インタビュー
2021.07.06

注目のコーヒーサブスク「PostCoffee」が行う、ユーザーを引きつけ、解約を防ぐ取り組みとは?――POST COFFEE代表・下村領インタビュー

CEO Interview #11

POST COFFEE代表取締役

下村 領

毎朝コーヒーが欠かせないという愛好家は多くても、「スペシャルティコーヒー」の存在をご存じの方は意外と少ないかもしれません。

日本ではまだあまり知られていないスペシャルティコーヒーに「ビジネスチャンスあり」と見て、スタートアップを立ち上げたのが「PostCoffee」を運営するPOST COFFEE代表の下村領さんです。

2020年2月に正式版をローンチしてから多くのメディアに取り上げられ、ユーザー登録者数は約25倍に増加、これからさらなる事業拡大が期待されています。

下村さんはなぜスペシャルティコーヒーに目を付け、ここまで事業をどのように拡大させてきたのでしょうか。

今回はPOST COFFEE代表の下村領さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)

目次

「コーヒー×サブスク」に商機を見いだした背景

――PostCoffeeをまだ知らない人もいると思いますので、あらためて下村さんからサービスの特徴やセールスポイントを教えてください。

PostCoffeeはお客さまに受けていただいたコーヒー診断の結果を基に、好みに合わせたコーヒーボックスが定期的に届くサブスクリプションサービスです。特徴は約15万通りの組み合わせの中からお客さま専用にカスタマイズされた3種類のコーヒーがボックスに入って届くことと、最初のボックスに折り畳み式のドリッパーが付いているので、お湯とマグさえあれば、すぐに自分にぴったりのコーヒーライフを楽しめるところにあります。

セールスポイントは国内最大級のコーヒー豆のラインナップを揃えていることです。国内屈指のロースターさんに加えて、海外のロースターさんの豆も取り扱い始めていて、約45種類の豆の中からお客さまの好みに合わせたコーヒーをお届けしています。高品質のスペシャルティコーヒーがこれだけ数多く揃っているのは今のところPostCoffeeくらいなので、競合優位性になると思います。

――コーヒーのサブスクサービスで事業を立ち上げたきっかけを教えてください。なぜリアル店舗ではなく、テクノロジーを駆使したサブスクにしたのか、海外を含めてベンチマーク企業はあったのかなど、いかがですか。

私はもともとデザイナー兼エンジニアとして、デジタルクリエイティブの制作会社を16年ほど経営していました。並行してスタートアップのCTOを務めていたほか、東京・渋谷で3年ほどコーヒーショップの経営も手掛けていました。

コーヒーショップでは私もバリスタとして店頭に立ち、コーヒーを淹れてお客さまに提供していたのですが、そのときに1つ課題感を覚えました。それはほとんどの人が美味しいコーヒーを知らない、美味しいスペシャルティコーヒーを飲んでいないということです。

――どういう意味ですか。自分もコーヒーが好きで、美味しいコーヒーを飲んでいるつもりなのですが。

日本は1人あたりのコーヒー消費量が世界4位(※)と、コーヒーを大量に飲む国ですが、スペシャルティコーヒーの流通量は国内全体の10%程度にとどまっています。

※輸入国の順位。1位:ノルウェー、2位:スイス、3位:アメリカの順。
【引用】全日本コーヒー協会


――スペシャルティコーヒーとは何ですか。

大きく2つの特徴があって、1つは完璧なトレーサビリティがあること。もう1つは日本スペシャルティコーヒー協会で有資格者によるテイスティングなどの検査の結果、美味しいと認められていることです。

▲画像提供:POST COFFEE株式会社

――では、自分たちは普段、何を飲んでいるのですか。

量販店などで販売されている「コモディティコーヒー」や「コマーシャルコーヒー」、主にインスタントコーヒーなどに使われる「ローグレードコーヒー」ですね。美味しいスペシャルティコーヒーの存在自体が日本ではまだあまり知られていないので、ビジネスとしてチャンスがあると感じました。

ただ、街のコーヒーショップ1店舗だけで「日本人の多くは美味しいスペシャルティコーヒーを知らない」という課題を解決するのは困難です。そのため自分の強みであるデジタルやクリエイティブのノウハウを使ってスタートアップの形で立ち上げればスケーラブルでスピーディにビジネスを展開できると考え、PostCoffeeをスタートさせました。

ベンチマークという点では、アメリカでワインのサブスクサービスを行うスタートアップがいくつか立ち上がって成功しています。「毎日飲む」「嗜好品」という点は同じと考えると、自分が好きなコーヒーでもうまくいくはずだと考えました。

――ユーザー登録数や属性を教えてください。

ユーザー登録数は非公開ですが、β版を始めた2019年3月から正式版をローンチした2020年2月までの1年間と比べると、約25倍に増えました。男女比は4:6で女性のほうが少し多めです。

女性の割合が少し多いのは、Instagramを活用したマーケティングに積極的に取り組んでいる効果が出ているのだと思います。年齢層は25~35歳が最も多く、次が35~45歳。沖縄から北海道まで日本の人口分布に沿ってユーザーも点在しています。ほかに特徴としてはコーヒー以外の趣味を持ったお客さまが多く、例えばキャンプ、自転車、インテリア、料理、音楽などに興味を持たれているようです。

オン・オフ同時ローンチでメディアの注目を獲得

――会社の設立が18年9月、β版が19年3月、正式版と実店舗の同時ローンチが2020年2月と順調に来ている印象ですが、ユーザー数が急激に伸びたタイミングはありますか。

正式版と実店舗を同時ローンチしたすぐ後に最初の緊急事態宣言(2020年4月)が来まして、そこで急に大きく伸びました。いわゆる「巣ごもり消費」の影響だと思います。ただ、影響はそのときだけで、あとは着実に伸びている感じです。

――緊急事態宣言発令のタイミングと合ったことでサブスクのほうは良い影響が出ても、同時オープンした実店舗には水を差したのではないですか。

そうですね。もともとコーヒーショップを経営していた経験からオフラインの実店舗を通したリアルチャネルを重視したいと考えていましたので、その点は影響がありました。具体的には体験型の店舗のような形をイメージしていて、来店したお客さまに自分のスマホでコーヒー診断をしていただき、選ばれた3種類のコーヒーをバリスタと一緒に淹れる体験をして、最後に自分のオリジナル・コーヒーボックスを持って帰るお店です。

もっとも、実店舗で計画していたことができなくなったときに、同じような施策を全面的にオンラインへと切り替えましたので、業績面への影響はほとんど受けていません。

――最初の認知はどのように獲得したのですか。

認知の獲得は本当に大変です。β版のときは知り合いに声をかけて口コミで地道にお客さまを増やそうとしたのですが、非常に効率が悪かったと反省しました。そこで正式版ローンチのときはPRに力を入れることでさまざまなメディアに掲載してもらうべく取り組みました。

コーヒーショップ経営の経験から実店舗のほうが「形」を示せる分、メディアに取り上げられやすいと感じていましたが、最初のコロナ禍で世の中が緊張状態にあるときに、オンラインとリアルの実店舗を同時にローンチしたことが注目され、多くのメディアに取り上げていただくことができました。その結果、早い段階でアーリーアダプター層に知っていただけましたので、タイミングに合わせたPRの効果は大きかったと思います。

ほかには広告運用にも力を入れています。β版のときに広告運用の手応えを感じましたので、正式版のタイミングでも使わない手はないと思い、現在も積極的に行っています。費用はかかりますが、今のところ認知獲得からコンバージョンという点も含めて一定の効果は上がっています。

――広告は主にリスティング広告やInstagram広告、Facebook広告ですよね。狙う検索キーワードは「スペシャルティコーヒー」ですか。

「スペシャルティコーヒー」という言葉自体、まだほとんど知られていないんです(笑)。「スペシャルティコーヒーで効果が薄いのであれば、次は『美味しいコーヒー』でやってみよう」「『コーヒーライフ』ならどうか」といろいろと試して、常に最適化を図っています。今のところ「コーヒー サブスク」の第一想起だけは絶対に外せないですね。

解約者を減らす取り組みとSNS運用の考え方

――今は会社に勢いがあり話題も豊富なので取材もたくさん来ているようですが、ここまでで苦労した点はありますか。

常に苦労しかないです。一番苦労しているのは「ユーザーの解像度をどこまで上げられるか」ですね。競合もいくつか現れていますが、この点は他社より頑張っていると自負しています。

――顧客解像度を上げると、どのようなメリットがあるのですか。

プロダクトの改善、顧客とのコミュニケーションの仕方、広告運用、期待値調整、解約防止など全ての点で非常に効果的だと思います。

解像度を上げる方法としてはコーヒー診断のほかアンケートも取りますし、ユーザーインタビューも月に5~10人、1人1.5時間くらいかけて行っています。解約者にも積極的にインタビューしますので、本音ベースの話を聞くことができ、大変有益です。

――解約理由で多いのは何ですか。

一番多いのは価格面ですが、そこは結局、期待値調整が不十分であることを示しているだけなので、もっと本質的な解約理由の発見に注力しています。

これまで以上に力を入れていきたいのは、コーヒーに関する基礎知識や楽しみ方、付き合い方をきちんと伝えることです。日常生活におけるコーヒーライフの楽しみ方がもっと伝われば、解約も減っていくと思います。

――コーヒーの楽しみ方を伝える方法の1つがWebサイトで連載している「MAGAZINE」ですね。ほかにSNSの運用もInstagramやTwitterを中心に力を入れているようですが、実際にコンバージョンに結びついた例はありますか。

「MAGAZINE」はコンテンツマーケティングによる短期的な成果を狙ったものではなく、中長期的な視点でユーザーのナーチャリングを目的に運用しています。

InstagramやTwitterはこれまでいろいろなパターンを試してきて、Instagramはブランドや世界観をパッと見で伝えるツールとしての使い方が一番良いという考え方で落ち着きました。それまではインスタメディア化しようなどと試みたのですが、自分たちのブランドにはしっくりきませんでした。

弊社はInstagramを使ったマーケティングに力を入れていまして、Instagramのアカウントに移動したときに単に美味しいコーヒー屋さんというイメージだけでなく、ユーザーがどこか憧れを感じるようなコーヒーカルチャーを一緒に伝えることが重要だと考えています。理由は「このコーヒー美味しいですよ」と勧めるだけではユーザーを獲得する接点としては弱くて、ファッション感覚、衝動買いレベルで購入を促せるクリエイティブにすることが重要だと考えるからです。そのため、「おしゃれで高級感があっていい感じだけど、1500円で買えるのか」とパッと見で伝えられるようにクリエイティブを設計しています。

▲PostCoffeeのInstagramにアップされた画像(※提供:POST COFFEE株式会社)

一方、Twitterはお客さまとのコミュニケーションを重視する運用をしていて、UGCにリアクションしたり、コーヒーボックスに同梱する小雑誌の中でUGCを紹介したりしています。

▲画像提供:POST COFFEE株式会社

サブスクの継続を促すポイントと「定期便」との違い

――サブスクというと、初回の顧客満足度がポイントだと思うのですが、初回の満足度を高めるために工夫していることはありますか。

初回だけではなく全体的に気をつけていますが、あえて初回に限定すると、全体のユーザー体験を向上させるためにドリッパーをプレゼントしたり、美味しい淹れ方を教えたりするため、初回にお届けするコーヒーボックスはボリュームがたくさんあります。初回に届いたコーヒーを飲んだらアプリでフィードバックができる仕組みになっていますので、翌月届いたときには期待を少し上回る仕掛けになっています。これが継続を促す1つのポイントです。

その際、注意したいのは相反するように聞こえるかもしれませんが、期待値調整です。期待をさせすぎず、期待を裏切らないところをしっかりと意識しています。

――「期待をさせすぎず、期待を裏切らない」とはどういう意味ですか。

例えば、アプリにはリクエスト機能がありますが、次回のお届け時に必ずしもリクエストしたコーヒー豆が入っているわけではなく、入っているかいないかはわからない仕組みになっています。リクエストしたら絶対に入ってくる決まりだったら、入ってこないと不満につながりますが、入ってくるかどうかわからない前提であれば、入ってきたときに期待を上回りますし、入っていなくてもそれほど期待を下回ることはありません。

もう1つのポイントとしては、箱を開けるまでどんなコーヒーが入っているかわからないようにしていることです。我々は今までに届いたことのない、初めて出合うコーヒーの新鮮な味わいを感じていただけるように設計していますので、何が届くかは箱を開けるまでのお楽しみというわけです。

――そういう工夫や努力があって2020年の「日本サブスクリプションビジネス大賞」の受賞につながったと思うのですが、ご自身ではどういう点が認められたとお考えですか。

β版をリリースした頃は、サブスクという言葉自体、あまり一般的ではありませんでした。その頃から弊社は「これはサブスクであって、普通の定期便とは違う」と言い続けてきたのが良かったのかなと思います。

――サブスクと普通の定期便はどこが違うのですか。

コーヒーを届けるだけなら容易ですが、コーヒーの楽しみ方やコーヒーライフの豊かさなどコーヒーにまつわるストーリーまで一緒に届けるのがサブスクだと思っています。そうした点での顧客体験設計をきちんと作ってきた点を評価されたのかもしれません。

――コーヒー診断で貯まったデータは貴重ですよね。次月のコーヒー豆の選定やプロダクト改善、お客さまのニーズの把握などいろいろな活用の仕方があると思いますが、それとは別に「日本人らしいな」と感じる特徴はありますか。

コーヒー診断は30万回超のデータがあり、プラスお客さまから頂いたフィードバックのデータも全部蓄積しています。この点はこれから事業を拡大していく上で弊社の大きな資産になると思います。

日本人の好みの特徴で言うと、喫茶文化の根強さを感じます。やはり深煎り好きな方が多いですね。ただ、それは浅煎りの美味しさに出合っていないからだということもわかりました。お客さまのリクエスト以外の豆をお届けするのは、まだ出合ったことのない美味しさを知っていただきたいという思いを込めています。

コーヒー周辺器具の取り扱いとアジア展開の目標

――ありがとうございます。では、最後にPostCoffeeが目指す短期・中長期の目標を教えてください。

短期・中期の目線で言うと、美味しいコーヒーと消費者の距離を可能な限り縮めるためにPostCoffeeをコーヒー版ZOZOTOWNのようなマーケットプレイスにしたいと考えています。日本はもちろん、世界中に美味しいコーヒー店やコーヒー豆が存在するのに、今は距離が遠くて、探さないと手が届きません。そんな不便な状態から、PostCoffeeにアクセスすれば、世界中どこのコーヒーでも容易に手に入るようにするのが短期・中期の目標です。

弊社の特徴は全ての豆を均一料金で、かつ送料無料で最短翌日投函することですから、美味しいコーヒーと消費者の距離を最短距離で縮めることが可能だと思います。

それと並行して、個人的にはリアルチャネルを重視したく、全国でPostCoffee主催のコーヒーフェスを開催したいと考えています。コーヒーフェスの開催によって、美味しいコーヒーの認知も広がるし、弊社のサービスのコンバージョンにもつながるはずです。そういう意味でリアルチャネルを早く展開していきたいですね。

長期的な目線ではアジアでの展開です。台湾、韓国、インドネシアをはじめ、アジアはスペシャルティコーヒーのマーケット成長率が非常に高くて、ものすごいスピードで拡大しています。一方で、目立つサブスクサービスやマーケットプレイスはまだ存在していないので、アジア展開は早めに行いたいと思います。

――コーヒー以外の水平展開などはお考えですか。

コーヒー一本でいきます。そこが他のスタートアップと少し違うところではないかと思います。実は最初は日本茶でスタートアップの立ち上げを考えていました。日本茶ならジャパニーズブランドでグローバル展開しやすいと思ったからです。

でも、自分はほとんど日本茶を飲まないんですよね(笑)。一方、自分の好きなスペシャルティコーヒーはマーケットが小さいので大丈夫かと当初は迷いもあったのですが、結局自分が一番楽しいと感じることに集中すべきだと思い、PostCoffeeの立ち上げに至りました。

もう1つこれから注力していきたいのが、ドリッパーやサーバーなどコーヒーの関連器具の取り扱いやオリジナル関連器具の開発です。今まではコーヒー豆だけでしたが、これからはコーヒー関連器具にも手を広げつつ、コーヒーライフ、コーヒーカルチャー全体を通して、スペシャルティコーヒーなら絶対に負けないという一点で勝負していきたいと思います。

――本日はありがとうございました。

Profile
下村 領(しもむら・りょう)
POST COFFEE株式会社代表取締役。
1999年フリーランスのWebデザイナーとして独立。2005年にデジタルクリエイティブ制作を手掛ける株式会社ヘレティックを設立。自身もデザイナー兼エンジニアとして16年経営後,スタートアップ企業のCTOを経験。2015年スペシャルティコーヒー専門のコーヒーショップを渋谷にオープン。2018年9月PostCoffee創業。

早川巧

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
Twitter:@hayakawaMN
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