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インタビュー

『ラヴィット!』人気急上昇の背景にあった、スタッフの覚悟と圧倒的熱意を初公開――放送作家・中野俊成インタビュー

最終更新日:2023.04.06

Special Interview #13

放送作家

中野 俊成

『ラヴィット!』の視聴率が好調だとして話題になっています。『ラヴィット!』とは、お笑い芸人・麒麟の川島明さんがMCを務めるTBS系・朝の情報バラエティ番組(月曜~金曜午前8時~9時55分)のこと。

2021年春の放送開始当初は低視聴率にあえぎ、「やはりこの時間帯のバラエティ番組は厳しいか」と思われましたが、今では『スッキリ』や『めざまし8』を上回る勢いを見せており、出演者・スタッフともに意気軒高だそうです。

では、『ラヴィット!』はなぜ、どんなきっかけで上昇気流に乗ることができたのでしょうか。

今回は『ラヴィット!』の構成を担当する放送作家の中野俊成さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)

目次

「独自ネタ」が10割、『ラヴィット!』の大変さ

――番組のエンディングで流れるスタッフロールで中野さんの名前を見ます。「構成」としてどんなふうに関わっているのですか。

この番組に関して言えば、「視聴者」ですね(笑)。そもそも放送作家は客観的なスタンスでいるべき仕事だと思っていますが、その極致のような関わり方です。番組を毎日引いたところで見て、意見や感想を言う「視聴者代表」だと思っています。

イラスト作成:Marketing Native編集部

番組に関わるきっかけは、僕も構成に入っている『ジョブチューン』という番組のプロデューサー(小林弘典さん)と総合演出(山口伸一郎さん)の2人が『ラヴィット!』を担当することになり、声がかかったことです。僕は『ラヴィット!』の前身の『グッとラック!』にも関わっていて、短い期間ながら朝の生の帯番組をやっていたので、その経験が役に立つならと思い、引き受けました。

『ラヴィット!』は朝の生番組でありながら、バラエティの要素も強く、他の朝の情報系生番組より大変だと思います。朝のワイドショーは、日々起きる事件事故やスキャンダルなど「発生ネタ」を扱うことが多く、各局共有のVTR素材を編集して、それをスタジオに落として、どんな展開にするのかを考えます。

そこに番組で取材したり制作したりした「独自(取材)ネタ」が加わるのですが、発生ネタと独自ネタの割合は7:3から8:2くらいでしょうか。その観点でいうと『ラヴィット!』はある意味、「独自ネタ」が10割になります。起きた事象の素材がある発生ネタに対して、独自ネタはゼロから作り上げる必要があるので、それを10割で、毎日回していくのは本当に大変なことだと思います。

――なぜこの枠が、ワイドショーではなく、お笑い芸人がMCのバラエティ番組になったのですか。

詳しくはわかりませんが、『グッとラック!』のときも「バラエティ要素を入れてほしい」と言われていたので、以前からそうした意向はあったのだと思います。『はなまるマーケット』(※註)の成功体験から来た発想だと思いますが、過去にも『はなまる』を狙った番組がいくつも立ち上がっては、今ひとつ結果が伴わず、発生ネタを扱うワイドショーに移行することを繰り返しています。だから、今回の『ラヴィット!』こそ完全にシフトチェンジすると決意して始まったのだと思います。

(※註)『はなまるマーケット』:
ワイドショー廃止に伴い、『モーニングEye』の後番組として始まった生活情報番組。岡江久美子さん・薬丸裕英さんがMC。1996年から2014年まで放送。

成功のポイントは、プロデューサーの覚悟とディレクターの熱意

――いろいろなメディアで『ラヴィット!』成功のポイントが分析されています。大体こんな感じかと――。

  • 出演者がすべっても拾ってあげる安定感が川島明さんにある
  • 川島さんは過去の情報番組のMCにありがちな家父長的アクの強さがなく、品がある
  • コロナ禍の暗い時代背景にお笑いがマッチした
  • 朝5時から同じようなニュースが各局で流れていて、『ラヴィット!』が始まる午前8時には飽きている視聴者が多かった
  • Twitterとの連動がウケている
  • 生放送のゆるい雰囲気が『笑っていいとも!』に似ている
  • 『水曜日のダウンタウン』とのコラボ企画がウケた

…中野さんはどうお考えですか。

当たっているのもあると思いますが、僕が考えるヒットの一番の理由は、プロデューサー陣の覚悟とADも含めたディレクター陣の熱意が圧倒的だからだと思います。

――プロデューサー陣の覚悟とは、具体的にどういうことでしょうか。

僕がプロデューサー陣の覚悟を感じたエピソードはいくつかあります。最初に感じたのは番組が立ち上がった頃、「暗いニュースは触らなくていいけど、明るいハッピーなニュースに関しては番組の冒頭で触れてもいいんじゃないか」と提案したときに、プロデューサーの辻(有一)君が「いや、日々のニュースには一切触らない方向でいきます」とはっきり言い切ったことです。その時に「本気でワイドショーとは一線を画した番組を作る覚悟なんだな」と理解して、自分のスタンスも決まったところがあります。

もう1つのエピソードは、SNSで番組が炎上したときのことです。このときプロデューサーが会議の席で「炎上しても気にしなくていい。それよりも面白いものを作るのが大事」と明言しました。今の時代、プロデューサーは立場上、ネットの炎上やクレームにはかなり慎重になっているのですが、『ラヴィット!』は必要以上に炎上を気にすることにプライオリティを置いていません。

プロデューサーにその覚悟があるとディレクター陣も腹が固まるというか、モチベーションは上がりますよね。今はやる前から「コンプライアンス的に引っ掛かるかもしれない」「クレームが来るかもしれない」という想定で、未然に防御するプロデューサーも多いですが、そういうことがボディブローのようにディレクターたちの士気を下げてしまいます。「炎上を気にせず、面白いものを」と言えるのは、まさしくプロデューサーの覚悟だと思いますね。責任は自分に掛かってくるわけです。そういうプロデューサーの覚悟の中で、現場のディレクター陣の熱意が上がってくるのだと思います。

その辺は、良き時代のバラエティ番組を思い出します。僕が昔、『電波少年』をやっていたときに、演出の土屋(敏男)さんが上司から「塀の上をギリギリ歩く分には何をやってもいいけど、向こう側には落ちるな」「塀の上ギリギリを歩く分には好きなことをやれ」と言われたと話していました。あの番組があったのは、そんな無茶を放任しつつ守ってくれていた直属の上司の覚悟があってこそだと感じます。その覚悟を感じるからこそ、実際に作る側の意識も変化し、番組が上向き始めるのだと思います。こういうことは具体的な企画ではないから精神論のように見えて理解されづらいのですが、実はとても大事で、れっきとした方法論だと考えています。

――『ラヴィット!』も最初は視聴率が良くなくて、いろいろ叩かれましたよね。当然、局内外から「やっぱりバラエティだからダメなのではないか!?」みたいな圧力があったと思うのですが…。

僕は放送作家なので直接言われていないからわからないですけど、プロデューサー陣は相当言われたでしょうね。そこで方針を曲げずに、今の路線を強固にしていったところにもやっぱり覚悟を感じます。大抵、数字のために安易に路線を変えていくものですが(笑)

「縁日」のようなにぎやかさと、川島明の「補完力」

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記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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