021年4月時点)。
収益モデルの利点を直営施設の実績でアピール
unitoのユーザー層は大きく3つに分かれます。以下その特性を紹介します。
1:学生や新社会人
都心近郊の実家で住むものの、通学・通勤で不便を感じている。しかし、高い家賃を払って都心に住む経済的余裕がない
2:30~50代のビジネスマン
地方在住で東京、大阪などへ定期的に出張している。ウィークリーマンションなどを借りるのも手だが、それより安く、必要なときに必要な分だけ住める拠点を求めている
3:多拠点居住者
ワーケーション、出張、旅行など、独身富裕層が、新しい暮らし方の拠点のひとつとして活用する
1、2の層はもともとあった課題を解決するunitoに魅力を感じ、3の層はコロナ禍で広まりつつある多様な暮らし方にunitoがマッチしたと言えます。ユーザーの男女比は7:3。「男性は身軽な人が多い。実家とunitoなど二拠点暮らしを受け入れやすいのでは」と近藤さんは分析します。
次にunitoの収益モデルを紹介します。収益の源は手数料収入です。月の実質家賃に対し、ユーザーから7%、ホテルなどの物件を持つオーナーから8%、計15%を得ています。
例えば、家賃設定が12万円のunitoがあったとします。リレント割引が2万円で実質家賃が10万円だった場合、ユーザーから7%の7000円、オーナーから8%の8000円を得て、計1万5000円が入るという仕組みです。「賃貸物件の仲介手数料は基本、家賃1カ月分で1回きりです。対してunitoはサブスク型でユーザーの契約が続く限り手数料をもらい続けられる」と近藤さんは話します。
画像提供:株式会社Unito
プラットフォーム事業が軌道に乗り出したのを見て、直営のunito施設の開発・運営も始動しています。2021年8月時点で、渋谷、恵比寿、汐留など都内5拠点、約100室まで拡大しています。そのひとつ、「リレントレジデンス渋谷」は東急株式会社と共同開発したものです。
「unitoによる“住む”と“泊まる”の“二毛作”で、不動産の収益を最大化させたい」と語る近藤さん。二毛作で稼働させる利点を次のように語ります。
「都心好立地のホテルは、“泊まる”だけでの稼働より、unitoを導入して“住む”と“泊まる”で稼働したほうが収益性で勝ります」(近藤さん)
例えば、泊まるだけの場合、1泊7000円の宿泊施設の1部屋あたりの売り上げ、稼働率60%で月12万6000円。これが最大値です。
対してunitoを導入した場合は、家賃は月12万8000円の設定、外泊8日でリレント割引1日あたり2500円となり、「12万8000円−2500×8日」で売り上げ10万8000円。宿泊料は1泊あたり7000円、8日に対する稼働率60%で売り上げ3万3600円。あわせて月14万1600円が最大値になります。
- 泊まる 12万6000円(1部屋あたりの月売上)
- 住む+泊まる 14万1600円(同上)
どちらが有利かは明らかです。
画像提供:株式会社Unito
「unitoではユーザーの外泊日、空いた部屋のホテル利用者がいなかったとしてもリレント割引は適用されます。それを考慮した値引き額を設定しているからです。ユーザーにとっては家賃が少しでも下がればうれしいですし、ホテル運営側にとっても損にはなりません」(近藤さん)
これらが数字上だけの話なら机上の空論で終わります。しかし、そう受け取られないための武器がありました。
「unitoの直営施設を自分たちで運営することによって実績を証明できたのは大きなポイントでした。その裏付けをアピール材料にして良質な物件が揃い、ユーザーの拡大、東急さんとのリレント施設の開発といった好循環を生んだと思います」(玉木さん)
物件マッチングのプラットフォーム事業と、それをうまく機能させる直営施設事業。IT+不動産の企画・開発・運営という2軸の強みを持っていたがゆえに、これまでなかったunitoのビジネスモデルはブレイクスルーを起こしたのです。
「都心の賃料が高いのは世界共通だと思います。将来的にはニューヨーク、サンフランシスコ、ロンドン、シンガポールなど世界中の都市でunitoのプラットフォーム事業を展開したり、日本の大手デベロッパーとリレント物件を開発したりしたいです」(近藤さん)「下北沢や中目黒、湘南など、どこでも住みたい場所で住める暮らし方をunitoで実現したいです」(玉木さん)と今後のビジョンを思い描く二人。現実となる日はそう遠くないのかもしれません。
▲株式会社Unito代表の近藤佑太朗さん(右)とCMOの玉木崚爾さん(左)。画像提供:株式会社Unito