[最終更新日]

2019/08/14

 

マッチングサービスのマーケティング戦略解剖(後編) イケてるビジネスパーソンがこぞって使うyentaの計り知れない魅力

後編は完全審査制AIビジネスマッチングアプリ「yenta」を取り上げます。2016年1月のリリース以来、「人脈が広がった」「ビジネスパートナーが見つかった」「起業できた」というユーザーからの圧倒的な支持を受けて急成長、累計マッチング数は約200万に到達しています(2019年5月現在)。

「人脈」「ネットワーキング」というと、怪しげなイメージを持つ人も少なくなかった状況下で、yentaはどのように先入観を打ち破り、ここまで成長してきたのでしょうか?そして、これから打って出る巨大な市場とは?

yentaの運営会社である株式会社アトラエ取締役CTO、岡利幸さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧)

    

目次

知性の流動化から生まれるイノベーションへの期待

――開発のきっかけを教えてください。

採用サービスを中心にビジネスを展開しているアトラエの新規事業としてyentaを立ち上げました。もともと我々には、「ヒューマンリソースこそが日本のビジネスを支える貴重な宝なのに、採用側と転職希望者を結びつける人材マッチングくらいしか存在しないのは社会的な損失だ」という思いがありました。そこで、「もっと広義の意味でビジネスパーソン同士の出会いを活性化させる仕組みを作れば、知性の流動化が起きて、大きなイノベーションを起こせるのではないか」と考えたのが開発のきっかけです。

株式会社アトラエ取締役CTO、岡利幸さん(撮影・早川)

――ユニークなアイデアですね。

例えば、私も最初は営業としてキャリアをスタートしていて、途中からエンジニアになって現在CTOを務めています。ただ、営業時代にもっとさまざまな業界の人たちと接点を持ち、Web上にはなかなか出てこないノウハウを得られる仕組みがあれば、もう少し早く新規事業を立ち上げられたり、一緒にコラボレーションする会社が見つかったりしていたと思うんです。そんなケースは昔も今もたくさんあるでしょう。

これまでは、面白そうな人を見つけても、イベントなどに出かけて話しかけるところから始めたり、特別な人脈を探して「この人を紹介してくれないか」とお願いしたりするのが一般的でした。しかしその方法は不確実性が高い上に、コストもかなりかかります。それではせっかくのヒューマンリソースが宝の持ち腐れになってしまうので、もっとプロフェッショナル・ネットワーキングの仕組みを進化させて、新たなビジネスマッチングの仕組みをインフラとして作りたいと考えました。

画像提供:株式会社アトラエ

リリース直後に成果を上げた施策とUXへのこだわり

――ビジネスマッチングという概念が現在のように幅広く浸透するまでには、いろいろ大変なことがあったと思います。そのあたりマーケティングとしてどのような施策を取ってきたのでしょうか?

まずブランディングの一環として、yentaとはどんな人たちがどのような目的で利用するアプリなのか、言葉で表現しなくても伝わるような仕組みを作りたいと思いました。そこで、リリースのタイミングで自分たちとつながりのあるビジネスプロフェッショナルを500人ほど集め、「yentaを使ってください」とお願いしました。

――どういう基準で500人を選んだのですか?

シンプルに言うと面白い人です。

――面白い人?

純粋に「すごく攻めているなあ」とか「ぜひ他の人にも会ってほしい」と感じた人たちです。

――よく集めましたね、500人も。

そうですね。ただ、500人に使ってもらうだけで終わっては1カ月も経たないうちに飽きられるおそれがありましたので、yentaを使用した感想や使い方を聞いて成功事例のコンテンツを作成しました。もともと攻めている人たちですから、我々が取材しなくても、自分たちで「yentaで人脈が広がった」「興味のある人に出会って、ビジネストークに花が咲いた」というような感想をたくさんネットに上げていただけました。その後プレスリリースを出したところ、数千人規模で会員数が増えました。

――会員数を増やすにあたって、こだわった点などはありますか?

UXにはこだわりました。初めは「ビジネスマッチング」や「ネットワーキング」と言われても、警戒されるのではないかと不安でしたが、潜在的なニーズは強いという確信はありました。それは、会社以外の人と普段接点がなく、社外の人とコミュニケーションを取りたいと考えている人は相当数に上るだろうと思ったからです。

そこで、yentaに登録してプロフィールを公開すると、大体24時間以内に「興味あり」というレポートが複数送られるようにしました。普段生活をしていて、有名企業を含むさまざまな人物から自分のプロフィールに「興味あり」とされることなど、なかなか経験しないと思うんです。yentaではマッチングしない限り、誰から「興味あり」されたか特定できない仕組みにしているんですが、「興味あり」してくれた人の会社名や年齢、性別などは1日に1回レポートという形で届くので、「こんな人たちから会いたいと思われているんだ!」ということはわかるようになっています。この仕組みによって「興味あり」をもらったユーザーの大半が、自分からも「興味あり(スワイプ)」をするようになり、「興味あり」したユーザー同士は高い確率でマッチングします。その仕組みに背中を押される形で、「面白そうだから、自分も会ってみようかな」と少しずつ志向が向かうように設計しています。

 

画像提供:株式会社アトラエ

「yentaを使いこなすことがカッコいい」という空気の醸成

――確かにネガティブなコメントはあまり見ないですね。そのあたりはどのように対処しているのですか?

yentaはユーザーによって使い方がさまざまなので、理想的な使い方をしていただいているユーザーを取材して、その内容を他のユーザーに紹介することで、「ビジネスパーソンは、yentaをこう使いこなすとカッコいいんだ」という空気を作り出すことに注力しました。つまり、「yentaはシンプルな操作だけで、面白そうな人と会える」「人脈が広がった」「会ったことによって、すごい価値が生まれた」という成功事例をマジョリティにすることで、逆にyentaを使いこなせていない方が使い方を努力していただけるような認識を浸透させたわけです。結果的に、「意識高い系」とネガティブに揶揄される前に、「意識が高くて何が悪いの?」「斜に構えたことを言っている人たちより、自分からネットワーキングを開拓して、やりたいことを実現している人のほうがカッコいいよね」という空気を作り出せています。

――なるほど。「yentaを使いこなすことはカッコいい」というブランティングですね。

ほかにも定期的にユーザーさんを集めてMeetupを開催しています。そこで我々の思いや夢を熱弁しているのですが、ありがたいことにファンがどんどん増えています。そうすると「yentaでビジネスパートナーが見つかりました」「yentaをきっかに起業しました」という話が出てきます。そうしたリアルイベントもブランディングに大きく貢献しています。

――マネタイズの柱は何でしょうか?

「Active Plan」や「Professional Plan」などの有料サービスのほか、一部のユーザーさんにしか告知していないのですが、法人プランもあります。

――事業として成立するまでに時間はかかりましたか?

今の状態になるまでに3年かかりました。

――途中でいろいろと言われませんでしたか?

マネタイズしていく責務は当然ありますが、一方で弊社は「世界中の人々を魅了する会社を創る」というビジョンを掲げていて、サービスの価値が高まり、数年後に利益が出るなら投資すべきだというスタンスなんです。もちろん、その間は弊社の他のサービスとポートフォリオを組んで、全体として成長していくように設計しています。今のyentaで高い利益を出すというよりも、世界中のビジネスパーソンがネットワーキングしていくインフラにすることに注力していて、それができれば自ずとマネタイズしていく仕組みを整えています。

ビジネスマッチングの海外進出で生まれる計り知れない可能性

――では、yentaの現状の立ち位置と今後の展望を教えていただけますでしょうか?

事業のフェーズとしては、yentaに蓄積されているデータやコミュニティ的な文化をすごく大事にしていて、それを東京という閉じられた都市でできる限り温めている状況です。その先は、いよいよ海外に打って出ます。今はyentaを海外の熱い都市に出して勝負できるようなグローバル版のUIのインフラを構築することにフォーカスしています。それまではぎりぎりの収支で事業を運営できれば、世界中のユーザーがアクティブに動いたときに、大きくマネタイズさせられるはずです。

――海外進出ですか!

とはいえ、国内も現状のままで良いとは全く思っていません。東京のユーザー数についても、マーケティング的に言うと、イノベーター、アーリーアダプターと来て、アーリーマジョリティの途中くらいだと思います。

――これ以上、東京でユーザー数を増やすには、どうすればいいんでしょうか? 

いろいろな手を打ってはいますが、サービスの性質上、爆発的に東京のユーザーを獲得するのは簡単ではありません。日本では啓蒙活動も含めて、継続的にユーザーグロースを進めています。だからこそ国内と並行して海外の話を進めているわけです。海外の熱い人たちがyentaを活用していることを知ったら、ビジネスマッチングにまだ魅力を感じていない日本の人たちにも響いてくるのではないでしょうか。

――なるほど。逆輸入のような。

それにとどまらず、日本人が海外の人たちとつながって海外で事業を始めるケースも出てくると思うんです。そんな事例が増えてくれば、まだ魅力を感じていない人たちも「自分も動かないとまずい」と感じてくれる可能性があります。

ほかにもコミュニティ的な文化という点で言えば、ビジネスに直接関係のあることだけでなく、「ツーリング仲間ができました」とか「子育てに関するママコミュニティを作りました」という事例を増やしていきたいと考えています。「熱く、攻めている人」というのは、仕事だけに限定されないはず。仕事と並行して趣味やライフスタイルをもっと楽しく、豊かにするために頑張っている人はやはりカッコいいですし、yentaをコミュニティ形成のツールとして世界中の人たちに活用していただければ、それも大きなインパクトがあると思います。

個人の時代をリードするマッチングサービスの将来性

――最後の質問ですが、マッチングサービスの将来性をどうお考えでしょうか?

この考えに完全に賛同しているわけではありませんが、少なくとも昔よりは個人が物事を動かすことのハードルが下がっているのは確かです。起業の仕方もネットにたくさん情報が出てきますし、起業仲間もTwitterやFacebookで連絡して探すことができます。yentaを使えば、経営者と会うことも可能です。ビジネスだけでなく、男女の出会いもマッチングで可能性が広がりました。買い物もそうでしょう。商品やお店のレコメンドはもちろん、「店内のどの棚に商品を置けば、ターゲット層の目に留まりやすくなるか」といったこともマッチングです。つまり、個人の時代になればなるほど、世の中はマッチングの重要性が増しているということです。その中でもビジネスマッチングの市場は、まだ非常に小さいと思っています。

――ということは、yentaは大きな可能性を秘めていますね。

はい。これまでは経営者の交流や、企業同士のビジネスマッチング、M&Aなどが大半で、ビジネスパーソン同士のマッチングについては、いまだ大きな市場はありません。そんな中、yentaではビジネスパーソン同士の出会いによって、プロジェクトが始まったり、起業したり、出資を受けたりすることが日々、当たり前のように起きています。企業規模の大小に関係なく、個人がそれぞれの意思で動いた結果、大きなシナジーをもって新たな価値を生み出し、ビジネスとお金が動いているんです。そのインパクトはこれから、とてつもなく大きなものへと拡大していく手応えを感じます。

――素晴らしいですね。

ありがたいことに、「yentaのおかげで人生が変わった」と言われるケースが増えています。これからも人と社会に大きなインパクト与えられるサービスへと成長させていきます。

Interview Points

・yenta躍進の背景は、成功事例の蓄積とUI、UXへのこだわり、「使いこなすことがカッコいい」というブランディング。

 ・海外進出へ向けての準備が急ピッチで進行中。

 ・海外進出によって、ビジネスマッチングの市場が大化けする可能性がある。

Profile
利幸(おか・としゆき)
株式会社アトラエ取締役CTO。
2007年東京工業大学卒業後、新卒1期生として同社入社。転職サイト「Green」の営業を経てエンジニアに転身。yentaなどを立ち上げ、責任者に就任、現在に至る。

編集後記
Pairs、yentaともに共通していたのは、「空気の醸成」と「海外」です。前者は成功事例の紹介を積み重ねてブランディングを行い、そのアプリを使うことは決して恥ずかしいことではなく、メリットがとても大きいという認識を浸透させることに成功しています。後者については、会員数、売り上げなどの飛躍的な成長を考えた場合、市場を海外に求めるのは当然と言えるでしょう。

また、社会意義性についても同様で、Pairsにはインタビューで紹介した内容のほか、少子化対策への貢献も期待されています。yentaにおいては、ビジネスパーソンが個人レベルで海外とつながりを持つことで、知性の流動化がこれまでとは比較にならないほどスピーディかつダイナミックな形で世界中へ拡大していくでしょう。

一方、ユーザー側の視点で忘れてはならないのは「自分から動く」ことです。アプリさえあれば、成功が転がり込んでくるわけではなく、自分から動いて人に会おうとしない限り、価値のあるマッチングは生まれません。どんなにテクノロジーが進化しようと、自分からチャンスを求めて動ける人だけが成果を手にできるのだという昔からの教訓を、あらためて認識しました。(早川)

[記事執筆者] 早川巧
株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writerとして四半世紀以上のキャリアあり。Twitter:@hayakawaMN

 

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