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インタビュー

横河電機マーケティング本部長・阿部剛士が語る「CMOは第一級のマルチタレントであれ」(前編)

最終更新日:2023.03.31

The Marketing Native #03

横河電機株式会社 常務執行役員/マーケティング本部 本部長

阿部 剛士

重厚長大なビジネスをグローバルに展開する横河電機。インテルの取締役副社長やマーケティング本部長を務めていた阿部剛士さんが、横河電機の経営トップに請われる形で同社に参画したのは、2016年のことです。

プラントの計測・制御機器メーカーという絶対の安全と安心、安定を追求する横河電機の長所を活かしつつ、IT企業流で猛スピードの変化を導入しようとする阿部さん。100年以上の歴史と2万人の社員の中で獅子奮迅、世界を飛び回る姿は、まさにマーケティング・ファーストの哲学に基づくCMOの理想像と言えるでしょう。

阿部さんが考えるマーケターのあるべき姿とは何か?今回は横河電機マーケティング本部・本部長の阿部剛士さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、人物撮影:稲垣 純也)

目次

進化するマーケティングと新しい顧客体験の創出

(弊社の名刺に書かれた「そうきたか。」というキャッチコピーを見ながら)
「そうきたか。」って、良いですね。私が大事にしているのは、まさにこれなんですよ。「その手があったか!」と言われるのは、マーケターにとって一番の誉れです。

――ありがとうございます。私どもCINCはマーケティングに力を入れている会社でございまして、皆様から「そうきたか。」と言っていただけるような施策を打ち出せるように努めているところでございます。

阿部剛士さん

――そのマーケティングなんですが、阿部さんが考えるマーケティングの定義とは何でしょうか?

そもそもマーケティングとは何か?――良い質問ですね。マーケティングは英語で「Marketing」と書きますが、最後に「ing」が付いています。つまりフィリップ・コトラー(※1)の「マーケティング1.0~4.0」が示すとおり、時代の変化とともにマーケティングの在り方も進化しているということです。

その前提の上で、マーケティングとは何かを簡単に言うと、「需要表現」(※2)というのが私の考えです。潜在需要をいかにニーズとして顕在化させて、みんなが腹落ちするような言葉で表現し、形にできるか。

マーケティング4.0の意味は、かみ砕いて言うと「顧客に対する新しい体験の創出」です。したがって、需要表現という大きなコアをベースにしつつ、マーケターが顧客に対してどのような新しい感覚を体験させられるか、それが現在のマーケティングの定義だと考えています。もっと極端な表現をすれば「購買すること自体が“自分が何者なのか”というアイディンティと化す」でしょうか。

――新しい顧客体験の創出というと、B to Cマーケティングをイメージします。阿部さんは前職のインテル時代から現在の横河電機まで一貫してB to Bの企業にいらっしゃいますが、その点はどうですか?

B to Cの意思決定者は基本的に1人です。「私が欲しい」という意思に基づき、大体1人が購買ボタンを押します。

一方、B to Bは意思決定者が複数います。「ディシジョン・メイキング・センター」(decision making center)というのですが、特に高額製品を購入するときは、社長、役員、事業本部長など複数の決済が必要になります。つまりB to BとB to Cの最大の違いは、意思決定者の数なんです。

ただし、以前ははっきりと分かれていたB to BとB to C の壁は少しずつ崩れてきていて、最近は交わり始めています。B to Bといえども、1人で決済することが増えているんです。

例えば、アメリカでは重機などのヘビーデューティーなマーケットでも、修理部品をネットで購入するケースが増えています。昔なら営業担当を呼んで、Face to Faceで商談をして、見積もりを出させて、数社でコンペをして…という形が一般的でしたが、今は違います。担当者が自分で重機を扱う企業のWebサイトに行って、スペックを見て、そのまま購入ボタンを押す時代なんです。アメリカではすでに半数以上が対面営業ではなくなっていると言われています。つまり意思決定者はB to Bであっても、1人であることが増えているんです。こういう変化があるので、新しい顧客体験の創出という観点でも、昔のようにB to BとB to Cの境はなくなってきているというのが私の理解です。

もちろん、B to BとB to Cを完全に同一線上で語れるかというと、そういうわけではなく、B to Cのオムニチャネルのようなことは、まだB to Bには起きていません。

阿部剛士さん

――B to Bマーケティング特有の面白さとは何でしょうか?

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記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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