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インタビュー

「推し活」から「サステナ」まで、マーケターが知っておきたいZ世代“ホントの”価値観――SHIBUYA109 lab.所長・長田麻衣インタビュー

最終更新日:2023.04.27

Marketing Studies #06

株式会社SHIBUYA109エンタテイメント マーケティング戦略部 SHIBUYA109 lab.所長

長田 麻衣

Z世代が注目されています。「社会課題解決への取り組みやSDGsへの関心の高さ」は、Z世代の特徴として挙げられることの多い価値観の1つです。

いわゆる「ゆとり世代」に該当する筆者は、Z世代の社会課題やSDGsに対する関心度の高さが不思議でなりません。また、サステナブルな商品にどのように興味を持ち、購買へ至るのかも気になります。

そこで今回は、毎月200人のZ世代と話す機会を持つというSHIBUYA109 lab.(シブヤイチマルキューラボ)所長の長田麻衣さんに、Z世代ならではの価値観をはじめ、社会課題やSDGsへの考え方、商品を購入する際のジャーニーについて詳しく聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集長・佐藤綾美)

目次

SNSに大きな影響を受けているZ世代の価値観

――毎月200人のZ世代の方々と接していて、特に「Z世代ならでは」と感じている価値観はありますか。情報収集・人間関係・仕事・消費行動の観点で分けて教えてください。

【情報収集】

情報収集に関しては、大きく3つの特徴があります。

1つは、生まれたときからインターネットやSNSが普及した環境で育っている世代なので、SNSの使い方が上手であることです。ほかの世代に比べてSNSが身近な存在で、「当たり前に使うもの」という意識を持っているため、商品を購入する前に入念に情報収集する際もSNSを活用する傾向にあります。SNSの存在は大きく、Z世代のさまざまな価値観に影響を与えていると感じます。

ちなみに、弊社でZ世代にアンケートを取ったところ、SNSの中でも最も利用されているのはYouTubeで、次にTwitter、3番目がInstagramでした。しかし、インタビューで詳しく話を聞いてみると、Instagramが最もよく話題に上がります。ほかのSNSに比べ、Instagramは情報収集だけでなくコミュニケーションの場としても頻度高く利用されているからでしょう。

2つめは、テキストよりも画像や動画を介した情報収集が主流になっており、ビジュアルから得た情報の処理能力が高く、ビジュアルコミュニケーションに長けていることです。例えば、「エモい」「チルい」などのように抽象的な言葉であっても、言語化されていないニュアンスを共通認識として持っていて、ビジュアルで表現できます。「エモい動画を作ってきて」「チルい雰囲気の写真を集めてきて」とZ世代に依頼すると、みんな同じようなエモい動画、チルい写真を用意してくれます。

3つめが、情報収集の仕方が受動的になってきていることです。TikTokやInstagramなどのように、自分で検索しなくてもアルゴリズムによって好みの情報が提供されるプラットフォームがあり、Z世代もそれに慣れています。能動的に検索するよりも、SNS上で受動的に情報に接する機会が増えており、当たり前になってきているようです。

【人間関係】

人間関係は、ほかの世代に比べて、SNSを通じて友だちをつくることに抵抗が少ないところが特徴です。フォロー・フォロワーの関係で常に誰かとゆるくつながっているような環境が当たり前のため、周囲の目を気にした行動をとる傾向が強いと感じます。

また、Z世代は多様性を大切にする世代なので、「みんなが同じ考えではない」という前提を持っているのも特徴です。そのため、他者とのコミュニケーションでは、自分の価値観をなるべく押し付けないように話す人が多く見られます。

【仕事】

自分が大切にしていることを優先し、それに合わせた働き方を選んでいるので、仕事を頑張りたい人は仕事を頑張るし、私生活を重視したい人はそこに時間を割けるようにしています。中でも「ワーク・ライフ・バランスは当たり前」という前提で働いているZ世代が多く見られます。これは、子どもの頃から「ブラック企業」「ワーク・ライフ・バランス」などの言葉があり、働き方の価値観が多様化した世の中で生まれ育っていることが影響しているためです。「場所にとらわれない働き方をする」「本業以外に副業をして稼ぐ」「残業が少ない会社に勤めて、趣味の時間を楽しむ」など、Z世代の働き方は多様になっているように感じます。

【消費行動】

消費行動については、時間もお金もメリハリをつけて使うことを意識している人が多いようです。現代は商品や情報など多様な面で量が過多になっていて、自分が価値を感じたモノ・コトに時間とお金をかけられるよう取捨選択をしないと、容量が一杯になってしまうからでしょう。自分が時間やお金をかけるモノ・コトを見極めたうえで、消費に向き合っていると感じます。

中でも推し活に対する熱量は非常に高く、弊社の調査では、Z世代の約8割が何かしらのオタクであるとのデータもあります。オタク文化自体は昔からありましたが、SNSの登場によって、応援や布教、コミュニティの形成など、楽しみ方が多様になり、オタクの捉えられ方がオープンでポジティブなものに変わっていると感じます。Z世代の人たちは推し活について、何か特殊なことをしている感覚はあまりないようです。

Z世代がコスパやタイパ(タイムパフォーマンス)を重視しているとよく言われるのは、上記のようなメリハリをつけた生き方がベースにあるからだと思います。

――SHIBUYA109 lab.では今年(2022年)8月に「Z世代の映像コンテンツの楽しみ方に関する意識調査」を発表しており、「ながら見」や「倍速視聴」といったZ世代の視聴態度が浮き彫りになっていました。これも同じような理由からでしょうか。

はい。すべての映像コンテンツを同じ時間をかけて視聴するのは難しいので、何度も見たい動画や集中して鑑賞したい映画など、自分が本当に好きな映像コンテンツに時間を割いて、ほかの動画視聴の負担をなるべく軽くしたいと考えている結果だと思います。何でも効率を重視しているわけではなく、例えば「友だちに勧められて試しに見る動画」「乗り気ではないが義務的に見なければならない映像」など、あまり時間をかけなくても良い映像コンテンツを「ながら見」や「倍速視聴」で見ています。

――コロナ禍を通じてZ世代に身に付いた特有の価値観や、加速した価値観はありますか。

いくつか変化はありますが、大きく変わったと感じるのはコミュニティに対する考え方です。以前は「よっ友」のような広く浅い交友関係の友だちとも満遍なく遊んでいたのが、コロナ禍で人と会うことが制限されて活動範囲が狭まったり、「よっ友」と遊ばなくなったりした結果、狭く深い関係性を重視するようになり、周囲を気にせず本心をさらけ出せる自分の核となるコミュニティを見つけた人が多いようです。

SNS上でのゆるいつながりは続いており、そこに対する意識がゼロになったわけではありません。学校の友だちや趣味でつながっている仲間、SNSで知り合った人など、いろいろなコミュニティがあり、それぞれに対して適した自分を表現しているようなイメージで、その中でも一番自分らしくいられる場所で楽しむことを大切にしています。核となるコミュニティはオフラインで会える学校の友だちの場合もありますし、SNS上にいるオタ友のほうが心置きなく話せる人もいます。

今後、もしコロナ禍以前と同様に外出できるようになったとしても、Z世代の人たちが自分らしくいられるコミュニティを重視する傾向は続くのではないかと推測しています。

▲Z世代は自分が所属するコミュニティごとに、それぞれに合った自分を表現している。コロナ禍では、多数あるコミュニティの中から自分らしくいられる場所を見つけ、狭く深い関係性を大切にするようになったZ世代が多いと言う(イラスト:Marketing Native編集部)。

もう1つ変化したと感じるのは、買い物に対する価値観です。Z世代は「時間とお金を無駄にしたくない」「周りから失敗していると思われたくない」などの理由から、もともと「買い物で失敗したくない」という気持ちが強い世代ですが、コロナ禍で買い物の精度を上げることに対する意識がより高まっていると感じます。Z世代へのインタビューによると、家で過ごす時間が多くなり、自分と向き合う時間も増えたことから、さまざまな事柄に関して「本当にそれで良いのか」と考え始めたのがきっかけのようです。

中でも大きく変わったのが、洋服の購入の仕方です。トレンドももちろん楽しむものの、骨格診断やパーソナルカラー診断などを取り入れて、本当に自分に合う服を購入するようになったと聞きます。自分のことを知ったうえで買い物をしたほうが、失敗が少ないし、精度も高いと気付いたそうです。

――最近、女性誌で骨格診断の企画が多いとは思っていましたが、Z世代の人たちから支持を集めていたのですね。

そうですね。骨格診断自体はもともと百貨店などで顧客層である中高年向けに提供されていたサービスだったのが、今は若い人たちが殺到しているそうです。「買い物で失敗したくない」という気持ちが強いから、こうした診断にも注目が集まりやすいのではないでしょうか。

「何もしていない」と言いつつ、実は何かしらの行動を起こしている

――Z世代は社会課題やSDGsに対する関心が高いとよく言われています。SHIBUYA109 lab.の2020年8月の調査では、関心は高いものの、アクションにはつながっていない傾向にあると書かれていました。2年ほど経過し、現在は何か変わりましたか。

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記事執筆者

佐藤綾美

株式会社CINC社員、Marketing Native 編集長。大学卒業後、出版社にて教養カルチャー誌などの雑誌編集者を経験し、2016年より株式会社CINCにジョイン。
X:@sleepy_as
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